異世界に転移したらユグドラシルだった件   作:フロストランタン

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遅くなりました。何気ない会話から重たい空気になったところからです。


#56 謎の声

 気まずい雰囲気が漂う中、モモンが重い口を開いた。

 

「仲間とは……ある日を境に一度も会っていません」

 

 モモンはそれだけ言うと再び沈黙が流れる。モモンの何か訳ありげな雰囲気に、それ以上誰も踏み入る勇気はなかった。

 

「あ、その……」

 

「…ん?ナーベ?」

 

 ニニャが気まずさから何か言わなければと焦るが、気のきいた言葉が思い付かずまごついていると、モモンが先に声を発した。ナーベに視線を向ければ、彼女は視線を下に向け沈痛な表情をしていた。

 

「ナ、ナーベさん…!」

 

「ま、まぁ、あれだ、またすぐ新しい仲間が出来るさ、なぁ?モモンさん達ならきっと引く手数多──」

 

「そんなものは不要です!」

 

「あ…」

 

 ルクルットの言葉にナーベが過敏な反応を示す。慰めのつもりで言った言葉なのだろうが、全くの逆効果であった。ナーベは切れ長の目を鋭利な刃物のように鋭く吊り上げ、ルクルットを睨み付ける。不快感と敵意がどす黒い怨念のようなオーラとなって溢れ出ている。

 

「新しい仲間……?ふざけた事を言わないで!代わりなんて居ないし要りません!私がお仕えする至高の──」

 

「ナーベ!」

 

 モモンの強い語気で制止する声に、ナーベがびくりと肩を震わせる。口を押さえて顔を青褪めるナーベの肩にモモンが手を置くと、まるで首根っこを掴まれた猫のように大人しくなる。モモンは小さく溜め息を吐き、ナーベに囁く。

 

「気持ちは分からないでもないが、熱くなり過ぎだ……少し向こうで頭を冷やして来い」

 

「あぅ……は、はい……」

 

 ナーベは涙目で肩を落とし、背を向けて歩き出した。後ろで纏めた美しい黒髪も、元気無さげにへにょりと垂れている。『漆黒の剣』の面々は彼女の背を見送りながら、いたたまれなさに表情を曇らせていた。リーダーのペテルが頭を下げて誠心誠意詫びを入れる。

 

「本当に申し訳ありませんでした。仲間が軽はずみに…」

 

「気に病むことはありませんよ。むしろ私たちの方こそ、空気を悪くしてしまって申し訳ない」

 

「あっ、いえ、モモンさんが謝るようなことは……」

 

 怒るどころか逆に頭を下げてくるモモンを慌てて止めるペテル。失礼なことをしてしまった自分達にも誠実な態度を崩さないモモンに対し、好意と尊敬の念が強まった。

 

「実は、仲間達とは生き別れのような状態で離れ離れになってしまったんです。ナーベと一緒に探してはいるんですが、未だに生死も不明なままです」

 

「そっ、そうでしたか……」

 

 事情を明かしてくれたモモンの言葉にペテルは曖昧な相槌を打つしかなかった。最初は固く口を閉ざしていたのに今になって話してくれるのは、事態の収拾を着けるために結局話さざるを得なくなってしまったということなのだろう。話したくない事を相手に話させてしまっている事に、罪悪感が段々と大きくなる。

 

「突然の事だったので、ナーベはまだ気持ちの整理がついていないのですよ。色々と言って聞かせてはいますが、少し神経質になっているようでして。私としてはもう少し、他人と関わる事にも慣れて欲しいと思っているんですが……。すみません、少し様子を見てきます」

 

 モモンはそう言うとその場から離れ、ナーベの方へ歩き出す。残された面々の表情は暗い。

 

「ああ、やっちまった…くそっ」

 

 ルクルットが苦い表情のまま拳を握る。ニニャも項垂れている。そんなつもりはなかったとはいえ、ナーベにとって触れられたくないデリケートな部分を、土足で踏み込むような事をしてしまった。モモンは冷静に此方の想いを酌み理解を示してくれているが、気に病むなと言われてその通りに出来るほど、二人は感情の整理が上手い訳ではなかった。

 

「……起きてしまった事は変えようがない」

 

