異世界に転移したらユグドラシルだった件 作:フロストランタン
「申し訳御座いませんでした!私としたことが、つい欲情してしまい、とんだ御無礼を……。不肖アルベド、如何様にも罰を受ける所存に御座います!」
正気に戻ったアルベドは、開口一番平身低頭し謝罪を口にした。その顔は蒼白といっていいくらいに蒼ざめており、地面に滴り落ちる程の冷や汗が流れていた。
何故そんなにも怯えた様子なのか、アインズがその理由に気付くことはない。途中気になるフレーズが聞こえたが、アインズは触れないでおく。営業として培ったスルースキルは伊達ではない。
「そ、そう謝らずとも良い、私にも非はあったのだからな……」
(こんなことで注目浴びちゃって、もう死ぬほど恥ずかしい……。アルベドみたいな美人に迫られて嬉しくなくはないんだけど、それとこれとは別で……。
それにしても、ビッチ設定は変えたはずなのに何でこう……)
この世界に転移する直前、アルベドの
なのに、このように人前で欲情するなんて、まるで
「し、しかし……」
「済んだことだ。今後は場を弁えてくれ」
「あ、アインズしゃま……!感謝致します……くふ……」
アルベドは何故か非常に嬉しそうに、深々と頭を垂れる。その頬は赤みが差している。
村人や騎士たち、ヒナタも此方を唖然として見ている。先ほどからのコントのような恥ずかしいやり取りを見られているかと思うと、羞恥心が幾度となく沸き起こり、何度も精神沈静化が起きていた。それでも抑圧された羞恥心がチリチリと残り火のように燻っている。
「アルベド様、申し訳御座いません。緊急とはいえ、女性のお顔を……」
「セバス、手間をかけさせたわね」
謝罪を口にしたセバスに対し、アルベドは紆遠に礼を伝える。統括という立場上、簡単に頭を下げたりするわけにはいかないのだ。セバスもそれを理解している。
アインズに迫る暴走特急ならぬ、暴走キス魔と化したアルベドを力ずくで止めたのはセバスだった。
アインズ達が突然
だが、村に入ったセバス達の目に飛び込んできたのは、唇を突きだして至高の御方に迫る
セバスは一瞬目が点になった。
護衛に付いていたはずのアルベドが、何故御方に接吻を迫ろうとしているのか。
しかしそこは優秀な
「アルベド様。いったい何を?」
「んちゅうううう」
「セ、セバスっ、アルベドを止めろ 」
セバスが話しかけてもアルベドはまるで反応がない。
それどころか抵抗するアインズは体を仰け反らせ、今にも押し倒されてしまいそうだ。
僕が絶対の主人たる至高の御方に、地に足裏以外を着かせるなど、あり得べからざる行為である。
もし万一失望され、最後までお残り下さった慈悲深き御方まで御隠れになられてしまったら、一体誰に忠誠を捧げれば良いというのか。
アルベドとセバス、否、ナザリック全ての僕達は、それが何より恐ろしかった。彼等にとって自らの存在意義を失うと同義なのだから。
まるで巨大な攻城縋が激突したかのような轟音が鳴り響く。
セバスがアルベドの額に拳骨を見舞ったのだ。普通の人間であれば瞬時に頭蓋が爆ぜ、脳髄を飛び散らせたであろう威力の打撃。
それ程の衝撃を受けたアルベドは体を仰け反らせ、地面に轍のような跡を付けながら十数メートル後方へと地を滑った。しかし、額に僅かなコブができた程度で、血は出ていない。アルベドは仰け反った体を起こしながら、ようやく我に返ったのだった。
エンリを含め、この光景を目にした村人達は目玉がこぼれ落ちるんじゃないかというくらいに目をひんむいて驚いていた。
そして冒頭のやり取りになる。
「コホン。さて、どこまで話しましたか……」
話の続きを始めようとする漆黒のローブの魔術師。アルベドと呼ばれた女戦士も落ち着きを取り戻したようだ。少しイタいところがあるようだが、その実力は決して侮れない。
そして、新たに現れた老執事。この男もかなり出来る。敵対すれば1対1でも苦戦は必至であろう相手が三人。
