とあるHACHIMANがあの世界に行った   作:はチまン

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決着

「アスナッ、避けろ」

 凄まじい勢いで宙を舞って襲い来る無数の触手。それを寸でのところで躱し続けるキリトくんが俺の手を引きつつりも後方のアスナさんへもそう叫んだ。

 彼女は丁度泥の怪物の反対側にいたはずだが、揺れる視線を向けた時には彼女は遥か上方へと身を躍らせて、空中で射られた矢のようになった触手の射線を高速で移動しながら避けていた。

 これはもう弾幕ゲームの様相だ。

 逃げられる場所は本当に限られていて、やっとこ避けたその先へも触手の追撃が迫るのだ。

「比企谷さん走れ!!」

「え? え?」

 俺は背中を思いっきりキリト君に突き飛ばされた。その瞬間、俺の立っていた場所へと何本もの触手が突き刺さって破壊不能のはずの地面を貫通して辺りに爆音をまき散らした。

 その余波で身体がよろめくも、そのままでは触手の餌食になってしまうと察して、俺は言われるままに全力で駆けた。

「うわ、わあわわっわわわわわ」

 必死に走る背後には確かに何かが襲い来る気配があって、でも振り返ることも出来ずに行くしかなかった。

 はっはっはっはっは……

 背後でガキンガキンと何か金属がかち合う様な音が聞こえたその時、俺は足をもつれさせてその場に転んだ。

 瞬間死を予感して、背筋に嫌な汗が流れるのを感じるも、だが例の触手の槍攻撃は来なかった。

 恐る恐る顔を上げてみれば……

「はあああああっ!!」

「やあぁああああっ!!」

 キリトくんとアスナさんの二人が触手の合間を残像を残すほどの高速ですり抜けて、その都度触手を切り落として周る。その二人のあまりにも速い挙動に、触手はまったく追従できていなかった。

