異世界に転移したらユグドラシルだった件 作:フロストランタン
途中からは回想になります。
黒曜石の輝きを放つ巨大な円卓が鎮座し、41の椅子が囲む、
会議室は現実の日本企業に見られるような机や椅子、ホワイトボードを設えた、機能性を重視した造りをしている。ナザリックの基準で言えば全く飾り気のない質素な部屋だ。
アインズは謹慎が解けたアルベドと含めた守護者、セバスの計七名をそこへ集め、改めて現状の把握と今後の予定を話し合うことにした。最初は円卓の使用を口にしかけたのだが、言い直して会議室に集まるよう通達した。これは円卓では守護者達が恐縮して席に座ろうとしないだろう事を予測しての事だった。
だが、いざ座ろうとしたところで守護者達が自分達と同じ椅子を使用することに恐縮して椅子を用意しに行こうとするのを止めたり、アインズの隣を狙ってアルベドとシャルティアが睨み合うという一幕があった。机をコの字型に並べ、アインズが正面真ん中に座り、両隣に二人を座らせることで落ち着いたが、自分を挟んで二人が視線をぶつけ合っているのが分かってしまい、ため息を吐きたくなる。
現状、かつて仲間達と集めた財があるため、衣食住にすぐさま困るというようなことはない。だが、それも無限というわけではない。人間種や亜人種と違い、異形種に寿命はない。目先の事だけでなく、恒久的なナザリックの存続を考えなくてはならないのだ。
魔法を込めた
しかし、ナザリックに保管されている素材のストックを使わずに、この世界で調達できる素材で
「このデミウルゴス、必ずやアインズ様のご期待にお応え致します」
「ああ、期待しているぞデミウルゴス」
「勿体無いお言葉……光栄の至りにございます!」
ナザリックでも最上位の知恵を持つ悪魔は慇懃に配下の礼を取る。その表情には自信とやる気を覗かせていた。
また、ユグドラシル金貨の代替が出来るかの検証等を行う為にも、外貨の入手は必須である。どうやって外貨を入手するかについての議題に移り、それまで人形のようにおとなしくしていたシャルティアも、議論に参加し始めた。謹慎にした事が尾を引き摺っているのでは、と心配していたアインズだったが、杞憂であったようだ。だが、すぐに別の心配が持ち上がる。
「人間の町を蹂躙して奪い取ればいいでありんす」
(……えぇー?)
どや顔でさらりと物騒な意見を述べるシャルティアに、アインズは言葉を失った。いくら悪に偏った思考の持ち主ばかりと云えど、これはないだろう。迂闊に過ぎる。
「シャルティア、あんた馬鹿なの?」
半眼でため息混じりにアウラが突っ込みを入れる。シャルティアには可哀想だが、皆も似たような空気を醸している事にアインズは少しだけホッとしてしまう。どうやら皆シャルティア程短絡的ではないようだ。
「い、いきなり馬鹿呼ばわりとはどういう了見でありんすかえ!?私だって何も無差別に潰していいとは思っていんせん」
「な、なぁんだ。ボ、ボクてっきり……」
「てっきり……何かしら?」
マーレが余計な言葉を呟いてしまったのをシャルティアは聞き逃さなかった。笑顔で尋ねるシャルティアの目は笑っていない。アンデッドなのにどうやってかこめかみに青筋を立てたシャルティアに、涙目で謝るマーレと、どうどうと宥めるアウラ。そんな子供達のやり取りを微笑ましくアインズは眺める。
(いつか……いつか皆とこんな風にこの光景を……)
「ちょっと貴方達、いい加減になさい!」
「場ヲワキマエロ。御身ノ前ダゾ……」
騒がしくなりかけたところでアルベドとコキュートスが窘める。その声でアインズも現実に引き戻される。ふと視線を移せば、ホワイトボードの前に立って司会を務めていたユリが震えている。守護者達から漏れ出す覇気に当てられていたのだ。レベル差を考えると生きた心地がしないだろう。
「まあ、落ち着け。ユリが怯えているではないか。その、なんだ。子供らしく元気があっていいんじゃないか?だがそうだな、場所は考えるべきだな」
申し訳ありません、と謝罪を述べる三人を許し、アインズは話を進める。
「さて、どこでどんな繋がりがあるかわからない現段階では、敵を作るような迂闊な行動は極力避けたい。数の上では人間種が圧倒的に多数だ。個々の力では我々の方が上であったとしても、数の暴力は侮れん」
