■■■■は勇者である。   作:たむろする猫

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《巫女の語る勇者様》

一方的に守られている立場でありながら、この様な事を口にするのは、分不相応な事だと重々承知の上で申し上げますと。

私達の勇者様のお力は、とても弱いものです。

 

ええ、勿論あのお方の心根の事を言っている訳でも、意思の強さを言っている訳でもありません。

あくまでも、“勇者の力”として見た時、四国に居るという勇者様方や、諏訪の勇者様と比べそのお力は数段劣るものだという話です。

分かりやす例えを挙げるならば、

四国の方々が正規軍。

諏訪のお方が訓練を受けたゲリラ兵。

そして、私達の勇者様は寄せ集めのレジスタンスと言ったところでしょうか。

え、分かりづらいですか?そうですかとても良い例だと思ったのですが。

まぁ四国の勇者>諏訪の勇者>東京の勇者という図式が理解できたのであれば、問題ないでしょう。

そしてこの図式は其々にお力をお貸し下さっている“神”にも、そのまま当てはめる事ができます、四国の神>諏訪の神>東京の神といった具合に。

もっともコレは仕方の無い事でしょう。

四国の神は幾柱もの国津神が一つに合わさった神であり、諏訪の神も全国に広がる信仰の頂点。

対し、私達の神は“神様”と呼んでこそいますが、その正体は靖国に祀られている“英霊”です。社に祀られた事により、準神格化こそしてはいますが元々はただの人間、持ちうる力が劣ってしまうのは当然の事だと言えます。

そしてその力では、何をするのにも代償を必要とします。

 

四国や諏訪がどうであるのかは存じませんが、ここ東京では結界は数人の“英霊”を「贄」とする事により発動しています。その為、常に展開されている訳では無く、敵が接近して来た時にのみ「贄」を捧げ結界が展開されるのです。

勇者様のお力そのものに関しても同じで、人を超えた身体能力や武器から放たれる銃弾にも「贄」を必要とします。

結界を一度展開するのに2〜3人、勇者様の身体能力を維持するのに24時間ごとに3人、勇者様の武器である三八式歩兵銃の5発づつのクリップ二つにつき1人。勇者様を支援する自衛隊の部隊にも一戦闘ごとに1人と、我々は犠牲の上に成り立っています。

 

私達の勇者様が戦っている戦場はまともな戦場ではありません。

物資が尽きてしまえばそれでおしまい、他からの援軍や救援など望むべくもない、誰だって絶望してしまうであろう、そんな戦場です。

 

あのお方は、私達の勇者様はその絶望の只中にあり、誰よりも絶望の近くに居るのにそれなのに、心が折れる様な様子も、全てを諦めてしまう様な様子も有りません。

笑顔を絶やす事なく、明るく誰とも別け隔てなく接し、常に皆んなを勇気付けようとされています。

一度何故そこまで出来るのですか?と、貴女はどうしてそんなにもお強いのですか?とお尋ねした事が有ります。

返って来た言葉はとてもとてもシンプルでした、、、、

 

「だってボクは“勇者”だからね!!」

 

ああ、あぁどうして、どうして貴女はそこまで、、

 

もし、もしも他の地に居られるであろう他の巫女の方と、自分の勇者様に関してお話しする機会があったならば、、、

 

私達の勇者様こそが他の誰にも負けない「一番の勇者様」だと、私はきっと誇らしげに語るでしょう。

 


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