とあるHACHIMANがあの世界に行った   作:はチまン

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トゥルーバッドエンド(前編)

 八幡は俺をまっすぐに見ていた。

 は? い、いまなんて……言った?

 は……あ? いまなんて言ったんだよ!?

 内側から湧き上がってくる激昂をそのままに俺は八幡を睨んだ。

 いったいなんだてめえは! 俺がいったい誰の為にこんなに嫌な思いをしていると思っているんだ!? 全部てめえのためじゃねえか! それなのに、それなのに……

 不満は憤懣に変わり、そのまま俺の内を侵食し続ける。それはやがて激しい憎悪と怒りへと転じ始めていた。

 そんな中で、八幡は口を開いた。

「よくわかっていないようだから一つずつ教えてやる。まずは文化祭だ。あの時の俺は確かに最低だった。最低だったがあれが俺にとっての最上だったんだ。勝手に引き受けて勝手に自滅しそうになった雪ノ下のことを、多分俺は助けてやりたかったんだと思う。他に助けを求めず、自分で全てを背負い込み、顔色一つ変えなかった。あの時の雪ノ下は自分の矜持を貫いていたんだと思っている。だから俺も自分を貫きたくなった。あくまで陰険に陰湿に最低に。俺はああすることで俺自身の満足感を得ていたんだよ? 葉山の策略だ? んなもんあるか。俺はあの時葉山をわざと怒らせたんだ。よりもっと俺自身を惨めったらしくするためにな。ふひ……」

「ひ、比企谷、お前……」

 八幡の言葉を聞いて葉山がぐっと唇をかむのが分かった。そして雪ノ下とガハマも静かに震えていた。

「それからなんだっけ? 平塚先生の暴力だっけか? お前な、あんなの暴力のうちに入るかよ。そもそも殴られる原因が俺にまったくないなんて考えられるほど、俺は自分に自信なんかねえよ。それにこの奉仕部に入れられたことだって初めは確かに嫌だったが、ここに残ることを『選択』したのはこの俺自身だ。なんで俺がここにいることまで先生の所為にしねえとならねえんだよ、馬鹿かお前は」

「…………」

 平塚は無言のままで八幡を見ていた。その表情にはなんの焦りも怯えも困惑もない。自信にあふれた眼差しで……

「それから、入学式の朝の事故の件か……それこそ良く調べたな? あの事故を知っている奴がまさかいるなんて夢にも思わなかった。えーと、由比ヶ浜が散歩中の犬のリードを放したせいで俺が事故に遭ったとか言ったよな? まあ、だいたい合ってるがお前、この理論すでに破綻していることに気が付いてないのか?」

 そう言って八幡は頭をぽりぽりと掻いてから呆れたように声を出した。

「そもそも犬が逃げたって人身事故にはならねえんだよ。車の前に犬が飛び出したらな、間に合わなければ車はそのまま犬を轢き殺すだけだ。いいか? ペットだなんだと言ったところで所詮はそれはただの『物』だ。車で轢き殺したら『器物破損』でその分の賠償を請求されるくらいなもんだよ。でも俺はそれを許せなかった、きっとあの時は。目の前で車に引き殺されるあの小さな犬の姿を見たくなかったんだと思う。だから飛び出した。飛び出してあの車にぶつかった。ただ……それだけのことだ」

「ヒッキー……」

「俺はあの事故を飼い主の所為にしようなんて思ったことは一度もない。ただ、自分で車の前に飛び出して大けがをして学校に行けなくなった……俺にとっては間抜け過ぎて恥ずかしくて死にたいくらいの黒歴史ではあるけどな。でも……本当にそれだけなんだよ、由比ヶ浜……お前の犬、助けることができて、本当に良かったよ」