アインズが場を宥め、迂闊な行動は慎むようにと話をするが、シャルティアは首を傾げ、今一つ府に落ちていないようだ。向かってくるなら全て根絶やしにすれば良いのに、とでも言いたげである。何も考えていないわけではないと言っていたが、本当だろうか。アルベドとデミウルゴスを初め、場の者はシャルティアへ少し生温い視線を送る。
「それにな……人間も案外……捨てものではないかもしれんぞ?」
ナザリックの殆どの者達にとって、人間とは何の価値もないゴミ同然の存在。或いは弄んで楽しむ玩具。または食料等々、良い感情は抱いていないし、まして対等に見ようなどとは毛先ほどにも考えない相手である。そんな人間に対し、一目置いているかのようなアインズの発言に、皆驚きを禁じ得ない。アルベドだけは人間にも侮れない存在がいる事を実際に見て知っているが、まだ他の守護者達は聞きかじった程度にしか知らないのだ。
デミウルゴスでさえ、アルベドからヒナタの存在を聞き、最初は耳を疑った程だ。アルベド曰く、人間でありながら守護者に匹敵する戦闘能力を持っているらしい。だがそれもリムルの知人ということを知り、リムルの実力を垣間見た今では納得するしかなかった。
アインズはそんな配下達の動揺を知ってか知らずか、更に質問を投げ掛ける。
「……お前達は人間は嫌いか?」
「以前申し上げた通り、個人的にはあまり 」
「ア、アルベド!?」
誰よりも忠誠心厚いデミウルゴスが、思わずアルベドの発言を遮る。主人が黒と言えば白でも黒だと答えるのがしもべのあるべき姿なのだと考えているようだ。
「いや、構わないぞ。私に合わせた追従の言葉ではなく、偽らざる個人的な思いをこそ今私は知りたいのだからな」
「は……申し訳ございません。出すぎた真似を」
デミウルゴスは謝罪の言葉とともに頭を下げる。まだこういった部分は切り替えることは出来ないのだ。アインズがもう少し砕けた態度でも構わないと言っても、畏れ多いと恐縮してしまう者が殆んどである。その辺りは少しずつ慣れて貰おうと思っている。
「構わないとも。アルベドは以前聞いた通りか」
「例外は有りますが基本的には嫌いです」
「ふむ、例外もある、か……。デミウルゴスは人間をどう思う?」
「は、恐れながら……中々に興味深いとは評価しております」
「ほう、興味を?それはどういったところだ?」
評価をつける相手という、少し見下した見方をしているようだが、それは気にしない。どうも、人間が苦しみあえいだり、絶望に身を染める姿に甘美且つ耽美な愉悦を感じるようだ。
(悪魔らしいと言えばらしいかな。まあ、素直に本音の部分を明かしてくれたのは喜ぶべきか)
アインズは一人一人に同じ様に質問を重ね、相槌を打ちながら聞き取っていく。
「うぅ~ん、人間自体好きか嫌いかはよくわかりんせんが、ぐちゃぐちゃにして血を浴びたいでありんすねえ」
「ふむ……玩具、のようなものか?」
「はいっ」
「えっと、その……嫌いっていうわけでは……ないと思います」
「別に好きでも嫌いでもないですけど、生意気なこと言って来るなら、ぶっ潰します」
アウラの言葉にマーレも頷いて同意を示す。二人にとっては今のところ、大して興味がない相手ようだ。今後の関わりかた次第で決まるかもしれないと心のメモに付箋を着けておく。
「嫌ッテハオリマセン。タダ、ドノ程度ノ戦士ガ居ルカニハ多少ノ興味ハアリマス」
流石は武人設定。コキュートスの場合、種族がどうというより戦士であるかどうかの方が重要そうだ。ヒナタは例外として、ガゼフ・ストロノーフならば、もしかしたら彼の眼鏡に叶うかも知れない。
「私も特に嫌ってはおりません。困っているのを見掛ければ手助けもするでしょう」
「我々に敵意を向けて来た場合はどうする?」
「アインズ様に弓引くなど許されざる大罪に御座います。その場合は即座に排除致します」
セバスの言葉に最初こそ眉を潜めていたアルベドとデミウルゴスも、アインズの問いに即答するセバスに、視線を交わして満足げに頷く。一番大切なことを見失わなければ、多少温情をかけることには許容しようという事だろう。
その場の全員に聞き取りを終えたアインズは満足げに数度頷く。それぞれに見方は違うようだが、この中ではアルベドを除き、人間を毛嫌いしている感じではないようだとわかった。アルベドも演技ではあるが人間とある程度そつなく接することは出来る。玩具扱いしそうな者も、うまくいけば人間と友好的な関係を結ぶ事も不可能ではないかもしれない。