下手に刺激しては厄介なことになりそうだ。リムル達もおそらくこの状況を遠くから見ているはずだが、いちいちアテにはしていられないし、村の民を巻き込むわけにもいかない。ヒナタはそんなことを思いながら、アインズに尋ねる。
「結局お前達は何が目的なんだ?」
「村を助けに来た、と言ったでしょう。まだ全て終わってはいませんがね」
「……どういう意味だ?」
「彼らがここで何をしていたか聞けば分かりますよ」
ヒナタが再び尋ねると、アインズが鎧の騎士たちを指差した。騎士たちは自分達のしていたことに
それを見たヒナタは騎士たちに鋭い視線を送る。
「どういうことだ?」
「……し、仕方、仕方なかったんだ!」
「我々は国の、めめ、命令で……!」
ヒナタに問い詰められ、震え声で口々に言い訳をし始める騎士たち。ヒナタは辺りに落ちている騎士たちの剣に血が付いていることを確認し、おおよその事情を察した。
「……武装もしていない一般人の村を襲ったのか」
ヒナタの目が冷気を帯び、騎士たちはガタガタと激しく震え出す。まるで生まれたての子鹿のようだ。立つことも儘ならず尻餅をつき、腕も体重を支えること叶わず、遂には後ろにひっくり返った。
目の前に立つ黒髪の麗人は信じられないことに、自分達が全く歯がたたなかったアンデッドの騎士を一人で、しかも無傷で倒した程の圧倒的な強者。その強さはまさに英雄の領域と言って差し支えないだろう。
その彼女から怒気混じりの視線を浴び、戦意も敵意も欠片ほども湧いてはこなかった。出来ることはといえば、狂暴な肉食獣を目の前にした小動物のように、ただ怯えて震えるだけである。
「それに気付いた私がアンデッドを使役し、この村に送り込んだというわけです。村を襲う不届きな騎士共を殺せ、とね」
「っ!それは本当か?」
「ええ、本当ですとも。なんなら出して見せましょうか」
「いや、遠慮しておこう。しかし、そうとは知らず私が倒してしまった。すまなかったな……」
ヒナタは余計なことをしたと頭を下げた。本当のところはアンデッドを使役すると聞いて、信用して良いものだろうかと思った。本当は村そのものを騎士もろとも襲ったとしても納得がいく。だが、下手に敵対すれば村人を巻き込んで戦闘になりかねない。それを避けるために話を合わせただけである。
先程からアルベドが唇を噛み締めて厳しい視線を向けてきている。その目には主に嫉妬の色が浮かんでいるのにも気付いている。これは厄介だ。魔術師の方は友好的な態度に思えるが、女戦士の方は敵対しても、逆に親しくし過ぎても難癖をつけてきそうだった。執事の出方は分からない。
ヒナタがアインズと話している間、騎士に向けられていたヒナタの圧力は弛んでいた。どうにか恐怖から立ち直った一人の騎士が立ち上がった。この男も体をガタガタ震わせてはいるが、立ちあがれたはこの男だけである。それなりには鍛えられているようだ。
「私はロンデス・ディ・グランプ。この隊の副官を務めていました。どうか、弁明の機会をいただきたく!」
「お前達の身柄は一旦拘束する。事情は後程聴かせて貰おうか」
冷たく重々しい声で応えたのはアインズだった。
アインズはセバスにポーションを渡して怪我人の手当てを、アルベドには騎士たちの捕縛と監視を其々任せた。
村人の中には既に殺されてしまった者もいたが、生きていた者は瀕死の重傷者を含め、全員が命をとりとめた。
死の淵から助かったその中にはエンリとネムの母親もいた。夫が懸命に騎士を引き付けて身を盾にしてくれたお陰か、自分は致命的な重傷を受けつつも、即死は免れたという。その夫は身体中を刺され、事切れていた。回りには血が激しく飛び散っていたことから、彼の抵抗の壮絶さが窺える。
母と娘二人は固く抱き合い、泣きながら夫を失った悲しみと、互いに生き残った安堵とを噛み締めた。
村人の死体を見てもアインズには憐憫や怒りの感情は沸いてこない。とは言え、姉妹に村を助けると約束したのに、これで救ったと言えるかは疑問であった。
