異世界に転移したらユグドラシルだった件   作:フロストランタン

34 / 90
なんとニグン隊長、大活躍(嘘)です!


#34 厄災

 村では大きめの家屋に村人達全員が集まっている。アインズが防御魔法を施してくれるとのことだった。

 

「〈魔法最強化・魔法位階上昇化(マキシマイズブーステッドマジック)

 〈魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)

 〈生命拒否の繭(アンティライフ・コクーン)〉!」

 

「〈魔法最強化・魔法位階上昇化(マキシマイズブーステッドマジック)

 〈魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)

 〈矢守りの(ウォール・オブ・プロテクション)障 壁(フロムアローズ)〉!」

 

「「「お、おお……」」」

 

 巨大な光のドームに囲まれる家屋。アインズの魔法を唱える姿に、感嘆の声を上げる村人達。魔法の事はわからないながらも、アインズが桁違いの使い手である事は理解できたらしい。

 

「さて、取り敢えずこの中に居れば安全ですよ。生き物は中に入って来れませんし、飛び道具も防ぎます」

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

 

 口々に感謝を述べる村人達。アインズはむず痒い思いをしながら、戦士長達に加勢に向かう旨を伝え、村を後にした。

 

「ソリュシャン、ルプスレギナ」

 

 村を出たところで、金髪を縦ロールに巻いたミニスカートのメイドと、シスターの様な雰囲気のメイド服を着た赤髪のメイドが跪いていた。戦闘メイドのソリュシャン・イプシロンとルプスレギナ・ベータである。

 

 ソリュシャンは暗殺者(アサシン)職業(クラス)を取得しており、敵の気配の察知や遠視を得意としている。また、ルプスレギナは気配を覚らせない隠密行動にも長けた神官戦士で、回復魔法や近接戦闘もそれなりに出来る。

 二人には村の周辺を警護を任せる為に呼び寄せたのだ。万が一伏兵がいても対応できるだろう。

 

「村を外敵が近付かない様に守っておけ。村人には気付かれるな。何かあればすぐに知らせろ」

 

 アインズはそう命じて〈伝言(メッセージ)〉の込められた巻物(スクロール)を渡す。

 

「「畏まりました」」

 

 二人の返事を聴きながら、今度は何もないはずの場所に目を向ける。そこには不可視化したアルベドがいた。アインズは透明化や不可知化を看破するスキルがあるので、相手が不可視化していても見えるのだ。

 

「では行こうか」

 

「はいっ」

 

 アインズは自らにも不可視化をかけてから、〈集団飛行(マスフライ)〉を唱える。これから散歩にでも行くような気軽さで二人は空へ飛び立った。

 

「アインズ様。あの人間達ですが、どの様な位置付けをすればよろしいのでしょうか?」

 

 アルベドが疑問を投げかける。アルベドの言う「あの人間達」とは、戦士長達やヒナタとの事を言っているのだろう。

 

「そうだな……まずサカグチ殿。実は彼女には借りがある。一言で言えば恩人だ」

 

「っ!そ、そうでしたか……」

 

 アルベドは内心肝を冷した。主人が恩人と言う相手の首を刎ねようなどと考えてしまっていた。もし実行していれば確実にアインズの不興を買ってしまい、万回死んでも償いきれなかっただろう。

 

「まあ、理由あって彼女の方は私の正体に気付いていないがな」

 

「そ、それは何故でしょうか?お名前を変えられたのは今日の事ですが、それであの者がアインズ様に気付かないというのは何とも   

 

 アルベドは腑に落ちない、といった面持ちだ。ヒナタは、相手の名前が変わっただけで識別できない程鈍感ではないはずだと。アインズは説明に困った。

 

 アルベドが知っているのは死の支配者(オーバーロード)の自分であり、人間の自分は知らない。一方ヒナタは、人間の自分しか知らない。ヒナタが死の支配者(オーバーロード)の自分に気付かなかった様に、もし人間の姿でアルベドに会えば、アルベドは自分だと気付かないだろう。

