異世界に転移したらユグドラシルだった件 作:フロストランタン
ナザリック地下大墳墓第五階層。
そこは侵入者を遭難させる程に吹雪く事もあり、冷気耐性がなければただ足を踏み入れる事すら自殺行為とも言える極寒地帯。
その一角に場違いな雰囲気を醸す、二階建てのメルヘンチックな洋館がポツンと佇む。氷結牢獄。その内部は外部よりも更に寒く、廊下は青白い氷に被われている。
アインズはセバスを伴い、ゆっくりとその中へと足を踏み入れた。
アインズは此処へ向かう途中、セバスからナーベラルの最近の様子を聞いていた。セバスによると、
アインズは自らの我儘な欲求のために軽率な行動を取ったせいで、ナーベラルを想像以上に深く傷付けていた事に気が付いた。あのときセバスは怒っていると思っていたが、ナーベラルの気持ちを慮り、彼女が挽回する機会を得るために必死だったのだと今なら分かる。
それなのに、あれ以来無意識に彼女との接触を避けていた。あの泣き腫らした目を思い出して、何となく気まずく思っていたのだ。忙しかったせいもあるが、そんなものは言い訳にもならない。
自分は部下のケアもろくに出来ない最低な上司だと、今も自責の念に駆られ続けている。こんなときに限って精神の抑制は働かず、キリキリとアインズの無いはずの胃を痛め付ける。
(まさか俺のあの一言でそんなに傷付いてたなんて)
ナーベラルがリムルに対して攻撃的になっていたのも、自分の彼女への何気無い一言が影響しているかも知れないと思うと、何とも言えない罪悪感が沸き上がってきた。
「ナーベラルの件は全て私が責任を持って対応する」
「……具体的にはどうなさるおつもりなのでしょうか?」
セバスは血色の悪い顔で心配げに訊ねる。彼も直属の上司として責任を感じ、ナーベラルの身を案じているのだろう。
「……私一人でナーベラルから事情を聴取する」
「そ、それは……」
危険では。ナーベラルは精神的に不安定になっている。少しの刺激で錯乱状態に陥ってしまうかも知れない。至高なる御身の玉体にもし傷でも負わせようものなら、今度こそナーベラルは即座に誅殺される。
「アインズ様。御身にもしもの 」
「却下だ」
「ですが……!」
アインズがセバスの提案を言い切る前に棄却する。なおもセバスは食い下がろうとするが、アインズは手を上げてそれを制止した。
「落ち着け。複数名で行けばナーベラルを徒に刺激しかねない。かといって相手が私以外ではプレアデスや守護者達同様口を割らない可能性が高いだろう」
「それは……しかし御身お一人でというのは、承服致しかねます」
「セバスよ、私がアルベドではなくお前を連れてきた理由がわかるか?」
唐突なアインズの質問に、セバスは必死に考えを巡らせる。
「……私がナーベラルの直属の上司だから、でしょうか?」
結局、他に心当たりは浮かばなかった。
「ふむ……。それもまあ、一つあるが……アルベド達は連れて行くべきではないと思ったからな」
ナーベラルのもとへと向かおうとしたアインズに、ナーベラルを誅殺すべきと最初に進言してきたのはアルベドだった。
確かにナーベラルの行いは、ミスで済まされるレベルのものではない。リムル達を客将として遇するというアインズの意に背く行為を自らの意思で行ったのだから。
その場に居た守護者達の多くも異口同音で、その時点で謀叛と判断し、処刑もしくは自死するべきだと言ったのだ。しかし、リムルがアインズに裁量を委ねるべきだと言い出した事で、誰も手を下さず、でなければ既にナーベラルの命はなかったという。
それを聞いたアインズはショックを受けた。失態を犯したとはいえ、ギルドメンバー達が残してくれたかけがえのない子供達に変わりはないのだ。それなのに、アルベド達は同じナザリックの仲間であるはずのナーベラルを殺すべきだと進言をしてきたのだ。
