異世界に転移したらユグドラシルだった件 作:フロストランタン
「
ドドドドォォォーーーン
ピピピゥーーーーズドドドドドッ
複数の火球が弾けて爆発が起こる。同時に空には無数の矢が舞い、大地に勢いよく突き刺さる。
「クソッ当たらない!」
「
「
生き物のように激しくのたうつ雷撃が襲い掛かるが、ディアブロはヒラリとかわす。
「待てコラー!」
「クフフフフ。この状況で待てと言われて素直に待つバカはいません」
「全くしつこい奴らだな」
喋る度にポップするメッセージウィンドウに、リムルは少しゲンナリした表情で走っている。
後ろには人間(のプレイヤー)が追い掛けてくるが、徐々に距離が離れていく。上手く撒けそうだ。
「チクショー!また逃げられたぁぁぁ!」
悔しがる彼らに、ヒラヒラと手を振った。
リムルが
帰りたくないわけではない。というか、帰りたくても帰れない。決して未知のゲームの世界にワクワクし、遊び呆けているわけではないのだ。ここが異世界だと気づいてすぐに帰ろうとしたのだが、
《世界の法則によって、魔素や
え?ってことは
《その解釈で合っています》
しかし、それならそれで
《……一部の
マジか。
つまり、データ量が多すぎて処理しきれず、データの一部が文字化けを起こしてるようなものか。実質
ディアブロも一部
普通、もっとこう、焦るだろ。なにをそんなに落ち着いているのか。
「どのような世界であろうとも何も問題は在りません。この世界を征服すればよいだけですから。私とリムル様二人で!」
問題大有りだった。
「どうしてそうなるんだよっ。
「そうですね、申し訳ありません……」
シュンと肩を落とすディアブロに、悪魔の癖にそんなメンタルで大丈夫だろうか、と思うが今は都合がいい。
先ずは
人間はいるのか?動物やモンスターは?このゲームの目的は?プレイヤーはどんな奴らか?人間、だよな。言葉は通じるのか?自慢じゃないが外国語はまったくわからん。
だが、そんなご都合主義は当てに出来ない。
と思ったが、シエルさんがいるのだし、なんとかなるだろう。
ていうか、さっき見たメッセージウィンドウには見慣れた文字が浮かんでいたような……。
「えぇー、本日は晴天なり」
リムルが喋ると、先程と同じようにメッセージウィンドウが浮かび上がる。
やはり、見覚えがある文字。というか、嘗て人間だった時に使っていた文字だった。うん、日本語だな。言葉が通じることは間違いなさそうだ。
「?……リムル様?」
ニヤリと笑ったリムルを、ディアブロは怪訝な表情で伺う。
「この世界の言語は俺の知っているものだった」
「っ!なんと。流石はリムル様です。お見逸れしました」
ディアブロはうっとりとした表情で、どこぞの密林の王者の弟子のような
日本語が使われているということで、ちょっと安心した。しかし、転移した先が日本語圏とは、偶然にしてはできすぎではないか?
《なんでもかんでも私を疑うなんて、ひどいです。あんまりです!プンプンッ》
ある可能性が頭を掠めた瞬間、シエルさんが突っ込んでくる。この言い方は否定していないな。疑惑は一気に濃厚になった。
《黙秘します!》
あー、確定か。なんだか知らんがまぁ、シエルの企みに乗ってやろうじゃないか。
《それでこそ
こうやっていつも乗せられているような気がするが、細かいことは気にしない。うん、きっと気のせいだな!
というわけで、何か町でもないかと草原を当てもなく彷徨っていると、程なく
ローブを纏った
「いよーっす!」
「ん?なんだこいつ?NPCか?うおっスゲー作り込みだな」
リムルと、後ろに控えるディアブロを交互に見やり、驚いたような声を出す。
お?どうやらプレイヤーっぽいな。これは僥倖。しかし、NPC?
よし、ここはあれだな。
「ボク、リムル。悪いスライムじゃないよ」
人型から
どうだ!
