異世界に転移したらユグドラシルだった件   作:フロストランタン

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エ・ランテルへとやってきたアインズ・ウール・ゴウン。その依頼内容は……


#68 依頼

「アインズ・ウール・ゴウン様とおっしゃる方です」

 

「アインズ・ウール・ゴウン?ふむ……では案内を頼む。………はて、聞いたこともない名前だが一体……?」

 

 受付嬢が件の客人を迎えに向かうと、組合長アインザックは聞き覚えのない名前だと首を傾げる。アインズは不自然ではないよう、それでいてアインザックに聞こえるように然り気無く呟いた。

 

「ああ、確かカルネ村の……」

 

「ん?もしやモモン君は何か知っているのかね?」

 

 思惑通り質問を投げ掛けてきたアインザックに、アインズは聞いた話という口調で説明する。

 

「ええ、昨日まで依頼でトブの森林に行っていたのですが、その近くのカルネ村に立ち寄ったときに、その名を耳にしました。何でも最近、周辺の村を荒らし回っていた賊がいたそうですね?偶々通りがかった人物が、王国戦士長殿と協力してそれらを伐ち取ったとか。その名前が……」

 

「アインズ・ウール・ゴウン、というわけかね。戦士長にそんな協力者が居たとは聞いていなかったが……。なんにせよ、少なくともただ者では無さそうだ。遠方の国の貴族だろうか」

 

 アインザックはモモンの情報を聞き、その瞳の奥には僅かに警戒の色を浮かべている。勿論全てがそうではないが、貴族と言えば往々にして権力を笠に着て無茶な要求を突き付けてくるものなのだ。初めて会う貴族に対する彼の警戒は当然だろう。

 

(何故か貴族と思われているな?……ああ、確か平民は名前が二つ、貴族は三つあるんだったっけ。そういえば、カルネ村で長ったらしい名前を名乗っちゃったけど、あれって大丈夫だったかなぁ?)

 

 その場で作った嘘ってバレバレだったのでは。待ちながらそんなことを考えていると、再びドアをノックして受付嬢が入ってくる。

 ガチガチに緊張した面持ちの彼女が連れてきた人物は、幾つもの煌びやかな宝石をあしらった豪華絢爛とも言うべき純白のローブに身を包んだ男性。顔には見たこともないような美しい造形の、白銀に輝く仮面を着け、両手には手袋を嵌めている。

 

「皆さん、お初にお目にかかります。我が名はアインズ・ウール・ゴウン。冒険者組合長殿はどなたですかな?」

 

(く、わかっちゃいたけど……は、恥ずかしーっ!)

 

 アインズは兜の下で顔が熱くなるのを感じた。目の前で自分のモノマネを披露されているような感覚に、今更ながらどういう羞恥プレイだよと文句を言いたくなる。

 

 モモンに扮した()()()()()()()の前で、ポーズ付きで挨拶をした()()()()()()()。彼は誰かと言えば、パンドラズ・アクターである。二重の影(ドッペルゲンガー)である彼は、ギルドメンバー全員分の外装をコピーし、その能力もオリジナルの8割程の力で行使する事が出来る。今回はアインズに扮して影武者をやってもらうことになったのだ。

 

(ホラ、みんな固まってるじゃないか……)

 

 アインズはみんながヤツのオーバーアクションに引いていると思って頭を抱えたくなる。しかし実際には、偽アインズの着る超級の衣服と威風堂々たる風格を前にして、突然国王が来訪したかの様な驚きと衝撃を受けていたのだった。

 

 時間が止まったかのような数秒間の静寂の後、最初に思考を取り戻したアインザックが挨拶を返す。

 

「あ……は、初めまして。私がエ・ランテルの冒険者組合長、プルトン・アインザックです。そしてこちらはパナソレイ・グルーゼ・ロッテンマイア殿。エ・ランテルの都市長です」

 

「いごおみしりおきを」

 

「粗末な椅子で申し訳ないのですが、どうぞお掛けください」

 

「では失礼して……」

 

 バサリとローブを翻し、威厳ありげに椅子にどっしりと座る偽アインズ。足運び、腕の動きひとつ取っても優雅で洗練された所作に、皆が黙って見入る。

 

(くっそ、大袈裟にやるなって言ったのに。いや、オーバーアクションをする設定にしたのは俺だけどもっ!……認めたくないものだな、若さゆえの過ちと言うやつは……)

 