守護者あるいは守護者統括という責任ある立場だから仕方なく、なのかもしれないし、プレアデスならもう少し違った反応を見せたかも知れない。理性がそう言い訳をするが、それでもアインズは堪らなく悲しい気持ちになった。
(友人から預かった子達が主人の、俺の為と言って仲間を殺す?忠誠のため?そんなの馬鹿げてる……)
精神の沈静化が働いたお陰で怒鳴り付けたりはしなかったが、苛立ちを含んだアインズの「もう良い」というひと言に全員が黙り混み、顔を青ざめていた。思った以上に不機嫌な声を出してしまったことに驚いたアインズは、逃げるようにセバスを連れ、ナーベラルのもとへ向かった。
「私はナーベラルの行いを頭ごなしに責めるつもりはない。許すにせよ、罰するにせよ 『動機』を確かめなくてはならない。表面的な事象だけを見て罰を下すのは浅慮に過ぎる。問題の根底にあるものを究明し、適切な対応を取らなければ真の解決にはならないからな」
(殆ど朱雀さんの受け売りだけどな……)
ギルドメンバー最年長の死獣天朱雀であった彼は大学教授をしているだけあって、かなり博識であった。社会学や歴史学、医学、心理学、情報工学といった学術的な知識ばかりでなく、一般常識やビジネスマナー、如何わしい裏事情にも精通しており、様々な知識を彼に与えてくれた。理解するのも難しい内容は多かったが、それでも彼が教えた学生達よりずっと見込みがあると誉めて貰えた。
「おお、流石はアインズ様、そのようなお考えでいらっしゃったとは……愚昧なる私に教えていただき、有り難う御座います」
感服したというセバスにアインズはまた質問を投げ掛ける。
「前にも同じ問いをしたが、
「わ、私で御座いますか……?」
襲われているカルネ村を発見した時と同じ問いである。あのときは主人の決定に従うと答えた。しかし、深い智恵を持つ主人が、同じ解答を望んで同じ質問をするとは思えない。あのときとは違う解答を望まれていると悟ったセバスは、暫く躊躇し、そして意を決して口を開く。
「私は 」
私は牢の中で膝を抱えて座っている。拘束具こそ付けられていないけれど、外の世界と隔絶する独房の格子が私の今の立場を嫌でも思い知らせてくれる。
『氷結牢獄』の名前の通り、此処はナザリックに敵対した者を放り込む牢獄なのだから。
ナザリック地下大墳墓の主人が招き入れた客将に無礼を働いた不忠者。ナザリックに属する者なら誰もが自死を懇願したくなる程の不名誉。けれど、自死すら今の私には許されていない。私の行動は至高の御方の名誉を穢してしまったという点に於いて弁明の余地はなく、厳罰に処されて然るべきだと思う。
私を創造して下さった弐式炎雷様を初め、至高の御方々は次々と御隠れになられた。私を含め、ナザリックの守護者様方も大層寂しそうになさっていたけれど、いつかお戻りになられる日が来ると信じていらっしゃる。何より、今尚厳然と君臨しておられるアインズ様が、私達に希望の光を照らしてくださっている。
ただ、他の方々の事は分からないけれど、弐式炎雷様が二度とお戻りになる日は来ない。それをナザリック内で
ほんの偶然だった。至高の御方々がいつお戻りになっても良いようにと、清掃に精を出していたある日、通りがかった廊下で立ち話をされる御二方の会話が耳に入ってきた。
聞き違いだと思いたかった。しかしはっきりと聞こえてしまった。私の胸には誰にも打ち明けることが出来ない秘密ができ、その日から私は、それまで通りに仕事ができなくなってしまった。以前なら決してしなかったような単純なミスを何度も繰り返した。
それでも、アインズ様の前では粗相の無いように全身全霊を込めて目の前の仕事に集中していたつもりだった。アインズ様は既に私の胸中の迷いなど見透かして居られたに違いない。私のような者がアインズ様にお仕えする事など許していただけるはずがなかった。
今私たちが忠義を捧げられる存在はアインズ様しか居られないと言うのに、そのアインズ様から見放されてしまった私に、存在する価値はあるのだろうか。
