異世界に転移したらユグドラシルだった件   作:フロストランタン

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玉座の間に皆を集めて、いよいよ御披露目です。


#76 希望

 ナザリック地下大墳墓玉座の間────

 

 守護者をはじめとした数多くのシモベ達が一同に集う。

 

 今回は階層守護者と選抜された彼等の配下、一般・戦闘両メイド達以外にも、他の階層守護者達にすらその素性を明かされていなかった第八階層守護者ヴィクティム、そして先刻洗脳を解除されて帰還したシャルティアの姿もあった。第四以外の階層守護者は揃い踏みである。

 

 他に珍しい顔と言えば、パンドラズ・アクター、恐怖公、そして戦闘メイド七姉妹(プレイアデス)の末妹、オーレオール・オメガまでもが列席している。

 

 オーレオールはギルド武器を保管している桜花聖域の領域守護者でもあり、普段は防犯の都合上隔離された空間である守護領域を離れられない。また、会いに行くためにはギルドの指輪が必要なため、守護者統括のアルベドでさえおいそれと会えない程のレアキャラである。

 

 そんな彼女がこの場に顔を出した事は、場に集った者達を少なからず驚かせ、彼女の普段の姿を知る姉達は主人の前で粗相をしないかとハラハラしていた。

 

 因みに彼女はナザリックのNPCの中で()()()()()でもある。100LVかつアイテムの効果で不老となっている彼女を人間と呼んでいいかどうかは微妙なところだが。

 

 主だった顔ぶれのうち、この場には居ない者もいる。戦闘メイドであるソリュシャン・イプシロンと、執事兼家令のセバス・チャン。この二人は王国での任務を継続させるため、あえて呼び戻していなかった。

 

 多くのシモベ達が(ひし)めくように並び、これほどの規模で招集が掛けられた中で為される「重大な話」とはいったい何なのか、誰もが並々ならぬ関心を抱き、先程から場には奇妙な緊張が漂っていた。

 

「んんっ、さて────」

 

 口を開いた瞬間、皆が一斉に真剣な顔をして耳を澄ます。アインズには穴が開きそうな程の視線が集中していた。

 

(うぉ、こんな注目の中で話すのか。いや集めたのは自分だけど、それでも想像していた以上に緊張するな……)

 

 アルベドはどうにか受け入れてくれたが、他の守護者やシモベ達も同じとは限らない。もしかしたら離反する者も出るかも知れない。今更ながら本当に話して大丈夫なんだろうかと不安が湧き上がってきた。

 

 これまで種族特性として半ば強制的に発動していた精神の鎮静化も、鈴木悟として魂を完全に取り戻して以降、ある程度はコントロール下に置く事が出来るようになっていた。しかし、あえて今はそれを発動させることはしない。

 

 精神の沈静化をはじめとする種族特性は望むことなく手に入れてしまった力で、まっとうな努力をせず手に入れてしまったものだ。魔法に関しては多少努力したと言えなくもないが、それでも実際に魔物の国(テンペスト)で覚えた苦労に比べれば雲泥の差がある。

 

 それらをするにしても、いつまでも甘えて頼きりにはなりたくなかった。ナーベラルだって不器用なりに一生懸命自分の期待に応えようと成長する姿を見せてくれた。アルベドだって悲しい現実を乗り越え、正体を知ってなお自分を主として受け入れてくれた。自分だけがいつまでも甘えているなどあり得ない。

 

(俺もナーベラルやアルベド達の頑張りに応えなきゃ、カッコつかないないよな。それに、いまは茶釜さんもいるんだ。しっかりしろ、最高責任者の俺が狼狽えてどうする!)

 

 自らの弱気な心を叱咤し、腹を括ったアインズ。主人の言葉を待ち、誰も声を発することのない静寂の中、シャルティアは物憂げに俯いているのが見えた。コキュートスも表情はわからないが、アウラも、マーレも、デミウルゴスもまた、アインズの言葉を聞き漏らすまいと真剣な表情をして沈黙を保っている。

 

 彼等の真剣な眼差しを受けながら、アインズはゆっくりと言葉を紡ぎ始める。

 

「急な召集に応じ、よくぞ集まってくれた。今日集まってもらったのは他でもない。お前達には私達至高の41人と呼ばれる存在について、真実を伝える事を私は決心した。お前達にとってはかなり衝撃的な話だとは思うが、それでもどうか聞いて欲しい」

 