 

 しかし、それをそのまま言って良いものだろうか。ただでさえ人間蔑視の思想が根強いナザリック。カルマ値が善に偏った一部のNPCを除き、殆どが人間に良い感情を抱いていない。戦闘能力を持たない一般メイドも、人間を恐れている。至高の存在と信じて疑わない相手が、取るに足らないただの人間だった等と知ったら一体どんな反応を示すのか、まるで予測が付かない。

 

 いずれ告白するときが来るかもしれないが、少なくとも今はその時ではない。アインズは言葉を濁し、答えを先送りにすることにした。

 

「それにはちょっとした事情があるのだが、いずれ話すときがあるかもしれないな。それよりも戦況は……」

 

 アインズが話を逸らすと、眼下ではガゼフ率いる戦士団と魔法詠唱者(マジックキャスター)達の戦いが繰り広げられていた。アインズは細かく情勢を把握していく。互いに死者は出ていないが、重傷者は戦士団側に多数。現状では戦士団が不利な状況であった。

 

 ガゼフが魔法詠唱者(マジックキャスター)の隊長らしき男に向かって突進を始め、ヒナタが転移で魔法詠唱者の背後を取った。ヒナタは敵の四肢を切り落とし、心臓を貫き、あるいは首を刎ねていく。ヒナタに接近を許した魔法詠唱者(マジックキャスター)達は次々に倒れていった。

 その剣捌きを見て、アインズは目を見張る。

 

(げっ、あの人あんなに強かったのかよっ?あまり強くはないとか言ってたのに……本当に人間か?)

 

「なかなかやるようですね……」

 

 アルベドの目にも、ヒナタの剣捌きは相当速く映ったようだ。遠目でこれなら、近距離では更に速く見えるだろう。実際に斬られた魔法詠唱者(マジックキャスター)達に至っては、剣の軌道が見えてすらいないはずだ。

 

 一方ガゼフは謎の特殊技術(スキル)のようなものを駆使し、天使を葬っていった。

 

 それを見たアインズは内心ほくそ笑む。あれはユグドラシルのものではなく、この世界特有のものだと確信した。アインズはこういったこの世界特有の能力や、強者の情報を早い段階で押さえたいと思っていた。

 

 村長によればガゼフは周辺諸国最強の戦士らしいが、それはあくまでも、世間で名の知れている人物の中での話だろう。名が知られていないだけの、とんでもない猛者というのはどの世界にも居るものなのだ。そんな者に出くわしたとき、多くの情報があるのとないのとではまるで違う。

 

 欲しかった情報が一つ手に入ったことで、彼に加勢したことに更に付加価値が生まれた。個人的な感情ではなく、ナザリックの利益に繋がるという動機付けにもなる。

 

「さて、どうやら決着が近い……ん?あれは   

 

 ガセフが権天使(プリンシパリティ)に同時に六つの斬撃で迫った時、魔法詠唱者(マジックキャスター)の隊長が手に握っているアイテムが目に入った。

 

「アルベド、時間を稼げ」

 

「はっ」

 

 アルベドに急ぎ加勢に向かわせる。隊長と思われる男が持っていたのは魔封じの水晶。ユグドラシルでは超位魔法以外の殆どの魔法を込めることが出来るという代物だ。出したタイミングから考えて、あれが切り札なのだろう。

 

(この世界にはユグドラシルの魔法だけでなく、アイテムも存在しているということか)

 

 ただし、その性能も完全に同じだと考えるのは早計だ。魔法も一部仕様が変わっているものがあった。ならばアイテムの仕様も何かしらの違いがあるかもしれない。もしあの魔封じの水晶が、超位魔法をも込められるようになっているとしたらかなり厄介だ。

 

 アインズは最悪の場合を想定し、不可視化したまま超位魔法を準備する。超位魔法は発動までに時間が掛かるが、アルベドがうまく時間を稼いでくれるだろう。

 

「無事生き延びてくれると良いが、まぁその時は……」

 

