とあるHACHIMANがあの世界に行った 作:はチまン
俺の名前は《
なぜそんなことを述べたかといえば、それはこの学生手帳にそう書いてあったからだ。どうやら総武高校2年F組に在籍しているようで、なんと八幡と同じクラス。俺は名も知られぬモブキャラということではあるが、この世界で確固たる立場を確立していたようだ。
となれば話は早い。訳も分からずに京都の修学旅行中であったが、このまま放置されて路頭に迷う心配はなくなった。クラスではどんなポジションだかは知らないが、大人しくしていれば帰りの新幹線にも乗ることは可能となってホッと一安心となった。
俺はまず自分のスマホを色々調べて自宅の住所や親の名前を確認した。どうやら一人っ子で両親と同居の様子。これはひとまず住処も安泰と言えそうだ。
そして交友関係だが、良く通話している奴と、今回の修学旅行のしおりを見比べてみて、数人友人のような存在があることも確認できた。だから後は具合が悪いとか適当に言って、話を合わせつつ静かにしていればいいというわけだ。まじでこんなところで赤の他人に気をつかうなんてまっぴらごめんだからな。
俺はこの世界を満喫しようなんてさらさら思ってはいない。
くそムカつくあの女どもに目に物見せて、それこそ絶望させて生き地獄を味合わせてやれればそれでいいのだ。
そして、八幡には甘いあまーい優しい彼女との高校生活を送らせてやりたい。
そう、これは俺の心からの願いだった。
あまりにも不遇な八幡を俺はなんとかしてやりたかったのだ。あの自分のことしか考えていない女どもを地獄に落とし、変わりに優しくて理解してくれる彼女を用意してやりたい。
それこそ、陽乃や海老名さんや三浦優美子なんかは無条件に八幡を受け容れてくれるはず。だって、その展開は二次小説の鉄板だもの。くっくっく。
俺は帰りの新幹線を待ちつつ、そのように自分の方針を定めてから周りをみた。そこには楽しそうにお喋りをしている少年少女達。だが、其の中でおどおどしつつ、周囲を警戒するように見渡しながらたまに俺をチラチラ見てくるガハマの姿が。
だが、目が合った途端にあのバカはにこりと微笑んできやがった。
どうやらガハマは昨日の夜、襲い掛かったのが俺だとは気が付いていないようだな。
そういうこともあるか。何しろあそこは暗かったしな。
本当にこいつはアホすぎるだろう。まあいいさ。どうせあの程度で済まそうなんて気はさらさらねえ。
このアホガハマのせいで八幡は散々苦しんだんだからな。
そもそもこいつが犬の散歩中にリードを放したからあの事故が起きて、それこそあの超高級車を壊して八幡も入院することになったんだ。
全ての原因はこいつにある。あの高級車の数千万円の修理費用はこいつが本来は払わないといけないんだ。
呑気に高校になんか通っていないで、さっさと風俗でも行って返せよ、この人でなし。
まあよ、最終的にはそういう末路もありだよな。
八幡のことを好きだっていうんなら、それこそあの事故の賠償をきっちり払えば八幡だって嬉しいに決まってる。でもお前が風俗で稼いでいる間に、八幡には新しい彼女が出来るけどな、くっくっく。
よし、大分気分が良くなってきたぞ?
ガハマとあそこで楽し気にグループ仲間と話している葉山はA級戦犯だからな。地獄に落とすのは確定として、だがこの帰りの新幹線じゃ何もできはしないからな。
ならこの後の展開として八幡の彼女を用意してやらねえとな。
候補としては、陽乃、海老名さん、三浦、それにこれから出てくるはずのいろはか?
さぁて、誰が良いか……
あ、そういえば、この帰りの新幹線を待つ間に、八幡と海老名さんが会っていたはずだ。
確か京都駅の屋上……は、こっちか?
どれ、一応確認しておくか。
俺は屋上へと上がった。
❖
「私。ヒキタニくんとならうまく付き合えるかもね」
「冗談でもやめてくれ。あんまり適当なこと言われるとうっかり惚れそうになる」
お? なんだメッチャいい雰囲気じゃねえか? 海老名さん八幡に惚れちゃってるじゃねえか。それに八幡もまんざらじゃなさそうだしな。
そうか、ここで上手く繋げてやれば、八姫ルートに入るわけか、なるほどな、海老名さんに八幡とられるとか、結衣の絶望を考えるとメシウマすぎるしな、くふふ。
よしよしと思いつつ耳をそばだてる。
すると。
「そうやって、どうでもいいと思っている人間には素直になるとこ嫌いじゃないよ」
「奇遇だな。俺も自分のそういうところが嫌いじゃない」
「私だって、こういう心にもないことすぱっと言えちゃうとこ嫌いじゃない」
そんなことを言い合いながら微笑み合っている二人は最高の恋人同士に俺には見えた。
うん、これは上手くいきそうだ。
そう思っていたところで海老名さん。
「私ね、今の自分とか、自分の周りとかも好きなんだよ。こういうの久しぶりだったから、なくすのは惜しいなって。今いる場所が。一緒にいてくれる人たちが好き」
彼女は八幡に背を向けて階段を降りようとしていた。降りようとしつつ去り際にもう一言付け足した。
「だから、私は自分が嫌い」
は? え? 何言ってるんだこの人は?
