異世界に転移したらユグドラシルだった件   作:フロストランタン

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まだナザリックに帰れません。長い一日です。


#37 モモンガ・アインズ・ウール・ゴウン・ナザリック

 戦士団の副官ロイは、夢でも見ていたんじゃないかと自分の頬をつねる。しかし、返ってきた痛みが確かに目の前で起きた出来事が全て現実だったと突き付ける。

 

 彼は戦士団でただ一人、起こった出来事の全てを目撃したのだった。ガゼフを始め、戦士団は皆気を失っていたのだ。

 

(見たままを隊長に報告したら、どんな顔するだろうか……)

 

 とても信じてもらえそうにない。夢でも見ていたんじゃないかと隊員達には笑われる気がする。何しろ、直接目にした自分ですら、自分の目を疑いたくなるような事だったのだから。

 

 ゴウン殿達と後から来た彼女等は何か話し合った後、皆殺しにした敵の一団を全員蘇生させ、跪く奴等を今度は瞬時に跡形もなく消し去った。何を話していたのか、何が目的だったのか、何をしたのかさえわからない。

 

 気を失っていたメイド   おそらくゴウン殿に仕える二人のメイド   が目を覚ましたかと思ったらまたすぐ気絶してしまった。その後、二人の美女と黒服の男は何処かへと姿を消してしまい、戦士団の他にはゴウン殿とアルベド殿、サカグチ殿とメイド二人がその場に残っていた。

 

 ロイは三人に視線を向けると、アルベド殿とサカグチ殿の間には何となく気まずい雰囲気が漂っている気がした。何をどこまで隊長に報告すべきか?そう考えていると、アンデッドの顔を再び仮面で隠したゴウン殿から、正体については口外しないで欲しいと頼まれた。余計な敵を引き寄せて、関係ない周囲の者を要らぬ争いに巻き込んでしまうかもしれないからと。

 

 確かに、存在が周りに知れれば、人間でないというだけで冒険者や兵が差し向けられる可能性は十分にあり得る。王都の貴族達は間違いなく自分の手柄を上げようと、(こぞ)って討伐に乗り出すだろう。だが、たとえ国の命令であってもゴウン殿達と敵対はしたくないというのがロイの本音である。勝てる気がしないというのもあるが、それよりも人柄に惹かれてしまった、というのが大きい。

 

 不用意に情報を洩らすつもりはないが、せめて隊長にだけは全て報告したいと伝えると、彼は少し迷った様子を見せた。そして数拍の沈黙の後、居なくなった彼女等の事以外であれば、と了承してくれた。彼女達は一体何者だったのか気にはなるが、余り話したがらない事を聞くのは不粋だと思い、好奇心を振り払った。

 

 国へ帰ってどう報告するか、アルベド殿と隊長で相談して決めると良いと言い残し、彼は村へと戻って行った。早く皆を安心させてやりたいと言った彼の声は慈悲に溢れていると感じた。

 

 あれほど強大な力を持っていながら、平民出身の一戦士に過ぎない自分にまで丁寧な口調で話しかけてくれるゴウン殿。素顔を直視するのは流石に怖いが、アンデッドとはとても思えないできた人だ。王国の糞喰らえな貴族様と違って、よっぽどゴウン殿の方が信頼できる。こんな人が人間で王国貴族だったらな、等と得体もない事を考えてしまう。

 

 辺りは既に暗くなっており、空には星々の瞬きが見えている。ロイはそれを眺めながら、隊長の目覚めを待つことにした。

 

「あの、サカグチ……様?」

 

 アルベドは先の失態から、ヒナタをどう扱えば良いかわからなくなり、変に気を使ってしまう。ヒナタはそんなアルベドの心境を察し、少し砕けた感じで応えた。

 

「ヒナタ、と呼び捨ててくれて構わないわ。リムル達とは知人というだけだし、同列に扱われるというのはちょっと、ね」

 

「そ、そう。じゃあ……そうさせてもらうわね。私の事も呼び捨てにして頂戴」

 

「ああ、わかった」

 

 アルベドは少し畏まった空気をほどく。人間であるヒナタを前にしても、アルベドは自身も不思議なくらいに嫌悪感を抱かずにいられた。以前は人間を見るだけで吐き気にも似た嫌悪を感じたというのに。それはヒナタが惰弱な他の人間とは違うからなのか、アインズやリムルと繋がりがあるからなのか、アルベド自身にもよく分からなかった。だが、ヒナタにはまず最初に確かめておきたいことがある。