「うん……うん。本当に……本当にありがとうねヒッキー……ひぐっ……ひぐぅっ……」

 ぽろぽろと泣き出した由比ヶ浜を一度見た八幡は、今度は雪ノ下を見た。

 そして言った。

「修学旅行のあの戸部の告白の時……俺は自分の取れる最良の選択をしたにすぎない。俺にとっての大事なポイントは、全ての奴にとって最悪にならない状態を作ってやることだった。振られたくない戸部、今の関係をそのままにしたい海老名さん、葉山、三浦、それに大岡や大和も同様だろうと考えていた。それとお前らだ。雪ノ下、由比ヶ浜。あの時の俺はお前らの拒絶を心のどこかで恐れていた。恐れつつだが、お前らなら無条件に分かってくれるのではないか……そんな期待もどこかでもっていたんだ。だからあれを決行した。あれによってどんな反応が返ってくるのかも予測しながらな。でも……」

 八幡は一度大きくため息をついてから顔を上げた。

「俺は自分が傷つくことを考慮に入れていなかったんだ。それによってお前らがどんな思いをするのかということも……俺はあの時確かに自分のことしか考えていなかった。お前らの言う通りだよ。俺はお前らの気持ちを考えていなかったんだ、わりぃ」

「比企谷君……私……」

 何かを言いかけてぐっと唇を噛んだ雪ノ下をちらっとみた八幡は、そのまま顔を振って俺を再びにらんだ。

「さあ、こっちの話はだいたい終わりだ。悪いがお前が想像しているような葉山、由比ヶ浜陰謀説は微塵もないんだよ、悪いけどな。そもそもそんな陰謀できるくらいなら、最初から全部依頼を終わらせておいてくれって話だろうが。特に由比ヶ浜、お前いつも勝手に依頼持ってきすぎだ。持ってくる前にプランも少しは考えろよ」

「ちょ、ヒッキーひどっ! あ、あたしだってちゃんと考えてるよ!! とべっちの応援だっててきかく? だったでしょ?」

「的確な。あれはただのデートプランだ。根本的な解決にはなにもつながっていない」

「いいでしょ別に! あたしだってあんなデートしたかったんだもん!! ……あ」

「あ」

 と言いつつ、真っ赤になってお互い顔を見つめあう八幡とガハマの二人。

 それを呆れたような顔で見る雪乃と、半笑いの葉山と平塚、そして口を抑えてくっくっくと笑ったままでいる陽乃。 

 それらを見ながら俺は……

 カバンにしまっておいた『アーミーナイフ』を抜き放った。

「言いたいことはそれだけかよお前ら。まじで……まじでふざけやがって……てめえらがそんなぬるいことばっかり言ってるから、俺がイライラするんじゃねえか!! なにが自分の所為だ、なにが人の所為じゃないだ、マジでふざけんなっ! 悪い奴がいるからそいつをぶっころして楽しいんじゃねえか。悪い奴がもっと悪いことをするから殺すときに気持ちいいんじゃねえか! なんでそれがわかんねえんだよっ! ああんっ!?」

「ちょ、おま、やめろよ」

 八幡が俺の前で慌てた顔になり、そして葉山や平塚たち全員の顔が青くなった。

 くくく。いい顔だぜ。そうだよ、最初っからそういういい顔をすれば良かったんだよ。お前らはみんな愚図で最低でカスなんだ。だから、順番に死んで、ああ死んで良かったぜって感じでみんなで馬鹿にしてやるのが最高なんだよ。くくく……くははは。くははははは」

 身体の内から笑いが込みあがってきていた。もうこんな俺の思い通りにならない世界なんて『いらない』。ここまでムカついたのは、ラブラブな八結を読んだ時いらいだ。確かディスティニーデートだったっけ? 結局最後は八幡も告白しなかったように思うが、あんなののいったいどこが面白いんだよ!? 屑ガハマもの書く奴は頭おかしいに決まっているんだ、くくく。ああ、もういいや。

 そう思い極め、俺はすぐに行動に移ることにした。

 ここにいる全員をぶっ殺すことに。

「さぁて、じゃあどいつから……」

 やめろ!!

 突然俺の内から何かの声が聞こえた。その激しい痛みをともなった声に思わず頭を抑え、もう一度前を向くと、ふたたび声が。

 やめろ!! もうやめろ!!

