■■■■は勇者である。   作:たむろする猫

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箱舟が行く1

保管されていた物資をひっくり返して、東京中を“化け物”の目を掻い潜り、或いは“勇者様”がなぎ倒して掻き集めた物資を総動員して、漸く準備の整った輸送ヘリ(はこぶね)が2機、ローターの音を響かせながら飛び立つ時を今か今かと待ちわびている。

 

「箱舟作戦」の概要は以下の通り

2機のチヌーク輸送ヘリにパイロットを除いて女性15人づつ、18歳以下の子供を20人づつ合計70人(パイロットを含めると74人)を分譲させ四国を目指す。

2機はリスク分散の為、同じルートは取らず1号機が真っ直ぐ直線で四国を目指すルート、2号機が航続距離ギリギリまで海上を回り込むようにして四国を目指すルートを取る。

 

2号機のルートに海上が選択されたのは、これまでの経験から“化け物”は人の多い所に引き寄せられる性質が有るのでは無いかと、分析された事からまず生き残りが居ないであろう海上ルートを取ることとなった。

尚2機共に海上ルートを選択しなかったのは、接敵の可能性は低いと予想されるものの、時間が掛かるという懸念から1機は最短距離を行くべきと判断された為だ。

 

脱出メンバーに選ばれた人達が残して行く家族や友人との別れを済ませ、一人また一人と乗り込んで行く。

半数以上の人が涙を流しているが、事情が解っていないであろう小さな子供の中には、お出かけにでも出掛けるかのようにはしゃいでいる子もいる。

 

最初この作戦が“勇者様”から語られた時、大きな反響があった。

それはそうだ、世界がこんな事になってそれでも共に生き残った家族や友人と引き離される、まだ幼い我が子だけを結果の分からない箱舟に乗せなければならないと言われて、ハイそうですかと直ぐに納得できる筈もない。

それでも“勇者様”が一人づつ、向かい合って説得して大半の理解を得る事が出来た。

最後まで反発していたのは、“勇者様”と年の頃が同じくらいの少年達だった。

彼等にとって“勇者様”はアイドルの様な存在だった。

同じ年頃の女の子相手にカッコつけたい年頃の彼等にとって、女の子である“勇者様”に護られているという事実は、もしかすると大人達以上に重くのしかかるものだったのかも知れない。

年長者の中には自衛隊に志願して“勇者様”を庇って死んだ者も居た。

そういう姿に青臭い憧れもあったのかもしれない、元々は18歳未満は認めないとされていた自衛隊への志願について、事ここに至っては制限する必要もない筈だ、「最後」こそオレ達も一緒に戦うと、彼等はそう主張した。

 

「今更君達なんて役に立たないよ」

 

主張を続ける彼等を黙らせたのは、流石に止めるべきかと声を上げようとした隊長を押し退けて“勇者様”の放った一言だった。

一瞬誰が言ったのか分からなかった程、“勇者様”らしく無い言葉と声音だった。

 

「今更君達が加わったとして、一体何の役にたつって言うんだい?」

 

誰も何も言えなくなった。

自分達も戦うと主張していた少年達だけでなく、隊長含め周りにいた自衛官(我々)もだ、“勇者様”の言葉には明確な拒絶が見えた。

 

「まともに戦えなくったって!君の盾にな

 

ーパァンッ!ー

 

張り飛ばされたのは“勇者様”のクラスメイトだったと言う少年だった

 

「最初からボクの為に死のうとする奴と一緒に戦いたいなんてこれっぽっちも思わないよ。そんな命の使い方は間違いだ、間違いなんだよッ」

 

今度こそ誰も反論なんて出来なかった

だって泣いていたから、いつも元気で誰よりも強い

そんな彼女が、“勇者様”が泣く事なんて無いんだと、

誰もがそう思ってしまっていたから。

 

“勇者様”が泣いているのを見たのはそれが最初で最後だった

 

その涙は

 

強い“勇者”の涙なんかじゃなくて

 

ひとりの小さな女の子の

 

涙だった。

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