他の皆のように、至高の御方々のお帰りを信じて待つことが出来れば良かった。けれど 。
あの件について、お二方はアインズ様に秘密にしようと示し合わせておられた。きっとアインズ様が心を痛められぬよう、ご自身の胸に畳んでおくおつもりなのだと察せられた。そんな御方々の想いを踏みにじり、私如きが余計な口を挟む事など許されようはずもない。
異世界へ転移してしまうという未曾有の事態に見舞われた今、あの秘密を知るのは私だけかも知れない。アインズ様はどのような些細なことも報告せよと仰った。お二人が守ろうとなさっていたあの秘密をアインズ様に明かすべき迷っていた。このまま黙っていればアインズ様に不敬、秘密を明かせばあのお二方に不敬となってしまう。答の出せないジレンマに苛まれている間に、事態は最悪の方向へと転がってしまった。
アインズ様がお招きになった人間が、リムルと名乗った。奴がもし、あの御方が仰っていたあのリムルなら、危険すぎる。でも、奴は人間であるはずがない。しかも
いくつも否定の言葉を重ねて心を落ち着かせようとしたものの、安心は出来なかった。結局私は奴の正体を掴む期を窺う事にした。本来ならば至高の御方がお招きになった客将の粗探しをするような行為は不敬だけれど、そうせずにはいられなかった。
その機会は早々にやって来た。アルベド様の命で第六階層へ足を運ぶと、そこに奴と、階層守護者様方が居られた。初めは適度に客として接しつつ、慎重に奴の本性を見極めるつもりでいた。
しかし、奴の口から飛び出た、至高たるナザリック地下大墳墓並びに至高の御方々に対する侮辱、冒涜にも等しき暴言の数々。たとえ客将であっても、許される範囲を超えている。最早
しかし、予想外の事態がおきた。ゴミたる人間に私の魔法がまるで通じないだなんて思いもしなかった。しかも至高の御方に不敬にあたるなどと尤もらしい理由を付け、自死を止められる始末。これでは私はただの愚か者だ。
周囲にはアインズ様を尊重する様に見えただろうけど、もしも目の前の人間がリムルなら、こうやって周囲を巧妙に騙し、付け入る作戦なのかもしれない。初めから奴は私が疑いを持っていることに気付いていて、私を孤立させ、排除する為に罠を張っていたのでは?もし全てをアインズ様にお話ししても、私の言葉をアインズ様に信じさせないように。
そう思えば全て辻褄が合う気がした。更にはその実力。守護者様方さえも翻弄されてしまう程の素早さと、魔法を無効化する能力(奴は喰ったと言っていたけれど、嘘かもしれない)。それが実力の一端に過ぎないならば、可能かもしれない。
私に残された時間は少なかった。アインズ様がお戻りになるまでに始末を着けなければ、アインズ様にお会いする機会すらなくなる。そうなれば真実を闇に葬られたまま、全て奴の思い通りになってしまう。
焦りを覚えながらも隙を窺い、何度も抹殺を試みた。でも、結果は散々だった。私の攻撃は尽く通じず、ついに私はコー君、コキュートス様に拘束され、牢へと入れられた。既に私への評価は地に落ちている。私は失敗したのだ。この展開が全て奴の思惑通りかも知れないと思うと、戦慄を覚えた。
在りし日の弐式炎雷様のお姿を心の中に思い浮かべる。死と隣り合わせのような死地に飛び込み、誰にも気付かせることなく敵を背後から滅する事を得意とされた、隠密と暗殺を極めた偉大な御方。そんなお方が不覚を取るなど、信じられなかった。もう、私に出来ることは何もない。今更真実を明かしたところで、完全に信用を失墜した私の言葉は世迷い言として、誰一人信じて貰えないだろう。
(弐式炎雷様……申し訳御座いません。ナザリックの為、アインズ様の御為にと私なりに力を尽くしましたが、それも、これまでのようです……)
「ナーベラル。このところずっと様子がおかしかったけれど、今日はまるで貴女じゃないみたいだわ。本当にどうしてしまったというの……?事情があるなら言いなさい」