アインズが持つ
しかし、まだ試したことのない蘇生魔法をいきなり試して、失敗しないとも限らない。下手に期待を持たせて結局ダメだったとなれば失望の度合いも大きいだろう。
より確率の高い蘇生の方法は考え付いたが、もしも蘇生魔法の使い手がこの世界に居なかった場合、目立ちすぎてしまう。目立つということは良い意味ばかりではない。悪意あるものから狙われるリスクも増える事になる。
アインズは結局、この場で蘇生を試みることは諦めるしかないだろうと結論着けた。
手当が済み、騎士が拘束されたことで村人達はある程度落ち着きを取り戻し始めた。村長を名乗る中年の男性が深々と頭を下げ、礼を述べる。
「貴殿方にはなんとお礼を言って良いか……」
「いや、私は礼を言われるような事は何もしていない」
「私がもっと早く駆け付けていれば、より多くの村人の命が助かったかもしれません」
「いえ、貴殿方が来てくださらなければ、皆が殺されていたところでした。感謝してもしきれません!」
そう言ってヒナタとアインズに誠意をもって礼を述べる村長。彼の素朴で優しい人格が滲んでいた。アインズは驚いた。鈴木悟としての人生を振り返ってみても、こんなに真剣に感謝を言われたことなどなかった。いや、命を助けたことなんて無いのだからそれは当たり前か。少々気恥ずかしさはあるが、純粋な感謝を向けられて悪い気はしない。
「実は私は遠方から最近来たばかりで、この辺りの土地に詳しくないのです。ですから色々と教えていただけると嬉しいのですが……」
「そう言えば私もこの土地には不案内だな」
「そうでしたか。私にわかることでしたら、何でもお答え致しますとも」
村長は嬉しそうな笑顔で応えた。何も見返りを求めずにいるのも怪しまれると考えたアインズは情報提供を頼んだのだが、村長は何かお礼が出来る事が純粋に嬉しいのだろう。自分が無知である事を悪意ある者が知ればそれを利用しようとするかもしれないが、この村長にはそんな心配は無用に思われた。アインズは、見知った顔のヒナタがこの場に居る事に安心したのか、少し警戒心が弛くなっていた。
それよりも、彼女と敵対だけは避けたいと気を使っていた。
村長の自宅へ招かれ、周辺の地理を聞いていたアインズだが、『リ・エスティーゼ王国』『バハルス帝国』『スレイン法国』等、初めて聞く地名ばかりであった。ヒナタもまるで聞いたことがないというような様子だった。
(やっぱり、ユグドラシルでは聞いたことない地名だな。ただ、ヒナタさんが居るということは、やっぱり
でもヒナタさんもこの辺りの事は知らないみたいなんだよなぁ……かなり辺境の土地なんだろうか)
その後もこの辺りの貨幣価値、魔法について質問していった。
貨幣もまた、ユグドラシルでも
交金貨数枚あれば、ひと家族が慎ましやかに暮らせるとのことなので、ユグドラシル金貨は一枚でもそこそこの額になるだろう。とはいっても、ユグドラシル金貨は使えない。
ユグドラシル金貨はナザリックの維持のために必要なのだ。宝物殿にはかなりの枚数がある筈だが、この世界で手に入るか分からないのに、簡単に使う訳にはいかない。
それに、ユグドラシルプレイヤーが他にもいた場合、ここにプレイヤーがいると告げているようなものだ。
ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』は悪名が高く、敵も多い。
敵対的なプレイヤーが、この世界に居るであろう強者に取り入り、こちらを潰しにかかってくるという可能性もあり得る。
だからこそヒナタを敵に回さないよう気を遣っている。ヒナタはリムル達
村長は魔法の知識が殆どなく、具体的な詳細は分からないが、位階魔法が使われているらしい。村には使い手は居らず、町に行けば冒険者組合や魔術師組合などがあり、魔法の使い手もいるとのことだ。そして第三位階魔法が一般的な人の限界らしい。