 もしガゼフ達が死んでしまったら、今度こそ蘇生魔法を試してみようと考えるアインズ。戦士団の部下の方はどうでも良いが、ガゼフにはこの世界特有の技を見せてもらった。その対価として蘇生ぐらいしてやっても良いだろう。

 

 

 

 

 

「な、な……」

 

 ガゼフは空を見上げて瞠目する。勝利は目前と思われた矢先に、とんでもない怪物が姿を現したのだ。これが最高位の天使。信心深くはないガゼフだが、その威容は、まさに神々しいと形容するに相応しいと思われた。これが伝説に謳われる存在の顕現を目の当たりにし、人間の力ではとても太刀打ちできない。頭より先に本能がそう告げている。それでも立ち向かう事を諦めたわけではない。いや、諦められないのだ。

 

 と、ガゼフは上空に黒い何かを捉えた。空から堕ちてきた()()は、大地へと着弾して爆音を轟かせた。そこには、優しげな笑みを浮かべたアルベドが立っていた。

 

 アルベドが高高度から落ちてきて、着地したのだ。地面は大きく抉れているが、彼女の鎧は汚れ一つ付着していない。浮かべた柔和な笑み。たなびく漆黒の長い髪。金色の輝く瞳。血生臭い戦場に降り立った漆黒の戦女神に、ガゼフは息を飲み、ただ見惚れていた。

 

 空から降ってきた突然の闖入者。余りの事に呆気にとられ、言葉を失う陽光聖典の面々。既に生き残っているのは隊長のニグンを含め11名だった。

 陽光聖典に向かって、アルベドが静かに口を開く。

 

「こんばんは、スレイン法国の皆さん。私はアルベド。少し話を   

 

「その角は!異形の者か!?」

 

 ニグンがアルベドのこめかみから生えた角に気付いた瞬間、彼女の言葉を遮り叫びをあげた。

 

「ストロノーフめ。異形なんぞと手を組みおって!やはり貴様は始末するべきだな。だがその前に、貴様から葬ってやる。さあ、天使よ!〈善なる極撃(ホーリースマイト)〉を放て!」

 

 ニグンの叫びに呼応し、主天使(ドミニオン)が笏を振るう。すると笏が砕け、主天使(ドミニオン)の胴周りを円を描くように漂いだした。アルベドの頭上に、空から巨大な光の柱が墜ちてくる。そう形容するしかないような光景。その場に居た誰もが彼女の死を予感した。

 

(愚か。自慢の切り札が無意味であると知り、絶望するがいいわ)

 

 アルベドは防御に特化した100LVの戦士職であり、物理・魔法共に極めて高い防御力を誇る。加えて、体力もまた尋常ではない。第7位階の〈善なる極撃(ホーリースマイト)〉程度では、属性が悪に偏った対象へのダメージ増効果を考慮しても微々たるものだろう。

 

 アルベドは構えるでもなく無防備に立ったまま、降り注ぐ光の柱を待つ。ニグンは歪んだ笑みを浮かべ、勝ち誇った顔で高笑いしていた。だがこの時アルベドも予想しなかった事態が起きた。光の柱がアルベドへと到達する直前に、ガゼフがアルベドの方へ飛び込んできたのだ。

 

(何故?何を考えているの!?)

 

 ガゼフは既に魔法の効果範囲に入ってきている。自分から死地へ飛び込んでくるとは、まさに飛んで火に入るなんとやら、の状態である。このままではガゼフも巻き込まれてしまう。アルベドは平気だとしても、ガゼフはそうはいかないであろう。光の奔流に飲み込まれれば、脆弱な人間の肉体など、消し炭になりかねない。自分から飛び込んできたとはいえ、アインズが気に入っている戦士長を、このままみすみす死なせてしまってよいものか。否、それは僕としてあり得べからざる失態である。

 

 戦士長を抱えての回避は間に合わないと判断したアルベドは、咄嗟にガゼフを掴んで地に臥せさせ、そのまま上から覆い被さった。

 

 

 

 

 