ユリ姉さんが心配そうに何度も声をかけてくれる。そんな優しい姉に返事を返すこともできない。自分が罰せられるのは受け入れられても、姉達まで巻き込みたくはない。姉妹を先に持ち場へ戻らせた姉は、何度も私に問いただし、動機を探ろうとしている。
きっとアインズ様に慈悲を乞うつもりなんだろう。慈悲深いアインズ様なら、事情を話せばお許し下さると信じているようだった。でも、私を庇い立てすることは、至高の御方の意に背くも同然。反逆の徒と見なされる恐れもあった。
「本当に、このままでは不忠者として処されるのよ!それでもいいの?何か特別な事情があるんでしょう!そうなのよね!?」
「何もないわ。何も……」
声を荒らげて必死に糸口を掴もうとする姉さんに、そう一言だけ言って、私は再び押し黙る。
と、コツコツと複数の足音が聴こえてきた。足音は此方へ近付いてくる。
「っ!アインズ様……!」
ユリ姉さんの言葉に、心臓が跳ね上がる。何故アインズ様が此処に?私の処分の沙汰が決まったのだろうか。しかも、至高の御方々の纏め役、アインズ様自ら足を運ばれる程の重い処断に。ユリ姉さんも顔を青ざめている様に見えた。
「ユリ、セバス。暫く外してくれ。ナーベラルと二人で話したい」
「ア、アインズ様……」
「大丈夫だ。私に任せておけ」
「ユリ、案ずることはありません。行きましょう」
セバス様が慌てるユリ姉さんに諭すような優しい声音で退室を促す。これから私が処罰される所を姉に見せないよう、配慮してくださったのだろう。驚き躊躇しながらも、セバス様のお声もあり、姉さんは言われるままに従ってくれた。
退室する姉さんを見送り、アインズ様が私の方を向く。
覚悟をしていたつもりでいても、いざその時になると勝手は違うものだ。早鐘の様に鼓動が高鳴り、呼吸が荒くなる。全身から冷や汗が吹き出す。極寒の中でも汗をかくとは情けないと自嘲しながら必死の思いでどうにか跪く。すると、ガチャリと音を立てて格子が開いた。
「ナーベラル」
「は、はっ……」
緊張の余り、声がまともに出てくれない。アインズ様の声音に違和感を覚えたのはその時だ。先程迄は重々しく威厳に満ち溢れたお声で姉と話されていたのに、今はまるで……。
「ナーベラル。寒いんじゃないか?」
「い、いえっ滅相も……っ?」
アインズ様の普段とは違った、穏やかでお優しいお声に戸惑いながら、返事を返そうとした時、何かを被せられた。暖かい。厚みはない布地だけど、冷気耐性を有していて、牢獄の寒さを確かりと和らげてくれた。至高の御方は格子越しではなく、態々牢の中まで足を運んでくださった。主人の意に背く大罪を犯した私の目の前まで。
「ひとまずこれで我慢してくれ」
御方に取ってみれば
「ナ、ナーベラル?」
気付けば、私の頬を熱いものが伝っていた。
「あ……っ、こ、これは、その……!」
思いがけず涙を流してしまったことに慌てる私。不意に御方の御手が、私の頭の上にそっと置かれた。白磁に輝く美しい御手が私に触れている。あまりの事に私が固まっていると、アインズ様はそのまま私の頭を撫で始めた。
「ア、アインズ様……?」
「そのまま、少しじっとしていろ」
ああ、そうか。私は悟った。
(最期だから。セバス様が、アインズ様に嘆願してくださったに違いない。私を処断し、永遠のお別れとなる前に、慈悲をかけて下さるようにと……)
良い思い出を抱いて、安らかに眠れるように。セバス様は私の様子を気にかけてくださっていた。アインズ様はその無茶な願いを聞き届けてくださったのだ。そのお慈悲の深さはまさしく慈愛の王。至高の御方のまとめ役で在らせられるアインズ様の、優しいお心に触れた気がした。
「どうだ?少し落ち着いたか?」
「はい、アインズ様……」
