ついにやってきたわに…
ここが茨城の学園艦の大洗ね
私はここに転校しに来る前は戦車道を嗜む乙女だった
けれど第62回戦車道全国大会で云々かんぬん以下省略
で、色々あって大洗に来た
理由は2つあって戦車道がないのも理由の一つ、もう一つは大洗のバレー部が全国大会に出場していた所をテレビで見たことがあるの
私には正直戦車道の才能はない、だから他の道、バレーをしようと思ったのよ
肉体なら戦車道で培った身体がある、後はバレーの技術と、少しの身長よ
私は意気揚々とバレー部に入ろうと歩みだした…がさっそくつまづいた
大洗の学園艦のバレー部はなんと部員の不足により廃部になったということだった
バレー部を復活させんと頑張っている今の時点での人数も2年の磯辺典子と1年の佐々木あけび同じく1年の近藤妙子同じく1年の河西忍
そして私、逸見エリカを含めた5人しかいないのよ〜!バレーは6人いないと成立しないのよ!?
仕方がないので私は同じクラスの猫田
そして記憶喪失で彷徨っていた船舶科の生徒のムラカミを仲間になんとかバレー部を再建した
再建したと簡単に言ってもやはり問題は発生する、まず熾烈なポジション争いよ
私はレシーブやトスといった基本的なことをある程度こなせるためWSかMBに推薦されたが
意外なことに主将の磯辺が私をセッターにする、自分はリベロになると言い出した
理由を聞くと逸見にはセンスがある、今はまだ30点40点のトスとレシーブでも県大会までには80点90点のトスとレシーブになる、あと私より大きいとのこと
身長なら私より猫田のほうが大きい上にセンスも猫田のほうがある
私が磯辺の言うとおり30点のレシーブなら猫田は最初から60点のレシーブをしていた
明らかに猫田はバレーに関して特異な才覚がある
一言で表すならば天才、それしかない
経験はあるの?と聞けば体育で少しやったくらいだと言う
それにしたって上手だった、体育でのバレーなら私にだって経験がある
なのにこの差はなんなんだろうか、私は戦車道であの娘、バレーでは猫田に
才能の差を見せられるのだろうか
バタバタしていた4月が終わり5月になった。
あれからひたすら練習を重ね、チームとしてそれなりの形にはなったと思う
「せわしなかった4月も終わってもう5月だ!6月のIH予選なんてすぐだぞ!全員練習により一層身を入れること!」
「そして考えながらやることだ、じゃないと伸びないぞ!」
「「「はい!」」」
今日もサーブ、レシーブ、オーバー、2対2、3対3とやれる限りの練習をする
体育館が閉められるギリギリまでだ
練習も終わりヘトヘトになった頃、主将が5月のGWに学園艦バレー部の合同合宿をすると言った
集まる高校はアンツィオとサンダースとケバブとグローナと大洗の5校
その中でもアンツィオとサンダースは全国を舞台に戦うチームであり、全国レベルを経験するいい機会だろう、と
1年が少しざわつく、どうやらサンダースには2年生に九州のアイと呼ばれるスパイカーがいるらしい、全国で3本の指に入るほどの
大洗で1番パワーがあるのはムラカミ、そのスパイクを上げるだけでもいっぱいいっぱいなのにその上がいるのだ
合宿についていけるか不安になった
合宿当日
私達は各校の生徒、先生達に挨拶を済ませ
自分達でボトル等の準備をして早速練習試合を組んだ
チーム結成から初めての練習試合、私達がどこまで通用するのか、緊張と不安を抱きながらもコートに足を踏み入れた
そして合宿初日が終わった
結論から言うと私達は弱かった
どの高校とやろうとも、1セットすら取れなかった
とくに3本の指のスパイカーであるアイを擁するサンダースには手も足も出なかった。
スコアも他の高校が20-25や23-25なのに対し、サンダース戦は8-25である
私達は全国を舐めていた、そう痛感した
その夜
宿泊施設の私達に割り当てられた部屋で主将を中心に反省会を開いていた
「私達は集まった中で1番弱いな」
「どこよりも練習量が少ない、どこよりも人数が少ない」
「技術的指導者もいない、磨く部分もわからない」
「私達にあるのは少ない人数故のチームワークのみ、だからこの合宿で自分達の個々の力を磨こう」
「「「……はい」」」
それから主将は試合中そこまで見ていたのかというくらい私達の動きの改善点等をあげた
私なんか自分のことでたくさんで、相手ブロッカーの動きや自チームのスパイカーがどこにいるのかすら把握しきれなかった
