異世界に転移したらユグドラシルだった件   作:フロストランタン

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気を抜いていたらナーベラルが口を滑らせて正体がバレてしまいました。

そして彼女の登場です。


#61 破滅への円舞(ロンド)

 城塞都市エ・ランテル。

 

 この街は三重の堅牢な壁に囲まれた、要塞のような都市である。居住区も広いが何より広いのは、その西側に拡がる広大な共同墓地。都市の実に2割以上もの面積占めるその墓地は、カッツェ平野で毎年のように行われる帝国との戦争によって出る戦死者達の亡骸を埋葬するために、王国内でも最大級のものになっていた。

 

 これ程巨大な墓地ともなると、アンデッドが発生する確率も必然的に高くなる。アンデッドの発生要因には不明な点もあるが、基本的に死者の亡骸が在るところに不浄なる魂を持って生まれる事が多い為だ。その上、アンデッドの数が増えると、その中により凶悪な個体が発生する傾向がある事は知られている。よって数が増えないうちに処理する必要がある。

 

 戦争をする相手の帝国とも、アンデッド対策のために死者を弔うことに関しては互いに協力し合っていた。アンデッドは生者にとって、いがみ合う相手とでも手を組んで対処すべき共通の敵という認識で一致しているのである。

 

 そんなわけでエランテルの共同墓地は衛兵が毎日巡回しているが、それは主に夜。昼は殆んど誰かが近付く事はないだろう。

 

 そんな墓地の奥に一つの霊廟がある。石の台座に隠された特殊な仕掛けによって秘匿された地下への階段が続き、その先には少し広くなった空間が存在する。壁は土が剥き出しではあるが人の手が入り、簡単には崩れる心配はなさそうだ。

 

 ただ、そこは墓地の一部と言うよりは、何か別の邪悪な雰囲気が漂っている。怪しげなタペストリーが垂れ下がり、血の匂いを漂わせる真っ赤な蝋燭が闇をボンヤリと照らしていた。闇色のローブを纏い、頭をすっぽりと覆った謎の集団が居た。彼らは呪詛のようなおぞましい言葉をブツブツと垂れ流している。

 

「んも~ォ!何時になったら帰って来るんだよー!」

 

 霊廟の奥で突如大声をあげたのは、金髪の女。彼女も他の面々と同じくローブを纏ってはいるが、頭までは隠しておらずその美しい顔貌を晒している。澄ましていればその短い金髪と瑞々しい白い肌、整った顔立ちが気品すら感じさせるだろう。だが現在は、その態度と表情が全てを台無しにしていた。

 

 見た目こそ若く麗しい妙齢の美女であるが、まるで子供の癇癪のように頬をプクリと膨らませ、不満を体で表すが如くジタバタと腕を振り回していた。

 

「何を騒いでおる、少しは落ち着かんか」

 

「あ、カジッちゃ~ん」

 

 猫を思わせるようなやや吊り上がった大きな目に、気色を浮かべて女が声の主を振り返る。

 

「いい加減その呼び方はやめいと云うのに。誇り高きズーラーノーンが十二高弟の名が泣くわ……」

 

「カジッちゃん」と呼ばれた声の主、カジット・デイル・バダンテールは、溜め息混じりは闇色のローブから顔を覗かせる。覗けた顔は蒼白どころか土気色に近い程に血色が悪く、髪も眉も、睫毛すら無い。全身の毛が抜け落ちたかのような風貌である。神官達が見なくとも、重篤な病に侵されている事を疑ったであろう。

 

「誇りねー。そんな細かい事ばっかり気にしてるから禿ちゃうんじゃないのー?」

 

「やかましいわッ!!……今は髪の話は関係無い」

 

 男はハゲ頭を気にしていたのか声を荒らげたが、またすぐに平静の態度に戻る。

 

「ナニナニ、気にしてんのー?カジッちゃんカワイイー!」

 

「…………」

 

 完全に馬鹿にされている。カジットはこめかみに青筋を浮かべつつも、黙して耐える。こういった手合いにムキになれば余計に調子づく事は明白だからだ。性格はさておき、彼女の協力を得られる事は彼にとって非常に大きなメリットがある。其方を優先するべきだと判ずるだけの理性がこの男にはあった。

 