そっと離れる御手に、後ろ髪引かれる思いがした。なんて浅ましいのだろう。下賎の身でありながら、至高の御方に対し、不敬な念を抱いてしまいそうになる。もっとお側に居たい。その御手でもっと撫でられたい、愛でられたい。それは私如きには分不相応な、自分勝手な願望。そんな事が許されるはずがない。なのに、望まずにはいられない程に魅力的で、蠱惑的で。
「その、なんだ……お前は私の大切な部下だ」
「え……?」
アインズ様の思いがけないお言葉に、幻聴でも聴こえたのかと思った。
「だ、だから……お前は私の、か、かわいい部下だ。お前を見放したりしない」
「…………っ!」
そのお言葉が脳に沁み込むまで少し時間がかかってしまった。まさか
「今は私とお前、二人きりだ」
胸がドキンと高鳴る。そうだ、いまアインズ様と二人きりで、密室で……。
「
アインズ様のお言葉の意味を考える。殿方と密室で二人きり。直接的な言い回しではないけれど、それはつまり……ここで、
「かしこまりました……不束な私ですが……」
初めてを迎えるのが牢獄の中だとは思わなかったけれど、アインズ様がご所望なら、たとえ何処であろうとも関係ない。まさかこのような日が来るなんて、思いもよらなかったけれど。歓喜と、僅かばかりの羞恥に身を震わせながら、私は服の裾を勢いよく捲り上げ、素肌を 晒そうとしたところで、アインズ様に腕を掴まれ、止められた。
「待て、ナーベラル。何故脱ごうとしている?」
「そ、れは、その……え?……そういう事を致すのでは……?」
「えっなん……んんっ、わ、私の言い方がまずかったか。ナーベラル。そういう事ではない。決してそういう事ではないのだ」
「え……?」
「リムルの件で、聞きたいことがあると言ったつもりなんだが」
リムルを殺そうとした理由について聞き取りに来ただけだとアインズ様から改めて
「申し訳ございませんでしたっ!とんだ思い違いを……!」
「わかった、もうわかったから、頭を上げてくれ」
「私は……私はどうすれば……」
余りにも不敬な行動の数々。とても命ひとつで許される事ではない。そう思っていると、アインズ様は何でもないと言うように、変わらず優しい言葉をかけてくださる。
「気にするな。それよりも、教えてくれ。お前が何故リムルをそんなに嫌うのか。何か理由があるんだろう?」
「そっ、それは……」
「順を追って、ゆっくり話してくれればいい」
言えない。お優しいアインズ様がお心を痛めると分かっていて、それをお伝えすることなど……。いや、既に見透かしておられるに違いない。なのに、私に聞き取りに来られるなんて、何か深いお考えがあるに違いない。けれど、やっぱり口に出すことは憚られる。私自身、まだ受け止めきれていないのだ。
「……不満を抱えているんだろう?愚痴でも何でもいい。他に誰が聞いているわけでもないんだ。思いきって吐き出してみろ。全部受け止めてやる」
「は……」
遂に、私の知る全てをアインズ様にご報告する決意をした。
「アインズ様。これからお話しすることは、極めて衝撃的な内容です。ご不快であれば、即座に私の首をお刎ね下さい……」
「……分かった。話してくれ」
「弐式炎雷様は お亡くなりになっています」
「っな……んだと!?何故そう思う……?その根拠は、あるのか?」
「死獣天朱雀様とヘロヘロ様の会話を偶然耳に入れました。お二方は、アインズ様には伏せておくおつもりのようでしたが……」
「そう、か。朱雀さんが……」
アインズ様は驚かれていたが、死獣天朱雀様のお言葉を信用され、事実と判断なされた。その声音はとても冷たく硬質なものに聞こえる。冷徹に物事を判断するために感情を排除なさっているのだろう。
「申し訳ありません。お二方には不敬かと存じましたが、どうしてもお話しせざるを得ないと判断いたしました」
「良い。むしろよく話してくれたな。それで?」
「は、ここから先は、死獣天朱雀様が仰っていたお言葉と、自分なりに考えて導きだした推論が入ってきます。あのリムルという客将についてですが、推論を裏付ける証拠はまだ何一つ掴めていません」