「な!マジか」
お、驚いてるな。ゲームだからか表情は動かないが、声の感じから嬉しそうにしている。よし、好印象だ。
……と思ったら。
「ヤリィ!見たこともないスライムだ。こりゃ相当なレアモンスターだぜ」
「ああ、レアドロップも期待できそうだな」
「え?」
あれぇ?こんなラブリーなスライムを襲うのかよ?あり得ん、くそう。当てが外れたか。
「ほう。リムル様に挑みかかるつもりですか?」
ディアブロは笑みを浮かべながら、怒気を放っている。
マズイ。力の制限を受け、力を十全に発揮できない今、戦っても勝てるかわからん。第一、派手に動けば他にも敵を寄せ付けてしまうかも知れない。そうなれば味方がディアブロしかいない状態では多勢に無勢となりかねない。
仕方ないな……。
「ディアブロ」
「はい」
ディアブロはリムルの前に立ち臨戦態勢に入る。号令が掛かれば何時でも攻撃できるように。
「逃げるぞ」
「は?はい、仰せのままに」
二人して脱兎のごとく逃げ出す。
「あっ、ま、待てぇ!」
プレイヤー達は一瞬ポカンとしていたが、気を取り直して追い掛けてくる。こうして逃げては撒き、また見つかっては逃げていたのだ。
彼らの執念も大したもので、何度振りきってもまたすぐに探しに来て見つかってしまうのだ。
そんな
最初、どうやってそう何度も見つかるのか不思議だったが、近くの生命の気配を察知したり、遠くの景色を覗く魔法があるようだ。
まあ、解析はできたものの、ただでさえデータ容量オーバーなので修得は出来ないようだった。残念だが仕方ない。何を覗こうと思ったかはヒミツだ。だが、シエルさんは勘づいたようだ。さっきから黙り込んで、無言の抗議をしている。
《……》
「シエルさん?」
《……》
「機嫌直してよ」
《私という相棒がいながら……》
そうだな、悪かった。相棒はお前だけだ。お前がいなきゃダメなんだ。頼りにしてるからな。
《
おお、初めての町。数日間逃げ隠れしてたからな。なんだか嬉しくなった。
さあ、今度は失敗しないようにしなきゃな。まあ、人に擬態しておとなしくしてればバレないだろう。
人間の姿で意気揚々と町に入っていった。
町には沢山の人でにぎわっていた。情報を交換したり、アイテムを売り買いしている姿も見かける。
ここには人間と、エルフやドワーフのような亜人のみが居るようだ。やはり、モンスターは歓迎されないらしい。そりゃそうか。リムル達は誰かに声を掛けたりせず、暫く町並みをキョロキョロと見て回っていたが、なんとなく視線を感じるような……やはり服装が目立つのか?まあ、ディアブロはイケメンだしな。気にしないことにした。
一通り見たところで、モンスターの町もあるかも知れないと思い、人間の町を出たとき、出くわしてしまった。
「みーつけた」
「ここで会ったが百年目」
「こんなところで会うとはな」
例の3人だ。ご苦労な事だ。
「いよーっす。また会ったな」
「クフフ、
どこぞの地球育ちの戦闘民族のようにフランクに手をあげ、挨拶するリムル。ディアブロは慇懃に礼をする。
「コンニャロ、NPCの癖に生意気な」
「まさかこれもあの運営の
「攻撃こそしてこないけど、動きからして並みのNPCじゃない。まさかワールドエネミーのプロトタイプとか?」
「「うわー、あり得る」」
ゲームの世界に閉じ込められるという、ちょっと間抜けな魔王だが。
「あっ」
理不尽な運営の事を思い出し、暗澹とした空気になっていた3人の隙をついて一気に走り出す2人に、3人は完全に出遅れる。
「待てコラー!」
「土地勘がないのは痛いな」
3バカが仲間を集めて、26名による討伐チームで押し掛けて来たのだ。
「どうやら今回は相手の土俵だったようですね。そろそろ
高い崖の下で壁に追い込まれた状況にもディアブロは余裕の笑みを湛え、悠然と構える。
リムルも擬態を解き、スライムの姿に戻っていた。
さて、やるしかないか。そう思った矢先、リムルは何かの音に気づいた。
キィィィイン
風切り音?矢か!
矢は誰にも当たらず、地面に着弾 したとたん、爆発した。
プレイヤー数名が爆風に巻き込まれる。
更に矢が続けて飛んでくるが、射手の姿は見当たらない。いったいどれだけ遠くから射ているのか。100mや200mどころではない事は確かだ。そしてそれほどの距離が有りながら相当な精度でもって、ピンポイントで狙っているのがわかる。まるでどこぞの強面の殺し屋スナイパーだ。ディアブロも射手が強敵である可能性を見抜き、嬉しそうに嗤う。
その顔は並みの人間が見ればショック死するような寒気を 恐怖を呼び起こすものだ。しかし、ここはゲームの世界のためか、プレイヤー達には無表情に映るらしい。表情だけでなく、二人の声もプレイヤーには聴こえないようだった。
爆風に見舞われ、視界が塞がれた隙に何者かが、リムル達と
リムルはその気配にすぐに気づいていたが、此方に敵意を向けていないことはわかったので、成り行きを見守る事にした。しかし、そのうちの1人、いや、1体の姿に目を丸くして(スライム
視界が戻りはじめ、
「な、ま、まさか……」
硬直した
「そう、我らこそ、『アインズ・ウール・ゴウン』!!」
厨二魂を刺激されたリムルは、自分も大魔王であることを棚に上げ、テンションが上がって浮かれていた。
ディアブロ「お遊びはここまでです」
モモンガ「我らこそアインズ・ウール・ゴウン!」
リムル「魔王かっけー。あ、俺も大魔王か」