異世界に転移したらユグドラシルだった件 作:フロストランタン
「んんっ、そいで?わたしたちに一体何を教えてくれるんでありんすかえ?」
「……」
引き攣った笑み浮かべているのは吸血鬼の少女シャルティア・ブラッドフォールン。そして胡乱気な視線を向けてくるダークエルフの少女アウラ・ベラ・フィオーラ。デミウルゴスを含め、他の守護者達も表情に緊張や困惑、猜疑の色が看て取れる。
守護者達の気持ちはわかる。なにせ、突然やって来た新参者が先生とか呼ばせてデカイ顔をしようとしているのだ。面白くないだろうし、信用して良いものかと疑ってかかるのは当然だ。
彼らは今のところ「主人の招いた客将だから」と、俺達に付き合おうとしてくれているようだが、それでは面白くない。やっぱり心から望んでいない事に無理矢理付き合わせるのは良くないと思うのだ。
《……》
ん?何かシエル先生が言いたそうにしているような気配がするが、きっと気のせいだよな。俺は何もおかしな事は考えていないはずだ。
「まあ、色々とな。モモ……アインズさんの許可も取ってあるぞ。ついでに幾つか解決を頼まれてる問題があるんだが……そうだな、まずは最初に少し俺達の事を知って貰おう。ちょっと遊びに付き合ってくれないか」
「あのねぇ……。アタシ達、遊んでる暇なんか無いんだけど?アインズ様の為にもっと働かなくちゃ 」
「ああ、それな……」
先に体を動かそうかと思っていたが、丁度アウラが気になる事を言いかけたのでその言葉を遮り、最初の案件を提起する事にした。
「お前らって、何でそんなに働きづめになってるんだ?それって問題じゃね?」
「はぁあ?至高の御方の為に昼夜を問わず一生懸命働く事の何が問題でありんすか?」
「アタシ達は至高の御方々の手によって生み出されたの。造物主様のために生きて、死ぬ事がアタシ達の使命だし、無上の喜びなの。まあ、アンタ達みたいに外から来た奴らにはわかんないかも知れないけどさ」
訳がわからないと反論するシャルティア。アウラはそれを援護するように熱弁する。
「ウム、私モ同意見ダ。コノ忠義、無理ニ理解シロトハ言ワナイガ……」
コキュートスもそれに賛同し、マーレとデミウルゴスもウンウンと頷いている。丁度ジャージ姿で闘技場に入ってきたプレアデス達も、いや、ナザリック全体に共通する価値観なのだろう。モモンガが窮屈がるのも頷ける。
なんせ、ついこの間まで一般人だったのにいきなり支配者然とした態度を望まれ、四六時中ボロを出さないように気を張っているのだ。数日とはいえ、よくやってこれたものだ。
っていうかあいつを見てて思ったが、支配者らしい演技が板に付きすぎている。もうコイツ魔王でいいんじゃね?と一瞬思ってしまったが、そんな軽いノリで余計な事を考えていると……。
《……》
いかん。シエル先生が何か言いたげにしている。余計な事を考えるのはやめよう。でないとただのノリで思っただけの事を本当に実現してしまいかねない。先生は本当に油断ならないのだ。
モモンガがNPC達を大切に思っているのは確かだ。だがそれは友人が作ったから、という点に執着しているように思える。それは言い換えれば、NPC達に正面から向き合っていないということになる。
それを批判するつもりは無いけど、いつまでも気を遣って他人行儀にするのは疲れるし、無理があると思うんだよなぁ。長い付き合いになるんだから、もう少し砕けた態度も見せ合った方が楽で良いと思うんだが。
まずは適度に休暇を取得させたい、ということだが、これは結構切実だったりする。コイツら、マジで休もうとしないのだ。最早勤勉を通り越して、ある種の病気を疑わなければならないレベルである。疲労を無効化するアイテムが有るとはいえ、働き詰めではいつか破綻してしまうのではないかとモモンガは心配しているのだ。
昨晩、夜中の三時に
しかも、メイド達に休暇を取るよう命じたら、毎日仕事をする喜びを取り上げないで欲しいと即日嘆願書を提出されるわ、守護者達はそもそも休暇の意味すら知らないわというブラック企業も真っ青な労働環境である。そこからかよ!と思わず突っ込んでしまった。
これを正常化しなくてはモモンガがストレスで禿げ……はしないか。既に抜ける毛がないし。死ぬ事も無いよな。アンデッドだからもう死んでる様なものだし……。だがとにかく精神衛生上良くないな、うん。
「君達が主人を敬愛し、忠義を捧げているのは勿論知ってるさ。そんな主人が君達に休暇を取らせたいと言っている。さあどうする?」
ごくりと唾を飲み込む面々。モモンガの意図がまるでわからない、という様子だ。意図も何も、ただ働きすぎてるから休ませたいだけなんだが。苦笑しそうになるのを我慢しながら、俺は言葉を続ける。
「はぁ、お前らにとっては主人の為に働く事が余程幸せなようだな」
「勿論でありんす!アインズ様のご命令なら、どんな事でも喜んで 」
「じゃあ、働くなって命令されたら?」
シャルティアが腰に手を当てて自慢気に胸を張っていたのが、急に表情を失う。なんでだよ、どんな命令も喜んで聞くんじゃないのか?
