■■■■は勇者である。   作:たむろする猫

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「勝利を得る為に」

「何を言いだすんだこのお嬢さんは?」

はっきり言って“勇者様”から「勝利の為の思惑」とやらを初めて聞いた時の感想はそれだった。

ただ、荒唐無稽な話だと一蹴する事は出来なかった。

一部の者しか知らない話ではあるが、彼女の力に限界があるのは確かな事だ。

四国のことに関しても、島全体が結界という状態なのも概ね間違いない事実であるらしい。

向こうには5人も“勇者様”が居るという話も聞いたし、思わず1人くらい分けてくれと言いそうになった。

この先多くの人類が生き残れる場所として、四国がとてつもなく魅力的である事は、まぁ疑いようも無い事実だろう。

因みに、“勇者様”という立場だからって15歳の彼女が、国家戦略じみた事を語っている事については、違和感は凄いがもう慣れた。彼女は大体最初からこんな感じだった。

 

気に入らない点を挙げるとするならば

「脱出させる子供は15歳以下」

「女性はもう少し年上までを」

そう言っている癖に、そのどちらにもバッチリ当てはまる自分自身をその中に入れていない事。

それどころか自分の事を最初から「未来を繋ぐ子供」の中に入れていない事だろうか。

彼女の事に関して許せない事が有るとするならば、彼女の過剰なまでの「自己犠牲精神」だろうか、高潔で清々しいまでに英雄的だ。

無論、それによって覚える怒りは彼女へ向けたものではなく、彼女にそんな考えを抱かせてしまっている自分自身、15歳の女の子にそんなモノを背負わせている自分達の不甲斐なさに対してだ。

 

それでも、だ。

考えない訳にはいかないだろう。

彼女の掲げる「勝利」へ至る為の道筋を。

 

「15歳以下の子供」と言う条件に当てはまるのは現在32名。

その内、最年長の15歳が彼女と彼女に侍る“巫女”の少女を含めて5人。

それより下の年齢は割と均等で、最年少が厄災の始まった当時赤ん坊で現在2歳半なのが2人。

彼女自身は別として、恐らく“巫女”も最後まで彼女の側に居ることを選ぶだろうから、脱出させる子供の数は30人。

それに適齢期の女性、この先の事を考えると出来るだけ若い女性を選ぶとして、子供と同数の30人ばかり選出するべきだろう。

移動手段の確保も必要だ。

東京から四国までの距離は直線距離で700km以上。

高速道路を車でぶっ飛ばしたとして9時間半程の道のりだ。

世界が平和なら9時間半かけてゆっくり行っても良いが、いつ襲われるか判らない状態で、襲われれば逃げる以外に何も出来ない状態で、呑気にえっちらおっちら陸路を行く何てやってられない。

となると空路、あるいは海路となる訳だが果たしてどちらが適切か。

 

 

「手段が確保できるなら、どっちも使えばいいんじゃないかな?」

 

さて如何したものかと思っていると彼女はあっさりとそう行った

 

「そもそも、全員を同じルートでって言うのは危険だよね?」

 

彼女の主張は詰まる所リスク分散をするべきだと言う事だ。

“勇者様”という最高戦力が同道出来ない以上、移動時の護衛戦力は彼女の“力”が込められた銃弾ですら贅沢なものだろう。

そうなると、化け物共と遭遇すればそれはもう必死こいて逃げるしかない。

 

「ただ、ひとつ問題として。飛行機なり船なりがあったとしても、3年近く整備も無しに放置されてて動くものなの?」

 

そういえばそうだ。

キチンと整備されていたのならまだしも、野晒しで放置されているんだからマトモに動かせるとは思えない。

車とかバイク辺りなら、何とか動きそうな気もするし最悪整備もできるが、流石に飛行機や船となるとそれも難しい。

くそ、そうなると脱出なんて絶望的に不可能だ。

徒歩での移動なんてまず不可能だ、子供達と女性だけでなんて論外だし、“勇者様”が一緒に向かって更に俺たち自衛官が盾になって子供達を守りつつ移動したとして、700km以上の距離と数日という移動期間は絶望的な数字だ。

 

諦めるしかないのか?

 

本当にそうか?

 

なにか、なにか有るんじゃないか?

 

考えろ!

考えろ考えろ!

 

「そうだ、そういえば2機だけなら!」

「へ?」


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