異世界に転移したらユグドラシルだった件   作:フロストランタン

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戦士長とニグン、登場です。


#32 王国戦士長と陽光聖典

「あれをどう見る?ゴウン殿」

 

「少なくとも、先程捕らえた騎士達の仲間では無さそうですね」

 

「ほう?」

 

「騎士達と比べると武装がバラバラですし、そこかしこに見える統一された紋章も騎士のものとは違います。それにあの目。一人一人が強い決意を秘めているように見えます。少なくとも、弱者をいたぶるような下衆の目ではありません」

 

「そうだな、私もそう思う」

 

 言いながら、ヒナタはアインズの観察眼に目を見張る。確かに武装や紋章の事は気付くであろうと思っていたが、目付きからの洞察など、人間ではないと言う割には人間のことをよく知っている。先程までの村人や騎士への人道的な対応といい、元々人間と深い交流を持っていたか、元々は人間だったのかも知れない。いずれにせよ、敵対する心配はないかもしれないと、一段評価を上げることにした。

 

 馬を駈り、此方へ真っ直ぐに向かってくる集団。人数は20名程だろうか。装備こそ統一されてはいないが、その走りには統率感が感じられる。

 先頭を走る、厳めしい顔をした褐色の肌の男がリーダーだろう。体格も他の者より一回り太く、よく鍛え上げられている。

 

 やがて目の前まで来た集団は馬を止め、先頭の男が口上を述べる。

 

「馬上から失礼する!我々はリ・エスティーゼ王国戦士団!国王陛下の勅命により、この近辺を荒らす賊を討ち取りに来たものである!!」

 

「王国戦士長様……!」

 

 村長が目を見開き、驚きの声をあげる。リーダー格の男はアインズ達をチラリと一瞥する。その目がアルベドを捉え、はたと止まる。

 

(しまった、アルベドは素顔を隠してなかった!羽は不可視化をかけて隠してるけど角は……)

 

 村人達は既にアインズ達が人間ではないと言って知っているが、暴走キス魔事件のインパクトが大きすぎて、角が生えている事など気にする余裕もなかった。だがこの戦士団はそうはいかないだろう。

 しかし男は黙したままアルベドから視線を外し、村長を見遣る。

 

「如何にも私は王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。カルネ村の村長殿とお見受けする。隣にいる御仁達を紹介いただけないか?」

 

「それには及びませんとも、戦士長殿」

 

 横から声を掛けたのはアインズだった。

 

「私はアインズ・ウール・ゴウン。しがない魔法詠唱者(マジックキャスター)です。諸国を旅していまして最近この辺りに来たのですが、村が謎の武装集団に襲われているのが目に入り、助けに馳せ参じた次第です」

 

「同じくアインズ様第一の配下、アルベド」

 

「ヒナタ・サカグチだ。私も偶々旅の途中で、襲われているこの村の側を通りかかった」

 

「こちらの方々は、襲い掛かってきた帝国兵達から村をお救いくださったのです」

 

 それを聞いた戦士長は、徐に馬上を降りて深々と頭を下げた。

 

「村を救っていただき、感謝する。ゴウン殿、アルベド殿、サカグチ殿」

 

 これには村長だけでなく、アインズもヒナタも、そしてアルベドも驚いた。王国戦士長と聞く限り、かなりの地位に就いていると思われるが、権力者によく見られがちな、偉ぶった高慢な態度は微塵も感じられなかった。

 

(偉い人みたいだから、もっと高慢な態度を取ってくるかと思ったけど、全然偉そうにしないし、なんかいい人っぽいな)

 

 アインズにしても、ヒナタにしても、彼への心証は悪くなかった。しかしアルベドは僅かにだが眉をひそめているように見えた。彼の何が気にくわないのかはアインズにはこの時点ではわからなかった。黙っているうちはいいが、ヘタに相手を刺激しないでくれることを祈るしかない。

 

 ただ村長だけは恐縮して慌てふためいていたが、無理もないだろう。高い地位に就く国家お抱えの戦士が、小さな村の村長の前で深々と頭を下げたのだから。

 

「どうか頭を上げていただきたい、戦士長殿」

 

 そうヒナタに言われ、顔をあげる戦士長。彼の表情には僅かに戸惑いの色が見えた。

 

「ところで、村を救っていただいた恩人に対して不躾なのは承知なのだが、アルベド殿の()()は……?」

 

 やはり先程からアルベドの角が気になって居たようだ。戦士長の部下達もアルベドのこめかみから生える角をチラチラと見ている。

 

「そうですね……」

 

(うう、どうしよう。下手に取り繕うよりは素直に答えた方が良いか?多分戦士長は話せばわかってくれるタイプだと思いたいけど)

 