(第四位階以上使えれば特別な才能の持ち主で、バハルス帝国にいる第六位階の使い手が人類最高の使い手、か。ちょっと弱すぎないか?いや、そんなもんか?ゲームの世界じゃないしな……)
ユグドラシルを基準に考えれば、第三位階魔法などは初級者レベルだ。アインズが村で最初に使った魔法、
ユグドラシルではLv90くらいまでは割と短期間でレベルを上げられるのだ。
だが、自分が生身の人間であった
「位階魔法か……」
「ヒ……サカグチ殿は、位階魔法についてはご存じで?」
アインズは思わず気になって尋ねる。
「いや、初めて聞く。ゴウン殿はどうだ?」
「っ!?……位階魔法は知っていますが……」
アインズは混乱した。ヒナタは位階魔法を知らないと言ったのだ。そんな事はあるのだろうか。この村長が嘘を言っているようにも見えない。魔物の国《テンペスト》とは余程離れた土地で、魔法も文化も違った発展を遂げている可能性も無くはない。だがしかし。
アインズはヒナタが居ることから、
リムルが鈴木悟の
「サカグチ殿はどこから 」
アインズが尋ねようとしたその時、家のドアがノックされた。
ノックの主はセバスだった。
「アインズ・ウール・ゴウン様」
「アインズで良いぞ、いちいち長いだろう」
「し、しかし、御尊名を省略するなど 」
「いいんだ。アルベドにもそうさせているし、皆にもそうしてもらうつもりだ」
「は、畏まりました。それで、実は困ったことが……」
セバスは遺体の埋葬や壊された家屋の修繕など、村の復興を手伝わせていた。人間に高圧的な態度を取りかねないアルベドより、友好的に接することが出来ると考えてだ。因みにアルベドは捉えた騎士の見張りである。
「何か困り事があったか?」
「どうやら武装した集団がこの村に向かって来ているようなのです」
それを聞いてヒナタの目付きが変わる。先程の騎士の仲間かもしれない、と思ったのだろう。
「私が出よう。ゴウン殿はどうする?」
「私も行きましょう。セバス、騎士を見張っているアルベドと替わってくれ。殺してはいないだろうが、もし怪我をしていたら手当てをしておけ」
そう言って
それを恭しく受け取るセバス。
「貴重な物を態々敵であったものにまで下賜頂けるとは、アインズ様の深い御慈悲に彼らも感謝することでしょう」
「う、うむ、だといいが……」
(たかだか
このやり取りは、自分は人道的に対処するとヒナタにアピールする為のパフォーマンスに過ぎない。正直、アインズにとって騎士どもが怪我をしていようが手当てなんてしてやる義理もなければ、生かして帰す義務もない。情報を吐かせる為に
「では、村長殿は村の皆さんを一ヶ所に集めて頂けますか。バラバラだと守りにくいので」
「は、はいっ」
村長の家を出たアインズ達は、村の入り口付近にて謎の武装集団を待ち構える。入り口とは言っても、元々村と周りの草原の境界も柵のようなはっきりとした境界線等無いが。
村長は村人を集めて大きな家屋に移動し、セバスはアルベドと入れ替わりに行っている。その僅かな間、ヒナタと二人きりになる。その間に確信を得ておきたい。この世界が
「時間がないので単刀直入にお聞きします。この世界は
これにヒナタは瞠目する。この世界には来たばかりで自分の出身はおろか、テンペストの「テ」の字も出していない。にもかかわらず、
「……以前何処かで会ったことが?」
つまり
「ええ」
ヒナタの予想した通り、アインズが首肯する。
「どうやって
「その質問をされるということはつまり 」
アインズが遂に確信を得たそのとき、背後から金属音が混じった足音が聞こえてきた。振り向かずとも判る。足音の主はアルベドだろう。
「サカグチ殿、詳しいお話はまた後程……。アルベド、騎士達の様子はどうだった?」
「はっ、皆一様に『神よ』等と口走り、自分達の行いを今さら悔いている様子でした」
