異世界に転移したらユグドラシルだった件   作:フロストランタン

39 / 90
今回は幕間です。舞台は日常(リアル)で、ユグドラシルが終わる前のお話です。

結構短いです。


#39 幕間~タブラ・スマラグディナ最後の日~

 某日、ナザリック地下大墳墓     

 

「……ふぅ、もう一息か」

 

 私は玉座の間で一人アルベドに向かい、設定を調整していた。一度は完成していたが、リムルという少女のギルド参加決定を受け、新たな創作意欲が湧いたのであった。

 

「フフフ、面白いことになったな……」

 

 誰もいない玉座の間にて、独り言ちる。ディアブロにリムル。あの二人ははっきり言って危険だ。そう感じるのに、一方でワクワクしている自分がいる。

 

 だが、自分にはもう時間がない。ユグドラシルで遊べるのも、今日で最後になるだろう。それでもやはりワクワクが収まらない。我ながら、心身ともに厄介な病を患ったものだ。

 

「ああ、やっぱりここだったね」

 

 玉座へ入って来たのは死獣天朱雀。他のギルドメンバーにはあまり知られていないが、彼とは二十年以上前からの長い親交があった。

 

「少し待ってください。もうすぐでき上がりますから」

 

「そうかい」

 

 30秒ほどカチャカチャとタイプする音が鳴り響き、そして手を止めた。

 

「ようし、出来た。超大作……!」

 

「どれどれ?……うわ、やってるねぇ」

 

 濁流の如き文字の羅列に、流石の彼も辟易する。何しろ、入力可能なテキストの限界まで詰め込んでいるのだ。そして勿論その意味は文章上のものだけではない。

 

「で、どうでした?」

 

「ふっふっふ……」

 

「え、まさか?」

 

「うん、かなりヤバイね。僕達よりも遥かに上を行ってる。ユグドラシルじゃ誰も敵わない筈だよ」

 

「それほどですか……!」

 

 彼の態度は危険な何かを見つけた様であり、それでいてどこか楽しげですらある。驚愕する自分をよそに、彼は続ける。

 

「これまでの研究が実を結ぶかもしれない。やっぱりアレは本物だよ」

 

「じゃあ……やるんですね?」

 

「うん。素材も見つかったしね……」

 

「…………」

 

 二人だけの空間に暫しの静寂が流れる。

 

「あの娘、でしたね。始まりは」

 

「うん……」

 

「私はもう何もできませんが、成功を祈りますよ」

 

「やって見せるさ、何を犠牲にしてもね。……ん?んん?これは……!」

 

 喋りながら文章を最後まで読み終えた朱雀さんは驚きと感嘆の声をあげる。一度目を通しただけで仕掛けを見抜いてしまった。

 

「流石は希代の天才古城(ふるき)教授。もうバレましたか」

 

「はは、おだてても何も出ないよ。そんなご大層なものじゃないさ。そう、大切な人一人未だに助けられない、ただの凡人だよ」

 

 再び沈黙する二人。先程より重たい静寂が、辺りを包む。

 

 彼の悲壮な決意は知っている。何をしようとしているのかも。

 

 きっと、彼は間違っているんだろう。

 

 それでも、私は彼を止められない。止める気にはなれない。

 

 出来るのは、少しの間気を紛らせる事だけだ。

 

「……モモンガさん、喜んでくれますかねwww」

 

「ぷっ、絶対からかってるでしょ、コレ?」

 

「そんなことありませんよ、イヤよイヤよも好きのうちって……くっく」

 

「あはははは」

 

「はははは、はぁ。……残念だなぁ、モモンガさんの慌てた顔が見れないなんて」

 

「そっか、もう……」

 

「ええ。でも、悔いはないですよ」

 

「そうかい。うーん、僕の中では茶釜君なんか良いと思うんだがね……」

 

「えー?あっはは、ナイナイ、ないですよ。彼は胸が大きくて大人っぽい女性が好みのはずです」

 

 茶釜さんは無いだろう。確かにノリはいいけど、彼の好みはもっと淑女然とした大人の女性だと思う。そういう女性が夜はあられもなく乱れちゃう、なんてギャップはグッと来るはず。

 

「そうかなぁ?でも、アルベドも無いんじゃない?NPCを嫁に出すってのは流石に……ぷっ」

 

 暫し笑い合ったあと、準備があるからと彼は帰っていった。

 

 ピッ

 

「これでよし、と。……幻の42人目か」

 

 私はアルベドの設定画面を閉じ、再び独り言ちる。そして一人、玉座で最後の演技(ロール)を。

 

「彼、或いは彼女は異界より訪れし者。

 一柱の大悪魔を従え、彼の時に降臨せり。

 その力は超軼絶塵。神出鬼没の虚空の支配者である!」

 

(よ~し、ノッて来たぞ!)

 

「古の盟約を果たさんと再び彼の者が現れん時、新たなる扉は開かれん!

 それは破滅の扉か、はたまた神話創生への第一歩か。

 恐るるなかれ、彼は盟友!彼女は唯一無二の栄光の架け橋!盟約に従いて守り抜け!

 譬え世界の全てが敵だとしても!」

 

(決まった……!)

 

「はぁ、全く……」

 

 誰も居ないところで何やってるんだろうな、と自嘲と共にため息を吐く。振り替えるとアルベドが微笑を湛えたまま此方を見つめ、静かに佇んでいる。NPCと解っていても何だか気恥ずかしい。

 

「んんッ、アルベドよ。私の時間はここまでのようだ。達者でな。モモンガさんを、そして彼女を頼んだぞ」

 

 愛娘(アルベド)に手短な別れを告げる。自分の病に自覚はある。そんな私に楽しく付き合ってくれた仲間達には感謝している。

 

「うっ」

 

 身体にはしる激痛。薬が切れたか。

 

(こっちの自覚症状もそろそろ限界だな……本格的に入院しなきゃな)

 

 その日を最後に、私はユグドラシルを引退した。装備は置いていったが、最後くらい、彼に直接手渡したかったな。

 

 コンソールを出し、ログアウトする。ブラックアウトし、現実の世界に帰ってくる。私のユグドラシル人生はこうして幕を閉じた。

 




リアルでのタブラさん引退のお話でした。

何かの特典でタブラさんが登場したというような事を何処かで見た気がしますが、内容は不勉強のため存じ上げません。勝手に妄想で書きました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。