原因不明の事態に巻き込まれ、混乱していたここ数日から、ひとまず切迫した状況は抜けたと判断した彼には、ある思いが浮上してきていた。
「ふむ、参考になった。さて、話を脱線させてしまったな……外貨獲得だったな。私も意見を出そう」
そう言って話を戻すアインズ。だが、アインズ自らが冒険者に扮して人間に溶け込み、リ・エスティーゼ王国で外貨を稼ぎつつ情報収集するという案を出すと、守護者達は
確かにアルベドは守備に長けているし、頭が回り、演技も出来る。しかし、角や翼は人間社会では目立ってしまうし、魔法や幻術で隠していても看破されないとも限らない。何しろ未だ謎の多い武技やタレントなるものが存在するのだ。もし街中で偽装が見破られた場合どうなるかは容易に想像できる。如何に此方が敵意はないと言ったところで、聞く耳など持ってはくれまい。
その場に強者は居なくとも、多数で刃を向けてくれば敵として処理せざるを得ず、騒ぎはより大きくなる。それではどこにいるとも知れないプレイヤーの顰蹙を買うことは間違いない。
説得を試み、デミウルゴス達守護者は何とか納得してくれたが、アルベドは頑として聞き入れようとしない。最早駄々っ子レベルのゴネ方であったが、どうしても連れていく訳にはいかない。デミウルゴスも外へと打って出る事を考えると、アルベドにはナザリックに残って貰わないと、組織が回らないのだ。デミウルゴスが何か彼女の耳元で囁くと、アッサリ引き下がった。
(え、なんか逆に怖いんですけど。何を吹き込んだんだデミウルゴス!でも聞いたら絶対ヤブヘビだから触れられない……!)
有りもしない自身の貞操を守らんがために、戦々恐々としながらアインズは逃げるように指輪の力で転移で会議室を後にした。供はナーベラルに務めてもらう。去り際にそう言い残して。ある二人の嫉妬の叫びが会議室に響きわたったのは言うまでもない。
アルベドが謹慎している間にリムルがアルベドの設定を知りたいと言うので、コッソリと玉座へと赴き、一緒にアルベドの設定を見返していたのだが、そこでとんでもないことが発覚した。最初こそ膨大なテキスト量に驚いていたリムルだったが、気を取り直して一気に読み進める。そして二人とも固まった。
「ば、馬鹿な……!」
「……マジ?」
驚愕の余り後退りするアインズ。リムルも目を見開いて驚いている。
「な、なあ、これってさ……」
「言うな。何も言うな」
「いやだってコレ……ビッチじゃね?」
「ぐふっ!」
アインズが膝を折り、両手を床につく。Orzのポーズだ。床に伏す彼を見てリムルもなんとはなく事情を察した。そっとマスターソースのウィンドウを閉じた。
「あーっと……」
「見なかったことにしよう。うん、それがいい」
「いやいやいや、ちょっと待て!」
勢いよく現実逃避するアインズを引き留めるリムル。
「どういうことかね?」
「いや、それが……」
「ビッチ設定を弄った結果、やっぱりビッチになったわけか」
「……こんなはずじゃ……」
「ま、まあ、見ようによってはいい事なんじゃないか?誰彼構わずぶっ殺しまくろうとするより、な?」
リムルがフォローにならないフォローを入れるが、アインズは何度も精神が沈静化されても追い付かない程の羞恥と後悔の念に駆られ、遂に堪えきれず、遂に床を転げ回り始めた。
「俺だって、俺だって良かれと思って……くっそぉおお、タブラさん!なんて罠仕掛けてるんだよ~!」
気が済むまで転げ回ったのか、アインズは何事もなかったかのように突然立ち上がる。
「相談がある」
アインズのシリアスな雰囲気に、リムルも表情を引き締めた。
「大体察しはついてるけどな……」
ナザリック転移から一週間も経っていないという事実に、愕然としています・・・。
次回はきっと重い話です。
それ以降は漸くナザリックから旅立つ事になりそうです。
オマケ
『非常に恋多き女である』
リムル「ほー」
『本当は甘えん坊である』
リムル「ほぉん?」
『実は寂しがり屋である』
リムル「お、おおん・・・」
『性欲を持て余している』
リムル「・・・は?」
アインズ「馬鹿なっ」(何で色々入ってるんだ?どうしてこうなった?)