異世界に転移したらユグドラシルだった件   作:フロストランタン

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遅くなりました。
モモンガさん、魔王と会食します。


#12 宴

 風呂から上がり、用意された浴衣を着たモモンガ達男性陣。女中に食事の準備ができていると聞き、この世界へ来てまだ何も食べていない事を思い出した。

 

 汚染が進んだ二十二世紀の日本では、一般の家庭ではまともな食材は手に入らなくなっている。人工の加工食材を使った、最低限の栄養を摂るだけで味なんて二の次。そんな食事が主である。

 それが当たり前の中で育ったモモンガにとって、食事はただ栄養を補給するだけの「作業」に過ぎなかった。

 

 しかし、案内されている途中で漂ってくる、食欲を刺激する芳醇な香り。モモンガだけでなく、ペロロンチーノやたっち・みーでさえ、期待感に胸を膨らませていた。ウルベルトも何度も生唾を飲み込んでいる。

 

「こちらでございます」

 

 案内された先は宴会場だった。

 畳の敷かれた座敷になっており、大きな座卓と座布団が沢山並んでいる。既に部屋には数十名が座っており、モモンガ達を待ってくれていたらしい。

 

 座っている面々は、人間に似て非なる存在。外見は似てはいるが、頭に角を生やした者、肌が緑色の者、豚のような鼻で口から牙が飛び出ている者等様々だ。流石は魔王が治める魔物の国というべきか。普通の人間はモモンガ達とヒナタだけなのかも知れない。

 

 驚きはしたものの、彼らが怯えて震えることは無かった。幸か不幸か、あの(ヴェルドラ)と出会ったことで、ある程度耐性というか、度胸がついてしまったのだろう。

 

「オーイ、こっちだ」

 

 奥のほうでジンベエ姿のリムルが手招きしている。

 リムルが座っているのは天板が一枚板の、いかにも高級そうな大きな座卓。このサイズの一枚板となると一千万は下らないだろう。華美な装飾こそないが、超一級品だと一目でわかる。

 その卓にはリムルと同じく浴衣やジンベエを着た数名が一緒に座っていた。

 彼らの視線もモモンガ達に集まる。

 二人が興味深げに、見定めるように。

 別の一人は興味なさげに、冷ややかに。

 また別の一人は好奇の目を向けて身を乗り出す。

 そして何故か親しげな視線を向けてくる者も。

 

 壁側中央に座るリムルの左隣には、血の色より濃く深い深紅の瞳を持つ赤髪の男。中性的な整った顔立ちをしている。

 

 その隣に、真白な長い髪と同じく真白な肌の女性。冷たく輝く深海色(ブルーダイアモンド)の瞳。その美しさは人間のものとは思えない。いや、この席に居るのだから、おそらく人間では無いのだろう。

 

 更に隣には、サラサラの銀髪を背中まで伸ばした、赤と青の金銀妖眼(ヘテロクロミア)の少女。落ち着き払った利発な雰囲気だ。

 

 リムルの左には、健康的な褐色の肌に金髪の偉丈夫。彼らのなかでは最も体格が良く、ワイルドながら、人好きのしそうな笑みを浮かべている。

 

 その肩には、30cm位のトンボのような羽の生えた小さな女の子が乗っている。イタズラ好きな妖精のイメージそのままだ。

 

 さらにその隣には、銀髪をツインテールにまとめた、人形のように可愛らしい少女。先の落ち着いた雰囲気の少女とは逆に、こちらは好奇心の塊のような、落ち着きの無い子供のような雰囲気だ。

 

(一緒に座ってるこの人達は魔王の側近とかかな)

 

(一見すると人間のようにも見えるが……多分普通の人間じゃ無いよな)

 

 そんなことを思いながら、一行はリムルのいる席の方へと歩み寄っていった。彼らの向かいに空席がある。そこへ座れということらしい。

 

「ようやく来たか。会うのは二度目だな、異世界の人間達よ」

 

「え?」

 

「……え?」

 

 口を開いたのは金髪の偉丈夫。一見すると人間のようにしか見えない男だ。

 モモンガ達は互いに視線を交わすが、誰もこの人物に見覚えはない。

 再び男を見る。

 

「不躾ですみませんが、何処かでお会いしましたでしょうか?」

 

「何ぃ?我を見忘れたか?五人揃って会ったであろう?」

 

 首を捻って思い出そうとするが、やっぱり見覚えがない。一体どこで会ったのだろうか?