 至高の41人についての話だと聞き、場の多くの者は一段と集中して熱い視線を送ってくる。しかしシャルティアはハッとしたように目を見開き、動揺をその瞳に映した。

 

「武人建御雷、タブラ・スマラグディナ、ベルリバー、餡ころもっちもち、やまいこ、ホワイトブリム、獣王メコン川、ぬーぼー……」

 

 アインズは一人ずつ、スラスラとギルドメンバーの名前を列挙し始める。

 

「ペロロンチーノ、弐式炎雷、ガーネット、クドゥ・グラース、るし★ふぁー……」

 

 ペロロンチーノの名前を挙げた瞬間、シャルティアが肩をびくりと震わせる。そして徐々に表情が驚愕に染まり、わなわなと肩を震わせ始めた。彼女には既に彼の死を告げているため、これから何が語られるのか、この時点で大体の察しはついたのかもしれない。ナーベラルもまた同様に顔を蒼醒めていた。姉妹達は彼女のただならぬ様子に気付き、怪訝な顔をしながらもアインズの話に耳を傾ける。

 

「────ヘロヘロ。……今名前を挙げたメンバーは全員……死亡した」

 

 瞬間、場の空気がまるで時間停止したかのように固まった。守護者をはじめシモベ達はアインズの言葉を理解せんと頭を働かせようとするのだが、どういうわけか思考が働かず脳に染み込んでいかない。その言の葉の意味するところを理解することを、何かが阻んでいるかのような────

 

「ふ、ぐぅ、うぇ……」

 

「くっ……ううう~っ!」

 

 凍りついた空気の中、唐突にシャルティアが嗚咽を洩らし始める。ナーベラルもまた表情を歪ませて涙を流した。それを皮切りにして、時がゆっくりと動き出すかのように、動揺が周囲に波及し始める。

 

「や、まいこ様が……お亡くなりに?」

 

「うぁ、ぁ……」

 

 漸くアインズの言葉の意味を思考が認識した戦闘メイドの長女ユリ・アルファは、愕然とした表情でその場にへたり込む。ルプスレギナもあまりの衝撃に戦慄し、水を求める魚の如く口をパクパクとさせていた。エントマは全身をガクガクと震わせ、膝をついて絶望に身を浸す。オーレオールもまた、顔面を蒼白に染めて口許に震える両手を寄せる。

 

「…………博士

 

 姉妹達が味わったことの無いような絶望感にうちひしがれる中、自動人形(オートマトン)であるシズがいつもと変わらないような無表情のまま、ポツリと小さく呟いた。

 

 自動人形(オートマトン)である彼女は涙を流すことが出来ず、感情も表情の変化として表すことはできない。しかしひどく寂しげで儚げなシズのその姿が、その内面を何よりも物語っている。一般メイド達は涙腺を一気に崩壊させた。彼女達にとって戦闘メイド達は憧れのアイドルのような存在だ。そのアイドル達が悲嘆に泣き濡れる姿が、アインズの言葉を受け止めきれずに感情が停止してしまった一般メイドの心を再び動かしたのだ。

 

「う、わああああぁ!」

 

 堰を切ったように泣き始めた一般メイド達の泣き声が、玉座の間に響き渡る。泣きじゃくるシャルティアだけでなく、アウラやマーレも不安そうな顔で涙を滲ませていた。

 

 守護者の中で誰よりも大きな声で慟哭したのはコキュートス。周囲の目を憚ることなくさめざめと声をあげて泣く姿は、普段寡黙な武人らしい姿とはかけ離れているようにも思えたが、それが逆に思考停止してしまっていたシモベ達全員が事態を理解させてくれたようだ。

 

 玉座の間に漂う絶望感と悲哀にまみれた沈痛な空気を打ち払うかのように、唐突にパンドラズ・アクターが声を張りあげる。

 

「アインズ様のお話はまだ途中ですよ!」

 

「「「!!」」」

 

 その言葉に皆がハッとして黙り込む。最後まで聞いて欲しいと主人が望まれたならば、自分達は最後まで黙って聞いているべきではなかったのか。途中でみっともなく大声をあげて泣き、主人の話を遮るなどありえない醜態である。もし今、最後まで残ってくれたアインズに愛想を尽かされ、見放されてしまったら────絶望しかない。

 

「アインズ様、申し訳御座いません!我々の不甲斐なさをどうか────」

 

 血相を変えて謝罪しようとするデミウルゴスを、アインズは手を上げて制止した。

 