だって、今自分の事好きっていったよな? 自分とか自分の周りとかって、なのになんで嫌いなんて言ったんだ? わけわからねえ。まあ、どうでもいいか。
それよりもカップリングだカップリング。
さて、どうやってアプローチするか……
SSでなら、よくあるパターンはあの告白劇で八幡が被った心の傷を海老名さんが知って、それは可哀そうって慰めつつ、雪ノ下とガハマを糾弾しつつそれで八幡に寄り添って、後々カップルになっていくっていうのが王道だよな。
だけど今回に関していえば、まだ現状では結衣と雪乃が八幡を罵倒していないし、八幡もまだ海老名さんに相談できるほど一人で不安や悩みを抱えているわけではない。それは奉仕部の部室へ行ってから発生する話だからだ。だとするならば、今カップリング成功の可能性は……
ふむ……
十分あるな。
何しろ、八幡はあの竹林で、雪ノ下とガハマから拒絶されているんだ。しかもそうなった原因は八幡だけに分かるように伝えた海老名さんの依頼が原因。となれば、それをチラつかせれば、海老名さんは罪悪感から八幡に好意を寄せるようになるはず。
よし、その線で行こう。
「あの、海老名さん」
「え? なに?」
俺は階段を降りていた海老名さんに偶然を装って声をかけた。
一応同じクラスの生徒でもあるわけだし、このモブキャラとどういう接点があるのかは知らないが、無碍にはされないだろうとの希望的観測からのアプローチだったわけだが、とにかくまったく嫌がっているというわけでもなさそうだ。
俺はなるべく困った風を装いながら言った。
「比企谷……のことなんだけどさ、俺聞いちゃったんだよ」
「え、何を?」
俺の言葉に海老名さんは少し驚いた風になって聞いてきた。おお、これは好感触だ。俺が何を知っているのか気になっている様子。これは心苦しさもあるからってことに違いない。
「昨日、海老名さんが戸部の告白をとめさせてくれって、比企谷に依頼していたこと。それでさ、比企谷はそのことで雪ノ下さんと由比ヶ浜さんから暴言を浴びせられて酷く傷ついているんだよ。だから、比企谷にもっと優しくしてやって欲しいんだ」
よし、これでほぼOKだろう。
実際に海老名さんは八幡に頼んだ内容はこの通りだ。八幡が傷ついているってことも今の今まで話していたんだ。この人はそれにも気づいているはずだ。よし、後はこの人の罪悪感に訴えつつ、俺が仲をとりもって……
「ねえ、優木くん」
ん? 優木? あ、俺のことか。
「あ、ああ、何?」
「そのことを誰に聞いたの?」
「誰に……ってそれは、は、ひ、比企谷から……だよ」
まあ、間違ってはいないはずだ。俺は比企谷に何が起きたかを知っていたし、その原因も知っていたのだから全くの間違いではない……はずだ。
だが……
海老名さんはなぜか不敵に笑いつつ言った。
「そう……なるほどねぇ。優木くんは比企谷君狙いだったんだぁ、じゅる……」
「え? へ? あ、ちが」
「そうだよねぇ、最近比企谷君って戸塚君とばっかり仲良くしちゃってさぁ、あれはあれで最高に美味しいんだけど、もっと葉山君とか戸部君とか周りを巻き込んでぬっちゃぬちゃぬちゃの爛れた関係になってほしかったのよぉ!! そうなんだ!! ここに優木くん参戦なんてもうわたし、わたしも鼻血が止まらな……ひ、ひひひひ」
な、なんだ? 急にぶっ壊れたぞ海老名さんが。
だいたい何でいきなりBL展開にそこまでもっていくんだよ、マジできもいよ。
若干引きつつ海老名さんを見ると、今度は落ち着いた表情で俺を見ていた。
「優木君、本当に誰に聞いたのかはしらないけど、わたし、比企谷君には何も依頼していないよ」
「は? え? でも……え?」
「彼が結衣と雪ノ下さんから怒られているままだったら、そういう事なんだよ」
「え? へ?」
海老名さんは自信ありげにそんな意味不明なことを言っているのだが。
「でも、そっか……やっぱりそうなっちゃったんだねぇ」
そんなことを言いながら少し寂しそうに笑った海老名さんは俺に手を上げるとそのまま階段を降りていった。
俺はそれを見送りつつ。
やっぱりBL女は扱えないとしみじみ思った。