 彼が影武者である以上、大事な時には本人と入れ替わるタイミングも出てくる。ここで偽アインズがそういう動きをするということは、本物が入れ替わったときにボロが出ないよう、同じ動きが出来なければならない。

 

 アインズは正直こんな動きを自分もするのかと思うと羞恥心が沸き上がってくる。しかし、これも自分が撒いた種だから仕方ない事だとアインズは無理やりに自分を納得させた。

 

 とはいえ、普段のように敬礼や仰々しいオーバーアクションされるよりは、かなりマシな方である。お陰でシラフのままでもいられる程度の羞恥心で済んでいるのだから。

 

 今回、彼に影武者役を任せたのには理由がある。一つはモモンとアインズが同時に立ち会う場面を作ることで、二人は別人であると周囲に誤認識させるためだ。その二人がイコールで結びつけられるのは今のところ現地では『漆黒の剣』とバレアレ婆孫、エモット一家のみ。

 

 バレアレ家はカルネ村に移住するし、今後も『漆黒の剣』が()()()()()まで口を閉ざしてくれているならば、問題はないだろう。

 

 もうひとつはリムルの提案だ。アインズが宝物殿に現れた時、パンドラズ・アクターは「自分の出番が来たのかと思った」と溢し、酷く残念そうにしていた。ずっと誰とも会うことなく宝物殿に籠りきっていた彼を不憫に思ったリムルが、彼に何か役目をやらせてみないかと提案してきたのだ。

 

 アインズにとっては過去の黒歴史を引っ張り出して周りにさらけ出すような行為だ。当然反対しようとした。しかし、自分が作ったNPCなんだから責任と愛情を持って向き合うべきだとリムルに言われ、反論出来なかった。

 

 確かに、他のNPCには愛情を向けられているのに、自分だけそれが向けられないとしたら、酷く悲しむだろう。アインズにとっては恥ずかしい黒歴史そのものだとしても、そんな扱いをするのは可哀想である。自分も愛されない孤独はよく知っているのだから。

 

 アインズが依頼を出してシャルティアの対処をモモン(自分)が受ける。自分で依頼を出して自分でこなすという、まさに自作自演。それ以外の何ものでもないが、他の冒険者に勝手な手出しをさせるわけにはいかなかった。

 

 王都に居るというアダマンタイト級の冒険者なら分からないが、シャルティア相手にまともに戦える者はこの街の冒険者にはいなさそうだ。もし討伐隊を差し向けられたとしても、人間の死体の山が積み上がるだけだろう。

 

 だが、そうと分かってはいても気分は最悪である。大事な仲間の娘に刃を向けられるのだから。それはナザリックの面々も同じである。しかし、発見されている以上、放置もされないだろう。避けることが出来ないならば、自分に都合の良い方向へ誘導してしまえば良い。

 

「お会いして早々に申し訳ないが、時間が惜しいので早速本題に移らせていただきたい。よろしいですかな?」

 

「もちろんですとも」

 

「我々も早急に方針を決めなければならないので、願ってもいないお話です」

 

 いきなり本題に入る偽アインズ。謎の吸血鬼に対し、早急な対応が必要と考えていたアインザックとパナソレイにとっては、無駄に長い社交辞令の挨拶で時間を浪費しないで済む事に安堵した。

 

 

 

 

 

「かはっ……あ、が…っあああっ!」

 

 イグヴァルジは迫りくる濃厚な死の気配を前に、1ミリたりとも歩みを進める事が出来ない。全力で、そう肉体の全ての細胞が()()()()()から逃げ出したいと叫びを上げているが、彼の意地がそれを受け入れず、後ろへ勝手に下がろうとする足を踏み留まらせた。

 

「ふむ、こんなものでしょう……」

 

 魔法詠唱者(マジックキャスター)だというアインズ・ウール・ゴウンから放たれていた猛烈な覇気が緩み、巨大なモンスターの眼前に立っているかのような恐ろしい気配が霧散していく。

 

「はぁっ、はぁっ……へ、へへ……どどど、どうだ……」

 

 ガクガクと膝を笑わせながら、イグヴァルジが笑いを溢す。同じ空気に身を晒されていたベロテとモックナックは、既に地面に蹲って震えている。ミスリル級冒険者チームのリーダー4人の中で、立っていられた者はイグヴァルジと()()()()だけだった。

 

 アインズからの依頼は、吸血鬼の討伐ではなく捕縛。それは討伐以上に大変で厄介なものであった。

 

