■■■■は勇者である。   作:たむろする猫

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種は飛び立った

どれほど時間が経っただろう?

 

箱舟はどちらも無事に飛び立てただろうか?

 

最初の狼煙以降、大きな爆発音が聞こえてくる事は無かったから、多分最初の関門は突破したと思う。

周囲から聞こえてくる銃声も少なくなった。

聞こえてくる爆発音は人1人が死ぬのがやっとくらいの、自決の音。“化け物”に喰われずに人としての尊厳を保ったまま死ぬための音。

 

ズキン

 

身体中が痛い。

さっきから視界の半分が赤いし、軍刀を握ってた筈の左手は肘から先の感触が無い、見てみれば肘から先は綺麗に無くなっている。

視界が赤いのもさっき“化け物”の槍を避け損ねて転んだ時に、思いっきり頭を打ったせいだろう。

 

「ぐんそー、取り敢えず手は止血だけで良いから、頭の方治してくれる?」

 

頭がクラクラして、あとついでに無いはずな左手が痛くて痛くて仕方な......

 

うん?いたい?

 

頭を打って、左手が肘から無くて、身体中切り傷やら擦り傷だらけになってるんだ、そりゃ痛いに決まってる。

 

いたい

 

イタイ

 

痛い痛い痛い痛い痛い!

 

身体中が痛くてしょうがないっ!?

 

「ぐんそー!ぐんそー!?」

 

呼び掛ける声に反応は無い。

同時にふと気付く、さっき頭を打った時。

あの時確かに死を確信した、頭から何かが潰れる音が聞こえたから。これで終わってしまうんだと、そう思った筈だった。

 

「ぐんそー、治してくれたんだ」

 

冷静になって探ってみれば、何時も体の中に感じた力が一つ、居なくなっている事に気がついた。

ポッカリと穴が空いたような感覚だ。

 

「今までありがとうぐんそー」

 

“彼”はボクの致命傷を治して、最後の力を使って逝ってしまった。

だから“彼”の存在によって成り立っていた超常的な回復能力(・・・・・・・・)が失われた。

はは、痛いなんてどれくらいぶりだろう。

致命傷は治ったけれど完全じゃ無い、今も身体から命が流れ出して行く感覚がある。

 

さむい

 

どんどんと身体が冷えて行くような感じだ。

さむい寒いよ、怖いよお父さん。

 

「お嬢!?」

 

初めて感じた恐怖(・・・・・・・・)に膝の力が抜けて、崩れ落ちそうになった所を誰かに抱きとめられた。

 

あったかい

 

「大丈夫かお嬢!?」

「1佐、あったかいね」

「お嬢?」

 

抱き止めてくれたのは1佐だった。

お父さんの部下だった人で、3年前のあの頃からずっと側に居て一緒に戦ってくれた人。

 

「身体が痛いんだ。痛くて痛くて、それで寒いんだ」

「ッ!?」

 

クルリと体を回して1佐に抱きつきながらそう言うと、息を呑む音が聞こえた。

1佐もボクの超回復は知っているから、ボクが痛みを感じていると言う事実に驚いているのだろう。

なんて思ってるんだろう?初めて怪我をしても痛くないしすぐ治るって解った時は「まるで呪いだ」って言われたっけ?ボクを戦場に繫ぎ止める為の呪いみたいだって。

 

「皆んなすごいなぁ、“化け物”だけじゃ無くて、こんな痛いのと怖いのにずっとずっと、戦ってたんだよね」

 

「痛みを感じない」「怪我が直ぐ治る」って言うのはただそれだけじゃ無くて、戦う事に関する恐怖も薄れさせてくれていた。

それが無くなって今、ボクは漸く戦う事への恐怖を感じている。

 

「ボクなんかよりずっとずっと、皆んなの方が凄いよ」

「お嬢......」

 

ダメだって頭ではわかっていても、もうこのまま居たいってそう思う。抱きついた1佐の体は大きくてあったかくて、お父さんみたいな安心する匂いがして、このまま

 

「くそっ!」

「っ!?」

 

いきなり突き飛ばされた。

ゴロゴロと転がって、瓦礫に背中を打って止まる。

 

「つぅっ!いっさ!?ボクの話し聞いてた!?今いたいん、だっ、て......」

 

文句を言いながら1佐の方を見ると、そこには胸から槍を生やした彼が居た。それは丁度ボクの頭があった辺りで、

 

「1佐!いっさ!いっさぁ!」

 

まただ、また誰かがボクを庇って居なくなる。

「護る存在」はボクの筈なのに、ボクを護って皆んなが死んでいく。

 

「まだ、だ。まだ終わって、無い!そう、だろう?最後、まで。たたかう、んだろう?」

「1佐」

 

そう言われて、まだ皆んなが戦っている音がする事に気づいた

 

ボクと1佐を助けようとこっちに向かってくる姿が見えた

 

ボクと1佐を喰おうと近付いてくる“化け物”が居る

 

情け無い!

本当に情け無い!!

皆んなはずっと戦ってきた!

それなのに!

自分の事を“勇者”だと言っている癖に!!

回復能力が無くなっただけでこれかっ!!

 

震える足を叱りつけて立ち上がる。

震える手を叱りつけて銃を取る。

そうだ、そうだとも!

 

「まだだ、まだ!終わってない!!」

 

“化け物”共が更に近寄って来るのが見える。

そんなにボク達が喰いたいか!

ボクがもう何も出来ないとでも思っているのか!

 

「まだボクは生きている!ボク達はここにいるっ!!まだ“勇者”は死んじゃいないっ!!」

 

そうだ、回復能力が無くても、

“英霊”達がもう居なくとも

使えるものはまだ有る

 

「全部だ!ボクの全部を持っていけ!!」

 

ボクの全てを

この身体も

この魂も

全てを燃やそう

 

赤い輝きが視界に映る

血の赤とは違う、力強い赤。

 

「目に焼き付けろ!記憶に刻み込め!

これが、これこそが!人間だ!勇者だ!■■■■だ!」

 

喉が枯れそうだ、ぶっちゃけ何を叫んでいるのかも誰に言っているのかもわからない。

でも感じるんだ、何時もの“英霊”達の力がみなぎって来るのと同じようで、どこか違う懐かしい気配。

 

そうだ、これは皆んなだ。

 

皆んながもう一度ボクに力を貸してくれている。

 

花が咲いた

赤いルピナスの花が

 

“化け物”の正体は知らない。

けど、どこから来てどんな奴がそこ(・・)に居るのかは知っている。

さぁ皆んなでやろう

皆んなで一泡吹かせてやろう

 

「弾種46cm九一式徹甲弾!目標!天頂“天の神”!!全砲門斉射!!うちーかたっ!はじめぇ!!」

 

身体から力が抜けて、意識が溶けて行く。

 

最後に感じたのは、お父さんにぎゅーって抱きしめてもらった時の、温もりと安心感だった。

 




本作にお付き合い頂いた方、
ありがとうございました。
名も無き勇者と英雄のお話しは取り敢えずこれでお終いです。
花結いのきらめきについては、どうするかわかりません。
そのうちしれっと投稿するかも?

活動報告の方に「ある文章」を掲載します。
よろしければ是非。

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