 アインズは思い切って正体を告げる覚悟をする。この男ならきっと受け入れてくれると信じることにした。

 

「見ての通りです。彼女は、私もですが……人間ではありませんので」

 

「っ!?なんと!……そ、その角は実は装飾品か何かで、着けたり取り外したりできる、などと言うことは……?」

 

「は?あ、いえ、これは(じか)に生えているモノですので、着けたり外したりは無理……だよな?」

 

「は、はい……」

 

 アインズもそこまで詳しいことは知らないので、本人に確認を取った。当のアルベドはというと、なんとも言えない目で戦士長を見ていた。何を言い出すんだコイツ、と言いたげである。

 

「そ、そう、か……」

 

 戦士長は少々頬を赤らめているが、アルベドの美貌を前にすれば緊張するも仕方のない事であろうと納得する。

 

(まあ、アルベドみたいな美人が相手じゃ俺でも緊張するしなっ。精神の沈静化があるし、表情に出ないから一見すると普通に喋れてるように見えるだろうけど)

 

「では、ゴウン殿のその仮面は?」

 

「単純に顔を隠すための物です。怖がられてしまう事が多いので、仮面の下の素顔をお見せするのは憚られますね」

 

「そ、そうか。では、もしやサカグチ殿も人ならざる……」

 

「私は人間だ」

 

「し、失礼……アルベド殿に負けず劣らずの美貌なので、もしやと思い……」

 

 不機嫌そうに応えたヒナタに戦士長がシドロモドロになり言い訳をした。そんな戦士長の姿を後ろの兵士達はじっと見ていた。その視線には侮蔑の色はなく、寧ろ好意的に見える。普段自分達には見せない上司の姿に好感、というか生暖かい視線を向けているように見えた。彼はきっと部下達に普段から慕われているのだろう。

 ふっ、と戦士長の言葉を聞いたヒナタが笑いを溢した。

 

「フフ、かわいい戦士長も居たものだな、つい思い出し笑いをしてしまったよ。以前、気を失って倒れていた()()()を保護したことがあったのだが……」

 

「は、はぁ……」

 

 かわいいなどと言われ、突然思い出話をし始めるヒナタを止めることもできず、曖昧な相槌をうつ戦士長。アインズはどこかで聞いたことある話だな、と首を傾げる。

 

「目覚めたとき、彼はまだ夢の中だと思ったらしく、夢には自分の願望が反映されるとかなんとか言っていた。それで私の胸元を見つめながら『理想のお……』と言いかけたのだ」

 

(そ、それ俺じゃんかー!!)

 

 アインズは当時苦し紛れに口走った恥ずかしい言葉を思い出し、余りの羞恥に精神が沈静化された。身悶えしたくなる衝動を抑え、微動だにしていないが、内心は動揺しまくっている。

 

「そ、それは、つまりその……」

 

(ま、まさか……!?)

 

「『おっぱい』って言いかけたんでしょうね。本人に問い質してみたんだけど、何て言い訳したと思う?」

 

(げぇ!?バ、バレてた~!)

 

 戦士長の相槌に、ヒナタは楽しげに語る。アインズは激しく動揺し、感情の波が何度もピークに達しては沈静化が繰り返されていた。

 

「うーむ、そこまで言いかけて取り繕うのは不可能では?」

 

「ところが、意外な言葉が出てきたわ、フフ」

 

(や、やめて!やめてくれぇええ!)

 

 アインズは心の中で懇願するが、当然そんな言葉はヒナタの耳には届くはずもない。アルベドも少し興味ありげな様子で聞いていた。

 

「『理想のお嫁さん』だそうだ。最初ブッ飛ばしてやろうかと思っていたけど、顔真っ赤にして可愛い事を言うものだからつい大目に見てしまったわ」

 

「う、ぐっふぁっ」

 

「「「?」」」

 

「アインズ様!?」

 

 恥ずかしい秘密の暴露と、かわいいなどという意外な評価に、アインズはおかしな声を洩らしてしまった。アルベドが心配そうに声をかけるが、止めどなく押し寄せる羞恥心に耐えながらも、アインズは片手を上げて制する。

 

「ふ、フフフ。いや失礼。堪えきれず吹き出してしまいました。面白い話ですが、そろそろ真面目な話もしましょうか」

 

「ああ、そうだったな」

 

「では立ち話もなんですから、どうぞ私の家へ……」

 

 勿論堪えきれなかったのは笑いではなく精神的なダメージの方だが、これ以上ヒナタを放っておいては、異形種動物園の(くだり)までいってしまいそうである。アインズとしては、早急に話題を変えたかった。

 そんな彼の思惑通りヒナタが乗ってくれたことで、アインズはホッとしながら村長の家へと歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「さて、捕らえた騎士の件ですが……」