 し、質量を持った残像だとでもいうのか……

 いやなんでもないです。

 とにかく速い速すぎる。

 いったい何をどうすればあんな動きが出来るんだよ。何あの二人。何名人なの? 冒険島なの? アメイジングすぎる。

『エえいッ! チョコまかトチョコザイな!』

 おっと、出ちゃったねオヤジギャグ。そこでチョコだけにチョコッとだけとか言い出したら更に完ぺきだったのに。

 どうでも良いが、何故か調子にのっている戸部が頭に浮かんだはここだけの話。

 俺もだいぶ戸部に毒されてるなあ。ケーキ屋のバイト頑張れよな戸部。

 あまりにも一方的な二人の立ち居振る舞いに、俺はなにやら安心感を得てしまっていたわけだが、そうは問屋が卸さなかったわけだな。

「きゃっ」

「アスナっ!」

 一瞬のスキを突かれて、アスナさんの身体に触手が巻き付いた。

 そして間髪入れずに彼女の胸当てが引きはがされ、手にしていた剣も弾き飛ばされた。

 それを助けようと急行しようとしたキリト君だったが、今まで以上の数の触手にその行く手を阻まれて近寄ることが出来ない。

「じゃまだああああああっ!」

 彼はもう一本、その手に剣をジェネレートさせて、その二振りの剣で立ちはだかる触手の多くを切り捨てた。

 そして漸く締上げられているアスナさんが見えたかと思ったその時、彼の前に動けないあいつの姿が浮かび上がった。

「うう……」

 そこに居たのは触手にグルグル巻きにされて宙へと持ち上げられている黒髪の優等生の姿。

「雪ノ下っ!」

 思わずそう叫んだ俺は更に息を飲んだ。

 そこに居たのは雪ノ下だけではなかった。

 先ほど泥に飲まれた、リーファさんやリズベットさん、シリカさん、クラインさんも……そして、結衣の姿もそこにあった。

「くっ……」

 彼らの身体をまるで肉の壁としてアスナさんの前へと持ち上げる目玉の塊。

 そいつはその全身を鳴動させてまるでキリト君を嘲り笑うかの如く不快な音をたてつづけた。

 キリト君はなんとか彼らを捕えている触手を切断しようと試みるも、四方八方から立て続けに触手の連打を浴び、流石にその全ての回避も追いつかなくなっていた。

「みんなを放せぇっ!」

 二振りの剣に青白いエフェクトを纏わせたキリト君の高速の剣の乱舞が炸裂した。

 無数の触手のその悉くを切払い、まるで瀑布の如き勢いの触手の猛攻のそのほとんどを切り崩して、そしてようやくクラインさん達を縛り付けていた触手も切断した。

 だが……まだアスナさんと……雪ノ下、結衣が残っている。

 キリト君は更に突進して彼女達を救い出そうとするも、今度は別の角度から放たれた光の槍によってその態勢を崩すことになった。

「くっ……なんだ?」

 彼は顔をその光の方向へと向けた。

 そこにあったのはあの巨大な一つ目。

 その目玉はもう一度輝きを増すと同時に彼へと向けて光線を放つ。

 咄嗟に身を翻したキリト君は、その極太の光の柱をくぐって、落下したクラインさんやリーファさん達を抱えて一旦退いた。

 その巨大な塊は、半ば宙に浮いたままで無数の触手を蠢かせながら巨大な一つ目をぎょろぎょろと忙しなく蠢かせた。

 マジであれは半端じゃねえな。

 大量の触手で包囲殲滅、目玉の光線砲で一点集中破壊。

 こいつマジで死角がねえ。

 俺の居る位置より少し離れたところに仲間達を下ろしたキリト君は肩に停まっていたユイちゃんに何かを告げると再びあの一つ目に突進していった。

 でもその直後、キリト君がいた場所からキラキラと光る何かがまっすぐに俺へと飛んできた。

 当然彼女だ。

「八幡さん、パパから伝言です。なんとかあのモンスターを動かすから、あのモンスターの下にあるターミナルポイントを破壊してください。お願いします」

 そう必死の形相で懇願してくるユイちゃんだが、俺はそれ以上に顔を歪めることになった。

「なんとかしてくれと言われてもだな……実際何をどうすれば良いかということで……」

 ホントどうしていいのか分かんない。

 このゲームでも役に立たないし、現実問題コンピューター関連なんてさっぱりだ。

 そうだというのに、いったいどうやって対処すれば良いというのか……

「大丈夫です。座標は私が分かります。後は近づいてその剣で切りまくればいいだけです」

 そう言われて手にある銀の剣を見て見るも、そもそもどうやって振ればいいのか……

 でもな、目の前でこんな小さな子(物理的に)が必死に頼んでいて、さらに助けを求める仲間がいて、しかもそのうちの一人が彼女だし、これは無理だからさよならなんて言っていい場面ではないことだけは分かる。

 実際問題無理なんだけども。

「お願いします!!」

「う……」

 もう一度ユイちゃんにそう頼まれた。

 そんな目で見るなって……

 ああ、分かってる、分かってるよ。

「そんなのやるに決まってるだろ。そもそも最初に囮をやると言ったのは俺なんだ。まったく囮できてなかったけどな」

「そ、それじゃあ」

「だけど、マジで期待するなよ。俺は本気も本気で素人だからな。ここでなんとかできるなんて保証はできねえからな」

「大丈夫です。私がサポートしますから」

 ふんっと鼻息荒く、ユイちゃんが小さく両手でガッツポーズ。

 くそ、めちゃくちゃ可愛いじゃねえか。

「やってやるよ! さあいこうぜ」

「はいっ!」

 俺を導くように先を飛ぶユイちゃん。

 そして、見上げた先で、あの巨大な目玉の攻撃を躱しつつ攻撃を当て続けて推しまくるキリト君の姿。それに、触手に締め付けられている、アスナさん、雪ノ下、結衣の姿……

 これで助けられたらマジでナイトだな。やられたらただの間抜けだけど、はは。

 そう思いながら、俺はあの一つ目のすぐ傍まで来ていた。

 そしてその時は突然来た。

 あの一つ目の巨体がぐらりと揺れたのだ。

 見上げれば、キリト君が途轍もない猛ラッシュを奴への胴体へと叩き込んでいるところだった。

「今です!!」

 ユイちゃんの大声にハッと我に返った俺は、剣を振り上げて奴の浮かんだ胴体の真下に向かって走った。

 そこには確かに何かのコンソールパネルのような物があった。

 丁度俺の腰ほどの高さの円柱状のそれの少し斜めになった上面には、なにやらパソコンのキーボードのような模様が刻まれている。

 アレを壊せばいいということかよ。

「わあああああああああああっ」

 俺は無我夢中でそれに向かって飛び掛かろうとした。

 が、その時!

