異世界に転移したらユグドラシルだった件 作:フロストランタン
「「「「「2000!?」」」」」
「マジかよ?」
「概算だがね」
「2ch連合が動いたか」
「全員100LVじゃないにしても数が多すぎる」
ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の拠点『ナザリック地下大墳墓』────
円卓の間にはギルドメンバー37人が集まっていた。
2ch連合を始め複数のギルドが徒党を組み、『アインズ・ウール・ゴウン』に宣戦布告してきた事を受け、対策を練るためにモモンガが緊急召集を呼びかけたのだ。
中には貴重な有給を使ってまで召集に応じたメンバーもいる。
異形種ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』はこれまでにも数度侵攻を受け、その悉くを撃退してきた。だが今回は規模が違う。
ぷにっと萌えと死獣天朱雀の情報によれば、敵総数は2500名。一つのギルド攻略に対して、過去類を見ない大連合だった。
『アインズ・ウール・ゴウン』結成のきっかけは、ただ人間種でないからと、それだけで差別を受けPKされてきた異形種プレイヤーを護りたかったから。そして何より、不当な差別を強いる者達が許せなかったからだ。
しかし、そんな『アインズ・ウール・ゴウン』にPKされたことで逆に目の敵にする連中もいた。今回はそんな連中の呼び掛けで、上位ギルドに一泡ふかせてやろうと思っていた連中が動きだし、徒党を組んで押し寄せてきたのだ。
人間種プレイヤー2000人を迎え撃つのは異形種プレイヤーたったの41人のギルド。圧倒的な戦力差に、沈痛な空気が流れている。無理もない。単純に50倍の敵が押し寄せてくるのだ。楽観などできようはずもない。
その空気を破ったのは彼だった。
「我々『アインズ・ウール・ゴウン』は!不当な数の暴力に絶対に屈しない!」
たっち・みーが吠えた。普段そんな事を滅多に言わない彼の咆哮に皆驚いた。
ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の前身、クラン『
「困っている人を見たら助けるのは当たり前」
この誰もが分かっていながら、知っていながら行動に出来ない「当たり前」を本当に「当たり前」の世界にするために。
そんな彼に救われたメンバーは少なくない。ギルド長モモンガもその一人だった。
「そうです。地の利は守る此方にある。烏合の衆に負ける気はしませんね」
「正義を騙る悪には更なる悪でもって叩き潰す!」
「燃えてきたー!」
「侍とは死ぬことと見つけたり、か」
ぷにっと萌えを皮切りに次々と戦意を滾らせるメンバー達。
(やっぱりたっちさんはすごいなぁ)
モモンガは純銀の聖騎士への憧憬の念を心地よく自覚しながら、立ち上がって大仰に腕を振りローブを棚引かせる。
「みなさんやる気は充分ですね!俺達『アインズ・ウール・ゴウン』に喧嘩を売ったこと、とくと後悔させてやりましょう!」
「「「「「おおー!!!!」」」」」
リムルは円卓の間でこの光景を見ていた。人の中にある差別意識の根深さを感じた。そして彼らの高潔さを目の当たりにして、不思議と笑みがこぼれた。
多数派が少数派を押し退ける。それはある意味正しい。民主主義の正義だ。
だが、少数派が虐げられていいなんて誰が決めた?そんな決まりはない。断じてないのだ。たっち・みーに感化されたのか、少し暑苦しいやつになってしまったな。
俺も油断は出来ない。拠点NPCは蘇生が可能らしいが、俺達の場合はどうなるかわからない。
データの一部が文字化けして不安定な状態のため、蘇生できたとしても、何らかの不都合が起きてもおかしくないのだ。そもそも蘇生出来ないかもしれない。この世界にとって俺たちは外部から入り込んだ異物なのだから。
だから気をつけていたつもりだった。そう、そのつもりだったんだ。
「あああああああああああああああああ!!!!!!」
人間プレイヤー達が『ナザリック地下大墳墓』に雪崩れ込んでくる。
第一~第三階層 「墳墓」
数々のトラップが侵入者を阻み、アンデッド達が襲いかかる。階層守護者は全階層守護者の中で単騎戦闘能力最強シャルティア。
ここでできれば100人位削りたい。
第四階層 「地底湖」
巨大な湖に沈む巨大ゴーレムが行く手を阻む。これと単騎でまともに戦える者は数えられるほどだろう。それでも数を頼みにすれば撃破はそう難しくはないか。
それでも80人位は減らせるだろう。
第五階層 「氷河」
凍てつく冷気と吹雪が行く手を阻み、侵入者を氷付けにする。武器攻撃力最強の階層守護者コキュートスが番を務める。冷却対策がなければ体は凍り付き、容赦ない剣戟によって『人間かき氷』にされる運命だ。
ここで60人はいけるだろ。
第六階層 「森林」
広大な森には数多くの魔獣が跋扈し、闘技場には数々のゴーレムが犠牲者を待つ。階層守護者はアウラとマーレ。アウラはビーストマスター、マーレは高位のドルイドだ。どちらも対多人数戦闘を得意とする。
ここも80人。
第七階層 「溶岩」
立っているだけで容赦なく体力を奪う灼熱の空間は、熱対策必須。溶岩の河に架かる橋の下には、巨大なマグマのスライムが犠牲者を引きずり込む。いくつもの罠でさらに致死性の高い罠へと誘導する悪辣な罠仕様だ。三体の
ここも頑張って80人。
第八階層 「荒野」
荒涼とした大地が広がる、ナザリック地下大墳墓の最終防衛ライン。強力な足止めスキルを持つ階層守護者ヴィクティム。
そして傭兵として俺とディアブロが守護する。
予想じゃここへはおおよそ1600人が到達か。骨が折れるな。
俺達の役割は時間を稼ぐ事だ。可能な限り足止めし、侵攻軍ができるだけ多く入ってきたところでヴィクティムのスキルを発動し、ギルド総出で攻勢を仕掛けて一網打尽にする。
「さぁて、やるか……」
リムルとディアブロが待ち構える領域に、侵入者達は一気に雪崩れ込んできた。およその見積り通り1500人強の大人数だ。集中攻撃を浴びないように、素早い動きで相手を撹乱する。隙をついて、一人、二人と確実に戦力を削っていく。
能力の制限がなければもっと有利に戦えたはずなのだが、如何せん肉体能力による武器戦闘が中心になってしまう。それでも休むことなく動き続け、150人程倒したところで、そろそろ準備が整い、ギルドメンバーが合流する時間だ。
だがここで、想定外の事態が起こった。
それが放たれた瞬間、二人同時に危険を察知した。これは今までの何よりも危険なものであると。
放たれた槍が向かう先はリムル────
ではなく、ディアブロだった。
ディアブロは両手を広げた。
そして目を閉じた。
閉じてしまった。
だが、衝撃は来なかった。
目を開けると────そこには悪夢があった。
「ああ……そんな」
嘘だ。
嘘に違いない。
そんなはずがない。
「リムル……様」
目の前には、自らを盾にして「ダイダロス」に貫かれたリムルがいた。
ディアブロを振り返り、困ったような、安心したような顔をして目を閉じ、倒れる。
その全てがスローモーションのようで、まるで現実ではないようで。
人型を保っていられず、スライム形態に戻る。
人間達が歓声をあげているが、そんなものは聴こえない。
力なく、側にすがり付く。
それは生のない、ただの塊のように動かない。
「リムル様……」
返事はない。
「リム、ル……さ、ま……」
「あああああああああああああああああああっ!!!」
それは悪魔の慟哭。
リムル様死亡?(嘘です)