「その通りである。今後少しでも信頼を寄せて貰えるよう、誠意をもって行動していくしかないのである」

 

「わーってるよ……」

 

「そう、ですね。頑張らなきゃ」

 

 背を向けて歩いているモモンの耳にも、その会話の声は届いていた。彼らの前向きさと人の良さに少しばかりの清涼感を感じながら、モモンは状況を冷静に分析する。

 

(余計なことを根掘り葉掘り聞かれずに済んだけど、俺もナーベラルの前で仲間の話は軽率だった。亡くなった弐式さんの事を思い出すのも無理はないか……。でも、なんで俺はこんなに平然としていられるんだ?リアルの頃は、考えるだけで胸が痛くて息が苦しくなるほど辛かったハズなのに。これもリムルのお陰か?それとも……)

 

 アンデッドになった事で、仲間の死に対してすら何も感じなくなったのでは?一瞬恐ろしい考えが過り、すぐに打ち消す。そんなはずない。大切な仲間への想いは、人間を辞めてしまった今でも確かに残っている。鈴木悟の残梓ともいうべき部分が、そう叫びをあげていた。

 

 ナーベは人の目に付かない岩の影に隠れるように佇んでいた。モモンが側に立つと、深々と頭を下げ謝罪を口にする。

 

「取り乱してしまい、申し訳ありませんでした……」

 

「許す。お前に非はない。私の方こそ、辛いことを思い出させてしまってすまなかったな」

 

「ア、アインズ様がお謝りになるようなことは……全て私が悪いのです」

 

 名前を出すなよと一瞬思ったが、誰が聞いているわけでもないだろうし、まあ良いかと思い直す。

 

「……お前は弐式さんが好きか?」

 

「え…あ、あの……」

 

 ナーベは困惑の表情を浮かべ、次に顔を真っ赤に染め上げた。そして蚊の鳴くような小さな声で答える。

 

「……はい

 

 まるで恋でもしているみたいだなとモモンは思ったが、それはあながち間違ってもいないだろう。異性の創造主に対し、憧れ以上の感情を抱いても何ら不思議ではない。NPC達の過剰な忠誠心は、そんじょそこらのガチ恋よりも重くて強いだろう。

 

 隠密に長けた職業(クラス)構成の弐式遠雷は、裸同然の貧弱な防具で敵地に潜入する、いわゆるスリル狂な所があり、『アインズ・ウール・ゴウン』の仲間には「ちょっと頭おかしい」と思われていたが、『アーベラージ』という他のゲームでもトップランカーとしてその名を馳せる彼は、リアルでもその筋の女子にはモテるらしい。

 

 モモンはナーベの頭にそっと手を置き、その濡れたような艶やかな髪を撫でてやる。

 

「それを聞いたら弐式さんも喜んだだろうな…」

 

「お、お戯れを……わ、私など……」

 

 弐式遠雷は理想の女性を想い描いてナーベラルを作った。その彼女にただならぬ好意を抱かれるのは男の冥利に尽きるというやつではないだろうか。弐式遠雷に僅かな嫉妬を覚えつつ、自分も理想の女性像を形にするべきだっただろうかと想いを馳せる。美しく、自分に従順で、誠心誠意尽くしてくれる女性NPC。夜なんかも、きっと充実した──

 

(ち、違う!そんなNPC作って何させる気だよ俺は!)

 

 想像があらぬ方向に向かってしまい、モモンは慌ててかぶりを振って不純な思考を追い払う。

 

「ど、どうかなさいましたか?」

 

「ん?い、いや……何でもない」

 

 目の前のナーベを見て、流石に不審がられただろうかと若干の焦りを感じつつ誤魔化す。

 

「んんっ……まあ、なんだ。失敗は誰にでもある。私も数々の失敗をしたものだ」

 

「ア、アインズ様が、ですか?」

 

 ナーベラルが目を丸くして驚くが、無理もない。彼女にとってアインズは、ナザリックの守護者達さえも凌ぐ力を持ち、ナザリック随一の知恵の持ち主であるデミウルゴスをして「端睨すべからざるお方」と言わしめる智謀を兼ね備えている。その上、誰よりも深い慈悲の心まで持ち合わせた、まさに完全無欠の存在なのだ。そんなアインズが失敗するなど、想像だに出来ない。