「あ? ダメです。戻って!!」

「うわ」

 突然耳元でユイちゃんの大声がして咄嗟にブレーキ。すると、俺の目の前にあの巨体がドスンとまた落ちてきやがった。

 俺はそれにぶつかって弾き飛ばされる。

 と、ほぼ同時に、再び触手が俺へと襲い掛かってきた。

「わわわ、どうなって……」

「比企谷さん! ご、ごめん、失敗した」

 飛んできたキリト君が俺を抱えて再び飛んだ。

 俺は彼の両手を見る。すると、その手には折れ砕かれて、今にも消えようとしている二振りの剣の残滓が……

「もう一息のところで、剣が二つとも折れた」

「なんてこった」

 あれだけの猛ラッシュだもの、ゲーム内で剣の耐久度とかの設定があるとしたらそれは間違いなく相当なものだよな。

「予備はあるのかよ?」

「ある。だからもう一度頼む」

 そう俺を下ろしながら言ったキリト君だが、その表情は険しい。

 キリト君が囮となって俺がターゲットを破壊する。

 この作戦はすでに相手に知れてしまっているのだ。普通の思考の持ち主であれば警戒して当たり前だ。もちろん、さっきの様に簡単に近づくことはできないだろう。

 だけど……ここで諦める選択はない。

「わかった。頑張れよ」

「ああ、頼む」

 そう言葉を交わした直後キリト君は再び奴の光線を避けつつ接近を図った。

 そして俺も走ろうとした……

 その時だった。

「むふぅん。どうやら我の出番というわけのようであるな」

 そんな声がきこえたかと思うと、俺の肩にポンとその手が置かれた。

 振り返ったそこにいたのは、イケメンマスクのあの青い衣装……になってはいるが実際は指ぬきグローブにコート姿のただのデブ。

 俺はそいつを思いっきり睨んでやった。

「てめえ、今までどこで何していやがった」

「こっちの方で急に戦闘が始まったのでな……巻き込まれないようにと、ちと、向こうの方へ……」

「いい度胸だなこのブタ」

「酷い! 八幡酷い! 今はスマート、我今とってもすまーとぉ!! ふっ、まあ良い。八幡よ今こそ共闘するときよ! これを見よ!!」

「お、おまえ!! そ、それは……!!」

 俺は奴が手にしたそれを見て滅茶苦茶驚いた。

「そ、それをどうしたんだよ」

 恐る恐るそう聞いてみれば、奴はその白い歯をむき出しにしてきらりんと光らせて微笑んだ。

「ふっ……さっきそこでたまたま拾ったのだ」

「まあ、そんなとこだろうとは思ったよ」

 そんな奴が手にしていたのは、あの最初に出てきた泥八幡の一人が持っていた、長尺の対戦車ライフルだった。

 

 

 

 

 そしてなんというか流れが変わった……

 

「俺は生きる! 生きてア〇ナと添い遂げるっ!」

「おい! 変なとこで伏字にすんじゃねえよ、それじゃあアスナさんと添い遂げちゃうみたいじゃねえかよ!」

「……う、うむ……そうであるな……では……」

 おっほんと、一度咳き込んでから銃を構え直して、カっと目を見開く青髪のイケメン、中身デブ。

「俺は生きる! 生きて〇イナと添い遂げるっ!」

「お前もうそれ、伏せる意味無くなっちゃってるからね」

「良いヨい! これで良いのだ八幡! 必ず生きて帰れ! これは命令だ!!」

「うるせえよ、分かってるよこの馬鹿」

「180mmキャノン、発射っぁあああああああ」

「そんなにぶっとい弾入ってねえよ」

 ドッゴーーーーンと炸裂音を伴って発射される、地面に立てた方形シールドを台座にして構えた対戦車ライフルの弾。

 確かさっきステータスを確認してみたら、この銃の名前は『PGM ヘカートII』とかって出てたな。

 一応公式の武器ってことなのか? このファンタジー世界で? うーん、わからんが、とにかく撃ちまくりだ!

