異世界に転移したらユグドラシルだった件 作:フロストランタン
『雪が融けると何になると思う? 』
私が子供の頃は、まだ青い空を見ることが時々だが出来た。
その当時、私はそれを特に珍しいものだとは思わずに過ごしていた。もう、見ることが叶わないとは知らずに。
大切なものはいつも、手が届かない所へ行ってしまってから気付く。
物心ついたときには、周りに天才だの神童だのと持て囃されるようになっていた。だが自分を取り巻く周囲の環境とは裏腹に、私の心が満たされることはなかった。
私の家系は元々裕福な家柄だったが、祖父が独立して新たに会社を起こし、一代で更に莫大な材を築いた。いわゆる勝ち組だ。幼い頃、両親は私が望めば何でも与えてくれた。玩具、食べ物、衣服……愛情以外なら何でも。
彼らが望むのは自分達の後継者だった。それは別に私でなくても、そう、はっきり言ってしまえば誰でも良かったのだろう。親子としてというよりは、
学校に行けば何かと争い合い、優劣、上下を決めようとする周りの生徒達。彼らは知っている。此処に居る全員が将来の安泰を約束された訳ではない事を。
そんな連中に私は、偽りの栄光にしがみつこうとする愚か者と冷ややかな目を向けていた。
此の世界はもう長くない。少し考えれば、誰でもわかるはずだ。もう百年と待たず人類は、此の星の生命は死に絶える。
土壌が侵され始め、第一次産業は近いうちに壊滅。大気汚染も深刻。海は既に魚が獲れなくなって久しい。野性動物は姿を消し、人間と極少数の家畜と愛玩動物や植物を除けば絶滅している。開発が進んでいる人類の最後の砦、「
当時描いた未来像が今、現実になっている。
アーコロジーだって、永遠に稼働できるわけではない。メンテナンス不良やエネルギー不足でいずれは機能を失う。
そんな閉塞した世界で、何を希望に生きれば良いか分からなかったし、どちらが上かなど気にする意味も見出だせなかった。
だから周りの事にはまるで興味が湧かなかった。私の事など放っておいて欲しかったが、そういうわけにはいかなかった。私は既に顔も名前も周りに知れ渡っているのだ。
彼らは何かと私に張り合う切っ掛けを探しては突っかかってきた。1分野でも私に勝れば、それだけで箔が付くと思っているらしかった。結局挑んでくる誰もが、敵わないと知ると逃げ出していく。何度も挑まれては煩わしいので、一回で確実に心を折っていた為、大抵は一度負ければ大人しいものだったが。
勝ち組が幸せで、負けだ組が不幸だなんて、誰が決めたのか知らないが、そんなものは嘘だ。
私の心は乾いていた。そして氷のように、深々と積もった雪のように心を閉ざしていった。
友達と呼べるような相手も当然ながら居らず、近づいてくるのは私の両親の権力に媚びる者が殆どだった。私はそんな連中を相手に、両親の露払いの様な事もやらされる様になっていた。
中には本当に純粋な善意で接してくる人もいが、やはり皆最後には離れて行ってしまう。初めのうちは純粋に好意や尊敬の念を持っていても、それが嫉妬に変わり、敵意となり……。
そして、口を揃えて私に言う。
『雪のように冷たい男』
「若い君たちは、「白い雪」なんて見たことないだろう?昔はまだ純白の美しい雪が降ったんだよ。近年はドロついた灰色の、雪とは言えない何かだがね……」
私が会社を継がずに研究職に進んだのは、他人と距離を置きたかったからだ。自分の研究に没頭していれば、下らない人間関係に煩わされずに済むかもしれないと思って。環境の浄化が出来ないか、研究しようと思ったのもある。
或いは、自分の置かれた環境を変えたかったのかもしれない。まだ知らない何かが私を変えてくれる事を何処かで期待していたんだろうか。
両親は初めこそ反対したが、見切りをつけるのも早かった。思えば親の意向に逆らったのはその時が初めてだったが、気分は悪くなかった。
それからは家の援助もなく、一人で何でもやってきた。苦労も多かったが、私が選んだ道は間違ってなかったと今では思っている。
そうは言っても、環境が変わっただけで簡単に性格が変わるわけではなかった。相変わらず私の心は乾いていたし、両親と同じ冷たい目をしていた。
大学教授になって暫くしたある日、私はある女学生に出会った。
「さぁここで教授に問題です!雪が溶けたら何になるでしょーか?」
(……馬鹿にしているんだろうか?)
「水になるに決まっているじゃないか。それとも溶け込んでいる成分の
私は溜め息混じりに答えた。下らないことを何故態々聞くのかと。
「ブッブー!全然違いまーす」
「……?」
胸の前で手を交差し、不正解だと言われる。私が何が言いたいのかと眉をひそめていると、彼女は得意気な顔で正解を告げてきた。
「正解は……『春になる』でしたー!」
それから何度も彼女には声を掛けられ、次第に交流を深めるようになった。
彼女はそれまで出会ったことのないタイプの女性だった。その目は曇りなく希望の光が灯り、好奇心旺盛で些細な事にも興味を持つ。いつも絶やさない笑顔は翳りが全くなく、苦労や悩みなどとは無縁に見えた。私は彼女に、自分には無い何かを感じた。
気付けば私は年甲斐もなく彼女に夢中になっていた。歳は親子ほど離れていたが、そんなことは気にならなかった。
「田村君 タブラ・スマラグディナ君と知り合ったのもこの頃だった。彼は彼女の同窓生で、なかなか個性的な趣味を持っていた。君達もご存じの通りさ」
主にホラーやクトゥルフ神話が好きで、その造詣たるや、私も舌を巻くほどだった。その才能をもっと別の事に使えばいいのに、とも思ったが、彼のお陰で研究が実を結ぼうとしている。
時間が差し迫っているためにかなり無茶をしてしまったが、間に合わなければ意味がない。目的を果たすためなら、どんな犠牲も厭わない。彼女に約束したのだから。
「たとえ、何千万という命の犠牲の上であろうとも構わない。
君達の事は大切に思っているが、それ以上に、私にとって娘は
それに、今更ここで止まる訳にもいかないだろう?」
恐らく、今回が最後のチャンスになるだろう。かなり分の悪い賭けになるが、それでも
キャラクター紹介(HN以外は創作設定です)
死獣天朱雀
本名
リムルの世界で異世界航行手段を研究開発した
天才的な頭脳の持ち主で、高い記憶力と、膨大な情報を瞬時に取捨選択し、処理する演算能力を持つ。学識は高くありとあらゆる分野の学術に造詣が深い。総知識量で彼を上回る人間は世界に数えるほどもいない。
若い頃は論理的で冷淡な性格だった。
ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』で見せる優しい顔は、彼が人生の中で獲得した
一時期、とある裏組織を束ねていた事がある。
孫くらいの歳の娘がいる。娘の母親とは籍を入れていない。娘にも父親だとは名乗っていない。
タブラ・スマラグディナ
本名
リムルの前世、三上悟が体を張って守った後輩『田村』の子孫。
裕福層の研究職。独身。腎機能障害で人口透析の為に定期的に通院していたが、遂に限界が来て入院生活を送ることになる。
学生時代、研究論文のネタ探しの為に家で古い蔵書を漁った結果、誰かが残した日記に記されたある出来事について興味を持ち、その信憑性について古城教授に研究の許可を求めた事がある。
悩んだあげく、ここで投下します。全貌はまだ明らかにはなりませんが、それは追々・・・。