異世界に転移したらユグドラシルだった件 作:フロストランタン
モモンガが第五階層に向かった後すぐにコキュートスが、そして少し遅れてプレアデス4名が戻ってきた。何もせずに待っていても手持ち無沙汰なので何かやることはあるかと聞いたら、「何がアインズ様の機嫌を損ねてしまったのか」について反省会を行うらしい。真面目というか何て言うか……。折角なので俺達も混ぜて貰うことにした。
因みに恐怖公は、エントマを除く女性陣全員が怯えていたので可哀想だが守護領域に戻って頂いた。哀愁漂う彼の背中は忘れられない。
コキュートスは何故そんなに恐怖公が避けられるのか全く理解できないらしい。確かにコキュートスは皆平気なんだよな。それは俺も分からんでもないけど、恐怖公にしてみればそれが余計に寂しいよな、同じ虫系なのに。後で差し入れでもしてやろうかなぁ、なんてことを思いつつ始まるのを待つ。
コキュートスとプレアデス達はその場に居なかった為に、最初にアルベドが状況を説明してから議論をスタートしたのだが……。
「…………」
早速重い沈黙が流れる。難しい顔で考え込むデミウルゴス。マジで?お前の頭脳なら単純明快だろ?それとも実は演技で、分からないフリをしてるとか……?
「ねぇ、やっぱり最初にナーベラルの自害を止めちゃダメだったんじゃない……?」
「誰かさんが止めんしたせいで、アインズ様はお怒りなんではありんせん?」
最初に口を開いたのはアウラ。ジト目で然り気無く俺へと責任転嫁してくる。それに腕を組んで首肯するシャルティア。普段仲良くなくても、こういう時妙に連帯感あるよな、女子って。何て言うか、共通の敵?みたいなのがいると特に。それって俺のことなんだけどね……。心なしか、鬼ごっこをやってから女性達の視線がチクチクと痛い気がする。
男性から意見を求めるか。デミウルゴスは……声かけずらい雰囲気だな。
「コキュートス君、どう思う?」
「ソノ場ニ居合ワセナカッタタメ場ノ空気ガワカラナイガ、アインズ様ハ本当ニオ怒リダッタノダロウカ?」
「おそらく、ね。かなり不快に感じておられたのは間違いないわ。お声からそれがヒシヒシと伝わってきたもの」
あの顔じゃ表情は分からないから、アルベドはモモンガの不機嫌そうな声を聞いて怒ってると判断したのか。表情があればもっと正確に感情が伝わるんだが。いや、読まれ過ぎても困るけどね。
「ソウカ。……スマナイ、皆目見当モツカナイ。ナーベラルニ自死ヲ命ゼラレタ場合ハ、介錯ヲ願イ出ヨウト思ッテイタガ……」
介錯って……。切腹する人の後ろに立って、腹をかっさばいた後、本人が苦しみ悶えるのは見苦しいので介錯役が皮一枚残して首を切り落とすっていう。何故首の皮一枚残すかっていうと、首がゴロゴロ転がって何処かにいかない為だ。
こいつ侍か?ああ、武人設定だったな。
「そ、そうか。マーレ君はどうだね?」
「あ、あの、その、えっと、わ、分かりません……けど」
オドオドと自信なさげに呟くマーレ。うーん、かわいらしい。だけど男の子なんだよな。
「ん?けど?」
「えっと、そのぉ……」
チラチラと視線がアウラの方に行っている気がする。ああ、姉に物申したいけど言えない、ってことかな?
