異世界に転移したらユグドラシルだった件   作:フロストランタン

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ご感想、間違いのご指摘等いただきましてありがとうございます。

今回はかなり創作設定を混入しました。本名や能力、法則等も色々勝手に作っている部分があります。


#15 大魔王のレッスン

 早朝、執務室。

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

 ズダダダダダ

 

「ドオォリャァー!」

 

 ズダダダダダ

 

 スライムである俺は眠る必要が無いため、昨晩遅くからからずっと執務室に籠りきりである。

 

「ウリャウリャー!」

 

 ドドドドドドドド

 

 今俺が何をしているかと言うと、膨大な書類の山をと格闘、いや、決裁の印を押しているのである。

 ここ数日、魔物の国(テンペスト)建国祭直後にモモンガ達の歓迎もあり、サボっていた未処理の書類が溜まりに溜まっていた。一国の主ともなると、目を通し、決裁をしなければならない書類は山ほどあるのだ。

 

 俺は『思考加速』で知覚を数万倍に引き伸ばし、一瞬で書類を読み込んだ上で承認か却下の判断を下す。そして却下は弾き、承認は判を押していく。もっと早く動作はできるのだが、紙が破れてしまうので、破れない程度の速度に加減をする必要がある。

 因みに掛け声には特に必要ではない。普段は黙って作業をしている。単純に「サボってしまった分、気合い入れて仕事してますよ」とアピールしているだけである。

 秘書であるディアブロとシオンが処理済みの書類の束を運び去っては御代わりを持ってくる。その光景はさながら新聞の印刷風景のようである。

 ひたすら作業する事数時間。漸くデスクが片付いた。

 

「これでおしまいですね。お疲れ様でした」

 

「お疲れ様でした」

 

「ああ、二人ともサンキューな。少し休むか」

 

「ではお茶にしましょう」

 

 ディアブロが優雅な動きでティーセットを広げる。

 これで溜まっていた書類は片付いた。しかしこれからが本番だ。モモンガ達の育成とイベントの開催告知をしなければ。ゆっくりしている時間はない。

 

 

 

 

 

「アタシ達を強くして!」

 

 彼女にそう迫られた時、正直悩んだ。ヴェルドラ達は既に乗り気になっているが、そんな安請け合いはできない。とにかく時間が無いんだよなぁ。彼らの滞在期間は期間は約一ヶ月。これは幾らなんでも短すぎる。

 

『思念伝達』と『思考加速』を使えば、体感時間を引き伸ばすことができる。この短期間でも、魔法の習熟などであれば有効な手段だ。しかし、肉体的な能力はそうはいかない。彼らの今の一般人レベルの身体能力では、とても迷宮攻略なんて無理だろう。

 

《問題ありません。彼らが界渡りするときに、魔素により肉体を一部変質させています。これにより、短期間で肉体強化も可能です》

 

 モモンガ達が迷宮に挑戦している間に俺と合流(合体)していたシエルから意外な答えが返ってきた。

 な、なにぃ?いつの間に、というのも驚きだが、魔素による変質だと?

 

 この世界に渡ってくる方法は、

 

 ①召喚魔法によって召喚される

 ②偶然生まれた次元の裂け目に吸い込まれる

 ③異世界への門(ディファレンシャルゲート)を潜る

 

 がある。

 ①か②の場合、魔素による影響をモロに受け、肉体にも精神にも大きな負担がかかる。魔素という名の嵐の中を身一つで突き抜けるようなものなのだ。あまりの負荷に肉体や魂が耐えきれず、死ぬ場合もある。その代わり、魔素によって変質した強靭な肉体や、強力なスキルを獲得できるのだ。

 しかし、異世界への門(ディファレンシャルゲート)で界渡りをする場合は、コンクリートのしっかりしたトンネルをくぐる様なもので、殆ど魔素の影響を受けることはないはず。

 そこまで考えた俺はふと、あることに思い至った。モモンガ達を連れてくるとき、異世界への門(ディファレンシャルゲート)ではなく、究極能力(アルティメットスキル)"虚空の神(アザトース)"の時空間転移を使ったのだった。特に理由もなく、完全にただの気まぐれである。

 まさか、魔法の異世界への門(ディファレンシャルゲート)能力(スキル)の時空間転移では界渡りによる負荷が違うのか?