 激しい光の奔流が途絶え、辺りを静寂が包む。法国の者も、王国の者も口を開かない。まさに伝説級の、強大な魔法を目の当たりにし、圧倒された為だ。

 

 ガゼフは両足の膝から下と右腕を消失し、あちこち大火傷を負っている。かなりの重傷だが、奇跡的に死を免れていた。一方ガゼフを庇ったアルベドの方は無傷である。

 

「一体何がしたかったのかしら……?」

 

 覆い被さっていたアルベドが顔を上げ、呟いた。ガゼフは意識を手放したまま、横たわっている。

 

(もしや私を助けようと……?はぁ、本当に迷惑な男ね。自分の実力をわかっていないのかしら。

 ……動悸?何かの状態異常(バッドステータス)かしら?おかしいわね、大抵の状態異常には耐性が有る筈なのに。でも嫌ではないこの感じ……まさかトキ   ?じょ、冗談じゃないわ!)

 

 信じられない。あり得ない。認めない。否定の言葉で脳裡を埋める。そんな事があってたまるかと。

 

(お、落ち着きなさい、アルベド……そう、私は誇り高きナザリック地下大墳墓の守護者統括なのよっ)

 

 アルベドは自分に言い聞かせる。内心ではまだ動揺は収まりきらないが、幸いにも表面を取り繕うのは得意である。穏やかな笑みという仮面を貼り付け、アルベドは波立つ内面の動揺を誤魔化して平静を装うのだった。

 

「貴様、何故ストロノーフを庇う?異形風情が人間の真似事とは、反吐が出る……」

 

 ニグンはアルベドに向かって口汚く罵る。〈善なる極撃(ホーリースマイト)〉が効いていない事には何故か全く動揺していない。

 

 しかし、隊員達の方はアルベドの異常さに気付き、ガタガタと震えだしていた。先程の魔法は、どんな強力な敵も葬り去る必殺の一撃だったはずなのだ。その証拠に、巻き込まれた王国戦士長は瀕死の重傷を負っている。何故かは分からないが魔法の光が消えたとき、上に覆い被さるようにしていた異形の女。人間の戦士長を庇ったと考えるのが自然だろう。それはこの際どうでも良い。

 

 あり得ない。庇われた方が傷が浅いならば、まだ納得がいく。ところが目の前の事実はそれとは()。ストロノーフは重傷で、彼を庇うように覆い被さっていた女の方が傷が軽いどころか無傷である。それが意味するところは何か。今自分達が相対しているのは規格外の、魔神すら超越せし何かでは   

 

「話合いをする気は無い、という事でいいかしら?」

 

 ゆっくりと立ち上がり、そう訊いてくる異形の女。その笑顔は一見美しく見えるが、瞳は温度を感じさせないほど冷ややかでもある。まるで地獄の蓋の向こうから、恐ろしい何かがこちらを窺っている様に思われた。もしもその蓋が外れてしまえば、大きな厄災が止めどなく溢れ出し、何もかも滅ぼし尽くしてしまうのではないか。得体の知れない恐怖に、陽光聖典の隊員達は呼吸が乱れ、喉がカラカラに渇き、冷や汗が怒濤のように流れ出す。

 

「ふん。話したところで、異形の者には我々の崇高なる使命など理解は出来ん。その必要もない。その男に関わってしまった以上、貴様を生きて帰すわけにはいかんがな」

 

「そう……」

 

 堂々と言いきるニグンに、隊員達は全員が心の中でこれでもかと罵倒を浴びせる。最早自分達の命運は尽きた。彼等はそう思った。

 

「全く、いい度胸をしているな……!」

 

 突如虚空から声がかかる。見上げた先には何も確認できず、誰もいない。そう思われたが、数瞬の後に姿を現した何者か。見たこともないようないくつもの魔法陣が光り輝きながら立体的に浮かんでおり、その中心に圧倒的存在感で佇んでいる。身に纏う漆黒のローブは遠目に見ただけで超級のそれと理解できた。そしてその顔   輝くような白磁の骨の顔。それは彼等が信仰する6柱の神の中でも光の神と並ぶ最高神の1柱、死の神のものと酷似していた。

