異世界に転移したらユグドラシルだった件 作:フロストランタン
モモンガさんいつの間にそんな熱い男に?
アーコロジーから少し離れた、廃ビルに囲まれた人気の少ない一画。そこにポツンと佇む人影があった。
「はぁ、緊張してきたな」
モモンガはガスマスクの中でため息を吐く。
世界は核戦争の影響で放射能に汚染され、ガスマスクと防護コート無しで外を出歩く事はまさに自殺行為だ。アーコロジーでは汚染を気にせず生活できるが、そこに住まうことができるのは一握りの富裕層だけであり、貧困層の彼は仕事で極稀に立ち入ることがあるだけだ。
鈴木悟、それが彼の
リムルと会う約束をしたあと、その日は解散したのだが、翌日に『ユグドラシル』にログインしたときには、ディアブロとリムルは居なくなっていた。
二人が数日経っても姿を見せない事に、気になったギルドメンバー達がモモンガに尋ねてきた。
「実は、二人はプレイヤーだったみたいなんです。また戻って来てくれるかどうかは、わかりません」
その言葉を聞いて、皆驚き残念そうにしていた。彼らの脳裏には
モモンガはリムルと
出会ってからこれまで、二人は
しかし、彼らはプレイヤーだったと知り、そこで改めて二人の異様さに気づく。
プレイヤーだとしたらログが残っていないのは何故なのか。通常誰もがその痕跡をログという形で残す。それに、プレイヤーは定期的にナノマシンを補給する必要があるため、常にログインしたままでいる事は不可能なはずだ。それなのに、モモンガの知る限り、二人が居なかった事は一度もなかった。まるでずっとユグドラシルに居続けていたかのようだ。いずれも常識的にはあり得ないハズだ。
その辺りの疑問を、大学教授をやっていて教養の深い死獣天朱雀と、タブラ・スマラグディナにそれとなく聞いてみた。返ってきた答えは「方法がないでもない」というものだった。
まず、長時間のログイン。通常はログインする場合、端末と自身の脳を繋ぐことで、感覚を共有できる
ログについては、メインサーバーに不正にアクセスをしてログを抹消するというものだった。いずれも法に触れる行為だった。
「モモンガ君、あまり深追いはしないほうがいい」
「心配してくださるお気持ちは嬉しいです。でも……」
死獣天朱雀がモモンガの身を案じて言ってくれているのは分かるし有り難いのだが、それでも会いたい。会わなければいけない、そんな気がしていた。
やはりあの二人は犯罪に手を染めているのだろうか。だとしてもそれがなんだ。大切な友達、少なくとも自分はそう思っている。悪いことをしているかも知れないからと、簡単に割り切って縁を切るようなことなど出来ない。
ディアブロの方はわからないが、リムルの言動から察するに、彼女はまだ子供で本人も法を侵している自覚は無いのではないだろうか。
それならば、リムルだけでもまっとうな道に戻してやれるかも知れない。
だが、具体的にどうすれば良いのか。貧困層の小卒営業マンではどうすることも出来ないかもしれない。ディアブロが凶悪な犯罪集団に関係しているのであれば、場合によっては自分の命も危ういだろう。ディアブロの悍ましい表情を思い出し、背筋に冷たいものが走る。
だがしかし、ここで諦めてしまえばリムルとは二度と会えない気がしていた。
「頑張れ、俺」
悟はガスマスク越しに頬を両手で叩き、自分を鼓舞した。
ユグドラシルで過ごした期間は一ヶ月近く。一国の主が突然一ヶ月も行方不明になれば大騒ぎになってしまうだろう。
それにアイツ等が何か仕出かさないとも限らない。以前一週間ほど
俺もよくあの問題児軍団を面倒見れてるよな。
《…………》
シエルさんが何か言いたげだが、こういうときはスルーするに限る。俺もかつては大手ゼネコンに勤めるサラリーマンだ。空気はそれなりに読める。
さて、
狙い通りディアブロと一緒に
そのあとは国内の族長達や各国の来賓と挨拶。翌日には
片付けが一段落したところで、俺は自身のここひと月の体験、「異世界に転移したらユグドラシルだった件」について話した。
「ぐぬぬ、抜け駆けとはズルいではないか!」
「そうだそうだ!」
ヴェルドラとラミリスが憤慨して捲し立てる。
「お前達だって行ってたじゃねーか。これでおあいこだろ。そう言えばあのとき世界を一つ滅ぼしかけてたよな?あの時俺がいなきゃどうなってたか……」
「う?む、まあ、そのようなこともあった……な」
「でもでも、結果的によくなったじゃない?結果オーライなのよさ」
うん、全然反省してないな。コイツら後でシバいてやろうと心のメモにそっと書き足しておく。さて、話をすすめるとしよう。
「……では、その異世界のご友人を招待されるのですね?」
「ああ、そのつもりだ、シュナ」
「てことは師匠!」
「うむ、異世界の者達と交流が出来るな!水臭い奴め、最初からそう言えばよいものを」
途端に二人が目をキラキラと輝かせ始める。ゲンキンな奴らである。
「わかってると思うが、くれぐれも怪我させたりしないように気を付けろよ」
「クアーハッハッハッハ、任せておけ。力の制御は完璧に出来ておる」
「アタシもついてるから、ドーンと大船に乗ったつもりでいてほしいワケ」
ホントかよ…その船、泥で出来てないだろうな?
