異世界に転移したらユグドラシルだった件 作:フロストランタン
翌朝
「いよーっす。みんなお早う」
「お早うございます!」
「お、お早うございます……え?あ、あの」
「「「……」」」
朝食を楽しんだ後、アルベドに頼んで階層守護者達を第六階層の円形闘技場に集めてもらった。プレアデスにもあとで合流してもらうつもりだ。
「どうした、元気がないぞ?メシ食ったのか?」
「……なんなんでありんすか、この格好は?」
「ん?ジャージって言うんだ。どうだ、動きやすいだろ?」
「動きにくくはないけど。て言うかダッサ……」
集まった皆にはジャージを着て貰っている。アウラ、マーレ、シャルティア、そしてデミウルゴスとコキュートスもだ。男女で赤と緑、色違いのジャージに身を包んでいる。アウラとマーレは何故か男女逆の色を着ているが、まあいいか。子供は男女逆に着せるのがかぜっちのポリシーみたいだし。
コキュートスだけは要らなかったかもしれないな。一応サイズは自動調整されるはずなのだが、何故かゴツゴツしたボディラインが出てしまっている。どこぞの連邦軍の白い悪魔にピチピチのジャージを着せたかのような無理矢理感だ。
「うん、皆よく似合っている。あー、コキュートス君は脱いでも良いぞ、逆に窮屈だよな……」
「ムウ、ソウサセテモラオウ」
「せめてブルマとか白スクとかありんせんのかえ?こな不格好な姿をアインズ様に見られたらと思うと……」
「ホントホント」
「うーん……」
女子らしく見た目を気にして文句を言うシャルティア達のブルマ姿を想像してみた。似合わなくはないが、二人ともまだ子供だし、シャルティアの一見大きく見える胸も、実は上げ底している事を知っているので、別に見たいとは思わない。
ペロロンチーノがキャラデザインの彼に出した希望は貧乳キャラだったらしいが、貧乳が嫌いな彼はそれを受け付けなかった。そして出来上がったデザインはロリ巨乳のシャルティアだった。結局その巨乳は本物ではなく、「大量の胸パッドを詰めている」設定にしたという経緯がある。
俺はシャルティア達よりも、どうせならもっと大人っぽいソリュシャンとかルプスレギナにそういう格好をして貰いたい。ちょっとコスプレ感がするが、むしろそれがいい。
《…………》
おっとシエル先生が何か言いたげなご様子だ。あまり怒らせたくないので、これ以上余計なことは考えずにおこう。
「ま、今は気にするな。これから汚れる事になるだろうしな」
因みにアルベドは、アインズにくっ付いて一緒にカルネ村へ向かっているため、此処には居ない。
ナザリックのすぐ近くには危険な存在がないと確認されているので、現在は表層部に策敵が得意なしもべを配置している。周りにいくつも丘を作って上空には幻術も展開しているので、陸からも空からもわからない様にはなっているが、何者かが偶然に迷い混んで来る可能性もある。警戒しておくに越した事はないのだ。
「えー、ではリムルさm 」
「デミウルゴス君?」
「おっと、そうでした。リムル先生!」
「うむ、なんだね?デミウルゴス君」
「プレアデスはまだですが、守護者が揃いましたので、そろそろ授業に移って頂いてもよろしいでしょうか」
「……は?」
アウラが思わず素っ頓狂な声を上げる。デミウルゴスは何を言い出すのかと。
「そう。俺達はアインズさんに雇われ、君達の先生をやる事になったんだよ」
「わははは、そういうことなのだ」
「クフフフフ。よろしくお願いします」
「「「え?え?……ええ~!!?」」」
どや顔のリムル達と満足げに頷くデミウルゴス。両者を交互に見ながら、子供達は思わず叫んでいた。
草原に立つエンリは震えていた。この時期はまだ朝の気温は高くは無いが、しかし決して寒いわけではない。震えているのは緊張の為である。
(ああ、ゴウン様が見てる前で失敗したらどうしよう?)