 

「か、かか、神よおおおぉ!!」

 

「えっ……?」

 

 一斉に平伏する陽光聖典の隊員達。その光景に思わずアインズは戸惑う。骨の顔を見せてビビらせてやるつもりが、まさか神呼ばわりされるとは思ってもみなかった。

 

「バカな……!スルシャーナ様は罪深き()()()()によって滅されたはずでは!?」

 

 これまで傲岸不遜な態度を崩さなかったニグンが驚愕の表情を浮かべる。隊員達はというと、狂ったように拝み倒し、涙を流しながら「神が再臨なされた」「我が信仰を捧げます」などと叫びまくっている。

 

(スルシャーナ?誰だ?何で……ってもしかして、プレイヤー?)

 

 アインズは自分とそっくりな誰かと勘違いしていると気付く。超位魔法発動のための待機時間が終わり、あとは魔法を詠唱するだけの状態である。本来なら姿を見せて彼等が震え上がったところでヒナタ達を下がらせ、派手にブッ放すつもりだった。

 

 しかしスルシャーナというプレイヤーらしき存在の事が気にかかり、降りていって情報を聞き出したくなる。プレイヤーの情報は特に重要だ。

 だが、折角発動できるのに超位魔法を解除するのは勿体なく思われた。

 

 強力な超位魔法はその分制約が多く、一定量のダメージを受けたり、その場から移動してしまうと発動解除されてしまう。ユグドラシルでは真っ先に攻撃の的にされる為、なかなか思うように発動できなかった。アインズは悩んだあげく、当初の予定を変えて別の超位魔法を発動出来ないか試すことにした。

 

「超位魔法〈天軍降臨(パンテオン)〉!」

 

 やってみるものだ。ユグドラシルでは出来なかったが、この世界では途中で発動する超位魔法を変更できるらしい。光り輝く魔法陣が拡がりを見せ、4体の天使が召喚される。

 現れたのは80レベル台の第二階級天使、門番の智天使(ケルビム・ゲートキーパー)である。壁役(タンク)として高い性能を有し、探知能力にも長ける天使である。

 

 智天使(ケルビム)を見て、更に地面に頭を擦り付ける陽光聖典。気でも狂ったのかと思うくらいに必死である。

 

「どうかっ!どうか御慈悲をおおおぉぉ!」

 

 そんな彼等を見下ろし、アインズは智天使(ケルビム)を伴ってゆっくりと降りていく。

 

「……最初に二つ間違いを指摘しておく。私の名前はアインズ・ウール・ゴウン。お前達はスルシャーナという名を呼んだが、人違いだ」

 

 地面に降り立ったアインズは、自分はスルシャーナではないと指摘した。神のように崇め奉られるのは正直ナザリックの僕達で腹一杯なのだ。早々に勘違いを正しておかないと、どんどん言い出しづらくなるので、さっさと言おうと決めたのだった。

 

「ふ、偽物か……まがい物めええぇ!!神の姿を真似ようなど、烏滸がましいにも程があるわあああっ!!」

 

「隊長!落ち着いてくだ、ひっ!?」

 

 激昂し、叫びをあげたニグンを止めに入ろうとした隊員はここでようやく気づく。過激な言動とは裏腹に、彼の眼には生気が宿っていない。まるで何も映していないかのようでさえあった。隊員は言い知れぬ気味の悪さを感じ、鳥肌が立つ。

 

主天使(ドミニオン)よ!〈善なる極撃(ホーリースマイト)〉だっ!早く打てこの鈍間がぁ!!何をしているっ?お前達も早く攻撃を始めよ!!死にたいか!」

 

 召喚した天使や部下でさえも罵り始めるニグン。だが、隊員達は二歩、三歩と後退り、命令を受け付けない。アインズはニグンのクズ上司ぶりに苛立ちを感じていた。〈善なる極撃(ホーリースマイト)〉がアインズの頭上に降り注ぐが、アインズは意に介すことなく言葉を紡ぐ。