セッターとしてダメダメだった
「みんな得意なことはそれぞれ違うだろう、何を見て伸ばせばいいのかもわからないと思う、だけど合宿(ここ)には最高のお手本ばかりだ」
「アイはスパイカーとして最高のお手本になる」
「河西とムラカミはサンダースだ、アイから盗めるだけ盗め、エースは攻めが本分だが守りも上手いぞ」
「近藤はグローナだ、グローナのサーブこそ武器という方針をしっかり学べ」
「佐々木は私と一緒にケバブだ、ケバブの繋ぎは必ず力になる」
「逸見と猫田はアンツィオだな、あのノリと勢いは見習う部分があるぞ、とくにセッターのサーブとセットアップはな」
アンツィオのセッター…チームからはナポリと呼ばれていた
フローターサーブとスパイクサーブを使い分け、尚かつ正確無比なセット
強豪は全体的にレベルが高いがナポリだけは飛び抜けて高かった
そのナポリのセットアップとサーブを見本に磨けば間違いなく一段上にいける
「2日目はチームを他校の生徒同士で組む、積極的に聞いて、必ず自分のモノにするんだ、いいな」
「「「はい!」」」
各校の特徴は纏めるならばこうだ
サンダースはアイを主軸とした個々の強さで相手を押し潰すチーム
アンツィオがナポリの実力でチーム全体を勢いづけ相手を引き離し勝つチーム
ケバブがとにかくボールを繋ぎいつの間にか勝つチーム
グローナがサーブで相手を崩しブロックで仕留めるチーム
こんなものだろう、私達大洗にはそんな武器は存在しない
だから色々なものを身に着け、武器にしていくしかないんだ
就寝時刻になり、横になるがなんとなく眠れずにいると隣の猫田と目が合う
どうやら猫田も眠れないようだ
猫田に冗談で世界一のセッターと同じ名字だけどあなたと関係あるの?と聞く
すると猫田は自分のおじいさんだと言う
もうかなりの歳で容態がそんなに良くないらしい
それでもよく近所のバレーボールを学びたい子供に教えているとのことだった
私も教わろうかしら?なんて冗談めかして言う
猫田はおじいさんも私と同じで努力家だったから会えば喜ぶと言った
世界一と呼ばれるほどの努力とはどれだけの血反吐なのだろう
合宿2日目はチームをバラバラにして他校の生徒同士で組む
「ブロック斜め飛びするな!追いつけるボールなら真っ直ぐ飛べ!リードブロックを必ず意識しろ!セッターと囮に騙されるなよ!」
「「はい!」」
「根性ー!」
「磯辺!ネット超えるくらいならAパスいらないからね!」
「はい!根性が足りませんでした!」
「アバウトすぎる!!」
「はい!!!!!!」
「サービスエースが決まればそれはすごく楽に取れた1点だと思うのね、でもサーブの本質は相手を乱すことなのね、相手に出来るだけ苦しいパスをさせるサーブを打つのね」
「は、はい!」
「こいつ長いから要約するよ、Aパスさせるなってことよ」
「でも優雅なサーブをお願いしますことよ?」
「…」
「スパイクは必ず相手ブロッカーとの勝負になるわよ、だからパワーとテクニックの両立よ」
皆それぞれ力を身に着けようとしている
それに比べ私は
「エリカちゃん、どうだった?今のトス」
「打ちやすかったわ、なんか、手に吸い付くようにトスが来て」
「そうだろうな、私のトスが打てないやつはポンコツだからな」
私はナポリという人物が好きじゃなかった
まず最初に言われた
「私は下手くそとやるの嫌いなんだ」
この一言でもう印象は最悪になった
なによりプレー中に言われる
「さすがエリカちゃんはお利口さんだな」
「WSになったら?」
「素直で真面目なお利口さんのエリカちゃん」
猫田や他のチームメイトにはそうでもないのに私にだけこう言ってくる
おそらく皮肉だ
「でもエリカちゃんも良いトス上げてるぞ?」
「そう?ありがとね、強豪のセッターに褒められて悪い気しないわ」
「逸見さんそんな嫌味みたいに言うのはまずいにゃー…」
「いやいやいいんだ、照れてるだけだろうからな…フフ」
「…」
なぜナポリは私にだけ
私はそれとなくナポリと同じアンツィオのメンバーにナポリはいつもあのような感じなのかと聞いてみた
「ナポリは色々厳しい人っすよ、この間も自分の双子の妹に対してポジションあけろとか言ってたっす」
「逸見さんの事はたぶん…同じセッターですし、あんな風に褒める所とか見たことないっすから気に入られてるんじゃないっすかね?」