 

「ヒナタ。一つ聞くけれど……」

 

「何か?」

 

「その、以前男性を保護したという話をしていたわよね?」

 

「ああ、アレか……」

 

 ヒナタは内心の焦りを表に出さない様に取り繕う。あの時はまさかアインズが()だとは思っていなかった。しかし今はアインズの正体も、アルベドが元々ゲームのキャラクターだった事も知っている。彼女が真実を知ったときどんな反応を示すか未知数である以上、彼が元々人間だったと勘づかれるのは危険だ。

 

 真実を知った結果、暴走して暴れだす可能性も否定できないのだから。

 

「ちょっといいかしら」

 

 そう言ってアルベドが正面からヒナタの胸を鷲掴みする。ヒナタは戦いにおいても鎧の類いは装備しておらず、細剣一本で臨んでいた。そのためその手を遮る固いものはなく、白いブラウスと肌着越しに胸がムニュリと歪む。

 

「な、何をっ!?」

 

「いいじゃない女同士なんだし。減るもんじゃ無いでしょ?」

 

 突然の事に驚いたヒナタは背を向けて胸を隠そうとするが、アルベドは後ろから抱きつき、ヒナタの胸を無遠慮にまさぐる。

 

「じっとしなさい、少しだけだから」

 

「な、何を言って、んぅっ、くっ……!」

 

 あっという間に敏感な部分まで探り当てられ、ヒナタは思わず声を洩らしてしまう。

 

「感度も良好……」

 

「い、いい加減にしろ!」

 

 ヒナタが顔を赤らめて半切れしながら叫ぶと、アルベドは手を離した。そして自分の胸を揉みながら口惜しそうに呟く。

 

「く、僅差で負けたわ……」

 

「あ、貴女ねぇ……!」

 

「やはりアインズ様も大きい方がお好みなのかしら……。ヒナタ、貴女はアインズ様のお好みのサイズについて、何か知らないの?」

 

 アルベドの性技を受け、へたりこんでしまったヒナタは胸を両手で隠しながら抗議しようとしたが、アルベドの表情は極めて真剣であった。その目にはうっすらと涙まで浮かべている。

 

「はぁ、最初に聞きたいことがソレなわけ?そんなの私も知らないわよ。アンデッドなんだし、そういう欲望自体持ち合わせていないんじゃない?」

 

 それを聞いたアルベドはショックを受けて固まっていたが、まさか自分が理想のオッパイと言われかけただなんて言えない。知られてはもっと色々マズい事になりそうだった。

 

(……す、凄いものを見てしまった)

 

 ロイは少し離れたところでアルベド達のやりとりを横目で見ながら、アルベドに内心で賛辞を贈るのだった。

 

 

 

 

 一方、カルネ村。

 アインズはソリュシャン達を連れていこうと思っていたが、リムル達を見てまた気絶してしてしまったので、仕方なく置いていくことにした。戦士団への対応も含め、アルベドに丸投げして村の入り口へと転移で逃げてきたのであった。

 

 村に入っていくと、何やら香ばしい香りが漂っていた。夕食でも作っているのだろう。しかし、なんというか郷愁を誘うような良い香りだ。

 

(もしかして、ヴェルドラさんの仕業か?)

 

 リムルからは村にヴェルドラがいると爆弾発言をされ、色々とヤバいんじゃないかと内心焦っていたが、どうやら村人達とはうまく打ち解けたのだろう。この分ならセバスもきっと無事だろう。

 

 アインズが魔法を掛けておいた家屋はもぬけの殻となっており、広場の方からガヤガヤと賑やかな声が聴こえてくる。そこには村人達が集まっていた。

 

「クァハハハ!」

 

 聞き覚えのある口調の笑い声のする方を見ると、村人が皿を持ってヴェルドラの前に並んでいた。ヴェルドラは何処からか出した鉄板の上で、円盤状のものを焼いている。ソースが鉄板の上でジュージューと焼ける音と、香ばしい香りが辺りに広がっている。アインズはソレが何であるか知っていた。

 

 アインズが村を後にしたときには誰もが暗い顔をしていたが、今は皆笑顔を見せている。ヴェルドラは人の姿になれるし、人好きのする明るい性格のため、ここでもすぐに人気者になったようだった。アインズは彼を少し羨ましく思う。

 