「そうか。答えはわからないけど、お姉ちゃんの意見は違うんじゃないkムグっ?」
「わ、わああぁっ!?」
慌てて俺の口を塞ぐマーレだったが、もう遅い。アウラの鋭い視線がマーレに突き刺さっていた。恐る恐るマーレが振り返るとアウラと目がかち合い、小さく悲鳴を上げる。
「ひっ?」
「思ってることがあるなら堂々と言いなさいよ。前にも言ったでしょ!」
「は、はいぃっ」
気が強いけど弟思いのいいお姉ちゃんだな。かぜっち達も小さい頃はこんな感じだったのかもなー。
「頑張れ、マーレ君。NOと言えない日本人じゃダメだぞ?」
「ニホン、ジン……?」
「ああ、細かいことは気にするな。自分の意見をしっかり言える男になれってことだ」
「あ、はい。えっと、何て言うか、ナ、ナーベラルさんを止めた事をご報告した時は、まだ怒って無かったような、気がするんです」
「うっ……」
「チッ、確かにそうでありんしたね。アインズ様がお怒りになられていたのは、そのあとナーベラルに誅殺をって進言していた時でありんした」
えっ今「チッ」って言ったぞ、「チッ」って。アウラもなんか目が泳いでいるのを俺は見逃さなかった。コイツらさては……。
この二人にはどうも嫌われてるみたいだな。そんなに恐怖公と鬼ごっこが嫌だったのか?楽しそうにキャーキャー叫んでたから、てっきりジェットコースターみたくエンジョイしてるかと思ってたんだけど、思い違いだったかぁ。
プレアデスはというと……ルプスレギナとソリュシャンはなんだかちょっと怯えてる感じ?シズは表情には出てないけど、全く目を合わせてくれない。エントマはよくわからん。表情は擬態だっけ?視線が合わない気がするのはそのせいかな。きっとそうに違いない。
あとは、ユリは完全にドン引いてたし、ナーベラルは敵意むき出しだったし……。ん?やけに女性の好感度が低くないか?
まさか……いや、まさかな?
《…………》
「はっ?まさか……いえ、そんなはず……無いわよね……」
アルベドが何か気付いたように目を見開き、直ぐにかぶりをふる。一瞬黒っぽいオーラが見えた気がしたけど、気のせいか?なんだか聞くのが恐いんだけど。恐い、けど、聞いてみるか。
「ア、アルベドさん?何か思ったことがあったら、間違っててもいいから皆にもその内容を話してくれないか?」
「は、はい……」
思わず「さん」付けで呼んじゃったけど、誰もそこには突っ込まず、全員がアルベドに注目する。
「タイミングから考えて、アインズ様はナーベラルの自害を止めたことに対してはお怒りではなかったわ。これはマーレの指摘した通りね。
そうなると、アインズ様はナーベラルに『罰を与えるおつもりはなかった』か、『別の罰を与えるおつもりだった』という二つの可能性にたどり着くわ。
そして、私がナーベラル誅殺を進言したとき、その場に居たあなた達にも
もしそのおつもりであれば、あの場では
え、論理的。今日の守護者統括は一味違うな。色ボケしてないというか。ひょっとして、特定の条件下では思考がダメになっちゃうとか?
……後でモモンガに設定聞いてみようかな。確か全NPCの設定には目を通したって言ってたし。
「私もそこまでは同じ考えです。……ですが、その理由がどうしても分からないのですよ」
沈黙していたデミウルゴスが発言した。デミウルゴスもそこまでは分かってたんだな。だったら理由なんてすぐにわかりそうなものだけど。
「……これは多分違うと思うんだけれど、一応言っておくわね。ナーベラルは……」
一同が固唾を飲んで真剣な表情のアルベドの言葉を待つ。
「アインズ様のお気に入り、なんじゃないかしら」
「「……へ?」」
「はあ!?何がどうなったらそんな結論に……ははぁん、とうとう頭に栄養が行かなくなりんしたかえ?乳デカホルスタインがぁ」
意外すぎたのか、アウラとマーレはポカンとした表情である。シャルティアは懐疑的な反応を示し、しまいには罵倒し始める。デミウルゴスは眉間に皺を寄せつつも、否定を口にはしない。というよりは、否定できる材料が見つからない、という感じだ。
アルベド、流石にそれは無……くもないか?うーん、俺が思う答えに少し近いかもしれない。
「だ、だから違うと思うって言ってるじゃない。だって、アインズ様ったらナーベラルの事を庇っていらっしゃるようにも見えたんだもの……」