 

《召喚程ではありませんが、時空間転移による界渡りは、魔素の影響を受けるようです。今回の試みにより、実証されました》

 

 やはり、か。これまでにもウッカリ名付けを行ってしまうなど、意図せず配下達を魔改造してきたが、どうやら今回も()()()しまったらしい。

 もしかして、既に能力(スキル)も獲得して……いや、それはないか。"世界の言葉"は聞こえなかったし。

 

 "世界の言葉"とは、この世界の法則が改変されたり、能力(スキル)の獲得や『進化』が行われた際に響く声である。ゲームでいう『レベルが上がった!スキル○○を覚えた!』みたいなのが心のなかに響くのだ。これは本人だけでなく、近くにいれば誰でも聞こえる。

 

 それが聞こえなかったということは……いや、待てよ?そう言えば、シエル先生は"世界の言葉"を秘匿することもできたんだよな。ま、まさか……?

 

《はい。幾つかの能力(スキル)を既に獲得しています。もっとも、本人にも秘匿していたため、先の迷宮では発現すらできませんでした》

 

 お、おう、マジか。ていうか、何で本人達にまで隠してるんだ?

 

《本人が望まない力を手にしても良いことはありません。しかし、本人達が力を望んだ以上、秘匿する必要はなくなりました。ヴェルドラの魔素を浴びた事も合わせて、ここまでの流れは我が主(マスター)筋書き(シナリオ)通りですね》

 

 わかっていますよ、と言わんばかりに、シエルが俺の企んだらしい事を告げてくる。いつの間に俺はそんなシナリオを……。なぜいつも俺は悪企みをしていると思われるんだろうか。まあ、こういうのは深く考えない方がいい。考えたら負け!である。

 

 さてさて、どんな能力か確認してみようかな。俺は加速した思考のなかで、解析鑑定を発動した。それぞれの特徴や適性をつかむ上で重要だからな。

 

 

 

 たっち・みー(近藤 龍巳(タツミ コンドウ)

 能力(スキル):剛力

 技術(アーツ):不要弐之太刀(ニノタチイラズ)

 

 ウルベルト(御堂 和馬(カズマ ミドウ)

 能力(スキル):視線誘導(ミスディレクション)

 技術(アーツ):急所狙い

 

 ペロロンチーノ(梧桐 誠(マコト ゴトウ)

 能力(スキル):気配察知

 技術(アーツ):遠視

 

 モモンガ(鈴木 悟(サトル スズキ)

 能力(スキル):魔素収束

 技術(アーツ):演技

 

 ぶくぶく茶釜(梧桐 悠子(ユウコ ゴトウ)

 能力(スキル):歌手(シンガー)、威圧

 技術(アーツ):アニメ声(萌えボイス)

 

 

 おぉ、やっぱりたっちはこの中で一番強いみたいだな。流石は現役警察官。正面からぶつかるのが性にも合ってそうだ。

 ウルベルトも迷宮ではいい動きをしていた。確か肉体労働系だったか?虚実織り混ぜた駆け引きで戦闘を有利に運ぶタイプだな。

 ペロロンチーノは直接戦闘は厳しいかな。眼は良いみたいだから、盗賊とか向いてそうだ。

 モモンガは、魔法との相性が良さそうだ。何気にコレ凄いんじゃないか?だが、制御出来ないと際限なく魔素を集めて自爆しそうだ。演技って、多分()()の事だよな。これについては触れないで置こう……。

 ぶくぶく茶釜は……声優だったっけ?そう言えば。歌も上手いのか。歌って踊れるアイドル声優ってやつか?

 

 ん?ということは……!

 俺の嗅覚が()()匂いを鋭く嗅ぎ取った。俺はすかさず隣で不安そうな顔のミョルマイル君に耳打ちした。

 

「彼女は異世界の歌手なんだ。彼女に異世界文化交流の協力者になってもらおうと思う。分かるね?」

 

 正確には歌手ではないのだが、歌も上手いようだし、間違いではないだろう。それにミョルマイル君なら、この一言で俺の言いたいことは伝わる筈。そして素晴らしい儲け……いや、文化交流の提案をしてくれるだろう。期待した通り、ミョルマイル君は俺の意を酌み、ワルい顔をして耳打ちしてきた。

 

「ということは、迷宮リニューアルも合わせて、かなりの集客が見込めるかと。我々の懐も……ですなぁ」

 

 ふ、やはりミョルマイル君、分かってるね。俺もきっとワルい顔になっていることだろう。

 

 後の問題は、本人がやってくれるかどうかだ。善は急げというわけで、早速交渉だ。

 

「じゃあ、こうしようじゃないか」

 

 

 

 

 

 彼女達の訓練をバックアップする代わりに、二つ条件を出した。

 