 そう、この武器、めちゃくちゃ威力が凄かった。

 あの巨大な一つ目の胴体に直撃した瞬間大穴を開けると同時に、奴を傾けさせたのだ。

 これはめちゃくちゃ凄い威力だ。とんでもねえ。

 奴はただでなくともキリト君の猛攻に四苦八苦していたのだ。

 そこをこの材木座の登場によっていよいよ混乱の境地に達しようとしていた。

 奴の位置からはここまで触手が届かないのはもう確認済み。

 届くのはあの目の怪光線だが、あれは相当に溜めがいるようで、そんなことをしようものならキリト君の猛攻を受けまくることに。奴は初めてここで焦りの色を見せていた。

『ヲヲヲヲヲヲ……ユるセン……オまエらジャマをシヤがッテ』

「うるせえ。そもそも最初に余計なことしてきたのはてめえの方だろうが」

「八幡さん。今ならいけます」

「お、おう」

 ユイちゃんにそう声を掛けられて俺は再び走り出す。

 そして振り向きざま材木座へと言った。

「てめえ遊んでねえで、全弾撃ち込めよ」

「当然である。この後雪山でお風呂に入るのだからな!! むふ」

 そんな訳の分からないことを宣う材木座を無視して、俺はとにかく走った。

 目指すは奴の直下、あの何かの操作盤だ。

 それを壊しさえすれば……

 きっと終わるのだ……

 奴はキリト君と材木座の両方向からの攻撃に浮足立っていた。その巨体もふらふらと揺れて、ターゲットも見え隠れしているし。

 なにより、近寄る俺へと一本の触手を向ける余裕もないようだった。

 これは……いけるのか……

 俺はユイちゃんに導かれるままにとにかく走った。

 そしてようやく辿り着く、目的の場所へ。

 それはもうすぐ目の前にあった。

 もう手にした剣を振れば当たる距離……

 俺は緊張しながら、あの巨体が浮いた今この瞬間しかこれを破壊できないのだと思い極め、そして息を吸いながら剣を振り上げた。

「ヒッキー……」

「ゆ、結衣……」

 唐突だった。

 あまりに唐突に、俺のすぐ目の前……唇と唇が触れてしまいそうな距離に彼女が……結衣が現れた。

 俺は彼女のその顔を見たまま、振りかぶった手が止まってしまった。

 彼女はにこりと微笑んだ。

「ねえ、ヒッキー、もうやめよ? こんなことしても誰も喜ばないよ。私もうこんなのいやだ」

 そう微笑みながら言いつつ、彼女は俺の腰へと手を伸ばしてそのまま抱き着くような格好になって……

 だから俺は言った。

「結衣……俺はお前が好きだよ。だから……」

 俺は自分の手にした剣の柄を一気にきつくきつく握り込んだ。

「もう二度と結衣の真似をするんじゃねえよ、この腐れ外道がっ!!」

 俺は一気に剣を斜めに振り下ろした。

 その軌道には当然結衣の身体もある。

 驚愕に目を見開いた結衣の胴体をごと俺はその背後にあったターミナルポイントの端末を両断した。

 そこにいた結衣は……

 すぐに『俺』の顔になった。

 そう、そこに居たのは奴……偽八幡だった。

「な、なぜだ……なぜ、躊躇いなく……切った。お前はガハマが好きだったんじゃねえのか……」

 そう身体を泥に戻していく偽八幡に俺は言ってやった。

「ああ、好きだよ。好きだから俺は結衣の話し方だって仕草だってなんだって知っている。結衣の一人称は〈私〉じゃなくて〈あたし〉だ。それに結衣がそんな俺みたいな気色悪い笑顔するもんかよ、この馬鹿野郎」

「そ、そんなことで……そんなどうでもいいこどで……ぼでぁ……」

 泥八幡は泥に戻りつつ、俺を睨み続けていた。

 俺は……

 そんな奴が完全に沈むまで見続けた。

 

「そんなどうでもいいことの集まりこそが……大事なんじゃねえかよ」

 

 黒一色に染まっていた周囲には何処からともなく光が差し込み始めていた。

 地面を覆っていた泥は徐々に消え始め、そこかしこで緑の草原が現れ始めていた。

「システムの修復復興プログラムが起動しました。これでみんな元にもどります」

 ユイちゃんのその声に目を覚ましていたクラインさん達の歓声が上がった。

 首を振ってみれば、そこには泣いているアスナさんを抱きしめているキリト君の姿が。

 本当に嬉しそうに笑ってるな……

 そんな風に思っていた時だった。

「ヒッキー……」

「比企谷君……」

 振り向けばやはりそこには涙を流した彼女の姿が。俺はその傍へゆっくり近づいて……

 えと……こういう場合ってどうすればいいんだよ?

 ま、まさかキリト君みたいに? この公衆の面前で!

 多分めちゃくちゃ挙動不審だったのだろう、俺の前でジッと俺を見上げて震えている結衣と、横目に三白眼を向けてきている雪ノ下。

「いいから早く抱きしめてあげなさい」

「マジか」

 雪ノ下に言われるままにおずおずと結衣の背中に手を廻した俺。そんな俺の胸に顔を埋めて、結衣はひたすら泣きじゃくった。

 いつも通りではあるのだが……

 やはり俺だけでは締まらなかった。

「八幡、我も……」

 当然だがもう聞こえないし、何も見えないし、寧ろ蹴っ飛ばしてやろうかと思った。




後、一話です。
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