「まぁ、完全に的外れってわけでもないんじゃないか?」
俺からすれば何気ない発言だったんだが、彼らは何故か異常な反応を示した。
「なっ?」
「ニ?」
「「「「ええっ!?」」」」
「そんな……」
「ちょ、嘘っ?嘘でありんしょう!?嘘だって言ってぇ~!」
デミウルゴスとコキュートスが短く声をあげ、揃って叫ぶプレアデス達。アルベドは自分で言いだしたのに激しいショックを受けたような顔になっている。そして俺の胸ぐらを掴んでガクガク揺さぶるシャルティア。大きな紅い目に涙をいっぱいに溜めて懇願するような表情は可憐そのものだが、やってることは揺すりであり
「だー、もう、落ち着けって!かもしれないってだけだろ?うーん、他のギルドメンバーが何か関係してるとかはないか?」
もしかしたらナーベラルを作った弐式炎雷が俺の事嫌いだったとか。俺はチートプレイヤー扱いだったし、ギルド入りの会議も結構揉めたって聞いてるからな。誰かに嫌われててもおかしくはない。モモンガはNPCが創造主に似てる所があるって言ってたし、そういう所を受け継いじゃってるかもしれないとふと思っての発言だった。
「はっまさか!そういう事だったとは……」
デミウルゴスは俺の一言で何かピンっと来たらしい。
「よし、デミウルゴス君、君の気付いたことを皆にも分かるように説明してやってくれるかな?」
「はい……」
眼鏡の縁をくいっと持ち上げ、神妙な面持ちのデミウルゴス。周りの皆にも得体の知れない緊張感が漂い始めた。
「……私を含め、皆ナーベラルの行動を不敬と捉え、罰するべきと考えていた。アインズ様のご命令に背く行為だと。そうだね?」
守護者もプレアデスもコクコクと頷く。
「だが、もしかすると、それがそもそも間違っていたのかもしれない……」
「「え?」」
「そう、そういう事だったのね……」
デミウルゴスの言わんとしている事に気付いたアルベド以外は、全員がわけもわからず驚いている様子だ。俺もわからないけど。
「いや、だって、あんなの不敬でなかったら一体なんなんでありんすか?」
「そうそう」
シャルティアとアウラに限らず、そこはほぼ全員が共通の見解らしい。プレアデスの面々も頷いて同意を示す。
「我々は至高の御方々の御手によって創造された被造物であり、そのご命令は絶対だ。そうだね?」
デミウルゴスの言葉に、何を今更当たり前の事を言うのか、と怪訝な表情を浮かべている。
「だがもしも……もしもナーベラルの行動が至高の御方のご命令であったとしたらどうだろう?それもアインズ様ではなく、例えば、弐式炎雷様のご命令であったとしたら。我々守護者がそこに口を挟むことは、果たして許されるだろうか?」
はっとして黙り混む一同。アレ?なんか、大丈夫か、これ?変な方向に行きそうな予感がするんだけど。
「アインズ様はその事に既にお気付きになっていたが、あえて我々には明かされなかった。我々が自分達でナーベラルの行動の真意に気付くことが出来るかどうか、そしてその上で我々がどの様な対応を取るのか。つまり、我々の忠義を試されておられたのだよ」
「え、じゃあ、ナーベラルのアレは演技?」
「いや、恐らくナーベラルもまた、忠誠心を試されていたと見るべきだろうね。弐式炎雷様とアインズ様のどちらを優先するのか。ナーベラルは、究極の選択を突きつけられていた、というわけだよ」
それぞれの自分の創造主と、まとめ役のモモンガのどちらを選ぶか。デミウルゴスの理論に皆苦い表情になる。自分の場合はどちらを選ぶのか、答えを考えて悩んでいるんだろう。
「本当ならそれに気付いた上で、私達がどちらを選ぶのか、アインズ様はそれをお知りになりたかったはずよ。なのに、私達はナーベラルの行動を単純に不敬と断じ、真意を見抜くことが出来なかった。アインズ様にとってはあまりに期待外れだったということね……」
アルベドの言葉で場の空気が一気に重たくなった。皆暗い顔をして俯いてしまう。モモンガが不機嫌になったのは自分達が期待以上に不出来だったからだという結論だもんな。どんよりとした嫌な空気が漂っていた。
「全っ然違うのだ!全く、何をそんなコムズカシく考えておるのだ」
「「えっ」」
