異世界に転移したらユグドラシルだった件   作:フロストランタン

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若干汚いシーンがあります。お食事中の方はご注意下さい。


#22 決着と後始末 ~下~

「貴女は?」

 

 突然現れた妙齢の美女にたっち・みーが尋ねると、彼女は優美な笑みを浮かべ、自己紹介する。

 

「初めまして、私はトレイニーと申します。この迷宮の管理人の一人です」

 

「おい、管理人!いきなりコイツらが俺達に危害を加えてきt「お黙りなさい!」

 

 迷宮の管理人と聞き、文句を言い出した若い男。自分の行いを棚に上げ、取り入ろうとしたのだろう。しかし、トレイニーと名乗った女性はピシャリと一喝し、男を黙らせた。

 

「あなた方の言動は見ていました」

 

「だ、だったら何だよ?別に明確なルール違反はしていないはずだぜ?」

 

「それはどうでしょうか」

 

 トレイニーの目付きが冷たいものに変わる。先程まで見せていた柔和な笑顔は既にない。

 

(ああ、この人がリムルが言ってたトレイニーさんか)

 

 モモンガ達はリムルが以前してくれた、ラミリスの配下の話を思い出していた。

 リムルが作った魔導人形に受肉した悪魔、一時期離ればなれになっていたが、ラミリスが精霊女王だった頃から仕え、再会を果たした樹妖精(ドライアド)、他にも四体の竜王達。特に樹妖精(ドライアド)はラミリスに心酔し、蝶よ華よと甘やかしているのだとか。いずれも人間では到底敵わない程の実力者だとも言っていた。

 

「貴方がたの、我が主に対する無礼な言動……看過できるものではありません」

 

「主?一体誰の事を言ってるんだ?」

 

「この迷宮の支配者、ラミリス様です」

 

「なんだ、あのザコチビ妖精か。あんな弱っちそうなのが魔王だなんて信じられねえよな。

 どうせ他の魔王達のお情けで魔王にしてもらったオマケみたいな奴だろ?色気もねーし、あんなのの下に付かされるなんて、あんたも大変だな」

 

「我が主を愚弄するとは……」

 

 ワナワナと怒りに震えるトレイニー。

 

(うわぁ、コイツ馬鹿なの?いや、ある意味天才か?ここまで無自覚に相手の神経を逆撫でするなんて、俺でもしないぞ。

 トレイニーさんがリムルさんの言っていた通りの人物だとすると、完全に死亡フラグじゃんか、これ)

 

 ウルベルトやぶくぶく茶釜が呆れ顔をする。ペロロンチーノは感心していいのか憐れんでいいのか迷いながらも、とりあえずトレイニーを宥めようと試みることにした。彼は普段おちゃらけてはいるが、和を重んじる男だ。

 普段なら樹妖精(ドライアド)であるトレイニーに真っ先に食い付きそうなものだが、危機察知能力が鍛えられたおかげか、この場は流石に空気を読んだ。魔王が認める程の実力者が、怒りのままに暴れたりしたら、こちらにも被害が及びかねない。

 

「ま、まぁまぁトレイニーさん。そこのボンクラにはラミリスさんの()()()()()()()は理解できないんですよ。可哀想ですよね、彼女の魅力を理解できないだなんて」

 

「そう、でしょうか……」

 

 あくまでもラミリスは魅力溢れる存在であると強調しつつ宥めにかかると、トレイニーは少し態度を軟化させた。おや、意外とこの人もチョロいんじゃないか。そう思っていると、予想通りの質問が飛んできた。

 

「貴方は?ラミリス様の魅力がわかるのですか?」

 

「あ、ペロロンチーノって言います。最近知り合ったばかりなんですが、ホント素晴らしい人ですよね。あのつぶらな瞳は凛々しくきらめく知性を宿していて、凛とした佇まいは気品を漂わせつつも、気さくに周りに接するその姿は慈愛に溢れていますよね」

 

「……!そうです!まさにその通りなんです!」

 

 花が綻ぶような満面の笑顔に変わり、激しく同意してくるトレイニー。背中に冷や汗をかきつつ、ペロロンチーノは胸を撫で下ろす。

 

(リムルさんに話聞いといて良かったぁ。

 ぶっちゃけ、凛々しさとか気品とか、俺にもサッパリわかんないんだよなぁ。

 気さくで接しやすいし、かわいいとは思うけど)

 

 ペロロンチーノの説得ですっかり気を良くしたトレイニー。意外とチョロい。ラミリスといい、トレイニーといい、こんなにチョロくて大丈夫なんだろうか。ラミリスの配下だからなのか、それともこの世界の魔物とは皆こんなに素直なのか。