「あのなぁ……休む事を極端に恐がってないか?自分は要らないと思われてるんじゃないか、とかそんな風に思うことは無いんだぞ?」
しもべ達にとってモモンガは大きな精神的支柱になっているようだ。モモンガという名の「至高の御方」という存在に依存している状態とも言える。ナザリックが、モモンガが彼らにとっての世界の全てだといっても過言では無いだろう。まるで小さな子供が親との関係が世界の全てのように思っているのと同じだ。この世界観をもっと広げてやる必要がある。荒療治になるが、あの手でいくか。
「お前ら、ナザリックの外の世界をどれだけ知っている?世界には本当にお前らが至高と仰ぐ存在に並び立つような存在はいないのか?」
「そんなの居るわけが 」
「ないかどうか、確かめましたか?」
口を挟んだディアブロの言葉に、アウラは口をつぐむ。
「外の世界を確かめもせず何故そんな事が分かるんでしょうか?」
「そ、それは……」
「そもそも根拠は何でしょう?ナザリックしか知らないからナザリックが最高?その理論では、最高であると同時に、最低でもあると言えてしまいますねえ」
ディアブロの余りにも歯に衣着せぬ物言いに、場の雰囲気が一斉に変化する。
「おや?部下がこの程度でいきり立って暴力に訴えるようでは主人の程度が知れる 」
「う、ぎぎぎぎっ……!」
俺がそれを言葉にした瞬間、シャルティアが激昂しかけるが、デミウルゴスが肩を捕まえた事で、どうにか歯を食い縛り、ギリギリ踏み止まった。今にも飛び掛かってきそうな殺気を帯びているが。かなり力を込めたのだろう、シャルティアの肩にデミウルゴスの爪が深く食い込んでいるが、シャルティアが痛がる事はない。止めたデミウルゴスの方も眉間には皺が寄っており、感情を抑えきれてはいない。
「 などと、つまらない誤解を与えかねないぞ?」
本当は此処で手を出してくれた方が効率的に事を運べたんだが、これはこれでディアブロに対しての牽制にもなるだろう。なにかあるとすぐにぶっ殺そうとするからな、ディアブロは。
意地悪なやり方だとは思う。しかし、これはこの子達の為なのだ。
この子達はナザリックの中しか知らないのに、ナザリックを最高と決めつけて、外の世界を嘗めてかかっているフシがある。下手すれば、誰彼構わずケンカを吹っ掛けて、際限無く敵を呼び込みそうなのだ。流石にそんなの俺もフォローし切れないし、他のプレイヤー達には良い的にされてしまうだろう。ここはゲームの世界とは違うのだから、それでは困るのだ。喧嘩を売るんじゃなく、慎重に対話で距離を取ることを覚えて欲しい。
ずっとナザリックの外に出られなかった彼らは、まともな戦闘経験など無いはずだ。能力や相性面では劣らない相手にも、経験が皆無に等しい状態では、勝てる見込みは薄いだろう。以前乗り込んで来た程度のお粗末な奴等なら何とかなるかもしれないが、上位プレイヤーが相手となれば、NPCに勝ち目など無い。それほどに経験は重要だ。
モモンガはそれを証明する良い例である。彼のキャラクタービルドは魔王ロールに合わせた、いわゆる「ロマンビルド」というやつで、ガチで戦闘で勝つことに拘った「ガチビルド」には能力面で一段も二段も劣る。しかし、総合的なPVP戦績は上位プレイヤー相手でもかなり高い。戦術面の不利を戦略面でカバーし、異常なまでに勝率を引き上げているのだ。ぷにっと萌えが教えたPK術のお蔭らしいが、それを自分のものとしたモモンガの努力の賜物でもある。
「で、根拠の話だったな。何かあるのか?」
「……ナザリックに、二千もの敵が攻めてきた事があるんです」
マーレがポツリと呟くように言うと、皆が沈痛な重い表情を浮かべる。誰しも触れたくない話題なのだろう。
「ボクは、ボク達は、守護階層を守りきれなくって……やられちゃったんです。でも、第八階層で全部駆逐されたって……後で知りました。至高の御方々が皆やっつけて下さったって。だ、だから……その」
デミウルゴスとシャルティアは渋面を作り、アウラとマーレは今にも泣き出しそうな顔をしている。コキュートスは冷気を帯びた呼気を勢いよく吐き出した。彼らにとっては、自分が任された階層を守れず死んでしまい、あまつさえ主人の手を煩わせてしまったという、恥ずべき失態なのだ。
「千五百名以上のプレイヤーを相手に少数で撃退した。それが根拠か。だが同じことが出来る奴は他にも居ると言ったら?」
「ナニ!?」
「嘘!?」