(いるよなぁ、こういう誰とでもすぐに仲良くなれちゃう人って……。でもまさか彼の本性が巨大なドラゴンだなんて誰も想像つかないだろうなぁ)

 

「あ、ありがとうございます」

 

「熱いからヤケドに気を付けるのだぞ?慌てず順に並ぶが良い!まだまだ材料は在るからな!」

 

「あっゴウン様だ~!」

 

 立ち尽くすアインズを見付け、ネムが笑顔で駆け寄ってくる。

 

「お姉ちゃん、これお願い!」

 

「あっ、ネ、ネム!うわっ?と!」

 

 エンリは慌てて妹を追い掛けようとして、ネムが投げ渡した皿を曲芸のような姿勢で見事にキャッチして見せる。周り拍手と歓声を送り、顔を赤くしたエンリは苦笑いを浮かべた。母のアメリは娘達が普段通り元気に振る舞うのを見て嬉しそうに笑みをこぼした。

 

「あ、あは、あはは……はぁ」

 

「まぁ、ネムったら」

 

「ゴウン様っ!ネムは信じてました!ゴウン様は必ず勝つって!」

 

 純粋なネムの尊敬の眼差しに少し照れながら、アインズはガゼフに花を持たせつつ、村の皆に勝利の報告をする。

 

「はは、いや、大変だったとも。あれほどの手練れが揃っているとは。戦士長殿も凄かったぞ?まさに戦士長の名に相応しい、すごい戦いぶりだったよ。彼がいなければ勝敗は見えなかったさ。

 今は疲れきって皆さん休んでいますが……。何はともあれ、我々の勝利です!」

 

 村から歓声が上がる。ヴェルドラの計らいのお陰で笑顔を見せていたものの、内心不安があったのだろう。心から安堵の色が見えた。

 

「クァハハハ、では憂いが無くなったところで皆で食事の続きをしようではないか!ほれ、モモンガも食すであろう?」

 

「……え?」

 

「あっ今はアインズであったな。それにアンデッドの肉体では食事も無理であった。スマン、我としたことがウッカリしておったわ」

 

(こ、このオッサンは余計なことを……!)

 

 悪びれもせずウッカリで済まそうとして更に失言を重ねるヴェルドラに、アインズは痛まないはずの頭痛がする。名前だけであればまだ問題はなかったが、種族を明かすのはまずいだろう。ヴェルドラはムードメーカーであると同時にトラブルメーカーでもあるのだ。こういう事を時々仕出かす。

 

「あー……」

 

 アインズが周りを見渡すと、村人達の多くは怯えの表情が浮かんでいた。アンデッドと聞いて怯えない者などいないだろう。生者を憎むとされるモンスターなのだから。アインズは半ば諦めの念を抱き、正体を明かす事にする。

 

「はぁー、仕方ないか……こうなることは分かっていました」

 

 仮面を取り、素顔を晒すと、小さな悲鳴やどよめきが聞こえてくる。大声で騒ぎ出したりはしないが、やはりアンデッドが人間に受け入れられることは無いのだろうか。人間に対して同族意識は無いものの、寂しさに似た疎外感を感じる。騒ぎになる前にこの村を離れよう。そう思いかけたその時、足に何かぶつかるのを感じた。足元を見れば、ネムがギュッと抱きついてきていた。

 

「皆、ゴウン様は怖くないよ!だって村を守ってくれたんだもの!お姉ちゃんの怪我を治してくれたもん!」

 

「そ、そうです!殺されそうになっていたネムを、私たちを助けてくれたんです!村の恩人じゃないですか!人間じゃなくたって、ゴウン様は優しいお方なんです。ですから、ですから、皆そんな顔しないでください!」

 

 エンリとネムが必死で大人達を説得する姿を見て、アインズは胸が熱くなる気がした。二人の説得の甲斐あってか、周りの大人達から怯えの表情が消えた。そして村長が歩み寄って来る。

 

「ゴウン様、大変失礼致しました。ゴウン様は村の恩人なのに。私達大人はどうしても、外見で判断してしまいがちで……」

 

 やはりこの村長は何処までもお人好しだなと思いながら、少しアインズは気が軽くなった。

 

「いえ、仕方ありませんよ。普通アンデッドは生者に襲いかかるものですし、私のように生者を憎んだりしないアンデッドなんて、極めて稀でしょうからね」

 

「ゴウン様、本当にあなた様は一体……?まさか!?」

 

「え?」

 

 アインズは嫌な予感がする。

 

(まさかまたスルシャーナとか言い出すんじゃないだろうな?)

