異世界に転移したらユグドラシルだった件   作:フロストランタン

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原作通りモモンがナーベとエ・ランテル入りします。


冒険者編
#50 始めての冒険者


 城塞都市エ・ランテル。そこはリ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国の三国が国境を近接する都市であり、三重の堅牢な壁に囲まれた、要塞の如き都市である。忙しなく三国の物資や人、情報が行き交い、長閑なカルネ村とは比べ物にならないほど活気に溢れている。

 

 現在はリ・エスティーゼ王国がその領有権を主張し、統治しているが、バハルス帝国が代替わりしてからは毎年のように領有権を巡って戦争を仕掛けられていた。もう一つの国家スレイン法国もまた、古くは自国の領土であったと主張してはいる。しかし戦争に発展した事はなく、人類同士の不毛な争いに書簡にて遺憾を示し、帝国と王国の争いを静観するに留まるというのが、ここ数年の恒例行事のようになっていた。

 

 人も物も出入りが多いこの街に、一際目立つ二人組がその都市にやって来たのは数十分前。城のような立派な門の前で、入管手続きを待つ為に並んでいた。

 片方は、金や紫など精巧な装飾が施された漆黒の全身鎧(フルプレート)に身を包む偉丈夫。燃えるような赤いマントをなびかせ、背には巨大なグレートソードを二本背負っている。

 そしてもう一人は、絹糸のような黒く美しい髪をポニーテールに纏めた若い女性。動きやすさを重視したズボンに、褐色の外套を羽織っている。肌の露出は少ないが、きめ細やかな美しい白い肌と凛とした切れ長の目は、誰もが振り返るような美貌を備えていた。

 しかし、当の彼女は不機嫌そうな表情で周りを睨み付けている。

 

「アイn「おっと、ナーベ?」しっ、失礼しました……お……叔父様」

 

 周囲から少なくない視線を浴びながら、口を開いた途端に名前を呼び間違えそうになるナーベラル。アインズはナーベラルの肩に手を置き、優しく諭すように注意した。

 今のアインズは異形の姿を隠すため、魔法で作り出した鎧を着込んでいる。幻術を見破られることを危惧して、全身をすっぽりと包む事にしたのだ。それにまさか魔法詠唱者(マジックキャスター)が戦士に扮しているなどとは誰も思うまい、などと尤もらしくアルベド達に説明していたが、それだけではない。

 

 純銀の聖騎士(たっち・みー)のように、戦士として剣を振り回したい願望を叶えるためである。魔物の国(テンペスト)でも剣を扱う修行はしていない。基礎体力作りのために組手はやっていたが、それ以外は魔法の習得に明け暮れていたのだ。大好きな魔法の習得は楽しかったが、やはりたっち・みーのような戦士への憧れも捨て切れなかった。

 

 アインズは純粋な魔法詠唱者(マジックキャスター)だが、レベル100ともなればそのステータスはレベル30台の純粋な戦士と同程度くらいはある。合わせて、常時発動特殊技術(パッシブスキル)の〈上位物理無効化Ⅲ〉はレベル60未満の攻撃を無効化できる。ガゼフ・ストロノーフの〈六光連斬〉でさえ、余程装備が良くなければ傷一つつけられないのだ。そんな彼が周辺国家最強と呼ばれるくらいだ。武器は振っていないが、魔物の国(テンペスト)で組手は経験していたので、身のこなしだけはそこそこ自信がある。武器の扱いは慣れていないし、武技や戦士系の特殊技術(スキル)は使えないが、戦士に扮してもそれなりには通用するだろう。

 

 いきなり想定以上の注目を浴びてしまっているが、それも当然である。王宮の騎士でも着られないような立派な全身鎧(フルプレート)と、リ・エスティーゼ王国に名高い「黄金の姫」にも並び立つのではないかという程の美女が一緒にいるのだ。目立たない訳がない。

 傾国の美女がうっすらと頬を染め、曇り一つなく磨きあげられたような漆黒の鎧の男にしおらしく肩を抱かれる様は、絵画に描かれた英雄譚(サーガ)の光景を見ているかのようであり、その場の誰もが感嘆の息を洩らす。

 

 ナーベラルは演技が苦手で、目を離すとすぐに人間に酷い態度を取ってしまう。まだ初めての接触が済んで日が浅いが、いずれはその態度も軟化してくれれば…そんな期待と、やっぱり不安だという気持ちが入り混じっている。