ちょっと気になったので妹のことも聞いてみた
「ナポリの妹っすか?ピッツァってみんなで呼んでるっす、残念ながら合宿には怪我で来れなかったっす、アンツィオバレー部のセッター対角ポジションなんすよ、ピッツァ」
「ナポリと違って優しいし、人にあれこれ言わないっすね、ナポリがいなかったらピッツァがセッターやってたっすよ」
「人のミスもナポリが咎めるのに対してピッツァは励ましてくれるっす」
「そこ、話してないでとっととコートチェンジだぞ」
「はいっす!すいません逸見さんまた休憩時間にでも」
どうやらアンツィオはベストメンバーではないらしい
ピッという笛の音
練習試合が始まる
相手からのサーブをナポリがセッター位置に返す私は素早くボール下に滑り込みAクイックのトス
ブロックを置き去りにしスパイクが決まるもアウト
「っすまん!」
「私もごめんなさい、ちょっと高かったかもしれないわ」
「…エリカちゃんは本当お利口さんだな」
お利口さんとは一体どういう意味で言っているのだろう
そして合宿2日目が終わった
その夜、主将にお利口さんとはどういう意味だと思う?と聞いた
「それ、ナポリに言われたのか?」
「ええそうよ、素直で真面目なお利口さんですって、明らかに皮肉よね?煽ってるのかしら?下手くそとやるの嫌いみたいだし、私を下手くそって」
「逸見とはこの1ヶ月と少しでお互い遠慮なく接することのできる仲になったと思ってたけど、そうでもなかったみたいだな」
「え?」
「逸見は猫田には遠慮なくズバズバ言うだろう、もっと早く入れとか」
「それはほら、猫田の技術ならもっと早いの打てるし、もっと打点も高くできるじゃない?」
「それを河西やムラカミ達に言えるか?出来るか?」
「それは…」
瞬間頭に過る自分の出した指示でぬかるんだ脚場が崩れ水没する戦車が
「それは、私が合わせればいいのよ、それがセッターでしょう?」
「そうだな、スパイカーが打ちやすいトスほど最良のものはないと思うぞ、けど逸見は猫田にブロードさせたりするよな」
「猫田ならできるわよ」
「レフトポジションから一気にライトまでWSに走らせるセッターは中々いないだろうな、しかも合わせるのは逸見だ」
「猫田が漫画でやってたからやりましょうって言うからよ」
「あれを形にするまでの逸見はいつもの逸見じゃなかったぞ、それともあれが逸見なのか?」
「な、何よ?私は私よ?変なこと言わないでよ」
「そうか?猫田に思い切りがないだとか軸足が違うとかいいから思い切り腕を振り切れとか言ってただろ」
「だってやろうって言ったくせにやっぱり漫画の技だから無理かもなんて言うのよ?そんなのふざけるなって思って」
「やっぱり逸見は猫田には無遠慮なのに私達にはどこか遠慮してるな」
「してないわよ、気兼ねなく接してるし」
「ならさっきも言ったが河西やムラカミに言えるか?」
「言……………わないわよ」
「ほら」
「ど、どこがよ…」
「河西やムラカミがミスをすると決まって逸見は自分のトスのせいだと言うだろ、本当に逸見のせいか?50点60点のトスならまだしも100点のトスをあげているのにそれでも決められないスパイカーのせいじゃないのか?」
「そんなことないわよ!!」
「うおっ」
「うわっ!?」
「どうしたんだにゃー?」
「あ…ごめんなさい大声出して」
「喧嘩か?」
「いや大丈夫だ」
「磯辺が変なこと言うからよ…!スパイカーがミスをするのはセッターのトスのせいよ…!」
「…確かにナポリの言う通りお利口なのかもしれない」
戦車道で言うならばセッターとは司令塔であり車長の役割のはずだ
全て車長の指示のせいなのよ、あの時だって
本当に何なのだろう
お利口さんって
私は言いたい事を言っているはずだ、それは誰にだってそうなはず
しかし合宿3日目にそれは出てしまった
相手はアンツィオ、こちらのセットポイントの時
河西に打たせたスパイクがアウトになってしまった
「す、すいません!!トスは凄く良かったです!」
「…じゃあ決めなさいよ」
「え?」
「私は良いトス上げてるわ!打ちやすいコースに上げて!ブロックもギリギリまでひきつけて!なのに!?なんで決めてくれないのよ!!??」
「…………すいません」
「あ」
河西がうつむいて震えた小声で出した言葉にハッとなり
私は急いで謝った
「そもそも猫田にあれこれ言ってた逸見が私や他の奴にも言わなかったこと自体がおかしかったんじゃねーか?」