 

「スルシャーn「違うんです!」……え?」

 

 素早く被せぎみに答えたアインズに村長は驚く。

 

「実は、以前もそういう勘違いをされた事がありまして……。でも本当に別人です」

 

「うむ、スルシャーナとやらはこの世界で神と呼ばれる存在なのであろう?こやつとは別人であろう」

 

「でも種族は同じかもねー」

 

 ヴェルドラと、肩に乗っているラミリスがそう言うと、スルシャーナ様と同じということは神の一族なのか!と村人の脳内では変換されてしまったらしい。村人達が皆一様に跪き、アインズをドン引きさせた。

 

(えー!?なんでこうなるんだよ?)

 

 アインズは額に手を当て、投げやりに言葉をこぼす。

 

「あー、じゃあ、ソレでいいです、もう……ただ、スルシャーナがどうだったかは知りませんが、私が人間だけの味方をするとは限りません。それは覚えておいてください」

 

「そ、それは一体どういう事でしょう……?」

 

「私は異形種。アルベドをはじめとする部下達もまた、異形が殆どなのです。一つの種族だけ特別に肩入れするという気にはなれないのですよ」

 

 村人達は沈痛な面持ちで肩を落とすが、アインズは神様とか崇められても胃が痛い思いをするだけだし、ある種族だけに贔屓しては、色々と軋轢を生むことになるだろう。尤も、胃袋などないのでただの気のせいなのだが。

 

「ふむん、それくらいの距離感がちょうどいいかもしれんな。人間の自立心を損なわぬためにはな」

 

 ヴェルドラが珍しく良い事を言っているっぽい。村人達はヴェルドラの言葉を聞いてハッとした表情を浮かべた。

 

(お、なんか良い方向に……)

 

 ユグドラシルというゲームの世界では、人間種と異形種は敵対して争うことが多かった。しかし、人間種プレイヤーが異形種を目の敵にして異形狩りをしてきたから対抗していたのであって、ギルドメンバー達も別に人間種が嫌いとかいうわけではない。もしこの世界に、今は亡きギルドメンバー達が一緒に来ていたら、血で血を洗うような醜い争いは望まないだろうと彼は考えていた。

 

 神様として崇拝されるのは御免だが、悪い連中ではないという認識をまずは持って貰えれば良しというところだろう。

 

(よしよし、その後交流を続けて良好な関係に持っていければ……)

 

 そんなことを思っていたのだが、いきなりその計画は座礁することになる。

 

「成る程、我々のために……我々がただ何もせずゴウン様にすがってしまい、自分達の力で立ち上がろうとしなくなる事を危惧しておいでだったのですね。何処までも村の為を考えてくださる、神の慈悲の御心とはこれ程までに深く広いものなのですね」

 

「ご、御理解いただけて何よりです」

 

(……嘘だろ?)

 

 村長が感動の涙を流し、訳のわからないことを言っている。村人達も村長の涙に当てられたのか、目頭を熱くしているものや、ゴウン様!俺達頑張ります!とか感極まってる男衆もいる。正直アインズの理解の埒外である。

 

「そう言えば、モモンガ、というのが本当のお名前なのでしょうか?」

 

「あー、そうですね……。正式には、モモンガ・アインズ・ウール・ゴウン・ナザリックです」

 

(なんだよそれ、馬鹿みたいに長いじゃないかっ!)

 

 村長の質問に、アインズはハンドル名とギルド名、拠点名を継ぎ接ぎしただけの長い名前を咄嗟に名乗ってしまった。我ながら長すぎると思うが、これだけの情報を乗っけておけば、プレイヤーにはすぐわかる目印になるだろう。とりあえず人間とも友好的に接するという布石も打ったし、いきなり敵として襲ってくる可能性は低くなったと強引に思う事にした。

 

 一方、五つの名前を持つことに驚き、どよめく村人達。王国民にとって、五つの名は王族の証なのだ。神族の中でも王の立場に当たるお方なのでは、と勝手な想像が拡がっていき、既にアインズは村人の中で神の中の神になっていた。

 

 自分達が異形であることは内密に、というアインズのお願いを、村人達は笑顔で受け入れてくれた。

 同時に将来一大宗教勢力となる魔王モモンガ信仰が、カルネ村で密かに始まるのだが、この時まだ本人は全く気付いていなかった。

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