 最初は「モモン」と呼ばせようとしたが、これはこれで問題があった。たまにであるが、「モモンガ」になってしまうし、敬称も「さん」ではなく「様」付けで呼んでしまう。ふとした拍子に名前バレなど恥ずかしいし、危険な可能性もある。そこで考え付いた苦肉の策が、「叔父」と呼ばせることだった。「叔父様」なら周りにも違和感なく受け入れられそうだし、実際友人の子供の様なものだ。それが叔父と姪という関係になったとしても然程違和感は感じない。ナーベラルも畏れ多いと口にしつつも目を輝かせていたことからそう決まったのだった。

 

 険のある視線を振り撒いていたナーベラルが鎧の男に宥められ、俯いて頬を弛ませるのを見た周囲の人々は、ヒソヒソと声を潜めて噂話を始める。何処か遠い国の貴族のお嬢様が騎士と駆け落ちしてきただの、どこぞのボンボンが格好付けているだけだのと、勝手な想像はどんどん膨らんでいく。どこまで進んでるのかとか、もうヤッた、まだヤッてないとかいった下世話な話が出て来るのも時間の問題だろう。彼らの共通の認識は、「あの二人はデキている」であった。

 

「うーむ、いきなり目立ってしまっているな……」

 

「…消し(かたづけ)ますか?」

 

「い、いや、それには及ばない。むしろ好都合だ」

 

 より多くの報酬と情報を獲る為、冒険者として名声を上げるという点に於いて、目立つことは重要な要素の一つである。街に入る前から注目を浴びるとは思っていなかったが。

 

「では次の方ー!」

 

「行こうか、ナーベ」

 

「はい」

 

 守衛の声が掛かった二人は、多数の視線を浴びながら歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 入管手続きを済ませ、門をくぐったナーベラルの第一声は、「やはりあの小バエ共は駆除すべきでは!?」である。

 まるで恋人を冷やかすような守衛の態度に、ナーベラルは大声で「どこをどう見たら(私ごときとアインズ様が)そんな関係に見えるのですか!(アインズ様を)愚弄しているのですか!」と完全否定したが、若干頬が赤らんでいたせいか、守衛にはただの照れ隠しと受け取られたようだ。結局親戚だと信じてはもらえたが、ただならぬ仲との誤解は解けていないようだった。ナーベラル、もといナーベは眉間にシワを寄せ、怒り心頭の様子である。

 

 一方モモンはモモンで絶賛傷心中であった。

 

(全否定とか…ああもはっきり言われちゃうと流石にショックだな。まあ、こんな中身骨のオッサンと恋人扱いされるのは誰だって嫌か。ナーベラルも年頃の女の子だもんなぁ。はぁ)

 

 彼はナーベラルの気遣いには全く気付くことなく、本気で自分を嫌がっているんだと思ってへこんでしまい、ひっそりと肩を落とした。

 

 

 

 

 

 冒険者組合へ足を運び、登録手続きを済ませた二人は、駆け出しの冒険者に紹介しているという宿へと向かう。小一時間程、注意事項や心得など説明を受けて、名前を彫り込んだ冒険者の身分証"冒険者プレート"が出来上がるのを待っていたら、すっかり日が落ちていた。

 

(……それにしても、思ったより夢のない仕事だな。冒険者というより、魔物専門の傭兵(モンスターハンター)じゃないか。とにかく当面の生活ができるようにお金稼がないと…。けど、文字がなぁ)

 

 此処リ・エスティーゼ王国で使われている文字は、アインズには読めなかった。日常(リアル)でも見たことのない、全く知らない言語である。当然書ける筈もない。代筆可能ということだったので頼んだが、それにもお金がかかる。登録だけで地味に金がかかってしまった。今後もそういう機会がある度にお金を取られる事になりそうだ。

 

 不思議なことに、話す言葉は普通に通じているのに、文字に書き起こすと読めないのである。よくよく喋っている受付嬢の口元を見ていると、口の動きと聞こえてくる言葉が明らかに一致しない。どういうカラクリかは分からないが、しゃべる言葉は耳に届く前に自動的に翻訳されているらしい。

 

 そういえば魔物の国(テンペスト)も、言葉は通じるのに文字は違った事を思い出す。どうも異世界特有の奇妙な法則があるんだろうと無理矢理納得した。

 他にも何かが引っ掛かっている気がしたが、思い出せないので気のせいかと思い直す。

 