「嘘じゃないさ。因みに、嘗て此処へ攻め込んだ奴等の強さは、プレイヤーの中では中の上。はっきり言って数が多いだけの格下だ。もっと強いヤツはゴマンと居る。『アインズ・ウール・ゴウン』より強い奴もな」
「馬鹿ナ!ソノ証拠ガ何処ニアル!」
「く……っ!」
コキュートスは思わず声を荒らげる。デミウルゴスは可能性を想定はしていたがそれでも受け止め切れない、と言ったところか。
「ゴ、
「ナーちゃん!やめるっすよ!うわっ」
ここへ来て、沈黙を保っていたナーベラル・ガンマが突如として怒りを迸らせる。ルプスレギナが制止しようとするが、至近距離で両手からバチバチと雷を迸らせるナーベラルは、既に止まる気配はない。
「アインズ様のお慈悲によって生かされているだけの
「ナーベラル!自分のしていることが分かっているの!?」
「止めなくていい」
俺は止めに入ろうとするユリを制止した。俺の言葉を聞いて、他の守護者達も傍観を決め込む。彼らは俺の正体の片鱗を掴む事を狙ってもいる。ナーベラルへの対応を見ることで、何か掴めるかもしれないと期待している様だ。
「ユリ姉さん、分かっているわ。アインズ様のご命令に背く事だということは。だから、そこの
悲壮な決意を固めるナーベラル。彼女の種族〈
そんな彼女が最も得意とする魔法を詠唱する。見敵必滅を決意して
〈
強化された第八位階の魔法は放たれ、のたうつ二匹の龍の様な電撃が俺に迫る。俺は口を開け、その龍を
喰った。
「そ、んな……?」
目を見開き驚愕するナーベラル。一同には放たれた魔法が俺の口の中に吸い込まれた様に見えただろう。実際喰ったんだが。
「うーん、別にそう旨いもんでもないな……」
淡々と感想を述べる俺に、守護者達まで唖然としている。
「な、何なんでありんすか、今のは!?」
「ん?見たまんまだぞ?喰った」
「はあああ!?」
「や、やっぱり、凄い人だったんだ……」
皆驚いてくれているが、中でも食い付きがいいのはやっぱり子供達だ。マーレには既にモモンガとの仲を知られている為、反応がより好意的なようだった。
「く……っ」
魔法を喰われたナーベラルは、無念そうに膝をつき、何処からか取り出した剣で首を……って!
「ちょ、待て!」
慌てて俺が剣を取り上げる。周りは何故かナーベラルの行動を止めようともしない。そしてナーベラルは何故か俺を怨めし気に睨み付けてくる。
「お前ら……止めないのか?」
「ナーベラルはアインズ様のご命令に背きました。罰を受けるのは当然かと……」
ソリュシャンが静かに淡々と答えるが、俺は納得いかない。
「だからって、何も死ぬこと無いんじゃ……」
「アインズ様の命令は絶対なの!それに、これはアタシ達の問題だから、あんたには関係無いでしょ!?」
「もしかして、命令守らなかった奴は、言うこと聞かない奴は死ねって、そう命令されてるのか!?」
アウラの発した言葉にミリムが声を荒らげ、横から口を挟んでくる。あいつがそんな事を命令するとは思えないが、俺も少し気になってしまう。ミリムの鬼気迫る態度にアウラはぎょっとして口ごもる。
「どうなんだ!?」
「そ、そう命じられた訳じゃないけど……」
「クフフフフ、自分が忠義を捧げる主人に断りもなく勝手に死ぬと言うのですか?」
ここでディアブロが口を開いた。変なこと言い出さないかと俺は心配しつつも言いたいようにさせる事にした。
「忠義を捧げる主の為に自らの命を捧げるという心意気は認めますが、死が償いになるという考えは感心しませんね。しもべたるもの、生も死も主の御心に従うべきであり、勝手な判断で死を選ぶなどあってはなりません。違いますか?」
ディアブロの言っていることはちょっと行き過ぎな気もするが、確かに失態を犯したからと言って、勝手に死なれたりしたら困る。モモンガだってそう思ってる筈だ。ディアブロの指摘に対し誰も反論できず、黙り込む。
「じゃあこうしよう。この件はアインズさんが帰ってきたら判断を仰ぐ。だから今勝手に死ぬな。な?」
「……仕方ありません。確かに、私の一存で命を絶つのは不敬に当たる恐れがありますので……」
ナーベラルも渋々ながら俺の提案を飲んでくれた。あいつなら間違いなく止めるだろうけどな。
「じゃあそういうことで、授業に移……る前に、やっぱりちょっとゲームをやるか」
俺はやっとの事で本来予定していた事を始める事にする。ここまで漕ぎ着けるのにどんだけかかってんだと先が思いやられ、頭を抱えたくなったのは秘密だ。
「ゲームって……何をするんですか?」
興味ありげに聞いてくるマーレに、俺は満面の笑みで答える。
「鬼ごっこだ」