異世界に転移したらユグドラシルだった件 作:フロストランタン
「ふむ……?こう、でもないか……」
モモンガは今、執務室で鏡に向かって手を広げたり腕を左右に振ったりしている。端から見れば鏡に向かってタコ踊りの練習でもしているかのように見えるであろう。既に夜が明け始めているが、アンデッドの種族特性によるものなのか、寝ようとしても眠ることが出来ない。もしかすると、感情が昂ると沈静化されるのも精神攻撃無効という特性の働きなのかもしれないと気付いた。
今モモンガが何をしているのかというと、
カウンターマジックなど情報対策が当たり前のユグドラシルでは、ただ町で買い物するときの混み具合の確認程度にしか使えない不便なものであった。だが、土地勘のない場所を私室に居ながらにして見ることができるのは、モモンガに取って便利であった。ナザリック地下大墳墓の主人として、簡単に外には出られないのだ。今もセバスが側に控え、監視の目を光らせている……気がする。せめて外の美しい景色でも眺めて癒されたいのだ。
ところが、ユグドラシルの時と操作の仕様が変わっているらしく、ズームイン・ズームアウトが上手くいかず、四苦八苦しているのだ。
「ふー……おっ?こうか?……おお、なるほど」
偶然にズーム調整のしたらしく、映し出されている景色がズームアウトした。
パチパチとセバスが拍手をしてくれる。
「おめでとうございます」
「ああ、ありがとうセバス。付き合わせて悪かったな」
思えば徹夜でセバスに付き合わせてしまった。悪いことをしたなと思って言った台詞に、セバスは「執事として主人の側に控えるのは当然であり、また何よりの喜びでございます」と返す。相変わらずの社畜精神。モモンガに表情筋があれば、ひきつった笑みを浮かべていたことだろう。
セバスは竜人だ。普通の人間と違い、一晩徹夜した程度で倒れる事は無いかもしれない。しかし、それでも疲労はしないわけではないし、睡眠不要と言うわけでもない。
しかし、人間であったモモンガの感覚からすればこんな労働条件はブラック過ぎである。にもかかわらず、文句ひとつ言わないどころか、寧ろ喜びだというセバスに、彼らの社畜精神は根が深いと思わざるを得ない。どうにかして適度に休ませないと、過労死しても本懐を全うできたとか嬉しそうに言い切りそうで怖い。
(ホント、ゾッとする程ブラックな労働環境だな。しかもそれを喜んで受け入れるとか……)
「村だな……祭りか?」
ようやく初めて人間の村らしきものを発見したモモンガ。鏡には人が慌ただしく動き、走り回っているところが映り込んでいる。
「いえ、これは……」
セバスの眼光が鋭く鏡に映った映像を睨む。モモンガはそこでようやく気付く。逃げ惑う人々を、全身鎧に身を包んだ騎士風の者達が追いかけ、次々と殺していく。
「虐殺、か。チッ……」
その光景を見たモモンガは驚いたし、多少気分を害されたが、寧ろその程度で済んでいる事を疑問に思った。
(こんなグロいシーン見たら卒倒してたか、吐き気を催していた筈。それなのに、冷静さを保っていられるなんて……)
まるで人間に対して同族意識がなくなってしまったかのようだ。つい先日までは人間だったというのに。だが、意識の表層では不快感を感じつつ、心の底では全く動揺していない。
「如何なさいますか?」
思考の海に沈みかけたところにセバスが伺いを立てて来たことで、意識を浮上させたモモンガ。セバスが聞いているのは助けにはいるかどうか、と言うことだろう。
(介入する事でメリットはあるだろうか?住民達は感謝してくれるだろうな。だが、あの騎士達の強さがわからないし、バックに強大な組織が付いていたら……)
「そうだな……お前はどうしたい?」
幾つかのメリットとデメリットを天秤にかけるが、結局情報不足で何が良策かわからず、セバスに意見を求めた。彼はたっち・みーの作ったNPCでカルマは極善。出来れば助けたいと思っているあろうことは想像がついているが、あえて聞いてみる。
「は、私はモモンガ様のご命令であれば如何様にでも……」
「ふむ、そういうことを……まあ良い」
(そうじゃなくてさぁ……)
彼にはナーベラルを泣かせた件等で苦労をかけた分、彼の希望を叶えてやる事で少しは罪滅ぼしにならないかと思っていたのだが、あてが外れた。
「ではアルベドに武装して来るように
「畏まりました」
セバスの声は少しだけ安堵の色が窺えた。