ゴウン様とアルベド様が朝訪ねてきて、笛を使う所を見ておきたいと言うので、村の側でやることになったけれど、村のほぼ全員が来てしまい、かなりの注目の中でやることになってしまった。
「どうした?軽い気持ちで吹けばよかろう?」
「ゴッ!ゴウン様に頂いた物を、気軽になんて扱うわけにはいきません!絶対に、絶対に成功させます!」
ヴェルドラさんは気楽にやれ何て言うけれど、そんな訳にはいかない。ゴウン様から賜った大切な笛を握りしめる手に更に力が入る。お姉ちゃん頑張れー、そうだ、頑張れエンリ、と妹や母、村も皆さんから声援が送られ、緊張が否が応にも高まっていく。
(絶対に失敗なんてできないぞ、頑張れ私!)
一方、アインズは何とも形容しがたい心持ちでエンリ達の様子を眺めていた。"ゴブリン将軍の角笛"は課金ガチャのハズレアイテムであり、彼にとっては、言ってしまえばゴミだ。そんな物を使う為に朝から村が総出で集まって来ているのである。大袈裟にも程がある、というのが彼の正直な感想だった。
アルベドは彼らの様子を見ながら、微笑を浮かべたまま佇んでいる。その姿は見る者によっては人々を優しく見守る天使か女神の様に映るであろう。それは彼女の演技に過ぎないが。
村の男達も彼女をおっかないとは思っているようだが、チラチラとアルベドに視線が向けられているのがわかる。彼女の美貌に、いけないと思いながらもついつい目が行ってしまう、という感じである。
(まあ、第一印象がアレだったし、異形種とは言ってもそれほど恐れられてはいないのかもな。しかし、ガチャのハズレだから気軽に、なんてとても言えない雰囲気だぞ……ただアレを吹くだけなのに大袈裟過ぎないか?エンリも自分でハードル上げてるってことには、気付いて無いんだろうな)
エンリは胸に手を当てて数度深呼吸を繰り返し、そして角笛を構える。エンリコールが鳴り止み、場を何とも言えない緊張感が漂う。
「いきます!」
プピョロロ~
「…………」
静寂を破って鳴り響いた角笛の音は、エンリの気合いとは裏腹に余りにも間抜けな響きであった。
「クァーッハッハッハ、何だその音は?遊んでおるのか?ん?」
「わ、笑っちゃダメだよ、ウププ……」
ヒドい。村の者達も笑いを堪え、生温い視線を向けているのが見て取れた。エンリの顔がみるみるうちに真っ赤に染まり、泣きそうになりながらアインズに弁明しようとする。
「ゴ、ゴウン様、あのこれは、そ、そのっ……あうぅ……」
(え、俺!?俺が何とかするのか!?)
今にも泣き出してしまいそうな表情のエンリ。何か慰めの言葉でもかけてやれれば良いのだろうが、生憎彼はリアルではエンリくらいの女子とロクに会話した記憶が無い。若い女の子を慰める気の利いた台詞など、咄嗟には思い浮かばない。
「あー、エンリ……」
どうにか言葉を紡ぎ出そうとするアインズ。しかし、続きがどうしても出てこない。
(くっ、ええい
「あっ……」
アインズは苦し紛れにエンリの頭に手を置き、そっと撫でてみた。大人が子供を慰めるときにやっているのを何かで見たのを思い出したのだ。無骨なガントレットで頭に手を置かれたエンリは一瞬肩をびくりとさせたが、そのままされるがままになっている。どうやら嫌がってはいないようだとアインズは判断し、ホッと胸を撫で下ろす。
(ペットを可愛がる感覚ってこんな感じなのかなぁ……?)