 対象を殺さないように捕縛するには、対象との実力差が開いていなければならない。実力が拮抗していてはそもそも加減など出来ないのだ。しかし相手は武装し、魔法をも操る強大な吸血鬼。ウサギや馬の捕獲とはわけが違う。貴族の道楽に付き合う気はないとアインザックは毅然と断ろうとした。

 

 だが、それを見越していたかのように、金貨五百万枚という法外な成功報酬を持ち出され、アインザックの気持ちが揺らぎかけた。返答を躊躇しているうちに、その場にいたベロテやイグヴァルジ達は完全に乗り気になってしまっていた。それもそのはず、そんな報酬を手にしたならば、組合に仲介料を引かれたうえで、この場の4チームで山分けしたとしても、一生遊び呆けてまだお釣りが来るぐらいなのだから。

 

 更に、最悪の場合は倒してしまっても組合側に責任を追求はしないと約束してくれた事で、強く反対する理由もなくなってしまった。

 

 しかし、そこからが問題であった。戦える人材を選出すると言い出した彼の言うがまま裏庭に移動したのだが、エ・ランテル最高水準の猛者達は、彼が威圧しただけで、軒並み腰を抜かしてしまったのだ。中には盛大に失禁、便失禁した者まで居る。モモンが平然としていたのは鼻が高かったが、殆んどが恥を晒してしまったようなものだ。

 

「ふむ、戦力としてアテになりそうなのは一人だけですか」

 

「ま、待ってくれ!俺は耐えられたじゃあねぇか!立っていられたら合格って話だぞ!」

 

 アインズから淡々とした口調で言外に自分が戦力外だと告げられたイグヴァルジが、約束が違うと抗議する。

 

「そうは言いましたが……しかし、今ので立っているのがやっとのご様子。その程度の実力で付いてくるのは、ハッキリ言って自殺行為ですよ?実際あの吸血鬼の殺気は今のものとは比べ物になりません。目の前に立てば一秒と待たずに精神が生を諦め、何もされなくても死ぬことになるでしょう」

 

「そ、それほどの相手、だというのか……」

 

 アインズの言葉に、喘ぎを洩らすアインザック。後から駆け付けた魔術師組合長、テオ・ラシケルの姿もあるが、彼もまたアインズの覇気に当てられ、尻餅をついて顔を青ざめている。レベルが違いすぎる。どうあがいても街の冒険者の手に負える相手ではないと知るには十分だった。

 

「ぐ……だ、だがそれでも絶対ぇ行ってやる!俺は諦めねぇぞ!吸血鬼と戦って、そして生き残って見せる!」

 

 4人の中でただ一人、アインズの威圧にも平然と立っていられたモモンに、異常なまでの対抗心を燃やすイグヴァルジ。新人に追い越されてたまるかという意固地なまでのプライドが彼を支えていた。

 

(負けてたまるか!俺はまだやれる!ポッと出のヤツなんかに先を越される何て、有り得ねぇ!)

 

 元々彼は冒険譚に登場するような英雄に憧れて冒険者を志したが、いつしか才能には限界があると思い知らされた。同じ努力をしても自分より伸びるヤツなどゴマンといるのだ。自分に才無き事を嘆き、才能ある者を妬んだ。

 

 それでも諦めきれない彼は、名を上げて出世するためなら何でもやった。規則を破ることも、汚いやり方でライバルを陥れ蹴落とすことも躊躇わず。冒険者の純粋な英雄への憧憬はいつしか、歪な出世欲へと変貌し、目指した英雄とはかけ離れた物になっている事にも気付いていない。

 

「イグヴァルジさん……勇敢であることと命知らずは違いますよ」

 

「っ!手前ぇえ!」

 

 モモンの上から見下ろすような言葉に、イグヴァルジは激昂して殴りかかろうとする。が、その瞬間、アインズから先程とは比べ物にならない圧力が発せられた。今度は手足の自由どころか呼吸さえも出来ない。全てを瞬時に抑え込まれ、背後に死の足音が迫ってきている気がした。それはテストの為に加減した威圧ではなく、殺意の籠った明確な殺気だった。

 

「どうせ殺されるなら、この場で引導を渡して差し上げましょうか」

 

(ひっ?し、死ぬっ、殺されるっ!このまま俺は英雄になれないまま……嫌だ、いやだぁああ!)