「そう言えばあのコも可哀想にねー。ホラ、お人形みたいに好き勝手利用されてたから、解放してあげたんだー。優しーでしょ?そしたらそれまでお人形みたいに澄ましてたのが、いきなり「ぷえぇぇっ」とか叫びながらガクガク腰振って糞尿垂れ流しショーが始まっちゃってさ……ウププ、マジで爆笑もんだったよー」

 

 ケタケタと嗜虐に歪んだ表情で笑う彼女が言っているのは巫女姫──スレイン法国にいる、本来人間の限界を超えた高位の魔法を操る少女──の事である。

 

 巫女姫は代々、『叡者の額冠』という法国の秘宝の適合者が務める。その秘宝は、人類の限界を超えた超高位階の魔法を使用を可能とする一方、装備者の自我を封じ込め、魔法を吐き出すだけの傀儡と化す。

 

 もしそれを外したらどうなるか。その答えは先程彼女が言った通り。つまり発狂だ。適合した少女は、若くして魔法を詠唱するだけのアイテムとされたあげく、装備を外せば発狂してしまう。巫女姫となった時点でその少女は個人として死したも同然なのである。しかしそれも全ては人類の生存圏を護るための必要な犠牲として支払われてきたのだ。

 

()漆黒聖典のお主が、結果を知らぬわけが無かろうに。お陰で儂の計画も前倒しできるが……。全く、遊びではないのだぞ……。お主が戯れに何人も殺してくれたお陰で、儂も隠蔽に苦労しておる。今目立つわけにはいかんのだ、わかっておるだろう?クレマンティーヌよ」

 

「それはわかってるけどー。だってツマンナイんだもん」

 

 クレマンティーヌと呼ばれた女はふて腐れた表情で抗議する。これまでも退屈しのぎにと何人も甚振っては殺しているのだ。しかしそれでもまだ殺し足りたいと言わんばかりだ。カジットはそれを見て深い溜め息を吐き出す。

 

 彼女、クレマンティーヌはスレイン法国の特殊部隊《漆黒聖典》の()隊員である。席次は九番目であったが、それは決して能力が低いわけではない。《漆黒聖典》の隊員の多くは極めて稀有なタレントを持っているか、他の聖典の隊長とも対等以上の戦闘能力を持ち合わせている。彼女の場合は後者であった。

 

 叡者の額冠を外された巫女姫が発狂することなど彼女は当然知っていた。巫女姫が代替わりするときに神の御元へと送る──本来殺人を重罪とする法国にあって、()巫女姫の生命を終わらせる──のは、漆黒聖典の役目の一つだからだ。叡者の額冠を奪ったのは単に()()()としてだけでなく、彼女自身の()()()()の意味もある。クレマンティーヌは人を殺すことを「()()()いて、()()()いる」と言うほどの殺人狂なのだ。

 

 彼女は予てより密かに接触を持っていた秘密結社『ズーラーノーン』の十二高弟の座に迎えられて、遂に祖国であるスレイン法国を裏切り、『ズーラーノーン』に完全に鞍替えすべく動き出したのだった。

 

 しかし、それは決して容易なことではない。本来法国の重要な機密を知る彼女が組織を抜けることなど叶いはしない。隊を辞めるときは相応の理由が必要であり、死ぬか戦えなくなるかでなければならない。そして辞めた後も監視が着く。そこで法国の秘宝を強奪し、逃走したのだ。当然すぐに追っ手が掛かり、既にこの街にも潜入している法国の特殊部隊『風花聖典』が、裏切り者を見つけ出さんと血眼になって探していた。

 

 クレマンティーヌは強奪した叡者の額冠を、目の前の男──同じくズーラーノーン十二高弟のカジット・デイル・バダンテール──へと手土産に引き渡し、彼の計画している儀式を手助けする代わりに、その儀式によって引き起こされる街の混乱に乗じて自分は法国の追っ手から逃走を図る取引を持ち掛けていた。

 

 秘密結社『ズーラーノーン』。それは古くから存在する組織であり、死を隣人とする魔法詠唱者(マジックキャスター)からなる。強大な力を持つ事で名の知れた盟主を筆頭に、過去にも数々の悲劇を生み出してきた。当然周辺国家からは危険視され、敵視されている。

 