 

「そうだ。嘗ての私は弱かった。だが、数々の失敗を重ね、成長を続けてきた結果、今の私があるのだ。私達の手で創造されたお前達は初めから力を持って生まれたがな」

 

「アインズ様が失敗など、とても想像出来ません……」

 

「そうか?だが本当だぞ?だからお前も失敗したっていい。私だって失敗するときはするのだからな。取り返しが付く程度の失敗であれば私が何とかしてやれる。それよりも、失敗から学び、失敗を糧に成長するんだ。人間と同じようにな」

 

「人間と、ですか?」

 

 ナーベが怪訝そうな顔になる。人間を見下している彼女にとって、人間はみんな虫を見るような感覚でしか見えていないのかもしれない。確かにアインズもゴブリンはほとんど同じ顔に見えてしまい簡単には見分けられない。意識的に注意深く見れば男女の違いや表情の動きはどうにか分かるという程度だ。

 

「人間は間違う生き物だ。しかし、間違いに気付き、改め、努力し、そして成長する事ができる」

 

「は……しかし、成長などといっても目に見えるような違いはあるのでしょうか?下等生物が努力するだけ無駄では?」

 

 ナーベラルは疑問を口にする。どう成長したところで、所詮は脆弱な人間。自分達には届きようがない。そんな下等生物が成長したところで何の足しにもならないと、冗談でも嫌味でもなく、本気で思っているようだ。

 

「ふむ……では例え話をしよう。ある時点で見たとき、弱小だが成長を続ける集団と、全く成長しない強者の集団があったとする。その時点では成長しない強者達が力は上だが、()()()()()()はどうだろうな?力関係は同じと思うか?更に千年、二千年後はどうだ?」

 

「……!つまり、現在は下等で力の無い人間でも、成長を続ければいずれは脅威になりうるとお考えなのですね?では脅威となる前に滅ぼし尽くしてしまえば……」

 

「ま、まて!結論を急ぐな。そうではない」

 

 物騒なことを考え始めるナーベに慌ててストップをかける。脅威となる前にその芽を摘み取ろうという考えは、リスク管理という面に於いて間違ってはいない。モモンも出来るなら将来的なリスクは取り除きたいし、自分達に敵対して襲ってくる者にまで笑顔で対話しようなどと考えるような平和主義者ではない。仲間の子供と言ってもいいNPC達を守る為ならば、時に非道で悪辣な手段を取ることさえも厭わないだろう。

 

 しかし、人間を滅ぼそうと完全に敵対するのは駄目だ。異形ならまだ分からないが、ユグドラシルから人間種プレイヤーが転移してきた時、人間が滅ぼされそうな所を見れば、嘗ての六大神のように助けに入るだろう。人類と敵対することはプレイヤーの多くを敵に回すことでもある。それでは余計にリスクが大きくなるだけだ。

 

 それに、仲間達と再会を果たせたとき、この世界の人間を滅ぼしたなどと知ったらどう思われるか。悪の華としてその名を轟かせた異形の集団『アインズ・ウール・ゴウン』だが、それはあくまでもユグドラシル(ゲーム)という仮想の世界の話であり、現実には人として、社会人として良心を持ち合わせた集団である。

 

 ナザリックに攻め入ってきた女性プレイヤーばかりを狙ってゴキブリの巣窟(恐怖公の守護領域)へと転移させ、半狂乱のままにトラウマ(オマケ)付きで強制ログアウトを余儀なくさせるなど、DQN集団と認識される程度には『悪さ』もしてきた。だがそれもゲームの中であり、現実に本物の人間を殺戮し滅ぼそうとする事と比べれば、可愛いイタズラレベルのものだろう。

 

「……プレイヤーには人間種が多い。現地の人間自体は敵ではないとしても、その背後に居るであろうプレイヤーに徒党を組ませる切っ掛けを与えれば、そちらの方が厄介だ。敵を増やすのではなく、味方につけるべきだと言っただろう?」

 

「成る程、流石はアインズ様です。現地の人間を滅ぼすのではなく、敵対するプレイヤーへの盾として動くように仕向けるのですね」

 

「う、うむ……」

 