 しかしトレイニーとしても立場上、このまま何もせず引き下がるわけにもいかない。

 グレーゾーンを突かれたとはいえ、何の咎めもなく彼等をのさばらせては、奴等に妨害を受けた他の者達は納得しないだろう。そうなれば迷宮の秩序や信用、引いてはラミリスの名誉に傷が付きかねない。

 頬に手を当て、困った顔をするトレイニー。その姿はおっとりとしたお姉さんという感じでとても絵になる。

 

「あの、彼らについては我々の方で対応させてもらえませんか?ちょっとした因縁もあるので……」

 

 モモンガは自分達の手で始末を着けたいと提案する。彼の怒りはまだ冷めていないらしい。しかしトレイニーは首を縦に振らない。

 

「ダメです。迷宮の管理人として、挑戦者同士での争い事や報復行為を認めるわけにはいきません」

 

「ルールがどうでもいいとは言いませんが、外法の輩を裁く為に、時には外法の手段も必要ではないですか?」

 

「うーん、しかし……」

 

「まあ、俺達に任せてくださいよ。蘇生の腕輪もあるし、命まで取ったりはしないので安心してください」

 

「それに、こういうのは誰かがやらないと。俺達は異世界人で、この世界にしがらみがあるわけじゃないし、うってつけだと思いますよ」

 

 ウルベルトの説得にも渋るトレイニーであったが、ペロロンチーノとたっち・みーも乗っかり、遂に彼女も折れた。

 

「そこまで言うならお任せします……。しかし、蘇生の腕輪があるとはいえ、死亡するほどの事はしないで下さいね」

 

「わかってますって」

 

 まだ心配そうにするトレイニーに、ペロロンチーノが陽気に答える。

 

「おい、散々コケにしてくれやがって。お前ら、俺様を誰だと思っている!子爵だぞ子爵!どうだ、驚いたか!」

 

 どうやらこの若い男は貴族の血筋らしい。人間相手ならなんとかなると思ったのか、権力を傘に着て、モモンガ達に強気な態度に出る。

 ウルベルトは怒りを抑えるために目を逸らした。男はそれをみて、権力による脅しが有効だと勘違いしたようだ。

 興が乗ったのか、頼んでもいないのに男は得意気に暴言を吐き続ける。

 

「俺には地位と才能がある!親父みたいな名前だけの無能なボンクラと一緒だと思ったら大間違いだ。お前ら全員カザック家の力の前に平伏させてやる。

 手始めに全員裸で町中を引き回し、そこのイカれ女は、二度と嘗めた真似出来ねえように俺様専属の性奴隷として調教してやる。1から(18禁のため中略)   自分から喜んで奉仕するようになるまでなあ。ギャハハハハ」

 

 貴族のような支配者階級、特に偉ぶった高慢なクズが大嫌いなウルベルトだったが、眉間に皺を寄せながら、男の話を黙って聞いていた。自分以外にも懸命に怒りを押さえ込んでいる者が居ることに気付いたからだ。

 

「つまり、我々を捕まえて引き回し、彼女を奴隷にする。それがそちらの選択、意思表示と言うことで間違いないですか?」

 

 一通り言い終えた男にモモンガが静かに問いかける。彼は相手の主義主張を尊重する。例え相手の末路がどうであれ、その選択を否定しない。そしてひとたび選択が為されたなら、途中から変更は受け付けない。

 

「そういうことだ。ああ、折角だからお前らの目の前で裸にひんむいて  

 

「クズがあぁぁぁぁ!!!」

 

 それまで淡々とした態度で平静を装っていたモモンガが、突如烈火のごとく激昂した。

 

「お前はあああ!俺の大切なっ、大切な仲間達を侮辱しぃぃいい!!

 あ、あまっ、あまつさえ、茶釜さんをぉぉお!!!」

 

 迸る激しい怒気と共に叫びを上げるモモンガ。たっち・みーとウルベルトは息を飲み、ペロロンチーノは思わず一歩後退る。ぶくぶく茶釜もぶるりと身を震わせた。ユグドラシルでも彼の激昂した姿を見ていたが、表情も動かないアバターの時とは違い生の迫力は段違いだった。

 

「はっ……すみません、少しばかり取り乱してしまいました。一応、アレの処分について多数決を採りたいと思いますが……?」

 

 モモンガの激昂ぶりは少しどころではなかったが、気を取り直して議論に移る。

 

