■■■■は勇者である。   作:たむろする猫

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《ある女性自衛官の絶望》

「箱舟作戦」

“勇者様”と隊長が考案した人類勝利の為の作戦。

概要は結界内に2機存在して、いつか何かに使うかもしれないと、この3年近く限りある物資を使って動態保存されてきたCH-47JA・チヌーク輸送ヘリコプターを使用し18歳以下の子供と、女性を30人年齢の若い順に選出して2機に分乗、四国を目指すというもの。

 

元々は15歳以下の子供達と女性だったのが、18歳以下の子供達にまで選出年齢が上げられたのは、チヌークが使えると分かったかららしい(ただその子供達の中に“勇者様”自身は当然かの様に含まれていない)。

私は本来年齢から考えると選出から漏れるのだけれど、脱出メンバーに選ばれた。

選ばれた理由は単純、私がチヌークのパイロットだったから。

当時「いつか、いつか何かに使う時が来るかもしれない」と未練がましく、チヌークの動態保存を主張したのも、それ以降数機あった機体をパーツの関係上ニコイチする様な形で整備して、保存状態を保ってきたのも私だ。

この作戦は私の主張が正しかった事の証明だ、正しく「その時」が来た訳だ。

 

なのに、それなのに、心は全く晴れない

 

何故か?解りきっている“勇者様”を15歳の少女を置いて行かなければならないからだ。

 

隊長の提案でチヌークが使えるか?と確認しにきた2人に、問題なく使えると報告した時の、最大搭乗人数を聞かれ答えた時の“勇者様”の心底嬉しそうな顔が、15歳以下としていた子供達の年齢を18歳以下へと引き下げられる、僅かばかりでも希望の数を増やせると、そんな嬉しそうな笑顔がー

 

頭から離れそうに無い

 

四国へ向かう旅路に“勇者様”は同道しない。

彼女は飛び立つ「箱舟」の出発を援護し、その後はココに残される人々を最後まで守るのだと言う。

誰もが、ココで暮らす誰もが一番「生きて欲しい」と「この先の未来でも笑っていて欲しい」とそう願っている“勇者様”自身が、誰よりも生き急いでいる。

 

「ボクは“勇者”だよ、最後の1人になっても見捨てはしない、ボクが守るよ」

 

四国への旅路「“勇者様”の力が無ければ危険だ」と「未来へ繋げると言うのなら、“勇者様”が同道した方が確率は上がる」とそう主張した誰かに、彼女はそう返した。

 

「確かに四国への道は決して楽なものじゃないだろうね。もしかするとどちらかは墜ちるかもしれ無い。だけど、希望がある。残される人達は頭でわかっていても心が受け入れられるとは限らない。そんな中でボクまで居なくなってしまえば、彼らは本当に絶望してしまうでしょ?だからボクは行けない、見捨てられないから」

 

子供とは思えなかった

 

本当にならば、オシャレだとか恋愛だとか、そう言うものに興味を持って、友達とはしゃいで学校帰りに寄り道したりして、そんな歳の少女の筈だ。

 

まだまだ、大人に守られているべき幼い子供の筈だった。

 

何が彼女をそうさせたのか。

その小さな肩に多くの人の命を乗せて、

その小さな背中に人々の希望を背負わせて、

幼い少女に縋り付いて生きてきた私達がそうさせたのか。

 

或いは最初からそうだったからこそ、

私たちは何の疑問も抱かずに彼女を“勇者様”だと、「守られる側」では無く「守る側」であるとしてしまったのか。

 

どちらが正しいのか、どちらも正しく無いのかは判らない、けれども

私達が幼い少女を“勇者様”にしてしまった、その事実は覆しようが無い。

 

そして、彼女はこう言った

 

「それに、残るからって絶望する必要だって無いよ。皆んなが問題なく四国に着けば、向こうの“勇者”にボクらの事が伝わるでしょう?そうすれば、向こうから助けに来てくれるかも知れない、なら待っている間はきっと、今までで一番希望のある時間だと思うんだ」

 

 


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