アインズは犬を飼っていたというギルドメンバーをふと思い出す。犬が自分が帰宅する度に嬉ションをして困るとか言っていたが、何故かとても嬉しそうに話していた。何だかんだ言ってそんな所も含めて可愛がっていたんだなと今では解る。
(それにしても、何か特殊な使用条件でもあったのか?ガチャのハズレアイテムの癖に使用条件付きとか鬼だろ。はあ、鑑定もせずに使わせたのは迂闊だったなぁ……)
すっかり失念していたが、アイテムは特定の職業を修めているだとか、必要な条件を満たさなければ使用できない物も少なくなかった。魔法の
職業など使用者に依存する条件なのか、立地や時間など外的要因なのかわからないが、失敗したのなら、何らかの条件不足によって失敗したという線が濃厚だろう。改めて鑑定をして、必要な条件を満たす方法を考えなくてはならない。
「あ、あの……」
「ん……?あっ」
思考に耽っていたアインズを、エンリの声が現実に引き戻す。気付けば多くの目があるなかで随分長く撫でていたようだ。恥ずかしそうに頬を染めるエンリと目が合い、アインズは慌てて手を離した。
「す、すまん、つい、な」
「あ、い、いえその……ありがとうございます」
ギリリ、と何処からともなく謎の音が聞こえてきた気がする。チラリと隣のアルベドを見ると、微笑を浮かべながらも目は全く笑っていないという器用な芸当をやってのけていた。
(こ、怖っ!アルベドのやつ、何か怒ってるのか?あ、もしかして
アインズは自身の経験則から、彼女の心情を察した。しかし女心というものは全くわかっていないため、その解釈は少しズレていたのだった。
「エンリよ、無事に召喚は成功したようだな」
「ん?」
「……へ?」
さっきまで能天気に笑っていたはずのヴェルドラが、さらっと重要な事を告げてくる。
「さあ、いつまでも隠れておらず出てくるがよい!」
ヴェルドラの声に数瞬遅れて、がさ、と草の茂みから立ち上がる人影。緑色の肌、低い上背。その特徴ゴブリンである。だが、その見た目は村人達の知るゴブリンとはまるで違う。一人一人が明らかに鍛えられているのだ。
皮の鎧を着た筋肉隆々の戦士風の者や、
村人達は召喚されたゴブリンだと直ぐに気付いた。が、ゴブリン達の屈強そうな雰囲気に、皆エンリ達の後ろに回りこむ。
「やっぱりバレてやしたか。あんた方、一体何者ですかい?」
鍛え上げられた戦士風のゴブリンが、冷や汗を流しながら困惑気味に尋ねる。
「フフン、我が名はヴェルドラ!覚えておくが良い。クァハハハ!」
鷹揚に腕組みしながら、ヴェルドラは自慢気に高笑いする。アインズは簡単に自己紹介して、エンリが召喚主だということ、召喚の目的を簡潔に説明した。
説明を聞いていたゴブリンのリーダーだという屈強な戦士が、冷や汗を垂らしながらアインズ達に尋ねた。
「それで、あんた方は本当に味方……で良いんですね?敵対しないで済むのはコッチとしても助かりやすが……特にそっちの姉さん方からはヤベエ匂いがプンプン 」
ヤベエ匂い。つまり、このゴブリンは戦士としてアルベドやヒナタの強さを感じ取ったということだろう。しかし、その言葉の途中で途切れた。ヒナタが抜剣し、彼の喉元にその剣先を突き付けていたのだ。反対側の頚部にはアルベドのバルディッシュが迫っている。みるみるうちにゴブリンの顔色が、緑色から青白く変わっていく。
「今……何か言うつもりだったか?」
「い、いえ何もっ」
「言葉には気を付けなさい……」
「へ、へい、気ぃ付けやす……」
二人が武器を納め、解放されたゴブリンのリーダーは、膝を折り、魂が抜けたかのように呆けた顔で地面にへたり込んだ。美女二人に睨まれ生きた心地がしなかったであろう彼には、少なくない同情の目が向けられ、結果的にゴブリン達は優しく迎え入れられた。
ただ、一つ問題があった。顔が殆ど見分けがつかないのだ。笑った表情を見ても多分今笑ったんだな、と辛うじて察する事が出来る程度である。人間と亜人の種族の差異は意外と馴染むまで大変そうだ。そこで、覚えやすいように格好から入ってもらう貰う事にした。一人一人を識別しやすいようにと、腕章を渡してやったのだ。顔が見分けられないなら格好で見分けようと言うわけである。