 ええいうるさいっ!! いったいなんだわめくな俺の内側で!!

 うるさいのはお前だ!! いいかげんにしろよ、その身体は……

 はあ? いったいなんだてめえは……

 その身体は……

「僕の身体だぁ!!」

 突然身体を激しく後ろから押された感覚があったかと思うと、俺は一歩まえへと踏み出してしまっていた。

 くそっ! 誰だ俺を押しやがった奴は!? 

 そう思いつつ振り返ってみれば、そこにいるのはまさかの俺?

 いや、正確には俺じゃない。俺ではなくて俺が中に入っていた優木悠斗とかいうガキだった。

 は? なんで目の前に俺の身体があるんだ? そう良くわからないでいた俺がもう一度振り返ってみれば、そこには目を大きく見開いた八幡たち全員のすがた。

 そいつらを順々に見渡してみれば、その全員と視線が交差して……いや、間違いなく全員がこの俺を見ていた。

 俺……俺はいったいどうなって……?

 そう思っていた時だった。

「あ、あなたは何方ですか?」

 そう聞いてきたのは平塚だ。平塚は俺の顔を見上げるようにしているが。

 俺は……優木悠斗……

 と言いかけて、はっとなって自分の身体を見下ろしてみれば、そこにあったのはぶよぶよっとした豊満な腹と俺の手足だった。これは間違いなく、本物の俺の姿。38歳の俺の身体がそこにあった。

 だが、なぜかその身体は少し透き通っていて、床やテーブルやいすが透けて見えているような感じで……

「あんたはいったい誰だよ?」

 今度は八幡の声。そう聞かれ俺は自分の名前を言おうとしたが、まったく声は出なかった。だが……

 よく見てみれば、俺の手には先ほどのアーミーナイフがまだ握られたまま。

 握ってはいても透き通っているせいでナイフの柄の部分も少し見えてしまっているが確かにそれを握りしめ、振り回すことが出来ていた。

 だったらやることは簡単だ。

 俺はガハマへと向き直った。

 とにかく殺してやる。葉山や平塚は殺すのが大変そうだが、このトロそうなガハマなら余裕で殺せるはずだ。

 しね、しね、しね、しねええええええええっ!

 俺はナイフを握ったままドスドスとガハマへと向かって駆けた。

「きゃああああああっ!!」

 ガハマの悲鳴が響き渡るもそんなのはお構いなしに俺はナイフを振り上げる。

 途中平塚と葉山が俺へと抱き着こうとしていたが、透明なせいかスカッとすり抜けてしまい、そのままもんどりうって転がった。

 ふはははは。無様すぎるだろうお前ら。なんだ、今の俺は無敵じゃねえかよ。だったらガハマを殺した後にお前らも殺してやるぜ!! はははははは、しねえええ!!

 そうナイフをガハマ目掛けて突き入れた。

「由比ヶ浜!!」

 

 ドスッ!!

 

 突然由比ヶ浜の前に人影が。見ればそこにいたのは八幡で……

 俺は奴の制服越しで腰の辺りにナイフを突き入れてしまっていた。

 その制服はどんどん水分のようなものがしみだしてきて八幡はそこを抑えつつ床へと膝をついた。

「ひ、ヒッキー!! い、いやああああっ!!」

「比企谷君っ!! しっかり!!」

 倒れこもうとする八幡に抱き着く二人の女子。

 俺はそれを見つつ、全身から力が抜けていくのを感じていた。

 なんだよ、これは。

 なんなんだよ、いったい。

 なんでこうなるんだ……

 俺はムカツクガハマの苦しむ顔が見たかっただけなのに。俺はムカツク葉山の苦しむ顔が見たかっただけなのに。俺はムカツク平塚の苦しむ顔が見たかっただけなのに。

 八幡に『ざまあっ』って言わせたかっただけなのに……

 ちくしょうううううううう!!

 泣いている由比ヶ浜と雪ノ下の姿を見つつ、俺の意識は一気に消滅していった。

 

 

 

 

 

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