 

「そうだな。おそらくあの騎士達は単なる陽動役だろう」

 

「でしょうね。恐らくは後詰めの精鋭が付近に潜伏しているはず。狙いは戦士長殿、と言ったところですね」

 

 アインズとヒナタの不穏な会話に、村長は不安げな面持ちになる。騎士が捕まえられたことで、この一件は解決したのではなかったのか、と。

 

「ど、どういうことでしょう?」

 

「戦士長、貴方はバハルス帝国から恨みを買っているようね。要は全てが貴方をここまで引き寄せ、仕留めるための罠だった、ということよ」

 

 アルベドの言葉を聞いて驚愕する村長。戦士長の方は心当たりがあったようで、沈痛な表情を浮かべている。

 

「やはり……か。薄々感付いてはいた。この周辺の村々も襲われており、酷い有り様だったが、必ず数人生き残りがいてな。生き残った村人を保護し、町へと連れて行くのに人員を割きながらも、敵を追って強行軍でここまで来たのだが……」

 

 その言葉にヒナタが納得したように言葉を返す。

 

「成る程、人員を削られ、装備も万全とは言えない状態のようだ。国内にもこれを手引きする者が確実に居るな」

 

「なっ!?そのような事が」

 

「ないと言い切れるかしら?一国の戦士長という地位に就くものにしては装備が貧弱すぎると思ったけれど、内通者が居るなら納得がいくわ。難癖をつけて本来の武装をする事に反対した者がいたのではなくて?」

 

「……!」

 

 確かにいた。「王国の戦士長ともあろう者が賊を討つ程度の事で王国の宝物たる装備を持ち出すなど云々」と難癖を付けてきた貴族が。アルベドの的確な指摘にぐうの音も出ない戦士長に追い討ちをかけるように、村長が呟く。

 

「我々は、戦士長様を引き寄せる餌だったと……?そんな、そんな事のために、私達は……」

 

 そんな理不尽な理由で村は襲われたのか。自分達は何も悪いことをしていないのに。怒り、悲哀、失意、悔恨。言い様の無い感情が村長の心の中で燻っていた。しかしここでアインズが予想しなかったことが起きた。

 

「これは全て自分の不徳の致すところ。申し開きのしようもない。この様な理不尽な状況に巻き込んでおきながら、謝って済むものでもないが、こうして頭を下げることしかできない我が身の無力さを恥じ入るばかりだ」

 

 戦士長が深々と頭を下げ、誠意を込めて謝罪を口にしたのだ。

 

 本来、人の上に立つ者は簡単には頭を下げる事は許されない。鈴木悟も日常(リアル)で、過失による事故等が露見し、企業の代表が会見をする場面をニュースで見たことがある。彼らは「誠に遺憾」、要は「とても残念だ」と述べるだけで、頭を下げて謝罪をはっきりと口した所を見たことがなかった。

 

 企業のトップが頭を下げれば、相手に付け入る隙を与えてしまい、ここぞとばかりに無茶な要求を飲ませようと執拗な攻撃に晒される。当然トップだけではなく、そこに所属する社員達まで。そんな状況から部下を守る事も上に立つ者は考えなくてはならないと死獣天朱雀から教わったことがある。尤も、上に立つ者の殆どが自分の立場を守る事しか考えていないとも。

 

 だが、目の前の男は何の迷いもなく頭を下げた。上に立つ者としては好ましくない行為ではあるが、人間としては出来ている。不器用ながら実直で誠実な戦士長の対応に、アインズは少なからず好感を抱いた。

 

 対してアルベドは若干呆れ気味に冷ややかな目を向けていた。彼女は守護者統括という自分の立場と重ね、彼を組織の上に立つ者としては相応しくないと評価していたのだ。それにようやく気付いたアインズだったが、その評価は間違っているわけではないと思い、何も言わずに置いた。

 

「戦士長様、どうか、どうかそのようなことはおやめください」

 

 そう言った村長の目からは涙が溢れていた。彼もまた悔しいのだろう、己の迂闊さが。普段から有事に備え、柵や塀を作っていれば結果はもっと違ったのではないか。その想いが彼を苛んでいたのだ。

 

「村長殿、貴方が悪いわけではない。一人で抱え込むな。反省は今後に活かせばいい。まだ生き残った多くの村人がいるんだ。皆で共に力を合わせて進んでほしい」

 

 ヒナタがそう言葉をかけると、村長は何度も頷きながら嗚咽した。

 

「さて、そろそろ本命が来てもいい頃ですが……」

 

「失礼します!戦士長!」

 

 アインズの呟きを見計らったかのように、慌ただしくドアを開け、戦士団の一人が駆け込んでくる。

 

「敵は何人だ?」

 