次からは自分の想いをちゃんと口にして欲しいが、まずはそういうことが言える職場の雰囲気作りが必要だな、と考えながら、モモンガは
村娘の朝は早い。
日の出と共に起き出し、井戸の水汲みから始まる。そして畑作業や母の料理を手伝ったりして、日が暮れたら寝る。
カルネ村に住む村娘エンリ・エモットは小さな頃から毎日そうしてきたし、これからもそれは変わらないと信じていた。
それなのに。
信じて疑わなかった平凡で平和な日常は突如、最悪な形で終わりを告げようとしていた。
エンリがいつものように井戸から水を汲み、家の瓶に移す作業を行っていると、遠くで人の声が聞こえた気がした。なんとなく嫌な予感がしながら、一旦瓶をその場に置いて家に戻ろうとした途端、幾人かの悲鳴が今度こそはっきりと聞こえた。
胸騒ぎに襲われ、急激に動悸が激しくなる。それでも一緒に手伝いに来ていた妹の手を取って一緒に家に駆け出した。
(お父さん、お母さん……)
家の側まで来たエンリは、そこで母を見つける。母が無事だった事に一瞬安堵したが、次の瞬間緊張が走った。ガシャリと硬質な金属音。母が壁の角から出た先には何かが居る。
母の手があっちへ行けと動いているのに気付き、エンリは妹のネムを引っ張って駆け出した。しかし、後ろから聞こえた母の悲鳴に、思わず振り返ると、そこには鎧を来た騎士が母に向かって剣を振り上げていた。
「うおおお!」
「ぐぁっ」
剣が振り下ろされる直前に、父が後ろから飛び付き、騎士を転ばせる。そのまま父が押さえ込むが、騎士も激しく暴れて抵抗する。母が騎士の頭を何度も蹴りつけ、どうにか一人、気絶させたようだ。
しかし、騎士はひとりではなかった。すぐに別の騎士が来て、母に斬りかかった。
「お母さん!」
「行けー!走るんだ!」
父が騎士の足を捕まえて叫ぶ。エンリは後ろ髪引かれながらも、ネムの手を引き走り出した。後ろで悲鳴が聞こえても、もう振り向かない。
森に逃げ込んで身を隠せば、やり過ごせるかもしれない。そう思い、必死で森の入り口を目指してひた走る。
そんな彼女の後方から足音が迫って来ていた。
騎士は鎧を来ているのに、大人と子供の体力差はどうしようもないと言わんばかりに、追い付かれてしまった。全身鎧を着た騎士が一人、前に回り込む。後ろにも一人。
「大人しくしてくれれば、痛い思いはしないぞ」
騎士はそう言ってくるが、嘘に決まっている。楽をして殺したいだけで、抵抗してもしなくても殺すつもりに違いない。理由もわからず、ただ殺されるのを待つしかないのか。こんな奴等に家族を、村のみんなを殺されると思うと、悔しい気持ちと、激しい怒りが込み上げてきた。
「舐めないで!」
「ぐわっ」
エンリは渾身の拳を騎士にぶちこんだ。騎士の方は反撃に遭うとは予想していなかったのだろう。鎧に身を包んでいるとはいえ、油断していたところへ顔を殴られ、衝撃に思わず仰け反った。
その隙をついて再びエンリとネムは駆け出した。拳は傷つき、裂けた肉から血が流れ出ていたが、極限状態の興奮からか、痛みはあまり感じない。
しかし、一緒に走っていたネムの足がもつれ、転んでしまう。エンリは繋いだ手を離さないように必死に力を入れ、立ち止まった。
首だけ後ろを振り向くとそこには、騎士が眼前に迫り剣を振り上げていた。
「ああっぐぅ」
背中に焼けるような強烈な痛みが走る。騎士に斬られたのだ。咄嗟にネムを抱きしめて庇ったが、無事だろうか。
「お姉ちゃん!」
妹は無事なようだ。だが、自分はもう動けない。せめて妹だけでも逃がしてやりたいが、状況は絶望的だ。
「はぁ、はぁ、手間取らせやがって……」
「お前が油断しているからだろ?」
息を荒くしている騎士に、もう一人がからかいの声をかける。騎士はもう手を伸ばせばすぐ届く距離に迫っていた。剣を振りかぶる騎士。
「っ!」
斬られる。そう思って目を瞑り、身を固くする。
しかし、痛みはやってこない。そっと目を開けてみると、騎士が呆然と立ち尽くしている。
エンリとネムは、騎士が見ているであろう視線の先、自分の後ろを振り返ってみた。
そこにあったのは漆黒の闇。何もない空間に、ぽっかりと闇が口を開けていた。そしてそこから現れたのは、如何にも高そうな、豪華な杖を持ち、漆黒のローブに身を包んだ 死。まさに死の化身ともいうべき
「
死の化身がゆっくりとした動作で虚空に手を伸ばし、拳を握り込む動作をする。同時にグチュリ、と気味の悪い濡れた音が聞こえた。