 まず一つ目は、迷宮のリニューアル計画に協力してもらうこと。

 そして二つ目は、彼女に「異世界の文化交流」として、ライブで歌ってもらうこと。

 

 広告や会場設営は魔物の国(テンペスト)が全力でバックアップする。

 嘗て音楽が上流階級だけの嗜みとされていたように、此方の世界ではまだ民衆に親しまれる機会がなかなか無い。彼女の活躍により、一般に音楽が広く親しまれる機会が生まれてほしいと言うのは、偽らざる本音だ。決して儲けたいだけではないのだ。

 

 ぶくぶく茶釜は二つ返事で快諾。モモンガ達も「おもしろくなってきた」と、承諾し、無事に合意出来た。

 

 早速その場で迷宮のリニューアル案を練り上げ始めた。

 ユグドラシルで拠点を作り上げてきただけあり、いくつも斬新なアイディアが出され、次々決まっていった。

 

 まず、現在50階層までの迷宮を下級ランク10階層・中級ランク20階層・上級ランク20階層に完全に分ける。これによって、一回の挑戦にかかる期間を短縮する事ができる。レベルの低い挑戦者にも易しく、高レベルの挑戦者にも、簡単な序盤を攻略する煩わしさなく進めると言うわけだ。

 50階もあると、最奥に辿り着いても、やられてまた最初からやり直すのは精神的にキツイ。セーブポイントもあるが、使えるのは一ヶ所につき一回きりなのだ。

 短期決戦で挑めるならば、一定期間で挑める回数も増える事が期待される。要は回転率を上げる事で運営側も収入アップできるのだ。

 さらに、上級ランクをクリアした者にはランダムで手に入る特質級(ユニーク)装備とエルフの街へのパスポートを進呈する。更に上を目指したい者にはエキスパート級に挑戦する権利も与える。

 

 エキスパート級はまさに人間の限界に挑もうというドM……いや、向上心溢れる者向けになっている。5階層から成り、数々の致死性の高い罠、溶岩地帯、極寒地帯といった、過酷な環境。最奥のボスには地水火風の竜王を配置。これらの4種の竜王を一定期間毎に入れ換えるのだ。

 

 因みに、竜王達の強さは真なる魔王級。はっきり言って「なにその無理ゲー」である。

 とはいえ、挑戦するのは一体のみ。十分に対策をして挑めば、戦いにはなると思いたい。少数では厳しいなら、複数パーティーで連合を組んで挑むのもいいかもしれない。レイドボスイベントのように。

 

 エキスパート級をクリアした者には、それぞれの竜王属性に因んだ伝説級(レジェンド)装備を用意した。一回のクリア毎に1つ、リストから選択できる。これは生産量が結構少ないが、そもそもクリアできる者が居るかどうかもわからない程なので、大丈夫だろう。勲章なんかも用意してもいいかもしれない。

 そして新たに始まる取り組みとして、訓練所を新設することにした。

 以前は一階、二階に簡単なチュートリアルと、魔物と模擬戦できるフロアを設けていたのだが、具体的にどんな事をすれば良いかわからず、使いこなせていない者も多かった。

 そこで、具体的な指令(ミッション)を熟すことで、着実にノウハウを蓄積してもらおうと言うわけだ。

 各指令(ミッション)クリアには報酬も用意する。

 

 そして、モンスター討伐数やタイムアタックなど様々な成績ランキングを着け、上位者に限定報酬を用意する事にした。

 こうした改善を盛り込み、迷宮は生まれ変わるのだ。

 

 

 ん?モモンガ達は何でいきなりモンスターに襲われたのか?チュートリアルはどうした、だって?

 まあ、いきなり十階に放り込んだからな。ダンジョン攻略はゲームで慣れてるだろうし問題ないだろ?ユグドラシルで見せてくれた見事な連携があるし、万一のときも復活の腕輪をつけてるから大丈夫だろうと思ったんだよね。決してチュートリアルの存在を忘れていた訳ではない。

 モモンガ達を放り込み、モニタールームに転移した時、既に待機していたラミリスから、

「ちょ、リムルッ、大丈夫なの?チュートリアルも受けさせずに」

 とか聞かれて「あっ」と言ってしまったのは気のせいだ。いや、そもそもそんなことは言っていない。

 

 散々な目に遭ったモモンガ達だが、やる気を出してくれたので結果オーライだろう。

 

 打ち合わせを終え、モモンガ達が退室した後、いつの間にか来ていたディアブロが

 