「ま、そんなわけだ。我儘言ってすまないが、もてなしてやってくれ」
「はいっ!」
「我が主の御心にままに」
「リムル様の我儘は今に始まった事じゃないでしょ」
「うむ、我もそう思うぞ。いつもいつも貴様には振り回されている気がするのだ」
「我儘と言えばリムルの代名詞みたいなもんなのよさ」
えっヒドくね?ベニマルあたりから散々な言われようである。解せん。それじゃまるで俺がいつも我儘放題みたいじゃないか。
《…………》
うう、シエルまでアイツらの味方か。だが、俺は自重しないと決めたんだ。開き直って我儘放題してやる!
「じゃあ迎えに行ってくるから。準備、よろしくな」
そう言い残し、そう言えばモモンガはどんな素顔をしてるんだろうな、なんてことを考えながら俺は
「いよーっす。待たせたか?」
後ろから聞こえた声にモモンガが振り返ると、そこにはリムルが立っていた。
毛足の長い漆黒の毛皮のコートに、黒いカーゴパンツ。服装こそ違うが、ユグドラシルで出会った時に見た美少女の顔だ。見間違えようがない。
「えっ…」
「えっ?」
(コイツ、なんでガスマスクをしていないんだっ!?このままじゃ数十分しないうちに死んじゃうじゃないか!)
(オイオイ、なんだよあのダサいお面。なんか、ガスマスクっぽいけど……)
モモンガは慌てて自分のマスクを取り外し、リムルに被せようとする。だがリムルは何故かその腕を掴んで抵抗した。少女とは思えない膂力にモモンガは驚きながらも、必死になって説得する。
「ちょ、何する気だ?」
「くそ、なんて馬鹿力だ……!いいから、早くこれを着けるんだ!」
「馬っ鹿お前、そんなダサいの着けられるかっ!何の罰ゲームだよ!」
「ダ、ダサ……?いや、そんなこと言ってる場合かっ!早く着けろって!」
モモンガがしつこくダサいマスクをリムルに着けさせようとしているが、何故そんなに必死なのかリムルにはわからない。他人に素顔を晒してはいけない風習でもあるんだろうか。そんな暢気な疑問を抱きながら、ガッチリとマスクを持つ手を掴んでガードしている。
ぐぐぐぐ、と膠着状態で言い争う二人。誰かが見たら少女にイタズラしようとしている変質者か何かに見えたかもしれない。そんな怪しいやり取りが数分続いた。
「はぁ、はぁ」
一頻り言い合って、ようやくモモンガの言わんとしていることがリムルに伝わった。悟は肩で息をしているが、リムルは息一つ乱れていない。彼はこれが歳の差なのか、と内心ショックを受けていた。
空気清浄機がない屋外の汚染された大気の中では、ガスマスクを着用しなければあっという間に呼吸困難に陥り、数分で肺に致命的な損傷を受ける。
だが不思議なことに、
「汚染された大気から身を守るためにガスマスク着けてたのか。そうならそうと早く言ってくれよ。て言うかホントにガスマスクだったんだな。俺はてっきり素顔を隠さなきゃいけない変な決まりでもあるのかと……」
「ははっ、なんだよそのヘンテコな設定」
まるで中二病の発想だと、普段の自分の事は棚にあげてモモンガは笑った。汚染された大気の事など、世間の常識を知らずに生きてきたということはアーコロジーの中でしか生活しない、富裕層の箱入り娘か何かなのだろうか。
「さて、落ち着いたところで本題に入りたいが……」
リムルが物陰に目をやると、モモンガははっとして身を固くする。
(誰かいる。こんなところに一体……まさか犯罪組織!?リムルだけでも逃がしてあげたいけど、俺一人じゃ……そうだ、たっちさんに助けを求め……え?)
