■■■■は勇者である。   作:たむろする猫

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箱舟が行く2

「あの日」の事は今もハッキリと覚えてる。

大好きなお父さんが死んだあの日。

陸上自衛隊の幹部自衛官で何時も忙しかったお父さん。

久し振りの休みの日、特別にって学校を休んで二人でお出かけした帰り道の事だった。

 

空が墜ちてきた

 

部隊の指揮官だったお父さんは「原隊に復帰する必要がある」そう言って、ボクを連れたまま陸自の駐屯地に向かった。

けど、結局駐屯地に辿り着く事は出来なかった、あっちへこっちへと誰もかれもが混乱して、車をまともに走らせられなかったからお父さんはボクを背負って自分で走る事を選んだ。

そうして古ぼけた神社の前に差し掛かった時、空から降ってきた“化け物”が子供を襲おうとしている所に遭遇した。

お父さんの判断は一瞬だった、ボクが自分からお父さんの背中から飛び退いた事もあって、お父さんは子供を助ける為に飛び出した。

 

 

お父さんの最後は、あの日世界のあちこちで見ることの出来たソレと同じだった

 

それでもお父さんは襲われていた子を確かに救っていた。

でもすぐ側にはお父さんを喰い殺したばかりの“化け物”が。

ソイツはお父さんを中途半端に齧った後、邪魔された続きだとでも言いたげに、子供に襲いかかろうとした。

 

頭に血が昇るのを感じた

 

ーその子はボクのお父さんが命を懸けて救ったんだー

 

ブチンと何かが切れる音がした

 

ーお前なんかが触れていいものじゃないー

 

そこからの事は実を言うとハッキリ覚えてない。

気が付けばその子を抱え上げて、右手に古めかしい銃を持って、

“化け物”どもを殺し回っていた。

そうしたらいつの間にか“勇者様”なんて呼ばれるようになって、3年近くが経った。

 

ボクみたいな子供を“勇者様”だとか言って祭り上げて、頼り切るというのはハッキリ言って歪だったと思う。

だけど、ボク自身はその事に歓喜を覚えた、だって子供であるボクが護って戦う事を否定されないから。

それに、嬉しかった事はもう一つ。

お父さんと同じ自衛官の人達が、その本分を捨てず己の職分を全うしようと在り続けていてくれた事が何よりも嬉しかった。

 

だけど、ボクみたいに直接戦うことの出来ない彼等には、そして彼等に僅かながら力を与えられるボクの力の源泉にも限界は存在して、それはもう遠くないうちにやってくる。

だからこそ、その限界がやってくる前に最後の賭けに出る。

 

「「箱舟」の出発準備完了しましたっ!脱出予定者は間違い無く全員の乗り込みを確認!問題ありません!」

「了解」

 

無線機が役に立たなくなって久しいので、走ってやって来た伝令がボクと1佐に準備完了を報告する。

 

「1佐、覚悟はいい?」

「今更聞くか?そんな事。覚悟は自衛官になった時にしたさ」

 

周りを見回して、ここに居る全員が1佐と同じ様これまでと変わらない“戦士”の顔をしている事に思わず頰が緩む。

 

「それじゃあ始めようかっ!」

「よしっ!狼煙を上げろっ!」

 

ードカンッー

 

1佐の号令に合わせて“化け物”共の注意を引く為に、ビルがなけなしの爆薬で吹き飛ばされる。

今から走って伝えに行く訳にもいかないので、これが「箱舟」に出発を告げる号令のかわりだ。

 

「総員戦闘準備!!」

「お嬢、最後だ一つ演説でもどうだ?」

 

何時も真面目な1佐らしからぬ提案だ。

でもまぁ様式美ってヤツなのかもしれない、とは言え

 

「いきなり演説って言われてもなぁ」

「なに、長々と語る必要なんて無いさ。なんなら決意表明みたいなもんでも良い」

「えー今更決意表明?」

 

どうしよう?と皆んなを見ると期待した視線を向けらる。

 

「うぬぬ、じゃあまあちょっとだけ」

「よぉし!全員傾注!」

 

無駄にビシッと揃って気をつけの姿勢になる皆んな、こんなとこで練度を発揮しなくてもと思うけど、きっとこれが最後になると皆んな分かっているからこそなんだろう。

 

「すぅはぁ、遠からん者は音に聞け!近くば寄って目にもみよっ!!我等こそ(・・・・)東京を守護せし“勇者”なり!!天地に蠢き人を喰らう“化け物”共よ!我等の魂の輝きを!!決して陰る事の無いその輝きを!!しかとその目に焼き付けよ!!そして我等は今ここに!死して護国の鬼とならん!!」

 

ーウォオオオオ!!!ー

 

遠くに聞こえるヘリの音を背に

 

ボクたちは最後の戦いを始める

 

 

 

 

見ててねお父さん

 


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