とあるHACHIMANがあの世界に行った 作:はチまン
アスナ……
まさか君と戦うことになるなんて……
こんなこと……
したくはなかった……
俺は振り上げた木刀に必殺の殺意を込めて、目の前の青い髪、青い衣装の最愛の存在に向けてそれを振るった。
ソードスキルを実装していないこの
センスだけでいえば、アスナはまさに最上級、天賦の才と評しても支障がないほどの力量を有している。
俺など足元にもおよばない。
彼女は初見の戦いであっても即時に相手の
多数の死者が出たレイドボスバトルの中にあっても、彼女が攻撃を受けることは殆どなかったのだから。
そんな芸当俺にはできはしない。
だが、そんな俺でも彼女を追い込まなければならないとしたなら……
それは簡単なことだ。
『彼女が避けられなくなるまで攻撃し続ける』……。
ただ、それだけだ。
俺は彼女が繰り出す連撃の全ての回避を諦め、その行動の全てを攻撃に回した。
確かに俺の身体のいたるところに彼女の一撃はクリーンヒットしている。そしてダメージ硬直などのペナルティも確かに発生していた。
しかし、それも含め、俺は彼女に対しての攻撃の手を緩めなかった。
使っている剣が訓練用の木刀だから? SAOと違って死ぬことがないALOの世界だから? だから本気を出しているのか?
いや、そのどれも違う。
俺はただ、彼女を救いたいと本気で思っているだけだ。
SAOの世界が崩れ去ったあの日……
俺はこの手に確かに最愛の人を抱きしめていた。
愛しています……
あの時の彼女の言葉を俺は胸に抱いたままで、死を受け入れた。
でも……
俺は生還した。
目を開け、重い身体を引きずって、俺は彼女の元を目指した。目指してそしてまだ覚醒していない彼女と出会って、俺は心に誓ったのだ。
どんなことがあっても絶対に君を助けると。
例え何度、君と離ればなれになろうとも、俺は決して諦めない……必ず君を取り戻す……と。
だから……
俺は戦う!
もう迷いはしない。
その相手が例え、君自身であったとしても俺は俺の全力で君を倒し、そして救ってみせる。
例え、それによって君が深く傷ついたのだとしても、それを君が許さなかったとしても、それでも俺は構わない。
その罪を俺は一生背負っていく。
そして必ず、君と俺とで幸せをつかんで見せる。
愛しています……
聞こえないはずの彼女の声。
脳裏に焼き付いたあの時の光景とともに、俺は最愛の存在のことを想った。
アスナ……
アスナ……
アスナ……
俺も……
愛している!!
❖
「キリト君なんで私の邪魔をするの!! もうやめて!!」
「…………」
俺はそのアスナの叫びに反応しないままに、右手の木刀を彼女の急所へと向けて振り下ろし続けた。
すでに数百の斬撃を放ち続けているが有効打と思えるヒットは数えるほどしかない。
だがそれでも俺は切り込み続けた。
あれほどまでに躊躇し、あれほどまでに悩んだというのに、いざ戦いに突入してしまえばこの様。
俺は自分が戦闘狂と揶揄された過去のことを思い出して思わず苦笑いした。
「わたしはただ、ハチくんを助けたいだけなの! 私を助けてくれたハチくんを私が助けてどうして悪いの? お願いキリト君……わたしたち、〈友達〉でしょ?」
友達……
アスナにそう言われ、胸に激痛が確かに走った。
だが、その言葉が、ただの〈戯言〉以下のものであることを俺は理解していた。
「友達な……」
そう呟きつつ、彼女の後方へと回り込んだ俺は、顔が接近するそのときに微笑む彼女の顔を見た。
彼女はエフェクトを放っている木刀を俺へと高速でつき出してきていた。
「そ、友達……だからもうこんなことやめて、一緒にあのとても酷いことをする二人の女を殺しましょ? あの
娘たちがハチくんを苦しめているのだもの! さあ!」
彼女の連撃をかわした俺は回転しつつ飛び上がって、今度はそのまま彼女の背中を蹴った。
剣の軌道を注視していた彼女はその俺の行為に反応できず、たたらを踏んでから体勢を建て直した。
「俺は……君のことを友達と想ったことはなかったな」
「えっ!? ひどっ!!」
彼女は焦点の定まっていないようなその相貌のままに俺へとにこやかに微笑んでいる。
何も感じていないのか……
いや……
そんなことはないはずだ。
ここにログインした時にユイは言っていた。
今のアスナは、何者かに操られているのだと。
そして、本当のアスナもあの中にまだいるのだと。
だったら!!