 出来立ての(カッパー)級冒険者プレートを首に提げ、受付嬢に説明された通りに道を進んでいくと、そこには如何にもな安宿があった。

 西部劇に出てくるような両開きのドアを押し開け、二人が中に入るとそこは場末の酒場のような雰囲気の溜まり場だった。乱雑に並んだテーブルで飲んだくれているゴロツキ共が、此方をねめまわすように見てくる。特にナーベにはねっとりと絡みつくような嫌らしい視線が。

 カウンターの中には接客業には似つかわしくないコワモテの男。店主というより用心棒だと言われた方が納得できそうな厳つい容姿である。

 

「宿を借りたい」

 

「共同の大部屋が3銅貨、二人用の小部屋は7銅貨だ」

 

「小部屋を頼む」

 

 ぶっきらぼうな店主の物言いに、ナーベがピクリと眉を動かすが、機先を制してアインズが答えた。

 

「ああ?お前、わかってないようだな」

 

「…気遣いは無用」

 

 店主の言わんとしている事はアインズも分かっているつもりだ。同業者はライバルでもあるが、助け合う仲間でもあるのだ。横の繋がりを持って協力しあわなければ、駆け出しなどすぐに死んでしまう。冒険者は死と隣り合わせの仕事なのだ。余程突出した実力がなければ、周りの助け無しには食っていくどころか今日を生きる事すら儘ならない。

 

 駆け出しならば、顔を繋ぐ意味でも情報を交換する意味でも、大部屋に泊まるのが定石(セオリー)なのだろう。懐事情が寂しいアインズとしてもそうしたいところだったが、いきなりナーベが他人と同じ部屋に寝泊まりするのは心配事が多すぎた。年頃の女子を見知らぬ男と相部屋させるわけにはいかないし、ナーベの性格上、下手な刺激をされれば手が出る可能性が高い。トラブルを避ける意味でも、これが最適解に思われた。

 

「ふん、死にたがりが…7銅貨だ!」

 

 店主に不機嫌そうに要求された代金を支払い、モモンが二階への階段へ足を向けると、側のテーブルにつく客が通路へと足を投げ出しているのに気がついた。加えて差し向けられている下卑た視線。わざといちゃもんを付ける気のようだ。ナーベもそれに気付いたのか、眉間をひくつかせている。

 

(わざと乗ってやってもいいんだけど、ここはナーベラルに余裕のある大人の対応を見せてやるべきだよな)

 

 モモンは面倒くさい雑魚イベントをスルーしてさっさと通りすぎることにした。ナーベに目配せし、彼女が頷き返したのを確認した。意志疎通も図ったことだし、これで大丈夫だろう。

 

 ゴキッ

 

「ぎゃぁっ!足が、足がぁぁ!!」

 

(ええー!?)

 

 モモンが器用に足を避けて通りすぎたのに、後ろをついてきたナーベは腰に提げていた剣の鞘でゴロツキの足を砕いていた。無視をするとアイコンタクトを取ったつもりが通じていなかったようだ。

 

「何しやがんだこの(アマ)ァ!」

 

 一緒に酒を飲んでいた男の仲間達がいきり立ち、席を乱暴に立ち上がる。顔を近付け、血走った目で凄んで見せる男達。ナーベは怯む様子もなく、一番近くに居た男の顔を剣の鞘で殴り付けた。殴られた男はきりもみ回転しながら、他の客がいるテーブルに突っ込む。

 

「コメツキバッタ風情が至高のっ」

 

 侮蔑と殺意に満ちた表情のナーベにゴチン、とモモンの拳骨が落ちた。

 

「馬鹿、イチイチ相手にするんじゃない!」

 

「ひゅ、ひゅみまひぇん、叔父ひゃま…」

 

 腰に手を当てて怒りをポーズで示すモモンに、拳骨で舌を噛んでしまったナーベが頭を押さえて謝罪を口にする。先程まで男達を見下した態度で見ていた美女が、叔父と呼ばれた鎧の男の前で小さく肩をすぼめ、涙目で震えている。あまりの変わりように周囲は呆気に取られてしまう。

 

「姪が失礼した。今は少々虫の居所が悪くてね…。大方新人の通過儀礼のつもりだったのだろうが、相手は選んだ方がいい」

 

「あ、は、ハイ……」

 

 ゴロツキは大人しくそう返事を返すので精一杯だった。周りの者も完全に二人の空気に飲まれている。先のやり取りでナーベの実力がかなりのものだと理解させられたが、そんな彼女が頭が上がらない様子を見せる鎧の男はもっと実力が上らしい。彼がいつ彼女の背後に回ったのか見えた者はその場には居なかった。