「そうか……。話してみよ」
「はっ。ヘロヘロ様とお別れになってから、死獣天朱雀様はこう仰いました。
『リムルと出会わなければ、彼もあんな死に方はせずに済んだ』
と。これh 」
「ま、待て!本当に、そう言ったのか?朱雀さんが……」
アインズ様の制止を受けて、私は言葉を止める。私が推論を申し上げる前にアインズ様はお気付きになられた。その心中は察して余りある。アインズ様がお招きになった客将が、至高の御方の一人の死に関わっている、或いは弑したという事に違いないのだから。
「はい。しかし、奴がやった証拠は何もありません。思い違いかもしれません。人違いかも知れません」
「まだ事実が確認出来ていないその段階で、リムルを攻撃したという事か?」
「いえ、それだけならば、手出ししなかったのですが……奴は、リムルという
「そうか。そういう事か……うーむ……」
アインズ様は何事か呟き、熟考しておいでのご様子。アインズ様の思考の邪魔にならないよう、私も沈黙して待つ。
数十秒が経った頃、アインズ様が口を開かれた。厳粛な支配者の空気を纏わせて。
「ナーベラル・ガンマよ。この場でお前の2つの誤解を正すとしよう。
一つ目に、リムルは人間ではない。我々と同じく異形に属するものだ。具体的な種族は、本人がいずれ明かすだろう。
二つ目。リムルが話していた内容は事実だ。奴は嘘を吐かない。ユグドラシルにはナザリックよりも強大な勢力は確かに存在した。これは事実である」
「な……!」
私は瞠目した。一つ目に関しては対して驚きはなかったけれど、二つ目は。アインズ様が御自ら、至高の41人を凌駕する存在に言及されたのは初めてのこと。では、世迷い言だと思っていた、奴の言葉は全て真実……?
「でっでは、死獣天朱雀様のあのお言葉は一体……?」
「それは……お前が想像しているような、そのままの意味ではない。リムルは同一の存在で間違いない。だが、朱雀さんの言葉は別の意味を内包しているのだ。今はまだ明かすことは出来ないが……それで納得出来るならば、今回お前の行動は不問とする」
流石はアインズ様。全てを読み解かれ、真実を突き止められたのか。アインズ様がそう仰るのであれば、全ては私の思い違いだったのだと納得できる。しかし、であればこそ、何の処分も無しというのは理解できない……。
「アインズ様がそう仰るのであれば、私などの及ばない、深いお考えあっての事かと。その部分に関して、異論などございません。で、ですがリムル……殿に、私が無礼を働いた事は事実です。アインズ様がお招きになった客人を私は 」
「リムルは私に全てを委ね、私はお前を許すと決めた。ならば今回に限っては、何も問題はない。そうだろう?」
「よ、宜しいのでしょうか……?」
アインズ様がお許し下さるというお言葉に甘えてしまって。戸惑う私に、アインズ様は具体的に行動を指し示して下さる。
「どうしても気になってしまうならば、会って直接謝罪の意を伝えよ。少しはお前の気も晴れよう」
また、あのお優しいお声。私にだけかけてくださるというのは思い上がりかもしれないけれど、それでも。それでも今は、今だけは私だけに向けてくださっている事実に酔いしれる。
「アインズ様の御心のままに……!」
私はこのお方に全てを捧げるのだ。不安も、迷いも、憂いも全て包み込んで下さるアインズ様に、歓喜と共に全てを捧げよう。
リムル様はユグドラシルの去り際にログを消した事でNPCの記憶を記憶から消えていますが、それ以降のNPCの記憶は消えていません。ナーベラルやアルベドのように、ギルドメンバーの会話もある程度覚えています。他にも誰かが何かしら重要な会話を聞いているかも知れません。
途中からナーベラル視点なので分かりにくいですが、アインズ様は何度も強制的に精神の沈静化が起こりまくっています。その影響が今後どう出るか・・・。