 そこまでは考えてはいないんだけど、と思いつつ、方向性を修正しなくてはと考える。この世界の人間を対プレイヤーの盾として扱うのではなく、ナザリックの部下達が持つ忌避感、嫌悪感、侮蔑意識を少しでも和らげたい。人間を好感を抱かせるより寧ろこちらの方が難題と言えるかもしれない。

 

「それよりもだ。人間と同じように我々もまた、現状に満足せず成長を目指すべきということだ。人間には上昇思考を持つ者が多い。今はそんな彼等を身近で観察する良い機会でもある。今は弱いからと決して侮って良いものではないぞ。そういった観点から見倣うべき所がないかを彼らの中に探してみろ。お前自身の成長に繋げるためにな」

 

「はっ、かしこまりました!」

 

 深々と礼を取るナーベに、周囲の誰も見ていない事を気にしつつ、じゃあ戻るかと言いかけて、大事なことを思い出す。

 

(リィジー・バレアレ……此処まで特に目立った動きはないし、今もイビキかいて普通に寝てるみたいだ……。接触してくるなら村に着いてからか?それならそれで好都合だけど)

 

 流石にヴェルドラが居るカルネ村にプレイヤーが罠を仕掛けて待ち構えているということはあり得ない。トラブルメーカー体質なあの二人に若干不安は感じるが、こちらの味方と考えて良いはずだ。リィジーがプレイヤーと繋がっていたとしても、彼らの前には脅威とは言えないだろう。モモンは兜の下で笑みを浮かべながらヴェルドラに〈伝言(メッセージ)〉を送った。

 

「少し待て。〈伝言(メッセージ)〉……ヴェルドラさん、今、良いですか?実は……」

 

 

 

 

 

 

(ナーベさん、強い女性(ひと)だな…)

 

 モモンと共に戻ってきたナーベに『漆黒の剣』の面々は改めて謝罪し、ナーベがそれを受け入れた事でようやく安堵の溜め息をついた。ニニャはその中でもナーベに対し少し他のメンバーとは違う感情を抱いていた。それは《同性》に対する憧れに近い。

 

 ニニャは本当は女性だ。冒険者は異性を仲間に入れることを嫌う事から、彼女は性別を偽って冒険者になったのだ。

 

 幼い頃、姉は領主に何処かへと連れられていった。最初は何が起きたのか理解できておらず、「領主様と一緒にお出掛けした」という親の言葉を鵜呑みにし、いつか姉が帰ってくるものと信じていた。

 

 しかしそれは間違いだった。その貴族は自分の領地から見た目の良い女を連れ込んではその欲望の餌食にし、飽きたらゴミのように捨てる、最低の奴だったのだ。

 両親はそれを知っていて、彼女には隠していた。何度も何度も姉の帰りをしつこく訊ねる彼女に、遂にその真実を告げた。

 

 領主の横暴に対し、ただの領民に抗う術はない。ただの八つ当たりで平然と領民を殺す事もあるくらいだ。力を持たない者は、ただただ頭を低くして災難が通り過ぎるのを待つことしかできない。お姉ちゃんは運が悪かったんだ。父も母も泣きながら彼女を抱きしめ、どうしようもないと諦めの言葉を繰り返した。

 

 しかし彼女はそんな言葉など聞きたくなかった。諦めて泣きながら暮らす位なら、抵抗して殺された方がマシだとさえ思えた。両親の制止も聞かず家を飛び出し、姉を理不尽に奪っていった貴族への怒りと憎悪を糧に、がむしゃらに生きた。力が欲しかった。姉を取り戻す力が。

 

 やがてある魔法詠唱者(マジックキャスター)に才能を見出だされ、憎き貴族に叩き込む日を夢見ながら魔法を習得した。第二位階まで魔法を習得した頃、姉は既に貴族の下から居なくなっていた。まるで消息が掴めない姉の情報を集めるため、彼女は冒険者になる事を決める。長かった髪を切り、性別を偽り、名を偽った。全ては貴族への復讐、そして姉を取り戻す為だった。

 

 しかし、モモン達と出会った事でその想いに少しだけ迷いが生じ始めていた。

 