 

「えーっと……」

 

 彼らが焦っていると、リムルがため息を吐く。

 

「お前ね、その姿で会って無いんだからわかるわけないだろ?」

 

「おお、そうであった。我、ウッカリ」

 

 おどけて見せる金髪の偉丈夫に対し、同じ卓に付いていた銀髪の少女が口を開く。

 十代半ば位に見えるその少女が発したその言葉は若い見た目からは想像できない威厳のある雰囲気で、そして辛辣だった。

 

「貴様、脳味噌まで筋肉で出来ておるのではないか?それともただの空洞か?」

 

「ぐぬ、貴様、相変わらず我に辛辣よな……」

 

 フン、とそっぽを向く銀髪少女。余程嫌っているのか、もうこれ以上話したくないと言わんばかりだ。

 気を取り直して男は立ち上がった。

 

「オホン、では改めて……我は竜種ヴェルドラ・テンペスト。リムルの盟友である」

 

 ヴェルドラは腰に手を当て、ドヤ顔をしている。対するモモンガ達はと言うと。

 

「リューシュ・ヴェルドラ・テンペストさんですね、モモンガと申します」

 

「たっち・みーです」

 

「ウルベルトです」

 

「ペロロンチーノです」

 

「うむ、我が名を覚えておくが良い」

 

 モモンガ達は「竜種」を「リューシュ」つまりファーストネームと勘違いした様だ。

 ヴェルドラはそれには気づかず、満足げに頷いていた。

 

「ぶふっ、ククク、はっはっはっは」

 

 彼らのやり取りを眺めていた赤髪の男が突如、笑いだした。モモンガ達とヴェルドラ両者のすれ違いを彼は正確に読み取ったようだ。

 

「いきなり笑わせてくれるぜ。まさか、そう来るとはな……」

 

「む?どういうことなのだ?訳がわからぬぞ」

 

「一体何が面白いのよさ?」

 

 銀髪をツインテールにまとめた少女と、小さな妖精が身を乗り出す。モモンガ達も訳がわからない。

 疑問に答えたのはリムルだった。

 

「お前ら勘違いしてるようだが、リューシュってのは名前じゃなくて()()だぞ?竜種。大雑把に言えば、コイツは……ドラゴンって事だ」

 

「ああ、これは失礼しました、ドラゴンさん」

 

 驚く様子もなくモモンガが頭を下げた。

 

「へー、この人ドラゴンだったのか」

 

 ペロロンチーノも平気そうだ。また気絶するんじゃなかろうかと心配していたリムルは、どうやら杞憂に終わったか、と胸を撫で下ろしかけた。

 

「なあんだ、ドラゴンねぇ……ん?んん?」

 

 ふと、ウルベルトが何か引っ掛かるような、と首を傾げて虚空を見上げる。たっち・みーは、その何かに気づいてしまった。

 

「ドラゴン……五人で会った……まさか、あの黒い竜!?」

 

 四人の脳内で目の前の偉丈夫と漆黒のドラゴンがイコールで結び付いた。

 

「うむ!貴様らが出会った漆黒の竜。それこそ我が真の姿よ!クアーッハッハッハ」

 

 ヴェルドラが愉快そうに笑う。モモンガ達は意識を手放す事こそ無かったが、目を見開いて固まっていた。

 

「大丈夫、モンちゃん?」

 

 後ろから聞こえた声にモモンガが振り向くとぶくぶく茶釜とヒナタ、シエルがいた。

 ぶくぶく茶釜とヒナタ別れる前に比べて見違える程に肌がツヤツヤしている。ぶくぶく茶釜は風呂でのぼせたのか、頬が上気して、何だか色っぽく見えた。

 

(何だか茶釜さん、急に美人になった気が……浴衣のせいかな)

 

「ねーちゃん、すっぴんそんなに綺麗だっけ?もっと草臥れ「うん、黙ろっかー」あ、ハイ……」

 

 モモンガが呆けていると、ペロロンチーノが口を開いたが、一言で黙らされた。いつもの一段低めの声ではなく優しい声音なのに、何故かいつも以上に凄みを感じたのは気のせいだろう、とモモンガは深く考えないことにした。

 

 

 

 

 

 

「へー、ヴェルザードさんってヴェルドラさんのお姉さなんですか?」

 

「そうよ、出来の悪い弟にいつも手を焼かされているわ……」

 

「奇遇ですねー、私も出来の悪い弟にはいつも苦労してるんですよー。ホントに何で弟って……」

 