「!?あ、はい!敵はマジックキャスターとおぼしきものが凡そ三十名!既に村を取り囲んでいます!」

 

 既に敵襲を知っていたかのような戦士長の返事に、男は一瞬戸惑った様子を見せたが、報告を続けた。それを聞き、戦士長ガゼフ・ストロノーフは外の様子を窺う。

 

「奴ら、帝国の者ではない……?」

 

 ガゼフは敵の姿を確認し、彼の記憶にあるバハルス帝国の魔法詠唱者(マジックキャスター)の姿とはまるで違う事に気づいた。

 

「では先の騎士達は帝国兵士を偽装していたということか?用意周到な事だな。戦士長殿、奴らに心当たりは?」

 

「恐らくスレイン法国の特殊部隊、六色聖典のどれかだが……詳しくは知らないな」

 

 ヒナタの問いにガゼフは苦々しげに答える。帝国以上に厄介な相手であろうということはその表情からアインズにも見て取れた。

 ここでガゼフから提案が上がる。

 

「サカグチ殿、ゴウン殿。我々に雇われる気はないか?」

 

 

 

 

 

「各員、傾聴せよ」

 

 スレイン法国の特殊部隊"六色聖典"の一つ、陽光聖典隊長、ニグン・グリッド・ルーイン。彼は見事に策略が嵌まり、任務成功が間近に迫ったことを確信した。

 

 彼の任務は周辺国家最強と謳われる、リ・エスティーゼ王国戦士長ガゼフ・ストロノーフの暗殺である。

 

 王国戦士長は強い。戦場に於いて、たった一人で千の兵士をも凌駕しうる程の突出した個である。

 しかし、幾重にも張り巡らせた策略と罠を駆使し、本来の装備を持たせず、さらに疲弊させた状態で、まんまと辺境の村へと誘き寄せた。

 後は王国戦士長を抹殺し、邪魔な目撃者を始末して任務は完了だ。油断して勝てる相手では決してないが、油断さえしなければ倒せない相手ではない。

 

 彼等は人類の守護者を自負し、人類の生存の為に信仰を捧げ、任務に邁進してきた。残念ながらこの世界に於いて、人類はいつ他種族に滅ぼされてもおかしくない、力持たぬ弱者なのだ。

 

 そんな彼等が、人類の貴重な戦力、ガゼフ・ストロノーフを暗殺などしなければならないのか。ニグン自身も任務を聞いたとき疑問に思い、質問したはずだ。だが、その後の事は()()()()()()()()()()()()

 

 王国戦士長抹殺の原因は、王国貴族の手の施しようが無いほどの腐敗にあり、王国戦士長を倒し、バハルス帝国に弊呑させる。早い話が、腐りきってしまった"王国"という名の()()()()である。鮮血帝と恐れられつつも傑物と名高い彼の皇帝ならば、王国の腐敗した貴族を粛清し、善政を敷くであろう。

 

()()()()()()、そう考えるようになっていた。その考え自体は間違っているとは思わないので、それ以降は特に疑問を抱くことはなく任務に邁進してきた。

 

 不測の事態に備え、切り札となるアイテムも貸し与えられている。ここまで万全の準備をしてきたのだ。万が一にも任務成功は揺るがないだろう。彼はほくそ笑む。ガゼフ・ストロノーフの抹殺を確信して。

 

「汝の信仰を捧げよ」

 

 だが、彼はまだ知らない。カルネ村にガゼフ・ストロノーフさえ凌駕する存在が複数居ることを。

 

 彼はまだ知らない。彼自身の()()()()()()()()()()()()()が、彼を今まさに監視していることを。

 

 彼はまだ知らない。これからその身に降りかかる()()と、その身に起こる()()を。

 

 




両者が登場し、いよいよ戦闘開始直前です。


オマケダイジェスト

ガゼフ「角は脱着可能か?」(美人だな)
アルベド「はぁ?」(なにコイツ?)
アインズ「無理・・・だよな?」

アインズ(やめて!黒歴史ほじくらないで!)
ヒナタ「かわいいから許した」
アインズ「ぐっはぁ!?」
ヒナタ「・・・?」

ガゼフ「申し訳ない!」
アイ・ヒナ(いいヤツだな・・・)
アルベド(チッ、ダメ男ね)

ガゼフ「あいつら帝国じゃない!」
ヒナタ「ほーん」
ガゼフ「雇われないか?」

ニグン「よく覚えてないけど、王国が悪い!」

リムル「ブッくく、ヒナタが理想のお嫁さん・・・」
ミリム「理想のお嫁さんかぁ」チラッ
ラミリス「お嫁さんねー」チラリ
ヴェルドラ「くあぁぁあ、我の出番、まだ?」
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