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』は多数決を重んじる。場合によっては効率は悪いが、クセの強い連中の集まりだ。細かいルールよりも、実力至上主義や年功序列のような、単純明快で強い強制力のある原則の方が合っている。

 彼らの場合は多数決がそれである。ギルドの方針など重要な議題ともなれば、態々手の込んだ資料を用意し、現実(リアル)の会社さながらの真剣(ガチ)なプレゼンを行うこともある。

 

 今回に限って言えば、決を採る前から結果は決まっている。モモンガが激昂したように、皆が抑えがたい怒りを抱えていた。初めから赦す気など毛頭ない。

 

「俺達に喧嘩を売ったこと、後悔させてやりましょう。変な正義感で止めないでくださいよ、たっちさん?」

 

「止めませんよ。酌量の余地は微塵も有りません。こういった手合いには灸を据えてやらないと、付け上がりますからね」

 

「身内の生々しい姿を想像させやがって。久々に本気でムカついたんで、三人まとめてやってやりますよ」

 

「あいつら……生理的にムリだわ。みんなに任せる」

 

 男性陣が怒りを示す中、ぶくぶく茶釜は身を竦め、ゴキブリを見るような嫌悪の表情を浮かべている。

 

「じゃあ決まりですね。茶釜さんは無理せず下がっててください」

 

 こうして多数決は採るまでもなく決定した。三人組の運命が決定付けられた瞬間だ。

 

「お前ら、自分の言ってることがわk「おい」

 

 呆気にとられていた男が何か言いかけたが、ウルベルトが割り込んだ。

 

「子爵だか小癪だか知らねーが、つまんねーゴタクはもうウンザリなんだよ」

 

 それを聞いて漸く状況を悟ったのか、焦りだした男を見据えてモモンガが静かに宣告する。

 

「最早悲鳴と呪詛の言葉以外、聞きたくないぞ……」

 

 

 

 

 

 迷宮モニター前はざわついていた。死を齎す迷宮の意思(ダンジョン・ドミネーター)達との戦闘の途中、かぜっちが無数の閃光のような何かを放ったところで映像が途切れてしまっていたのだ。映像の復旧が早いか、

 それともかぜっち達の帰還が早いか。

 

「なあ、勝ったと思うか?」

 

「たぶんな」

 

「でも、だったら何でまだ誰も出てこないんだ?もう結構経ってる筈なんだが……」

 

 確かにおかしい。決着がついたのであればすぐに出てこられるはずだ。まさか、負けてしまったのか。それとも何らかのトラブルに巻き込まれているのだろうか。外には、リタイアした他の挑戦者達もおり、彼等の中には例の三人組の妨害工作に気付いている者もいた。

 

「まさか奴等が……」

 

 あの三人組が何かしでかしたのではないか。そんな不安が広まり出した頃、かぜっち達が姿を表した。

 

「おお、帰ってきたぞ!」

 

死を齎す迷宮の意思(ダンジョン・ドミネーター)に勝ったのか!!」

 

「はっはー!あいつらマジでやりやがった!」

 

 集まっていた者達から歓声が上がる。抱き合う者、涙を流す者、大声を上げる者、祝いの言葉をかける者など、皆それぞれの方法で喜びを表現する。まるで英雄の凱旋のようだ。

 歓声に包まれ、照れ臭そうにするモモンガ達五人。と、モニターが切り替わり、コホン、と声が聞こえた。モニターにはなんとリムルが映っている。観衆はどよめき、何事かとモニターを見つめる。

 

「あー、皆さんが見ていた通り、かぜっち達は迷宮の中級クラスを見事制覇した。まずはおめでとうと言わせてもらおう。

 気付いているかもしれないが、挑戦者の中にかなり悪質なパーティーが居て、他の挑戦者は蹴落とされてしまったそうだな。彼らも被害を被り、特に女性のかぜっちは危ないところだったようだ」

 

 再び観衆がどよめきだす。

 

「やっぱアイツらか……!」

 

「は、破廉恥な!」

 

「俺の嫁をよくも……」

 

「どさくさ紛れにふざけた事言ってんじゃねえ、彼女は()()嫁だ」

 

 皆驚きと共に、一斉に騒ぎ出す。中には意味不明な声も聴こえるが、皆例の三人組に対し、憤怒の感情が見てとれる。そこで再びリムルが口を開いた。

 

「だが、安心してほしい。そいつらは既に彼女達が返り討ちにした。本来は禁じている事だが、今回のケースに限っては特例として彼ら自身の手で制裁する事を認めた。今はこうして身柄を確保している」

 