 カジットが行おうとしているのは『死の螺旋』と呼ばれる儀式。数多のアンデッドを召喚し、時間の経過と共に次々と強力なアンデッドが次々生まれる。そしてそれは螺旋の如く渦巻き、周りの生者──エ・ランテルの都市住民達──を巻き込んで加速度的に進み、街をも飲み込んで死の都と化す。そうして撒き散らされた死によって集まった負のオーラをかき集め、自らをアンデッドへと転生させる。

 

 そうして寿命という人間の時間的制限を解除し、人の身では決して届かない()()魔法を生み出す研究をするのがカジットの悲願だ。

 

 しかし本来ならば、儀式の準備にあと数年を要するはずであった。そこへ叡者の額冠を引っ提げたクレマンティーヌが現れたのである。百万人に一人という適合率の低さ故に、本来ならば適合者を探すだけで苦労するガラクタに過ぎないのだが、()()()()があれば何も問題はない。

 

「ふん、アレは今夜にも冒険者を連れて帰ってくるであろう。それまではくれぐれも目立つなよ」

 

「はいはーい、わかりましたよー」

 

 クレマンティーヌは手をヒラヒラと振って軽い口調で了解の意を示す。カジットは内心で今日何度目かの溜め息をつきながら、それを表には出さず頷くにとどめた。これ以上何か言っても無駄だろう。

 

(全く、英雄級の人格破綻者とは厄介なものだ。あと数年掛かる見通しだった計画を前倒し出来るのは僥倖だが、リスクも多い……。隙在らばこの儂まで本気で殺そうとしてきよる。退屈しのぎで襲われては堪らんぞ。だが抱え込んでしまった以上、用が済むまで我慢するしか……)

 

 儀式さえ無事に完了すれば、自分は上位の存在へと生まれ変わる。これ迄費やした時間も苦労も報われるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わってカルネ村。

 

「おいしぃぃ!」

 

「そうであろう、そうであろう?存分に食すが良いぞ!」

 

「ヴェルドラさん、この、パンケーキ?…という料理は私にも作れますか……?」

 

 モモン達冒険者を連れたバレアレ一向が村を発つまで、ヴェルドラは自分は秘密兵器だとかよくわからない理由で隠れていた。村人も事情がよくわからないまま居ないことにしていたが、モモン達が村を発ったのでネムが迎えに行ったのだった。ラボにはネムが見たこともない器材が大量に並んでおり、ネムが目を輝かせてはしゃぎまくったのは言うまでもない。

 

 現在は村人達にオヤツとしてパンケーキを振る舞っている。フワリと漂う甘い香りが、野良仕事で疲れた体に染みるように食欲をそそる。子供はもちろん、女性にも大人気であった。やはり甘いものは女子ウケが良いのは何処の世界でも同じである。エンリは自分で作ってでも食べたいということだろう。その目にはキラキラと期待の星が輝いていた。

 

「うむ、材料さえ揃えられればエンリにも作れるぞ?だが我のように上手~く焼くには、ちとコツが要るがな?」

 

 エンリの問いにヴェルドラは得意気に答える。どんな材料を使っているのかと他の女性達も聞き耳を立てていたが、小麦粉はあるし、卵は入れなくとも作れるが、甘味が簡単には手に入らないことに気付いて肩を落とす。

 

 香辛料を生み出す類いの魔法は第0位階──古来から伝わるものではなく、新たに生み出された生活系魔法が多く属する魔法位階──に存在する。だが、学園を設立してまで魔法詠唱者(マジックキャスター)の育成に力を入れている帝国とは違い、王国ではそういった魔法の習得者もそうそう居ない。従って、この国で砂糖を手に入れられるとすれば、やはり大商人や貴族しかいないのだ。辺境の開拓村では手に入れられるはずがなかった。

 

「はぁ、お砂糖なんて贅沢品、とても買えないよぅ……」

 

「ふむん……砂糖、砂糖か……」

 

 エンリの残念そうな嘆息に、ヴェルドラは少し考え込む様子を見せる。

 

「でもビックリしたなぁ、まさかゴウン様が戦士に変装してたなんて。お母さんも気付いてたなら早く教えてくれればよかったのに」

 

「それはダメよ。もしエンリが知っていたらすぐに態度に出てしまうでしょ?」

 

「うっ……」

 