ガシャンッと後ろで音がしたと思うと、騎士の一人が倒れていた。死の化身の仕業、いや、御業なのだろう。エンリは絶望の淵から、一気に奈落の底まで落とされた気分だった。騎士に追われて絶体絶命と思っていたら、騎士なんかより遥かに恐ろしい死の化身が現れたのだから。
(ああ、せめて苦しまずに死ねますように……)
エンリはそんなことを祈る。もはや生き残る事など不可能。死を免れないとはっきりと感じた。
「死んだか……やはり何も感じない……」
死の化身が何か呟いているが、エンリもネムも、「死んだ」という言葉意外は聞き取れなかった。たった一つの動作で騎士をいとも容易く殺したと理解するだけで精一杯だった。
「どうした、女子供は追い回せても毛色の違う相手は無理か?」
「ひぃぃやあぁぁああ!」
死の化身が何かしゃべっているが、言葉が脳に届いてこない。理解できない。騎士は大声で叫びながら走って逃げようとする。
「
再び死の化身が何か唱えると、その手からバチバチと迸るような雷が騎士に向かって伸び、そして貫いた。
「ぎゃあああああっ!!」
騎士は悲鳴と共に倒れ、ブスブスと煙を体から立ち上らせた。絶命しているであろうことは想像がついた。あんなものを受けて生きていられるとは到底思えない。
「いくらなんでも弱すぎる……油断を誘う罠か?」
死の化身は、あんな強大な力を見せておきながら、弱すぎると言う。あんなものに耐えられる人間なんて居るわけがない。
そんなことを思いながらも、エンリはその場で固まったまま動くことができない。ネムと抱き合ったまま、震えてじっとしていることしかできない。このまま自分達のことを無視して去ってくれないだろうか。そんな淡い期待は脆くも崩れ去る。
死の化身がエンリ達に向き直る。空虚な白磁の眼窩に灯る赤い炎がエンリを捉えた。次の標的と認識されてしまったようだ。誰一人生かすつもりはないのだろうか。
「……案ずるな」
そう言った死の化身が一歩此方へ歩み寄ってきて
しょわああああっ
「あ、ああ……」
恐怖に耐えられなくなった妹が
しかし、目の前の死の化身は信じられないことを口にした。
「う……あー、コホン。信じられないかもしれないが、私は君達を助けに来たのだ」
「わ、たしのいい、命はどうなっても……え?」
死の化身が信じられないほど優しい声音で語りかけてきた。しかし、エンリは混乱してしまい、状況が掴めない。
「怪我をして居るようだな……セバス」
「はっ」
「ひゃわ!?」
突然背後から声が聞こえ、心臓が爆発するかと思った。振り返るとそこにはとても高価な印象の黒い服を着た、白髪の老人が立っていた。エンリは始めて見たが、執事のそれであると気付いた。その立ち姿は、とても老人には見えない、立派な姿だった。
「その娘にこれを」
そう言って、死の化身が赤い液体の入った小瓶を何処からともなく出し、老人に渡した。老人は恭しく受けとると、エンリに向き直る。
「あ、血……?」
エンリは唇を震わせて絞り出すように声を出したが、まともに言葉にならない。辛うじて血のような色だという感想が伝わっただろうか。老執事はにっこりと優しい笑みを浮かべながら膝をつき、怯える二人に静かに声をかけた。
「ご安心ください、これは治癒のポーション。飲めば傷を癒してくれますよ」
「え、あ……」
「さあ、どうぞ」
親切に蓋を外してくれた老執事に勧められるままに、エンリは目をぎゅっと瞑って赤い液体を飲み干した。
「え?ウソ!?……すごい」
飲んだ次の瞬間、痛みがたちどころに消えて、傷も完全に塞がっていた。背中に触れてみても傷跡さえ残っておらず、最初から傷などなかったかのようだ。
「痛みはありませんか?」
「は、はい。ありがとうございます」
「ありがとうございますっ」
エンリに倣ってネムもお礼を述べた。さっきまでの
「さて、君たちは……」
「は、ひゃい!」
思わず変な声を出してしまうエンリ。命の恩人といっても良い相手に対して無礼だとは思うのだが、まだ白骨の顔で見つめられると震えそうになってしまう。
「ふっ……いや失礼。君たちは魔法を知っているかね?」
「は、はい。薬師の友人が使えます」
鼻で笑われてしまったと思ったエンリは、顔を少し赤らめながら答えた。
「そうか。それなら話は早い。私は
死の化身がなにやら唱えると、宙に黒い塊が現れ、騎士の体を包んだ。
ボコッ ゴボッ……
黒い塊に包まれた騎士は形を変貌させ、やがて一体の巨大な体躯の黒い騎士へと姿を変えた。途中、死の化身が「うわ……」と引いていたような気がするが、気のせいだと思う事にした。