 

「やれやれ、全く会話にならんな……」

 

「馬鹿な!?何故平然と立っていられる!?最高位天使の攻撃だぞ!?」

 

「指摘事項が増えたな……だがまずは、間違いの二つ目だ」

 

 動揺し、狼狽えるニグンにアインズは淡々と告げる。

 

「お前達は最高位天使と呼んでいるようだが、主天使(ドミニオン)の階級は上から四番目だ」

 

「な、何を馬鹿な……ハッタリだ!ハッタリに決まっている!無事でいられるハズがない。やせ我慢でもしているんだろう!?」

 

「やれやれ……自分の目なら信じられるだろう?智天使(ケルビム)!」

 

 肩を竦めて首を振り、智天使(ケルビム)に命令を下すアインズ。4体のうち二体が一瞬で飛び上がり、主天使(ドミニオン)を瞬殺して見せる。ニグンは開いた口が塞がらない。余りにもあっけなかった。何故こんな力を持っている?その答えは一つしかない。

 

 神。嘗て人類を救った六大神。その六大神を弑し、大陸中を荒らし回った八欲王。彼らと同じく異世界より降臨した絶大な力を持った存在。それしかない。

 

「三つ目。お前達は、お前は選択を誤った。私は相手の意見は尊重する主義でな。その選択の結果、どんな結末が待っていようともだ」

 

「いやだぁああ!死にっ死にたくないっ!」

 

「うあああぁあ!」

 

 アインズの言葉の意味を理解して、みっともなく泣き出す隊員達。ニグンも理解してしまった。敵に回してはならない存在に弓引いてしまった事を。だが、ここで潔く死ぬわけにはいかなかった。精一杯頭を働かせ、どうにか生き延びる方法は無いかと考えていた。国にこの者の存在を伝えなくてはならない。自分と同じ轍を踏ませないために。

 

「アインズ・ウール・ゴウン様!ご無礼を謝罪致します!赦して頂けるとは思いませんが、どうか、私一人だけでも命を   

 

「ダメだな」

 

 冷たく言い放つアインズ。せめてアルベドとの対話に応じていれば、情報次第で生かすことも考えただろう。だが、話も聞かず弓引いて来た相手にかける慈悲はない。更に、部下を無理やり巻き込んで喧嘩を売っておきながら、見苦しく自分だけでも助かろうと命乞いをするニグンの評価は完全に地に落ちていた。

 

「アインズ様に牙を向いた上、これ以上無礼を重ねるなどあり得ないわ。己の愚劣さを悔い、潔く死を受け入れなさい。それがあなた達に許された全てよ」

 

 アルベドの言葉にニグン達は何も言い返せず、力なく項垂れた。

 

「これ以上は見るのも不快だな……せめてもの情けだ。苦痛を与えることなく死なせてやる」

 

 アインズは指向性を持たせた〈絶望のオーラⅤ〉を放った。陽光聖典が糸の切れた操り人形の様に、地に倒れる。息をする者は一人もいない。文字通り、11人全員が即死したのだ。

 

「いよーっす」

 

 不意に女性の様な声が聞こえた。アインズはこの声に聞き覚えがある。アインズが振り向くと、そこにはやはりリムルと数名の姿。

 そしていつの間にか飛び出していたアルベドが、リムルに向かってバルディッシュを振り下ろすところであった。

 




本当はアルベドが瞬殺する予定でしたが、別件でひどく動揺し、行動に迷いが生じています。
それによってニグンには少しだけ見せ場を用意することが出来ましたが、実際には原作より早く死亡しました。

超位魔法の変更は独自の設定です。原作にはその辺りは明確に説明はありません。

スキル〈絶望のオーラ〉には5段階あり、それぞれ効果が違います。また、指向性を持たせる事も可能なようです。今回は即死効果のある〈絶望のオーラⅤ〉に指向性を持たせ、陽光聖典は即死しました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。