 エンリが母にうらめしげに文句を言うが、返された一言に、それも尤もだと納得させられてしまう。いつもふわふわとしているような母だが、エンリは理屈で勝てた記憶がなかった。

 

「ねぇ、お母さんはいつから気付いてたの?」

 

「ゴウン様のお声を聞いた時よ。お名前も殆んどそのままだったから、すぐに気付いたわ」

 

 ネムの質問に答えたアメリの言葉を聞いて、エンリは申し訳なさそうに下を向く。エンリは尊敬する大恩人の声にすぐ気付けなかったうえに、他の冒険者達の前でうっかりその名を口走ったことを気に病んでいた。ナーベが決定打を放ったことには違いないが、そのきっかけを作ったのはネムやアメリ、そしてエンリである。

 

 もし自分が余計な一言を言わなかったら、ゴウン様にご迷惑を御掛けしないで済んだんじゃないか。まだ何の恩返しも出来ていないのに、恩返しどころか、ご迷惑をかけてしまうだなんて。そう思うとエンリは自分の至らなさが悔しくなる。

 

(それにしても……)

 

 エンリは思う。

 

(お母さんって、実は凄く頭良いんじゃ……?私なんかモモンさんがゴウン様だってすぐには気付けなかったし、お母さんはゴウン様の難しいお話についていけてたみたい……)

 

 エンリは改めてあの時を思い出してみる。ナーベが盛大にアインズの名を呼んでしまったあの時を。

 

 

 

 

 目をキラキラと輝かせ凄い凄いとはしゃぐネムとは対照的に、冒険者やリィジー達は目を丸くしたまま、アインズの方を凝視していた。黒髪の美女ナーベは顔を蒼白に染め、この世の終わりのような絶望の色を浮かべていた。そしてモモンに扮したアインズは、兜に手を当て黙りこんだまま固まっていた。

 

 そして母アメリはと言うと……。ひきつった笑顔のまま顔を蒼醒めて固まる母の姿はエンリの記憶に有る限り初めて見た。エンリはそんな母を見てようやく、自分がとても(まず)い状況に置かれていると理解したのだった。

 

「あ、あの……やはりこれ以上は難しいかと……」

 

「そう、ですよね。そう、私の正体はアインズ・ウール・ゴウンです」

 

 笑顔をひきつらせたアメリの言葉を受けて、何かを諦めたようにひと息ついたアインズはゆっくりと立ち上がって名乗り、全身鎧姿から一瞬で仮面の魔法詠唱者(マジックキャスター)の姿に戻った。驚く周りを尻目に、彼は静かに話し始めた。

 

 恩人である彼の話は客観的に事実を淡々と語る感じで、「うぃんうぃん」とかよく意味の分からない言葉も出てきた。何度も脱線しながら、そういった理解が難しいところをアメリが丁寧に分かりやすい言葉に置き換えてみたり、アインズの考えを確認するように質問を投げかけた事で、幼いネムにも大凡彼の話を理解する事が出来た。

 

 他にも幾つか目的はあったらしいが、そのうちの一つはカルネ村の発展の為というものだった。いくら村人達が自立しようと努力しても、それだけで全てが解決出来るとは限らない。現状を維持するには良いとしても、将来の発展を展望するのであれば、多くの人が集まるような、これまでにはない何かが必要だと村長ら大人達も考えていたようだ。しかしこれといって特産品と言えるようなものもなく、長閑な事が取り柄とも言えるカルネ村に、人を集められるような打開策はすぐには見つからずにいた。

 

 それを見兼ねたアインズは、冒険者に扮してカルネ村とエ・ランテルを人と人との絆で繋ぐことで、周辺の開拓村を潰され地理的に完全に孤立しかけていたカルネ村の発展を促そうと考えて行動していたのだった。

 

 森の賢王を殺さずに従わせたのもその一環。トブの大森林には未だ人が足を踏み入れることが出来ないような領域に豊富な資源が有ると見込まれる。森の賢王の協力を得られた事で、そうした奥地にも足を運ぶ事が可能になり、採集の為に村を訪れる人も増えるのではないか。そうした人々がゆっくりと休める場所と、旨い食事を有償で提供することで利益も得られ、移住を考えてくれる人も出てくるのではないか。

 