「よい、デミウルゴス。生みの親が死んだなんて知らされて、胸中穏やかでいられるわけがない。私もそれはわかっている。だが────それでも、お前達には真実を話しておくべきだと考えているし、また正しく私達を理解して欲しいとも思っている。それはお前達の忠義に対する私の責務であり、同時に信頼の証とも言える」

 

「その通り!これは云わば、私達にならば乗り越える事が出来ると信頼して、アインズ様から課せられた試練なのです!!」

 

 パンドラズ・アクターが皆を窘めるように大声で叫ぶ。普段はオーバーアクションだというのに、このときばかりは直立不動である。

 

「各々真実を知ったその上で、改めてアインズ様への思いに揺らぎがないか自らに問い質しなさい。結果がどうであれ、それを責めたりはしないわ。最後まで……心して聞きなさい……!」

 

 目に涙を滲ませながら静かに、しかし毅然とした態度で言ったアルベドの言葉は、話の続きが決して明るいものではないことを物語っていた。しかし主たるアインズが自分達への信頼の証として話してくれるというのだ。なんとしてもその信頼に応えんと、忠義に揺らぎなどあり得ないと全員がその場で覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

「────そう、皆リアルを優先しなければならなかった。誰も決してお前達を嫌ってこの地を捨てたりなどしてはいないし、誰もが名残惜しい、口惜しいと思いながらも、夢の世界(ユグドラシル)を恋しがりながらも、結局過酷なリアルという現実の世界で生きる他なかったのだ。

 リアルの私達は万能でも何でもない。一人一人が大した力も持っていないし、病に侵されたり老いもする。簡単に死ぬし、死んだら蘇生も出来ない。脆弱で、愚かで我儘な……ただの人間だ。

 お前達が至高の41人と崇め敬う者は、プレイヤーは皆、人間なのだよ」

 

 最後の言葉を言いながらアインズは光に包まれ、その姿を人間へと変貌させた。リアルの事、ユグドラシルの事を隠さず話したアインズは、玉座から立ち上がり皆を見渡す。

 

 全員ショックを隠しきれていないどころか、アルベドとデミウルゴスやアウラを除いた殆どの者が涙や鼻水でぐしゃぐしゃだ。しかし誰も敵意を向けてくる様子はない。人間だという告白に対し、戸惑いを感じているのかどうかもよくわからなかった。

 

「至高の41人の正体を知ってもなお、皆は私と共に在ろうと思ってくれるか?もし嫌になったのであれば、私は……支配者の座を降りても──」

 

「そのようなッ!!」

 

 急に叫びをあげたのはデミウルゴス。宝石の目からは他の者達と同じように涙が溢れている。

 

「アインズ様、そのようなことを考える者が居るはずがございません!確かに至高の御方々が人間であるという事実には驚きましたが、だからといってそれが我々の忠義にヒビ一つ入れることなど出来得ませんとも!……アインズ様はこの地に最後まで残ってくださった慈悲深きお方。あなた様を差し置いて誰がこのナザリック地下大墳墓の支配者に相応しいというのでしょうか」

 

「デミウルゴスノ言ウ通リデス。アインズ様、ドウカ我々ノ忠義────」

 

「こ、これからも変わらず、ずっと────」

 

「捧げ続けることをお許しください!」

 

 デミウルゴスの魂の叫びに呼応し、コキュートスやアウラ、マーレが口々に声をあげた。それを見守る他のシモベ達も同じ思いであるようで、誰一人反感を抱くこと無く、アインズを変わらず主人と認めてくれていると感じた。

 

「そうか……。私はここに居ても良いのだな?」

 

「もちろんで御座います!これからもどうかこの地にて御心のままに君臨して下さいませ。私ども一同、心よりお願い申し上げます」

 

「うむ。皆、これからもよろしく頼むぞ」

 

 アルベドの言葉にアインズがそう応えると、皆も安堵の表情を浮かべる。中にはまた泣き出す者もいるが、今度のそれは悲しみの涙ではなく、歓喜の涙であった。

 

 しかし、いつまでもこのまま喜びに浸っていると言うわけにもいかない。危惧していた事も、もうここまでくれば大丈夫だろうとアインズは心配していなかった。

 

「アインズ様、そろそろ頃合いでは?」

 

 皆が少し落ち着きを取り戻し始めたところで、アルベドが声をかけた。

 

「うむ。では再び耳を傾けて欲しい。先に訃報を告げた()()()メンバーについてだ」

 