 全員揃ったところで、一緒に卓に付いていた魔王の面々をモモンガ達に紹介した。

 俺の配下と思っていたらしく、同格の魔王達と竜だと知って、またもや驚愕していた。

 ぶくぶく茶釜だけは豪胆というか、豪放というべきか、ヴェルドラの正体を知っても大して驚く事なく受け止め、姉のヴェルザードと打ち解けて話している。

 女は度胸と言うが、それを地で行っていると感心した。

 

 ヴェルザードは嘗てはもっと近寄りがたい雰囲気を纏っていて、兄弟とギィ以外には気を許さなかった気がするが、ある日を境に急に柔和になった。想いを寄せるギィと何か進展でもあったのだろうか。

 

 互いに逆らえない姉を持つ立場を知ったヴェルドラとペロロンチーノは、同士を見るような視線を交わし、互いの苦労を労るように頷き合うのだった。

 

 と、ここで各席に料理が運ばれてくる。

 

「お待たせしました」

 

 握り寿司、冷奴、天麩羅、唐揚げ、ハンバーグ、エビフライ……。

 この世界へ来てから俺が再現(実際に開発したのは配下達だが)した、日本で親しまれた料理達。未来で暮らす彼らの口にも合うといいのだが。

 モモンガ達の前にも配られ、彼らは喉を鳴らす。

 

「凄い……」

 

 皆唖然として料理を見つめる。がっつくのははしたないと考えているのか、すぐに手を付けようとはしていない。

 

「さあ、遠慮しないで食べてくれ。麦酒(ビール)も冷えてる。ウマイぞ」

 

 俺がそう言うと、ウルベルトがもう辛抱堪らんと箸を伸ばす。それに続くように皆も箸をつけ始めた。

 

「うんまーい!」

 

「あぁ、絶対食べ過ぎて太っちゃう~」

 

「これ程とは……」

 

 ペロロンチーノとぶくぶく茶釜、たっち・みーは感嘆の声をあげた。

 モモンガとウルベルトが目に涙を滲ませている。感涙するほどうまかったか。反応は上々だな。

 五人は凄い早さで黙々とあっという間に平らげていった。

 

「あぁ、こんなに美味しい食事は初めてだ……死んだ両親にも食べさせてあげたかったなぁ」

 

 モモンガがポツリと呟くと、それを聞いたウルベルトは嗚咽し始めた。

 

 二人はポツポツと両親の事を話し始める。

 モモンガもウルベルトも、幼くして両親を失っていた。貧困にあえぎながらも、彼を学校に行かせてやろうと必死に働き、過重労働の末に命を落としたモモンガの両親。

 ずっと孤独に生きてきたんだな。知り合ったばかりの俺に親身に心配してくれるなとは思っていたが、そういう背景があったのか。

 

 ウルベルトの両親も、命懸けの危険な環境で働き、事故で命を落とした。遺骨は帰って来ず、会社からは申し訳程度と言うにも烏滸がましい、極僅かな見舞金が支払われただけであった。

 なるほど、ウルベルトが妙に悪に拘る節があるのは、理不尽な支配者階級に対する怨嗟と体制の欺瞞への反骨心から来てるんだな。

 

「か、可哀想なのだ……」

 

「あんた達、苦労したのね。何だか泣けてきちゃったよ」

 

 ミリムは感情移入してしまい、目を潤ませている。ラミリスも目頭を拭う。普段我儘で理不尽でお子様でアホの子な魔王なんだが、根は気の良いお人好しなんだよな。

 

「よし、ワタシが友達になってやるぞ。人間の友達はお前達だけだからな。わはは、光栄に思うがいい」

 

「しょうがないから、アタシもなってあげなくもないわ」

 

「仕方ないな、我も友達になってやろうではないか」

 

 チョロい。コイツらホントにチョロすぎるな。ていうか、友達ほしいだけだよねお前ら。まあ、俺も彼らと友好を結べることに否はないんだが。

 

「良かったなお前ら、魔王と友達(ダチ)だなんて人間はこの世界でも殆どいないぜ」

 

 ギィが不適な笑みを浮かべて言う。八星魔王(オクタグラム)って、なんだかんだで人間を嫌ってはいないんだよな。

 

「クアハハハ、流石に失禁して気絶した二人を運ぶのはもう勘弁してほしいがな」

 

 それを聞いたぶくぶく茶釜は目を見開きヴェルドラを見た。顔は真っ赤だ。どうやら自覚はあったらしい。

 いい歳した大人の女子が公衆の面前で痴態を暴露されてはとんだ赤っ恥だろう。

 