 

「おっぎゃあああっ!!?」

 

 とりあえずその場を収められそうだと思った途端、女の少し間抜けな悲鳴が上がる。今度はなんだよ、とモモンは舌打ちしたい気持ちを抑え、悲鳴の上がった方を見る。

 

「ちょっとちょっとちょっとちょっとぉ!!」

 

 顔を怒りに歪め、怒鳴りながら近付いてくる女。やや野性味を感じさせる癖のある髪、鍛えられて程よく盛り上がった二の腕の筋肉。褐色に日焼けした肌は、むさ苦しい男達と共に生き死にを共にする、女戦士のそれである。

 

「お、おいブリタ…」

 

 近くに居た飲んだくれが小声で止めようとするが、聞く耳もたず、ブリタと呼ばれた彼女は肩を怒らせてのしのしとナーベに詰め寄る。

 

「…」

 

 僅かに眉をしかめながらも、努めて冷静に応対しようとするナーベ。流石に彼女も馬鹿ではない。モモンが荒事を望んではいないことを念頭に置き、練習したことを思い出す。

 

「何か?」

 

「何かじゃないわよっ!どーしてくれんの、コレ!」

 

 涙目になりながらブリタが見せてきたのは割れた瓶の欠片の様なもの。

 

「アンタがソイツをブッ飛ばしてくれたせいで、アタシのポーションが割れちゃったじゃない!」

 

「それが…何か?」

 

 些末な事、とでも言いたげなナーベのスカした態度に余計に腹が立ったブリタは、頭に血を昇らせ真っ赤になって怒鳴り付ける。

 

「だっ、か、ら、もぉおお!弁償しなさいよ!!アタシが食事を抜き、酒を断ち!倹約に倹約を重ねて今日!今日やっと買えたのよ!?お仲間がそんな立派な鎧なんか着込んでんだから、アンタら金持ってんでしょ!?」

 

(え…もしかしてかなり良いヤツだったのか?それともこの世界のポーションは高価な物なのか?)

 

 ユグドラシルの世界では初心者でも持っていて当然の消耗品にそこまで怒ってくるとは思いもよらなかった。思い返してみれば、確かに馬鹿みたいな高級ポーションも存在した。アンデッドであるモモンガは自分で使用する機会がなかったが、レアと聞くと集めずにはいられないタチの収集家な彼は一応全種類揃えている。

 チラリと女の胸元を確認すると冒険者プレートが下がっている。

 

(素材は…鉄か。鉄級と言うことは下から二番目のランク。そんな彼女にとってポーションは苦労してやっと手に入れる事が出来るくらいには高価な物らしいな)

 

 ランクからして、どうやらそこまで高価な物ではないだろうと辺りを付けたモモン。

 

「あー、彼らに支払わせればいいんじゃないのか?」

 

 モモンが言いながらゴロツキ共を指差す。元はと言えば喧嘩を売ってきたのは彼らの方だ。ちょっとやり過ぎた感は否めないが。

 

「あー、ムリムリ。コイツら昼間っからずっと飲んだくれてんのよ。酒代ぐらいしか持ってないよ。4金貨なんて大金、コイツらに払えるわけないわ」

 

 彼女の言葉にウンウンと頷く飲んだくれ共。モモンは内心大の男がそれでいいのか、と溜め息を付く。しかし困った。

 

「……今は持ち合わせがないんだが」

 

(そんなにするのかよっ)

 

「うーん、なら現物でも良いわ」

 

「ならばそれで手を打とう。残りは少ないんだが…」

 

 嘘である。本当はまだ腐るほど在庫を抱えているが、それを正直に言ってしまうより、少ない中から渡すと言った方が効果的である事をモモンは経験上知っている。

 モモンはマントの中を漁る振りをしながら、インベントリからポーションを二本取り出す。虚空に手が消えて見えるのはまずいので隠しただけであるが、それでもマントの中からポーションを取り出すのは不思議に見えたようだ。1本をブリタに手渡す。

 

「なにコレ、ポーションなの?」

 

「そうだが?」

 

 この時モモンはまだ知らなかったが、この世界で一般に流通しているポーションは青色。赤いポーションなど、ブリタは見たことも聞いたこともなかった。

 

 これで文句ないだろうとモモンは背を向け、足を砕かれた男にポーションを振り掛ける。その効果は劇的であった。みるみるうちに怪我は完治し、驚きの声をあげる。

 

「すげぇっ!あっという間に治ったぜ!」

 