 

 冷徹な声でそう言ったアインズの言葉と共に意識がゆっくりと遠退いていき、視界の全てが闇に閉ざされると思われたその時、不意に自分を抑え込んでいた重圧が消えた。

 

「それ以上はやめて頂きたい」

 

 戻ってきた視野に、イグヴァルジを背に庇うように立ち、アインズにグレートソードを突き付けるモモンの背中が映る。憧れ目指した英雄の姿がモモンにダブり、イグヴァルジはその場に膝から崩れ落ちた。

 

「貴方という人は……いいでしょう。貴方の協力を得られなくては私としても困りますからね」

 

「ちくしょう……ちくしょう……ちくしょうっ!何でお前なんだよ!何で俺じゃ英雄になれねぇんだ!ずっと長えこと努力してきたんだぞ!馴れねえ地味な努力もしてよぉ……っ!俺とお前とじゃ、モノが違うっていうのかよ……ちくしょおぉ」

 

 砂を掴み、泣きながら心情を吐露するイグヴァルジにモモンはそっと手を伸ばし肩に置く。

 

「人にはそれぞれ果たすべき役割というものがあります。あなたはこれまで多くの依頼をこなし、人々を助けて来ました。居もしない英雄などではなく、ここに居るあなたにしか出来ないことが、あるとは思いませんか?」

 

「俺にしか、出来ないこと……?」

 

「そうです」

 

 力強く頷くモモンを見たとき、イグヴァルジは自分の胸の中で凝り固まっていた何かが解けていくのを感じた。

 

 

 

 

 

「案内はフォレストストーカーの俺に任せてくれ」

 

「頼りにしていますよ、先輩!」

 

 案内役を買って出たイグヴァルジ。彼の目にはもう、ギラギラとした野心の火は灯っていなかった。代わりに灯っていたのは、希望の光。モモンの言葉により英雄という者への歪んだ執着は憑き物が落ちたようになくなって、仲間のために献身しようとする、善き冒険者の先輩がそこにはいた。

 

「頼んだぞ、モモン君。君ならきっとやってくれる!」

 

「全力を尽くします。私が居ない間は、彼女のことを頼みますよ」

 

(モモン君。なんというカリスマなんだ。あのゴウン殿に対しても一切躊躇いなく意見をぶつける胆力も凄いが、イグヴァルジをあの短時間で改心させるとは……役者が違うな……)

 

 身支度を終えたモモン達を見送りながら、アインザックは改めてモモンの評価を最上位にまで上げた。

 

(ゴウン殿も凄まじい実力と素晴らしい人格の持ち主のようだが、冷徹な一面も垣間見えた。生来優しい性格というよりは、高貴なる者の義務(ノブレス・オブリージュ)を意識して果たしているといった感じだったな。カルネ村もそうした義務感で助けたという感じだろうな。いずれにせよ、彼もまた英雄か……)

 

 切り札として見せてくれた超級のマジックアイテムをラシケルが舐めようとした時には思わずドン引きしたアインザックだが、彼はそれを見て嬉しそうに笑っていた。彼もマジックアイテムが好きだからアイテムを愛でる気持ちはわかるらしい。案外気さくなところもある御仁だ。

 

「とにかく無事に帰ってきてくれ……」

 

 二人の英雄が向かうのだから、大丈夫だと思いたい。だが相手も恐らく国を堕とせる程の強大な吸血鬼。元オリハルコン級冒険者のアインザックが現役当時の実力のままであっても、戦力としては役に立てないだろう。精々自分に出来ることは、彼の留守中クレマンティーヌの監視を替わってやる事くらいか。

 

「では一緒に留守番していようか」

 

「ねぇねぇおじさん、追いかけっこしよーよー」

 

 アインザックはまるで子供のように無邪気な笑顔で笑うクレマンティーヌに苦笑いしつつ、童心に返るのも悪くないかと彼女の誘いに乗るのだった。

 

「よーし、捕まえてやるぞー」

 

「きゃー、逃げろー♪」

 

「待て待てー」

 

 後日二人を見かけた街の住人の間に、冒険者組合長が若い女の尻を汗だくで追いかけ回していたという不名誉な噂が立ち、暫くの間、受付嬢達からは白い目を向けられる事になった。




金貨500万枚はweb版設定の1金貨十万円で計算すると5000億円ですから、もしかするとエ・ランテルが買収出来るのでは、というくらいです。
でもシャルティアが死んだ場合の復活費用はユグドラシル金貨五億枚(ユグドラシル金貨=交金貨2枚分)で100兆円になるので、それと比べれば大したことないですね。
レベルに応じて復活費用が高くなるようですが、100レベルのNPC復活には日本の国家予算並みのお金が必要なんですねぇ。
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