「え、ねーちゃんまさk「んなわけねーだろっ」ブホッ!」

 

 姉の反応に、ペロロンチーノは疑いの声をかけるが、瞬時に否定され、ついでにボディーブローが突き刺さる。弟の方はどうやら自覚なかったみたいね。そんな二人にアイツがいらん追い討ちをかける。

 

「貴様ら二人とも衣服がビチャビチャになっておったぞ?姉弟揃ってシモの緩いやつよ。運んだ我の身にも……ハッ!?」

 

 ヴェルドラの言葉に二人が赤面する。それとは逆にヴェルドラの顔色は青ざめていく。ヴェルザードの冷気を帯びた視線がヴェルドラに突き刺さっていたのだ。

 

「全く、レディに対する礼儀がなっていないわね。これは再教育が必要かしら?」

 

 ヴェルドラが縋るような目を向けてくる。俺はヴェルドラの肩をポンと叩く。

 

「しっかりお姉さんにご教授いただくんだぞ」

 

「リ、リムルっ!見捨てるのか!?あんまりではないか!盟友(とも)であろう!?」

 

 これは完全にヴェルドラが悪い。決してヴェルザードが怖いわけじゃない。

 涙目で引きずられていくヴェルドラを俺たちは生暖かい目で見送ったのだった。

 

 

 

 


 

 キャラクター紹介5

 

ギィ=クリムゾン

 "暗黒皇帝(ロード・オブ・ダークネス)"。赤い髪の中性的な男性の姿をしているが実は両性具有で、どちらの性にもなれるし、男女両方性欲の対象になる。最強の悪魔族にして最古の魔王。精神世界に居たが、人間の国家間の戦争に召喚された。敵国を滅ぼし、さらに召喚主も国家諸とも滅ぼした。その後は気儘に暴れまわっていたが、世界の創造主「ヴェルダナーヴァ」に挑み、惨敗する。ヴェルダナーヴァの提案で、世界の調停役として世界で最初に『魔王』を名乗る。

 あらゆるスキルを完全再現できる究極能力(アルティメットスキル)深淵之神(ノーデンス)』を持つ。

 

 

ミリム=ナーヴァ

 "破壊の暴君(デストロイ)"。銀髪ツインテール。世界の創造主「ヴェルダナーヴァ」と人間の間に生まれた竜人族(ドラゴノイド)。大昔、あるきっかけからギィと七日七晩の死闘を演じる。その戦場後は広大な不毛の砂漠と化した。二人の戦いに仲裁に入った精霊女王ラミリスは、その力を変質させ、妖精に身を堕とした。

 力はあるが脳筋で、細かいことを考えるのは性に合わない。リムルと出会い、リムルの親友(マブダチ)になる。リムル曰く「目の離せない親戚の子」。

 無尽蔵の魔力増幅炉とも言える究極能力(アルティメットスキル)憤怒之王(サタナエル)』を持つ。

 

 

 

ルミナス=バレンタイン

 "夜魔の女王(クイーン・オブ・ナイトメア)"。銀髪の金銀妖眼(ヘテロクロミア)吸血鬼(ヴァンパイア)の女王。嘗て吸血鬼(ヴァンパイア)の国家を形成していたが、ヴェルドラに「ちょっとした冗談」で吹き飛ばされてしまった。以来ヴェルドラを目の敵にしている。現在は人間の宗教国家"神聖法皇国ルベリオス"の地下に吸血鬼(ヴァンパイア)の国家を形成している。「唯一神ルミナス」として人間を庇護する代わりに、幸福感を得た人間から良質な生気(エナジー)を吸っている。この事実を知るものは極わずか。生と死を司る、究極能力(アルティメットスキル)色欲之王(アスモデウス)』を持つ。

 

 

ヴェルザード

 "氷の女帝"白氷竜。世界最強の竜種の一体であり、暴風竜ヴェルドラの姉。兄「ヴェルダナーヴァ」が認めた存在である魔王ギィ=クリムゾンに嫉妬し、喧嘩を吹っ掛けた。しかし、あしらわれ続けているうちに惚れてしまい、今ではギィの相棒に。ヴェルドラが小さい頃から世話を焼いているが、やり方が過激なため、ヴェルドラにトラウマを与え続けている事には自覚がない。

 究極能力(アルティメットスキル)氷神之王(クトゥルフ)』を持つ。




哀れヴェルドラはドナドナされました・・・
茶釜さん、ごめんなさい。

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