重たい空気を吹き飛ばすかのように、ミリムがダメ出しをする。アルベドとデミウルゴスが驚きの表情を浮かべ、他の皆もミリムに視線を集める。なぜだか俺の時より素直に聞く姿勢になってる気がするのがちょっぴり悔しい。
「お前達はモモンガの気持ちをちっとも理解ってないのだ!いいか、お前達は 」
「アインズ様はそのように……!」
「お、恐れ多いですわ。でも……」
「本当だとしたら……すごく…………嬉しい」
彼らに足りないのは、自分が愛されている、大切にされているという自覚だ。主人の思いを知らず、自分をただの道具として考えているから、簡単に死んで詫びるとか言えるのだ。それなら、モモンガが彼らを大事に思っている事を自覚させてやればいい。
ミリムは最初に、「お前達は道具なんかじゃない」と言った。モモンガはとても仲間思いで、あいつが仲間と一緒に作ったこのナザリックの全てを大切にしていると。
俺もあいつが配下について「友人から預かった子供のように思っている」と語っていた事を話した。
頬を朱に染める者、涙を流す者、恐縮してしまう者。それぞれに反応は違うが、皆驚きと喜び、そして申し訳なさ、様々な想いが絡み合い複雑な心境だろう。ともあれ、彼らはようやくモモンガの気持ちを正しく理解したのだ。
「実は俺もある国の国主を務めててさ、部下を家族のように大事に思ってるんだ。だから気持ちは何となく分かるんだよ。死んで責任取るとか、仲間内で殺すとか、そんな事言うな。アインズさん、悲しむだろ?」
「では、あのときアインズ様は……」
「そうなのだ。お前たちは主人の為にと言いながら、主人を孤独にさせる気か?」
俺たちの話をどこまで信用してくれたかわからなかったが、ミリムの言葉は確かに彼らの心を打ったようだ。もう大丈夫だろう。
程無くして、モモンガがセバスとユリ、そしてナーベラルを連れて戻ってきた。皆が跪き、モモンガとナーベラルに謝罪を述べる。何事かと困惑するモモンガに俺が経緯を説明すると、モモンガは少し照れくさそうにしていた。
「そうか、お前達は私の心を理解ってくれたか」
「はいっ」
改めて忠誠を誓うと共に、モモンガを孤独になどさせないと決意を表明する面々。
「孤独にしない、か。ふふ……嬉しいものだな。私はこのナザリックの全ての者を愛している!私もお前達を決して孤独になどさせない。お前達のもとを去らないと誓おう!我らは永遠に共にある!」
格好良くきめるモモンガだったが、このあとちょっと、色々あった。
モモンガの言葉に感激して涙を流す守護者とプレアデス達。良かったなと思ったのも束の間、感激の余り暴走したアルベドがモモンガに飛び着いたのだ。それを機に全員がしっちゃかめっちゃか暴れまわった挙げ句、アルベドと、ちゃっかり便乗しようとしたシャルティアが取り押さえられ、二人は半日自室で謹慎という軽い処分を言い渡された。
それから、すっかりしおらしくなったナーベラルの謝罪を受け入れた。ここでも、モモンガとナーベラルを二人きりにしたとセバスが言った事でまた不味いことに。
体を押さえつけられたままのアルベドとシャルティアが恨めしそうにナーベラルを見ていたのだが、それを知ってか知らずかモモンガは「今詳細を明かす事は出来ない」なんて勿体ぶって言うもんだから、
完全に「ナーベラルに寵愛を授けていた」という誤解が生まれてしまったようだ。
「アインズ様、私にも、私にもどうか
「わたしも、わたしもいつでも
意味深げな言葉を叫びながら引き摺られていく二人を見送りつつ、アインズが小声で訊いてくる。
「なあ、どういう意味だと思う?」
「お前が想像してる通りじゃないか?これでお前もリア充だな?」
「……何か違う気がするんだが……」
何はともあれ、俺の仕事はひと段落した気がする。お互いの気持ちが通じていれば、これまで抱えていた色々な問題も一気に解消できそうである。
俺の好感度はイマイチのようだが、敵対はされていない。ナメられもしてないし、崇拝みたいなおかしな事にもなってない。先生役は成功ってことにして、ここらでやめておこうかな?というか、もう暫くは懲り懲りだ。
大人しく観光にでも出よう。そう思っていたのだが、今度は新たな依頼が飛び込んでくる事になるのだった。
アルベドさんの前で愛している発言は危険ですね。
GWのお陰で少し投稿ペースが早くなってましたが、また亀に戻ると思います。