 カメラが向きを変え、リムルが向いた方を映し出す。そこにいたのは、悲惨としか言い様のない有り様の三人だった。

 顔は誰だか判別できない程パンパンに腫れ上がり、上半身は裸で、あちこち痣だらけ。下半身は()()()を履かされ、既に黄色く染まり股間部分は不自然にモッコリと膨らんでいる。そして太い棒状の何かがそれぞれの尻から30cm程飛び出している。

 刺のある蔦で後ろ手に縛り上げられ、がに股で中腰という苦しいポーズをさせられており、足はプルプルと痙攣していた。

 しかし、何故か彼等の表情は苦悶に歪んでいる様には見えない。むしろ嬉しそうですらある。

 リムルの隣に控えていたディアブロが、微笑を浮かべながらステッキのようなもので、男達に刺さっている棒をコンッコンッと順に叩いていく。

 

「オッオゥ、キクゥ!」

 

「クッ、クオオッ」

 

「あっあっああ……」

 

 涎を垂らし、怪しげな声をあげながら悶える男達。どうやら禁断の扉を開いてしまったようだ。

 言うまでもなくモニターの前の者は須くドン引きである。女性達はまさにゴミを見るような目を向けている。リムルも顔をしかめていた。

 

「皆さんの妨害をしたのは俺達ですぅ!」

 

「俺達、調子に乗ってましたああ!」

 

「反省してますぅ!ですから、ですからあぁ、ひと思いにいぃぃい!」

 

「クフフフ、では遠慮なく」

 

 ゴゴゴンッ!

 

「「「ハッヒィィィイ!」」」

 

 カメラは既にリムルに向けられているが、見えないところでしょわわわ~っとかブバッブリブリッという音が聴こえて来る。

 リムルは「うわぁ」とあからさまに嫌そうな顔をしたが、すぐ気を取り直したらしい。軽く咳払いをして、話を続ける。

 

「コホン、とにかく。この通り罰は十分に与えたので、被害に遭った他の挑戦者の皆も、これで怒りを静めてくれ。以上だ」

 

 モニターの映像はそのまま途切れた。場には何とも言えない、微妙な沈黙が降りる。

 

「おかしいなぁ、どこで加減間違えたんだろ……」

 

 ペロロンチーノが沈黙に耐えきれず、口を開く。あの三人を未知の扉へと導いた張本人は彼であった。

 

「はは、失敗でしたね」

 

「順番を間違えたかも知れませんね。先に前をほじくってから後ろに移るべきだったか……」

 

「……ソッチの方に道を外れなければいいのですが」

 

「はは、アレは俺も想定外でしたよ。何が悲しくて野郎を悦ばせなきゃいけないんですかね?どうせ悦ばせるなら女の子「弟、黙れ」あ、ハイ」

 

「「「えええええええええ!?」」」

 

 五人の周りの全員が驚愕した。その反応は尤もである。とんでもない仕打ちをしておきながら、「ちょっと失敗したな」とでも言わんばかりの軽いノリで済ませる男。「前をほじくる」とは一体()()を指すのか。

 そして、その主犯とおぼしき男をかぜっちが弟と呼び、たった一言で黙らせる。

 一体どれに驚けばよいのか。いや、全てに驚くべきか。

 

「弟って、かぜっちの実の弟か?」

 

「な、なあ?他には何する気だったんだ?気になって夜寝れねぇよ」

 

「かぜっちさんも一緒に仕込んだんですか?」

 

「なにっ?それはなんという……なんという甘美なご褒美だろうかっ!?」

 

 次から次に質問が飛び出し、辺りはどんどん大騒ぎになっていく。中には変態願望を叶えてくれと懇願するものも現れたが、すぐに周りにタコ殴りにされて退場していった。モモンガ達はそうしてしばらく揉みくちゃにされながら質問攻めにあっていた。

 

「何というか、すごい人達だったな」

 

「ふっ、色んな意味でな」

 

「ああ、お姉さま……もう会えないんですの?」

 

 かぜっち達が去り、人が減り始めた迷宮のモニター前で、カルマが呟く。ユリウスも気の抜けたような表情で応えた。ロザリーは寂しげに俯いている。

 

 かぜっち達は明日自分達の世界へ帰るらしい。

 可愛くて、歌がうまくて、強くて、変態?な彼女は、出会った人々に忘れられない強烈な印象を残していった。きっとまたその内に会えるさ、そう言って空を見上げるマグナスに、ユリウス達も何となくそんな気がして、一緒に空を見上げたのだった。




次回で、魔物の国(テンペスト)編は終わりです。
何だかんだで長くなりましたが、ようやくオーバーロードのスタートが見えてきました。

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