「厳しい言い方は僕にしかしないからにゃー」
「やっぱりな、おかしいと思ってたんだ、こっちばかり逸見に要求して、逸見は何も要求しないなんて」
どうしよう…これでチームの雰囲気が悪くなる…
また前の学校みたく
「前から思ってたことだ、何が問題なんだ?スパイカーの要求に答えてるんだからセッターだって要求したいことあるものじゃないか?」
「…磯辺、だってそれは」
「私だってセッターだった時なら絶対言ってたかもしれないぞ、逸見みたく言い方は悪くないだろうけど」
「私は自分が悪くてもムカついたら絶対聞いてやらない!」
「わ、私はさっきみたくキツく言われても大丈夫です」
「僕にはもう少し優しくして…」
「逸見が転校する前の学校で何があったのかは知らないし聞かない、でも私達は逸見を信じてる」
…………………
「あちゃ〜昨日の今日でもうお利口さん卒業か」
「それ、昨日も逸見さんに聞かれたっすけどなんなんすか?」
「そのままの意味だぞ」
「ナポリ、たまに良くわからない時あるっすよね」
「どういう意味だ!」
「そのままの意味っす」
私を認めてくれた
心の重りを外してくれた
私の居場所はここにあったんだ
その日の練習試合はほとんど勝利した、サンダースには負けてしまったが1セット取れた
合宿最終日
「磯辺!あんた取ったらすぐ退きなさいよ!」
「はぁ!?あっ…河西すまん!」
「つぇい!!クソ!すまん!」
「いや、今のは私のトスが低かったわ」
「あ、そうか…ちゃんと上げろ!」
昨日の1件のおかげか
それとも最終日にしてようやく慣れたおかげか
全体の雰囲気が良い
今なら猫田との超速攻攻撃の新型が出来るかもしれない
「逸見さん変わったすね」
「ああ、昨日とは顔が別人だな」
「逸見さんだけじゃなくて大洗の奴ら全員じゃないの?」
「今まで開いてた実力差をこの4日間で埋めてきた」
「おー怖、そんな奴らと同じ場所で練習できるのが楽しすぎて怖いな」
「…ナポリやっぱ変っすよ」
出来る、今なら絶対に
「猫田!!」
私の呼声に猫田が反応し助走をつけ飛ぶ
相手ブロッカーは案の定フェイクと思い見向きもしない
私は猫田が腕を振る直前にトスを思い切り上げる
「はぁ!?」
「あーこれすっごい羨ましいぞ」
「移動攻撃だけじゃなかったんすか…」
猫田と私の超速攻は通常、ボールがセッターに返ると同時に助走をつけるクイックと違いもう既にスパイクの形が完成している速攻
マイナステンポの速攻なのよ
さらに新型超速攻は私が猫田の手元で止まるボールを上げ、コースは猫田に任せる完成された超速攻
「止めるには…」
「コミットだろ、けどいちいち猫に構ってたら他がノーマークになる、かと言って放置していれば引っ掻き放題…ハラペーニョ」
「自分っすか?」
「お前猫につけ」
「ええ!?」
「今いる中で反応が良いのはお前だ、止めなくていい、ただ気持ちよく打たせるな」
「やってみるっす」
猫田を警戒しているわね
係の人間も付けたみたいだし
でも猫は気まぐれな動物なのよ
「スパイク拾われた!」
「ハラペーニョ!」
「はいっす!」
係に任せて自分達は他、本当にそれでいいのかしら?
「飛び出して来ない…?」
「クソがっ!」
超速攻だけが武器じゃないのよ
みんないるんだから
「しゃオラぁ!」
「どうかしら?お利口さんの私のトス」
「…良いトスしてるぞほんと」
「そう?ありがと、強豪のセッターに褒められるなんてね」
「今日は負けた、でも夏のインハイで叩き潰してやる、それまで負けるな」
「ええ、その時も勝つわ」
そして合同合宿が終わった
その後は色々なことがあったわ。
ムラカミと同じ船舶科の生徒が4人もバレー部に押し寄せて来たり
戦車道が復活していたり
大洗のバレー部OGと練習試合したり
猫田のおじいさんにセットアップのコツを教えてもらったり
あと西住みほがいつの間にか転校して来てたわ、まぁもうどうでもいいわね
そうそう、私達バレー部は茨城の県大会予選を優勝して全国に出られることになったわ
優勝した時、1年の三人と磯辺が抱き合って泣いてたわ
全く泣くのはまだ早いわよね
あとこれが1番の大ニュースよ、猫田が全日本ユース代表選抜候補合宿に呼ばれたのよ
猫田も強くなって帰ってくるわ、それまで私達は全国優勝目指して練習していくのよ!
バレーに出会えて本当に良かったわ