因みにこのゴブリン達だが、召喚主のエンリを主人と認識しており、あくまでも彼女の直属の部下でいたいらしい。誰の言うことも聞かないでは困ってしまうが、エンリの言うことなら聞いてくれるのだから、アインズも特段言うことはない。
(エンリには彼等を統率するリーダーとして色々頑張ってもらうとしよう。ついでに指揮官としての職業も取得できるか気になるところだな)
「村の皆とも仲良くやってくれるならば、私はそれで構わないとも。頑張れよ、エンリ」
「は、はいっ!この御恩にきっと報いて見せます!」
胸の前で両手を握って元気に返事をしたエンリは、先程よりも少しだけ凛々しく見えた。
「それから二人とも、ちょっと……」
アインズが声をかけたのはヴェルドラとラミリス。アインズが村に着いてすぐ、二人からどちらの案が良いかと資料を渡してきた。どうもカルネ村を防衛の為に改造する都市計画書らしい。百頁以上ありそうな分厚い資料は読み込むのは大変そうだったので、とりあえず後で簡単に概要を説明して欲しいと言っておいたのだ。
アインズは二人と話し合うことがあると言って、空き部屋を貸してもらい、アルベドと一緒に二人のプレゼンを聞く。
「アルベド、どう思う?」
「……僭越ながら、村にここまでの戦力を持たせるのは危険かと」
「だろうな。申し訳ないが、二人とも却下で」
「な、なんだとぉう!?」
「あたし達が夜なべして考えたってのに、なにがどう駄目なのよさ!」
「いや、二人とも斬新で素晴らしい案だったさ。また、あれだけの資料を一晩でまとめる手腕も称賛に値する」
憤懣やる方無しといった表情で抗議する二人に、頭からダメ出しして否定すれば、腹立ち紛れに暴れられるかもしれない。そうしたら自分達には手が付けられない。
しかし、そこは彼も長年営業職でやってきた自負がある。うまく相手を乗せつつ納得させる方向に話を切り出す。小卒でも十数年も続けていれば、その経験は血となり肉となり、人を成長させるものだ。現在は血も肉もない、見事な
「ただ、アレは
実はちょっとどころではない。完成図の外観から既に近未来的な見た目は、文化レベルが中世ヨーロッパ程度と思われるこの世界にはそぐわない。近未来的なオーバーテクノロジーのオンパレードと言わんばかりの町並みは間違いなく悪目立ちすること請け合いだった。
(て言うか、
他にも町自体を地下に格納する構造や、24時間体制で周囲50キロメートル迄見渡す監視モニター室、開閉式ハッチに格納可能なメガトン級の巨大熱収束砲など、内心で二人のぶっ飛んだ発想に頭痛がする思いだった。コイツらをいつも抑えているリムルは本当にエライと思う。
余計な争いを呼び込むだけだと説得しても食い下がってくる二人。要は「向かってくるヤツなんて蹴散らせば良い」というアブナイ理論だが、ただ自分達の研究という名の趣味の成果を試したいだけの様に思えてならない。
(本当にあの糞ゴーレムクラフターと同じタイプだ。全く他人の迷惑考えてないんだから……いや、ゲームじゃないだけこっちの方が数段タチが悪いな。こういう手段は取りたくなかったけど……)
「そういえば、リムルから二人に手紙を預かっていたんだった。……アルベド」
「はい。こちらに」
アインズが二人に手を焼いて困ったときに見せるよう、リムルから渡されていたものだ。受け取った二人は手紙を読み進めるうち、顔が真っ青になっていく。
「「…………」」
ハラリと落ちた手紙を拾い上げ、仮面の下でほくそ笑むアインズ。テンペストの文書は流石にすらすらとは読めないので、何が書いてあるのかはわからないが、今の二人には効果テキメンだったようだ。冷や汗をダラダラと流しながら、二人は急に掌を返した。
「し、仕方がないな!我は心が広い。今回は見送ろうではないか」
「う、うん、アタシも途中で、流石にちょっとやり過ぎかな~って思ってたんだよね~」
(そう思ってたんなら最初から自重してくれよ……)
そんなわけで今回彼らの魔改造計画は潰えた……かに思われた。アインズはまだ知らない。"理不尽の申し子"と呼ばれたこの竜とイタズラ好きな妖精が、この程度で諦めるようなタマではないと言うことを。