 品質にもよるが、この世界のポーションはそれほど効果は高くない。そのうえ、即効性も薄い。治癒能力を異常促進し、骨折ならば余程高級なものでなければすぐには動かせない。ところが、骨折が瞬く間に完治してしまうところをを見せつけられてしまった彼らは、目玉が飛び出るような衝撃を受けた。

 

「え…?」

 

 最初はポーションが偽物じゃないか少し疑っていたブリタも目の前で効果を見せつけられては信じるしかない。それどころか、元々持っていたものより遥かに良品である。金貨数百枚とかするんじゃないだろうか、なんて代物が今自分の手の中にある。

 

(いくら何でもこんな凄いの貰えないわよっ)

 

 少し迷ったブリタがやっぱり返そうと決めた時、二人はさっさと階段を上がろうとしていた。

 

「ちょっ、ちょっと!」

 

「…まだ何か?」

 

 不機嫌そうに振り返るナーベ。

 

「アンタじゃないわよ。そっちの、ええと…」

 

「ん、私か?…ナーベ、先に部屋に行っててくれ」

 

「っ!?」

 

 モモンは何か言おうとしたナーベの肩に、後ろからポンと手を乗せた。ナーベの方は驚いた様子で目を見開き、そしてほんの僅かに頬を赤らめる。モモンは角度的にナーベの顔が見えないためか、それには全く気づいていない様子だ。男達も同様。が、同じ女性のブリタは敏感にそれをキャッチする。

 

「大丈夫だ。すぐに行く」

 

「で、ですが…」

 

 食い下がろうとするナーベ。その様子から、彼女がこの男を随分慕っている事が窺えた。

 

「ナーベ?」

 

「う…はい」

 

 少しシュンとした様子で引き下がる彼女。心から慕う叔父と片時も離れたくないようだ。もしかすると、もっと別の感情もあるかもしれない。ブリタにはそんな彼女が少しいじらしく思えた。

 

「あの娘ナーベっていうんだ…。アタシはブリタ。アンタは?」

 

「ああ、そう言えば名乗っていなかったか。モモンだ。それで、私に何の用だ?」

 

 言われてブリタがポーションを突き返す。

 

「やっぱコレは受け取れないわ。とんでもない値段すんでしょ、コレ?アンタ達の将来性を見込んで、つけにしといてあげるわ」

 

「黙って貰っておけばいいのに、案外律儀なんだな」

 

「新人の後輩にポーションをタカるようじゃ先輩としてハズカシーじゃん?それに、アンタ達に貸しを作っておけば、将来トクしそうだし?」

 

 ふふん、と鼻をならすブリタ。二人の将来性を見込んでくれたようだ。ポーションの弁償一度きりの縁で終わらせるより、今のうちから恩を売って繋がっておく方が得策、ということか。モモンは良心的な相手で良かったと胸を撫で下ろすと共に、ブリタの認識を少し改めた。実力差を考えず突進する脳筋かと思っていたが、案外将来を考えて行動する(したた)かさもあるようだ。

 

「…成る程?そういうことなら、先輩のお言葉に甘えさせて貰おう」

 

「ま、困ったことがあったら頼って来なよ。気前の良い新人さん」

 

 

 

 

 

 モモンが部屋へと階段を上がっていったところで、俄に場が賑やかになる。

 今度の新人は相当やり手だぞ。だから俺はやりたくなかったんだよ。女の方は強くて美人だが性格キツかったな。でも男の方には惚れ込んでるらしい。ありゃどこぞの元騎士か?一瞬動きが見えなかったぞ。でも紳士だった…。あの二人、やっぱりデキてるんじゃないか?となると夜の相手もしてもらってるのかなぁ。あの兜の下はどうなってんだろうな?よっぽどの男前なんだろうな。ブ男だったら俺にもチャンスがあるかも?よせよ、どうせお前の顔じゃ敵いっこないって。ついでにチ○コのサイズも勝てねえだろうしな。うっせー、男はデカさじゃねぇ!

 

 新人の話題を酒の肴に、いつものように飲んだくれ達が馬鹿騒ぎをしながら飲み明かすのだった。




快調なスタートを切ったモモン一行ですが…。
原作とはモモンの言動や呼び方は色々違う感じになっていますが、リムル様のお陰で多少気が楽になっているのと、目的も変わってきているせいでもあります。

アンケートにご協力くださった皆様、ありがとうございました。結果を活動報告にて発表しております。
結果を加味しつつ、マイペースにゆっくり更新していきます。

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