俺はアスナの繰り出してきた剣を払い除けながら彼女に接近した。
「俺は君のことを誰よりも愛しているよ」
「え……」
一瞬……ほんの一瞬ではあったが、彼女は息を飲み確かにその瞳に光と灯した。
俺はそれを見、そして躊躇いなく彼女へと躍りかかった。
もう片方の手にも木刀をジェネレートさせながら。
「ちょっと、二刀流なんてずるいよ。それにそれをつかっていたのはハチくんだからキリト君には無理……あれ? 二刀流使ってたのはハチくんだよ……ね? あれ?」
そんなことを呟きながら俺の剣戟を受け流し続けるアスナ。
俺は……
更に剣の乱舞を加速した。
この世界に二刀流ソードスキルは存在しない。
あの世界で、何度も俺とアスナを助けてくれた、たくさんのあの技の数々をこの世界では使用できないのだ。
それが仕様、それが仕組み。だけど……
「うわあああああああぁっ!!」
「え? なんで?」
俺は姿勢を低くしてから一気に彼女へと飛び込んだ。
そして全ての神経を研ぎ澄ませつつ、あの名前を口にした。
「〈スターバーストストリーム〉!!」
小さく呟きつつ俺はこの技を繰り出した。
システムのアシストなんかない上に、それぞれのモーションの区切りや硬直、スキルレベル、その他もろもろの本当に多くの制限を受けつつも、俺はこの体に染み込んだ、俺自身がもっとも頼りにする〈必殺技〉をここに完全再現してみせた。
アスナは驚愕して俺を見ている。
その顔には明らかな戸惑いと恐怖の色が浮かんでいた。
だが、俺は止めなかった。
むしろ俺の全力でもって彼女へと襲いかかった。
「お前がいったい誰で、なんのためにこんなことをしているのかなんて知らないしどうでもいい。でも……」
俺は剣を繰り出しながら彼女を切り刻む。
その白い素肌に無数のダメージエフェクトを走らせて、彼女はされるがまま、打ち付けられつつ浮かび上がった。
「俺は絶対お前を許さない!! アスナから出ていけ!! ゲス野郎!!」
「きゃあああああああああああああっ!!」
最後の一撃が彼女の身体を凄まじい勢いで吹き飛ばした。
のけぞり、回転しながら彼女は初めて地面へと転がった。
そんなアスナに俺は追撃の一撃を放つ為に飛びかかる。
その瞬間、恐怖に染め上げられ真っ青になった彼女と視線が交差したが、俺はそれを見て今までで一番の殺気を込めて睨み付けたままで切りかかろうとした。
その時だった。
「ああああああああああああああああああっ!!」
突然アスナが悲鳴を上げたかと思うと、彼女の背中から黒い靄のようなものが溢れ出した。
頭を押さえ地面でのたうっている彼女の少し後ろ、彼女の背中からのびるその黒い靄のようなものが次第とその形を変えて、それは丸みを帯びた生物のようになった。
「これは……トロル? いや、オークか」
丸く大きなその人形は揺らめきながらも頭を手で押さえるような仕草のままに何かを叫んでいるような様子。
こいつがアスナを……
そう想った時にはすでに飛び出していた。
俺はその靄をめったやたらに切り裂いた。
しかし、それは本当に霧を切っているようでまるで手応えがなく、切っても切ってもそいつは変わらずにそこに存在し続けていた。
何度目か飛びかかった時のことだった。
「パパ!! このモンスターに身体を与えます!! えいっ!!」
粒子を巻きながら飛んできたユイが、その靄に向かって手を伸ばす。
すると、今までただの粒子だったその存在が次第と黒い液状のような身体へと変わっていった。
「パパ、その靄をスライム化しました。今ならパパの剣は通るはずです」
「分かった! ありがとうユイ!! らぁああああっ!!」
俺は木刀を投げ捨てて、背中に装備していた黒い片手剣を抜き放って、ぶよぶよとしたそいつへと切りかかった。
そいつは顔の部分に目玉を二つ漂わせてまっすぐに俺を見ていた。表情はまるで読めなかったが、間違いなく恐怖していたのであろう、凝視したまま完全に動きを止めてしまっていたそいつへと、俺は黒剣を振り下ろした。
「終わりだ化け物。消えてなくなれ」
俺の剣は音もなくそいつを真っ二つに叩ききり、そしてそのまま地面へと剣を叩きつけた。
凄まじい轟音が響き、そのままそいつは爆散するかのようにバラバラに弾けとんで、空中でその破片の一つ一つが消滅していった。
残されたのは少し離れた場所のアスナの身体と、地面へと叩きつけた剣がふれている箇所……その少し上に表示されている、〈Immortal Object 〉の赤い文字だけ。
「キリト!!」
「キリトさん!!」
俺はそう声をかけながら近づいてくるクライン達や、呆気にとられた様子で立ち尽くしている比企谷さん達を眺めつつ、あの存在を消し去ることができたことに安堵していた。
地面に倒れ、先程まで痙攣していたアスナは……
「……ゴポ」