「デスナイトよ。そこの鎧を着た騎士どもを殺せ」
「オォォオオオオァァアアアアァァ!!」
黒い騎士がおぞましい雄叫びを上げて走り去っていった。「えー」とか言う声が漏れ聞こえた気がしたが、これもきっと気のせいだ。考えないようにしよう。震えないように気を張っているので精一杯なのだ。
「準備に時間がかかり、申し訳ありません……」
「いや、実にいいタイミングだ」
黒い闇の中から、今度は女性の声が聞こえ、漆黒の全身鎧に身を包んだ戦士が現れた。背中には柄の長い斧のような武器を背負っている。死の化身が話しかけているので、彼?の仲間だとわかる。
「あ、あの……」
「ん?」
「なに?お前は?脆弱な「アルベド!」は、はい!」
「この二人は現在庇護の対象だ。丁重にな……」
「はっ、も、申し訳……」
女性戦士にすごい剣幕で睨まれた気がしたが、兜を被っているため、ハッキリとはわからない。ただ、生きた心地がしないほどの威圧を感じた。死の化身が主らしい。すぐに止めてくれたが、ほんの僅かな時間睨まれただけで、死を濃厚に感じた。きっと彼女も、とてつもなく強いに違いない。
「ああ、何か言いかけていたな?」
「あの、私はエンリ・エモットと申します」
「ネム・エモットです」
「助けていただいてありがとうございます。それで、あの、こんなことをお願いするのは厚かましいのですが……どうか、どうか父と母を……村を救っていただけないでしょうか?どうか……どうかっ」
「お願いします!お願いします!」
ネムも一緒になって泣きながら叫ぶようにお願いした。自分など何の力もないただの村娘。必死で抵抗しても、騎士達に殺し尽くされるしかない弱者。
戦士から剣呑な雰囲気が漂ってくる。怖い。今にも斬りつけられそうだ。
しかし、縋る事が出来るのは目の前の存在しかいない。もし見放されたら、父は、母は……。
エンリは誠心誠意頭を下げてお願いした。
「言っただろう?助けに来たと」
「あ、ありがとう、ござ、い、ます……ぐすっ」
「あ"り"がどうございま"す"ぅ~」
アンデッドは本能的に生者を憎む。しかし、目の前の存在は違う。エンリとネムの命を救い、か弱いだけのただの村娘の願いを聞き届けてくれた。心優しく慈悲深いお方だった。恐ろしく見えていたその姿が今では神々しくさえ見えた。ただ脅えて震えていた愚かな自分をエンリは恥じた。
「セバスは二人に付いていろ。アルベド、行くぞ」
「「はっ」」
漆黒の戦士と白磁の
「あ、あの!」
「ん?まだ何か?」
「お、お名前をお聞かせ願えないでしょうか?」
変な質問だっただろうか、一瞬御方が固まったように見えた。
「そうだな……『アインズ・ウール・ゴウン』!と名乗っておこうか」
「アインズ・ウール・ゴウン様……」
エンリの目にはもう怯えはない。心優しき彼を恐れたりなどしない。そして確信していた。
このお方は必ず村を救ってくださると。
エンリ視点でモモンガ様の雄姿を、という感じでやってみましたが、いかがでしたでしょうか。
ストーリーが予想していた以上に進まないです。わりと飛ばしてるつもりなんですが・・・。
今回のあらすじを軽いノリでいくと
モモ「こうかな?」(見てる。ジーっと見てる・・・)
セバス「じぃーっ」(タコ踊り・・・?)
セバ「どうしますか?」
モモ(嫌なタイミングで村を発見してしまった・・・)「セバスはどうしたい?」
セバス「仰せのままに」
モモ「じゃ、助けようか」(質問の答えになってないけど、追々だな)
セバ(なんと慈悲深い・・・)
モモ「弱すぎ・・・罠か?」
エンネム「ひぃ」じょじょじょ~
モモ(ああ、やっぱね・・・)「助けに来たよ~」
セバ「もう大丈夫ですよ~」
エンネム「ありがとうございます♪」
モモ(いいなぁセバスは。俺なんか泣かれたりお漏らしされたり)「ふっ・・・」
モモ「デスナイト!ぅわ」(グロいなー。この世界じゃこんな風なのか)
デス「オォォアァアア!」ドスドスドス・・・
モモ「えー?」(置いて行かれた?行けって言ったけどさ~)
アル「あぁ?」
モモ「アルベド、めっ!」
アル「ひぃん、ごめんなさい・・・」
エン「助けてくださいぃ」
アル「ギリ・・・」(人間のクセに気安く・・・)
モモ「最初にそう言ったじゃん」
エン「ジーン」
エン「お名前を」
モモ(えーっと、そうだ)「アインズ・ウール・ゴウン!」
エン「ゴウンさま・・・」