アルベドの口調には騎士達への侮蔑がありありと見える。騎士というより、人間そのものを快く思っていないであろう事はヒナタの目にも明らかであった。
「アルベド。人間は嫌いか?」
「はい。脆弱で浅ましく、己が分を弁えずに欲望の限りを尽くす、愚鈍で醜悪な生き物と認識しております。跡形もなく潰し尽くす事が出来れば、さぞ晴れやかな気分になることでしょう」
アインズはアルベドにヒナタの前でかなり過激な発言をさせてしまったことを後悔した。折角ヒナタの信用を得られるかも知れなかったのに、これでまた警戒されてしまうだろう。
かといって途中で発言を止めさせては、それを取り繕っているだけと看破される可能性もある。それでは余計に心証が悪くなるだけだ。どうにか精神の沈静化で冷静になったアインズだが、この状況を打破する妙案は思い浮かばない。そこで、どれ程の効果があるかは分からないが、まずはアルベドの意識を少しでも変えようと試みる事にした。
「そ、そうか。……アルベドよ、お前の考えが間違いだとは言わないが、私は人間はそういった愚か者ばかりでもないと思っている。人間も捨てたものではない、そう思える者も居るとな」
これにアルベドとヒナタは瞠目した。アルベドは愚かでどうしようもない人間にすら向けられる、主人の深い慈愛を感じ、ヒナタはアインズの言葉に嘘を感じなかった為だ。
(ほう、この男……)
ヒナタはてっきり途中でアインズがアルベドの言葉を遮り、取り繕おうとすると思っていた。だが、アルベドの言葉を頭ごなしに否定せず受け止め、かつ自らの考えも述べた。人間嫌いな部下と若干意識に温度差はあるようだが、ヒナタはアインズに、一流の支配者が持つ風格のようなものを垣間見た気がした。
自分の事を知っている素振りを見せたときは、好意的な者とは限らないと思い、警戒さえしたが、実際はいい意味で予想を裏切られた。人間も捨てたものではないと言った彼の言葉には不思議と胡散臭さを感じなかった。本当に素直な彼の考えなのだろう。
最初に「村を助けに来た」という彼の言葉を疑っていたのは、単に人間ではないということや、彼らの格好が怪しかったからだけではなく、本音をどこか押し隠している様な気がしたからだったとその時気付いた。彼が何を隠したがっているのかは分からないが、少なくとも一定の信用を置いても良さそうだとヒナタは判断した。
「アルベド殿、だったな。人間の事は嫌いなようだが、私は貴殿らを信用しよう」
「っ!?一体どういう風の吹き回しかしら?」
訝しげにヒナタを見るアルベドに、ヒナタは笑顔を見せて応える。
「言い直そう、貴殿の主人は優れた人格者のようだ。良い主人を持ったな」
「当然よ。アインズ様以上の殿方はこの世に存在しないわ。愚かな人間は嫌いだけれど、貴女の殿方を見る目は認めてあげてもいいわね。但し……」
「言いたいことは分かっているつもりだ。貴殿が危惧するような事は一切ない。むしろ応援したいくらいだな」
「そう、わかっているならそれでいいわ」
得意気な笑みを浮かべるアルベド。ヒナタが何故自分達を信用すると言ってくれたのか、ヒナタの言うアルベドが危惧すること、応援したいこととは一体何なのかは全く分からない。分からないが、とりあえず衝突の危機は回避出来たと胸を撫で下ろしたアインズであった。
「何だかよくわかりませんが、信用いただけて何よりです」
「フ、無自覚か。自覚なくあれができるとは、まさに天賦のものなのだろうな」
ヒナタの云わんとしていることはよく分からないが、とりあえずアインズは誉め言葉として受け取っておく事にした。
「ゴウン様、サカグチ様」
村長が足早に歩み寄ってきた。住民の移動は無事に済んだようだ。近寄って来る武装集団は一人一人の姿がはっきりと目視出来る程に近づいてきていた。
何だか長くなってしまいましたが、次回ようやく王国戦士長の登場です。
ヒナタさんは色々と鋭いようで、上手にアルベドとの対決フラグを折り、対決は回避されました。