「!!」

 

 その言葉に大きくどよめく場内。デミウルゴスが尻尾を僅かに揺らし、アウラとマーレがハッとした顔をしている。気付いていない者も多かったが、アインズが名を挙げたのは全41人中36人だった。

 自分の創造主の名を挙げられなかった者はその事に気付いたものの、その人物全員を正確に把握できたのはデミウルゴスだけだった。皆自分の創造主が一番の関心事であり、その名が呼ばれるかどうかにばかり気がいってしまっていたと言える。

 

「私も除いた残りの四人は生死もわからず行方不明だったが、一人だけ再会を果たすことが出来た。そして今、ここナザリック地下大墳墓にいる」

 

 一人だけ。それでも一人が生きていた。そして今、このナザリック地下大墳墓に帰還している。たとえ自分の創造主でなくとも、喜びに打ち震える面々。中でもアウラとマーレ、普段は澄まし顔でお淑やかな態度のオーレオールまでもが、居てもたってもいられないという心境が見て取れる程にソワソワと浮き足立っていた。

 

 デミウルゴスだけはそれが誰であるか既に見当がついていたようで、喜色を浮かべつつも冷静な佇まいであったが、他の面々は自分の創造主と会えるのかもしれないのだから、期待を抱かずにはいられないだろう。

 

「ただし────リアルでの姿、つまり人間だがな。ユグドラシルの時とは違い、戦闘能力は一般メイドとそれほど変わらない……はずだ。くれぐれも怪我をさせないよう気を付けてくれ。……リムル。ああ、一緒に連れてきてくれるか」

 

 こめかみに手を当て、伝言(メッセージ)を送ったアインズ。全員が息を飲んで到着を待った。

 

 

 

 

 

 至高の御方のお一人が、この地にお帰りになられた……。お亡くなりになられた方々の事を思うと悲しいけど、でもやっぱり、誰かお一人がお帰りになったっていうことがわかって本当に嬉しい。

 もしも、それがぶくぶく茶釜様だったら一番嬉しいけど……。

 

 お姉ちゃんもすごく緊張してるみたい。さっきからソワソワと目を泳がせてる。お姉ちゃんだってやっぱり嬉しい、よね。

 

「今から来るそうだ。ふふ、誰なのかは会ってみてのお楽しみだぞ」

 

 嬉しそうにアインズ様はそうおっしゃった。ああ、楽しみだなぁ。一体誰なんだろう?

 

「いよーっす」

 

 扉の向こうからリムルさんの声がした。皆が左右に分かれて玉座までの花道を作って、扉が開くのを待った。

 

(ああ、緊張で胸がドキドキして……)

 

 僕はちゃんと失礼のないようにごあいさつ出来るかな?なんだか不安になってきたよぉ……。

 

 音もなくゆっくりと開く重たそうな扉。その向こうに見えてきたのは────。

 

「ぁ……っ!」

 

 真っ白な長い髪。つぶらで大きな瞳。肩にフリルの着いた白い襟の黒い服、プリーツの入った淡いピンクのスカート。女の人だった。綺麗な色のスライムさん?をだっこしながら歩いてくる。

 

 それはやまいこさまかも知れなかったし、餡ころもっちもちさまかも知れなかった。でも、目に映った瞬間、ボクにはすぐにわかった。

 

(ぶくぶく、茶釜様だぁ……)

 

 嬉しくて、嬉しくて。

 

 涙があとからあとから溢れてきて。

 

「泣かないの、男の子でしょ」

 

「お、お姉ちゃんだって……」

 

 小声でボクを叱ったお姉ちゃんも、顔は涙でぐしゃぐしゃで声も震えてた。

 

「アタシは女の子だからいいのっ」

 

 ズルいよ、こんな時だけ……。

 

 ああ~、今すぐお側に駆けて行きたい。またお膝の上に乗せられて頭を撫でられたいよぉ。でも、ボクは男の子。皆ちゃんと列をつくって並んでるし、ボクも階層守護者なんだから、しっかりしなきゃ……。

 

(でも、涙が止まらないよぉ)

 

 ボクは涙をゴシゴシと袖で拭って、一生懸命に前を向いて笑顔を作った。ぶくぶく茶釜様はボクの前を通りすぎるとき、視線がが合った気がして、そしてウインクしてくれた。

 

(う、うわああぁ~)

 

 ボクの心臓は生まれて初めてくらいにドキドキしてきて、顔が熱くなって、目の前が真っ白で……。

 

「み………ら………」

 

「ん?……シャルティア?」

 

 何かを呟いたシャルティアさんの声も、異変を察知したお姉ちゃんの声も、ボクの耳には届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 モモンガのやつ、心配しすぎじゃないか?かぜっちの安全を確認するまで別室待機なんて。アルベドも自分は信用されていないのかって顔で、ちょっとショック受けてたみたいだぞ?