 アインズはそこまで話したところで、後は村の皆さんで話し合ってみてくださいと話を括った。

 

 以前は肩入れしないと言っておきながらも、何かと気にかけてくれているということを知り、エンリは嬉しいやら、申し訳ないやら複雑な心境だった。彼に授かる恩が次々に積もっていき、一生かかっても返しきれないような気がしてしまったのである。

 

 他にも多種多様な情報の収集、世間知らずだというメイドのナーベラルの教育も兼ねていたらしい。冒険者達やバレアレ婆孫は、同時に幾つもの意味を持たせて行動していたアインズの優れた頭脳と、通りがかっただけのカルネ村の為に世話を焼いてくれる奇特な人柄を絶賛していた。

 

 ンフィーレアの弟子入りの件にも触れ、すぐには受け入れられないが、時期が来れば少し見てくれるとのことだった。それまでは今までの基本のお復習(さらい)をしておく事を勧められた。嬉しそうな友人の横顔を見て、エンリは自分の事のように嬉しくなった。

 

「そして最後に──私の正体は絶対に秘密にして下さい」

 

 

 

 

 

 

「どうしたの、難しい顔をして?」

 

 じっと見つめながらウンウンと唸るエンリに気付いて、母が怪訝そうに訊ねる。

 

「もしかしてお母さんって、頭が良い?それとも心が読める生まれながらの異能(タレント)でも持ってるの?」

 

「……え?」

 

 何を言い出すのかとアメリがキョトンとした顔になる。エンリの質問が余りにも突拍子のないものに思えたのだろう。

 

「だってゴウン様の難しいお話にもついていけちゃうし、それにゴウン様がどうして本当のお姿を隠していらっしゃったのかもすぐに言い当てちゃうんだもん……」

 

 アインズもアメリの鋭さに驚き感心した様子だった。「察しが良いようで助かります」と褒められた程だ。

 

「うふふ、そうかしら?ありがとう、エンリ。そんな風に言われたのは初めてよ。でも何も特別な事じゃないわ。……なんとなく分かるのよ、勘で。エンリはそういうのがちょっと……ううん、結構鈍いのよね……」

 

「うっ…!」

 

 少し心配げに言うアメリの言葉に、エンリはやっぱり自分は結構鈍い人間だったのかとショックを受けた。以前からそんな気はしていた。ネムがニヤニヤしながら頷いているのが少し悔しい。何となくだが、ネムは自分より勘が良い気がする。

 

「色んな経験をして歳を重ねれば、エンリにもそのうちわかるようになるわ。まずは身近な人の気持ちや考えていることに興味を持つことから初めてみたら?」

 

「うーん……身近なって、例えば?」

 

 そうそう、とネムが何故か茶々を入れてくるが、エンリは母の云わんとしていることがさっぱり掴めなかった。

 

「例えば……ンフィーちゃんとか」

 

「え、ンフィー?どうしてンフィーなの?」

 

 エンリはキョトンとしてしまう。母の口から何故ンフィーレアの名前が出てきたのかまるで分からず困惑していた。アメリは口許に手を当て、イタズラっぽい笑みを浮かべる。

 

「うふふ、内緒」

 

「にししっ」

 

 母の真似をするように笑うネムを見てエンリはムッとしながらも、母に言われた通りンフィーレアがいつも何を考えてるんだろうかと考え始めた。

 

「エンリよ、もう一枚どうだ?」

 

「わぁ、いただきます!」

 

 しかしすぐにヴェルドラからホカホカのパンケーキを勧められ、瞬時に目を輝かせて皿を受け取る。最早ンフィーレアの事など頭の中には無さそうだ。それを見て先が思いやられると言わんばかりに苦笑するアメリとネム。

 

「う~ん、ほいひ(おいし)ぃ~!」

 

「ホレ、ネムもどうだ?」

 

「食べるぅー!」

 

「……ガさ……この……どうか……」

 

 アインズ達が向かったエ・ランテルの方を見ながら、祈るように胸の前で手を組み合わせ、何かを呟いたアメリの言葉は誰の耳に届くことも無かった。

 

 …はずだった。

 

(……ふぅん?)

 




母は意外と有能でした。原作では騎士に襲われお亡くなりになっていますが、本作ではそこそこ出番があります。実はとんでもないことを知っている重要人物です。
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