 ナーベが口にした言葉の意味の全ては分からないが、恐らくナーベは元々モモンの仲間に仕える立場だったと思われる。しかし、何らかの事情で突然生き別れになり、今はモモンと行動を共にしているようだ。ナーベの主人は恐らく貴族、或いは王族の様な地位ある人物かもしれない。となればモモンもまたそうなのだろう。二人の態度をよくよく思い出してみれば、「叔父と姪」ではなく「主人と従者」の方がしっくり来る。それまで貴族に対し良い感情を一切持っていなかったニニャにとって、高い地位にありながら、ナーベ程の女性が至高と崇めるように慕うほどの人物が居ることに戸惑いと驚きを感じていた。

 

(……貴族と敵対すれば仲間の立場も危ういし、行方不明の姉さんを探さなきゃいけない。復讐なんて考えるより、姉さんを探す事だけに専念すべきなんじゃ……?)

 

 燃え盛る様な憎しみのままにこれまで力を磨いてきたが、それは果たして正しかったのか。姉を探すことだけに集中していたら、今頃はもっと違っていたんじゃないか。そんな思いが僅かに過る。昨晩のナーベの姿を思い出す。彼女の目には淀みのない真っ直ぐな光が灯っていた。

 

(彼女は心から信じているんだ。生き別れた仲間との再会を。あんなに辛そうにしてたのに、ほんの少しの時間で見違えるくらい表情が変わった……私だって、私も変わりたい。そして、胸を張って姉さんに会いたい……)

 

 

 

 

 

「あれ?柵が出来てる……前来たときは何も無かったと思ったけど、いつの間に……」

 

 カルネ村が見えてきたところで、ンフィーレアが声をあげる。見れば木を縦横に組み合わせた格子状の簡素な見た目ながら、見上げる程の高さの柵が村を囲うようにして出来上がっていた。

 

 モモンはじっと柵を観察する。格子状の四角い隙間は子供になら通り抜けられそうだが、大人は余程細身の体格でなければ抜けられないだろう。上側の先端は尖っており、よじ登って越えるにも苦労しそうだ。村の入り口付近には警備員の詰め所の様な雰囲気の建物、村の端には背の高い物見櫓も見えた。

 

 モモンは見た目上は常識的な範囲にとどまっている事にホッと胸を撫で下ろす。ヴェルドラ達に改造計画書を見せられた時は不安を感じずにはいられなかったが、これ位なら悪目立ちする事はないだろう。

 

「待って下せぇ」

 

「「!?」」

 

 周りの麦歩の中から声が聞こえた。普通の村人とは雰囲気が違う、ドスの利いた太い声だ。ガサガサと物音が聞こえるが、声の主は姿は見せない。気付けば周りにも複数の物音が聞こえ始める。周りを取り囲まれているとルクルットが小声で伝え、ペテル達が辺りを窺いながら武器を手に取ろうとする。

 

「あーっと、武器は不味いですね。別に争う気は無いんですよ。ただの確認です。アンタ方、村にはどういったご用件ですかい?」

 

 ペテルがリィジーと目を合わせ頷きかける。相手を下手に刺激せず、正直に話した方が良さそうだ。

 

「ワシ等は薬草の採取をしに来ただけじゃ。カルネ村には何度も来ておる。お主らこそ、一体何者じゃ!?」

 

「……」

 

 声の主は答えず、緊迫した沈黙が続く。野盗の類いなのか、それとも別の何かか。いずれにしても相手の姿が見えない以上、下手な動きを見せれば危険だ。

 

「あっ、ンフィー!おおーい!」

 

「ああっ、(あね)さん!まだ出てきちゃ駄目じゃないですか!」

 

 聞き覚えのある若い女の声が詰所の方から聞こえる。声のした方に目を向けるとやはり、エンリであった。彼女は笑顔で此方に手を振っている。

 

「ンフィー!おばーちゃーん!」

 

「……いま、聞き間違いでなければ、あの娘を「姐さん」って呼んでたような……?」

 

「あー……しょうがねぇ、そのまま行って下せぇ」

 

 結局声の主は姿を見せていないが、何かを諦めたようだ。「姐さん」発言には一切触れない。一行は解決しないままの疑問を抱えながら、戸惑いつつも村娘に案内されるがまま、おっかなびっくりと村へと足を踏み入れるのだった。




ようやく村に到着です。幾つかやることをやってエ・ランテルに帰ると、あの事件が勃発です。
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