「クフフフフ、流石はリムル様です。わざと彼らに屈辱を味わわせることで、心を折るのではなく、逆に奮起させるとは。彼らは自ら強さを求め、我々の要求も進んで受け入れるでしょう。これからはお客様(ゲスト)ではなく仕事の手駒(ビジネスパートナー)というわけですね?見事なお手並みでございます」

 

 とか言って悦に入りだした。それを聞いたヴェルドラとラミリスも乗ってきた。

 

「ふむん、本人達にやる気を出させるために敢えて敗北を味わわせた、というわけか。流石は我が盟友である。まぁ、そんなことであろうと思っておったわ」

 

「ア、アタシはモチロン最初からわかってたけどね。ところで、歌って言えばアタシじゃない?やっぱりアタシの出番もあるってコトだわよね?」

 

 毎度の事ながら調子のいい奴等だ。打合せの途中までジト目で避難がましく此方を見ていただろ?

 

 俺はとりあえず、

 

「お前らにも出番は用意するつもりだから、頼むぞ」

 

 と合わせておくことにした。働いて貰う(コキ使う)事は間違っていないしな。

 

 

 

 

 

 打ち合わせ後の三週間はモモンガ達にとって、最も濃厚な期間となった。

 後に彼らが「大魔王のレッスン」と恐れ呼ぶ、修行が始まったのだ。

 何しろシエル先生の容赦ない育成計画に、これまた容赦ない剣鬼による全員への戦闘の基礎訓練。そして途中から魔法やスキルの習熟を『思念伝達』と『思考加速』によって引き伸ばした知覚の中で行う。これを睡眠と食事や風呂の時以外ほぼ毎日続けたのだ。

 シエルが大丈夫というし、迷宮下層でやっているので、ラミリスの権能のお陰で死にはしないが、何度も中断しようかと躊躇したほどだ。

 彼らも、序盤は泣き言や恨み言をこぼしていたものだ。

 

「オニ!」

 

「ほう、ワシの種族を知っておったか」

 

「そういう意味じゃないし!!」

 

「あ、悪魔……」

 

「おや、私を呼びましたか?」

 

「うわ!いつの間に?いや、そういう意味ではなく……」

 

「ほう?ではどういう意味か教えていただいても?」

 

 こんな調子である。当然二人とも分かっていて揶揄っているに過ぎない。ディアブロがいい笑顔をしているので間違いないだろう。ちょっと可哀想だと思ったが、頑張ってもらうしかない。

 そんな中で、たっち・みーとぶくぶく茶釜は泣き言一つ言わなかった。

 たっち・みーは武道経験者だし、耐えられたとしてもまだ理解はできる。

 だが彼女は一体何故耐えられるのだろう?レッスンの期間中に、ライブの打合せと歌の練習も並行して行っていたため、彼女の負担は相当なものだ。何がそこまで彼女を駆り立てるのだろうか。

 時折だが何となく、悲壮感のようなものが見え隠れしている気がする。気にはなるが、迂闊な事を言って地雷を踏んでしまいそうな気がしたので、敢えて聞かずにそっとしておいた。

 結局、文句を言っていた三人も覚悟を決め、真剣に取り組みだした。挫けそうになる度、五人仲良く円陣を組み、

 

「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」

 

 とか、叫んでいたのは良い思い出になっただろう。

 

 思い出と言えば、中日(なかび)に彼らの慰労の為、海へ魚釣りに連れて行った事もあった。皆釣りどころか船に乗るも初めてだった。聞けば彼らの時代は魚が漁れなくなって久しいらしい。

 ということで、俺が色々アドバイスしながら、釣りを楽しんでもらった。釣った魚をその場で捌いて活け作りにし、新鮮な海の幸を堪能してもらった。

 充分に英気を養ってくれたところで、翌日からは更なる厳しいレッスンが待っていると例の鬼教官から告げられ、渇いた笑いを洩らしていた。

 それでもどうにか最後までやり抜いたのだから大したものだ。

 というかどうしよう……。何となく予感はしていたが、たった三週間で強くなりすぎだろ、コイツら。人類でも最強クラスの戦闘集団である聖騎士達ともソコソコ渡り合えるんじゃないだろうか?相変わらずシエルさんの魔改造ぶりはシャレにならない。

 帰ってから、元の生活に馴染めるといいんだが……。

 

 そんなことを思いながら、明日から三日間催すライブのリハーサル風景を眺めるのであった。

 




鈴木悟以外のメンバー名は創作しました。

モモンガお兄ちゃん♪→○○ゥーザ様
たっちさん→とある銃使い。下の名前は公式
オードル→オードリー→ノーブル→高潔→華族(御堂家)

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