「もしかして、たっちさん!?」
物陰からおずおずと姿を見せたのは、ガスマスクをした制服の警察官だった。
「えー、た、たまたま近くを通り掛かったら、言い争っているような声が聞こえたので駆け付けたのですが……」
「……あー」
たっち・みーは嘘が下手だった。モモンガこのことが心配になって様子を見に来てくれたのだろう。モモンガに彼の嘘はバレバレだった。一体いつから見られていたんだろうとモモンガは恥ずかしくなる。
「おーい、まだいるだろ?出てこいよ」
リムルがそう言うと、物陰からそそくさと出てくる人影。
「いやー、バレてたか。鋭いね、リムルちゃんは」
「え、ペロロンチーノさんにウルベルトさん、茶釜さんまで」
出てきたのは、リムルと会う約束をしたときに居合わせた面々だった。まるで示し合わせたかの如く、あの時の面子が揃っていた。
「それで、皆さんいつから見てたんですか?」
「最初に居たのが私で……茶釜さんが最後でしたね」
「ええ、ほとんど私と同時でしたよ」
モモンガの質問にウルベルトとたっちが答える。ウルベルト、ペロロンチーノの順に来ていて、そこへぶくぶく茶釜とたっち・みーがほぼ同時に合流したということか。
そしてここでぶくぶく茶釜がうっかり余計なことを言ってしまう。
「でもビックリしたなぁ、モンちゃん、いきなりガスマスク取っちゃうんだもん」
「そーそー、リムルちゃんが可愛すぎて襲いかかったのかと思っちゃいましたよ」
「モモンガさんはそんな事しねーと思うけど……」
「そうですよ、私はちゃんと分かっていましたよ」
「……皆さん最初から見てたんじゃないですか!」
「「「「あっ」」」」
「覗きなんて趣味が悪いですよ、全く……」
そう言いながらもモモンガの表情は嬉しそうだ。別に彼らは示し合わせていたわけではなく、それぞれ一人でコッソリ様子を見ようと思って来たら、ここでバッタリ会ったのだとか。それはまさにモモンガの人望の成せる業であった。
「じゃあ、そろそろ本題に入ろうか」
リムルに五人が向き直った。彼らの緊張感で空気が引き締まる。リムルの正体は未だに謎に包まれている。現時点では、危険な組織に属しているという可能性も否定は出来ない。
「これから君達のうち希望者を、俺が住む世界に案内しようと思う。百聞は一見に如かず。話して聞かせるより、実際に見た方が分かり易いだろう?
勿論身の安全は保証する。その目で見て、一体俺が何者なのか、それぞれ自分で判断してくれ。それが嫌なら、今から引き返してくれても構わない。どうする?」
何故か一人称が「俺」の
裏の犯罪社会を差すのか、それとも一握りの勝ち組が住まう支配者階級の世界なのか。はたまたもっと別の何かだろうか。
彼らは想像を働かせるが、それが八柱の魔王達が支配する異世界だとは、誰も想像がつかなかったのは無理もないだろう。
「俺は……リムルの事をちゃんと知りたい。たとえ何者であっても、受け止める。だから行くよ」
「俺もリムルちゃんの事、もっと知りt「黙れ愚弟。モンちゃん、あたしも行くわ」
「嫌だと言ってもついていきますからね」
「皆さんだけでは心配ですし、同伴しますよ」
こうして五人全員の異世界行きが決定した。
キャラクター紹介2
たっち・みー
ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の前身、クラン『
公式チートとまで言われる『ワールドチャンピオン』の
作成NPCはセバス・チャン。
ウルベルト・アレイン・オードル
ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』最強火力の魔法職『
リムル「俺たちの住む世界(
五人「い、行くとも……(裏社会の住人か?それとも大富豪?)」