 

 更にはマーレとかが感極まって突進してきても、俺をクッションに出来るように抱かせる程の念の入れよう……ってオイっ!モモンガ達、最近俺の扱い酷くないか?

 

 かぜっちのやや控えめながら柔らかな膨らみを感じつつ、俺は注文通り周囲の状況を確かめる。両目を使って見るのとは違って万能関知には死角がないため、危険が迫っても即座に発見、対応できる。

 

 今のところ誰かが暴走して突進してくる様子はない。アウラとマーレの表情から察するに、名乗らずともかぜっちだと気付いているな。きちんと整列してはいるが、飛び出して掛け寄って来たそうな雰囲気だ。

 

『二人とも多分かぜっちのこと気付いてるけど、多分守護者としてイイトコ見せたくてガマンしてるんだろうな』

 

『そっかー、アウラもマーレも小さいのに頑張ってるんだなぁ』

 

 かぜっちと念話でそんな事を話ながら玉座へと歩を進めていくと、何故かシャルティアが頭を抱えてへたりこみ、ブルブルと震えている。どうもかぜっちを見てかなり怯えているみたいだが……。

 

『なんか凄い顔してるけど、どうしたんだろ……?』

 

『もしかしたらシャルティアもかぜっちの正体に気付いているのか?まあ、弟が創造主なんだから不思議じゃないのかもな。ペロロンチーノがよく叱られてたから、シャルティアにまで恐怖が刷り込まれてるんじゃないか?』

 

 なんだか姉達に怯えるヴェルドラさんみたいだな。そう思うと、あのオッサンとは違って微笑ましく思えてしまう。

 

『うーん、それってアタシのせいじゃなくない……?』

 

『まあ、シャルティアを同じノリで叱ったりしなきゃ、そのうち打ち解けてくれるだろ』

 

『う、うん……』

 

 かぜっちは釈然としない様子だが、ひと先ずは納得する事にしたようだ。俺もシャルティアのただならない様子は気になった。

 

 とりあえずかぜっちはこれからよろしくという親愛の意味でウインクして見せた。シャルティアの前を通り過ぎたとき、その顔には絶望したような表情が張り付いていたが。

 

 (うーん、こりゃ案外重症かもな……)

 

 やれやれと内心溜め息を吐く俺を抱きしめながら、かぜっちがモモンガの待つ玉座まで段を登りきって皆の方に向きなおる。モモンガはここでようやく名前を明かした。

 

「既に気付いている者もいるようだが────ぶくぶく茶釜さんの帰還だ」

 

 しみじみと万感の想いを馳せるように、両腕を上げて宣言するモモンガ。同時に玉座の間は割れんばかりの大歓声に包まれた。

 

 まずは()()、だな。

 

 モモンガはまだ全てを諦めた訳じゃない。行方不明のままのメンバーは生きている可能性がある限り探し続けるつもりだそうだ。それがギルド長として、アインズ・ウール・ゴウンの名を名乗る者てしての責務だという。

 

 死んだメンバーについても、もしかしたらこの世界に転生しているやつがいるかもしれないと考えている。前世の記憶を持ったまま転生している可能性は極めて低いだろうが、それでももし会えたならと、ほのかな期待を抱いていた。

 

 玉座の間に集まった者達に、簡単にかぜっちはいま声が出ない件と今後はここに暮らす事を説明し、後日一人一人全員に顔を合わせに行く旨を伝えてその場は解散となった。最後のはかぜっちの希望によるものだ。せっかく住むんだから一人一人挨拶したいらしい。

 

 それを聞いたシモベ達が歓喜に咽び泣いた事は言うまでもない。

 

 ……一人を除いて。




皆が真実を受け止め、その上で無事に茶釜さんを受け入れる事が出来ました。

原作ではオーレオールの作成者は不明ですが、このお話では死獣天朱雀さんということにしています。ユリが「私の癒しはシズだけ」ということを口にしていたので、彼女も長女に頭を抱えさせるような何かがあると思われます。

シャルティアの反応については次のお話で書きます。

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