「ほんとにあの人は化者かよ」
彼、ウサギのミンク族のピットは1人愚痴る。
現在彼は島の最北端、正確に言えば一度最北端を超え海に落ちてしまったがそこから泳いで戻り現在村の中心部からは反対側のジャングルを歩いていた。
彼が化け物と評する人物こそギルド・テゾーロその人である。
ギルド・テゾーロ
彼はこの島の村民から英雄と言われその性格は粗雑で乱暴ではあるが時折垣間見える優しさ。感じることができる愛のある鉄拳。ゆえに彼、ピットからすれば苦手意識はあれど憧れの人物であった。
たとえ、自らのご主人様、シュガー姉さまの思い人だとしても。
彼にとってすでにこの島は彼の故郷であり村民は守るべき家族であった。
白兎の奴隷。かつて彼はゾウと呼ばれた国の中心部から遠く離れた辺境に住まう種族であった。
ウサギの姿をし、成人になってもその背丈は最大50cmほどしか成長せず、且つ言葉を理解し話すことが出来る獣人。
そのような希少性から度々人攫いや海賊がウサギの獣人を求め乱獲し奴隷として売りさばく。
そして年々彼らの種族の数はみるみる減っていき、ピットはその種族の1人でもある。
ウサギのミンク族とは本来気性は激しくなく弱弱しく、力もさほど強くない。当初ピットも解放直後は例にも漏れず周りの音に敏感に反応しどこか弱弱しい雰囲気を放っていた。
それを心配したのかシュガーという少女がピットをうさぎのぬいぐるみ(実物とほとんど差異は無いが)に変えた後、自らの傍にいるようにと言われ現在ピットはシュガーに非常に懐いている。
シュガー姉さまと呼ぶのも彼女がピットに厳命したからであり、彼自身それについてなにか思うことは無い。
「そう言えばシュガー姉さまも同じように飛ばされていたな。早く探さないとまた姉さまに怒られる。」
彼はそう1人愚痴るとその場で鼻をヒクヒクとさせ彼女の匂いを辿る。
テゾーロならここで見聞色でも使って一発で探し出すであろうが現在ピット、シュガーはほとんど見聞色は使えていない。
武装色に至ってはここの村の人たちには負けないと自負している二人であったが(但しテゾーロについては例外だが)故に彼は己の獣人特有の能力を持ってシュガーを探す。
「あ!!!この匂い!?正しくシュガー姉さま!待っててください!いますぐ私が助けに行きます!」
これはそう言うやいなやその場で後ろ足に力を最大限込めるとそこから跳躍するようにジャングルを駆る。
その表情は今日はどんなことでシュガーに怒られ責められるのか夢想し光悦した表情であった。
彼、ピットは齢13歳にしてドMという性癖でありなにより早熟であった。
故にシュガーが彼に時折見せる侮蔑な目も甘んじて受けるし、初めて一緒に風呂に入ったときのピットを己の裸を見て興奮している表情を感じたシュガーから冷めた目で百列張り手をその頬に張られようとも、彼は動じない。
そしてそれはこれからもである。
今日はどうやってシュガーにご褒美を貰おうかと考えながら彼は己の愛するシュガーの元へと駆けていった。
「おい。駄ウサギ。見てないで早く助けろ。」
現在ピットは木の蔓が身体に絡まり身動きが出来ず樹上の人となってしまったシュガーを見つめている。
彼がシュガーを発見し、早く2分。幾度ものシュガーの声も無視し(聞こえていない)ただ爛々と輝かせた目でその姿になった彼女を見つめるだけだった。
「おい!聞こえてるでしょ!駄ウサギ!変態獣!カスッ!」
シュガーが叫ぶとやっと我に帰ったのか彼女の言葉に反応し身体を動かそうとするも、シュガーがピットに叫ぶ罵倒が耳に入り、少し体温が上がる。
(あぁ、もう少しこのままでいよう。)
ピットはそう決意し再び石の彫像のように上を見上げ固まった。
「この駄ウサギ。コロス。このシュガー様が害獣を駆逐してやる。」
「ちょっとシュガー姉様、冗談じゃないですかぁー。ねっ!冗談ですよ。冗談。」
「例え冗談だとしてもお前はわたしの姿を見つけてから合計8分32秒。ただ無言で視姦した。この罪は重い。女王を視姦した罪。わたし自ら処罰してあげる。ギルティー。」
「まあ、シュガー姉様は女王というより『お姫様』ですけどね。お・ひ・め・さ・ま♡」
ブチッ。
何かがキレる音をピットは感じる。
「やっばぁ♡」
そしてシュガーの表情をみたピットはすぐさま笑顔になった。
「コロス。
シュガーは憤怒の表情を浮かべピットに向け10本の指を彼に向ける。
するとピットは途端にその場から身動きが出来なくなるが時折シュガーが指を動かすとそれに応えるかのようにピット自身の意思とは関係なく手が、脚が動く。
「駄ウサギにはお仕置きしてあげるわ。」
彼女大きく彼に向けた手を横に振り払うとピットもそれに応えるかのように大きく横へ跳躍する。
それは例え目の前に木があろうとも。障害物があろうとも。彼女が振った手の振りに呼応するかのようにピットは吹き飛ぶ。
「ブベッ!」
ピットは猛スピードに横に振られ木に激突し声を上げるもそこでシュガーは止まない。すぐさま右手をまた逆側に振り抜きピットも同じように反対側に飛ぶ。
彼女がおもちゃにした物に限定であるがその対象物を自由に操作することが出来る。それは言動も含め六感も入る。
故に今ピットはおもちゃ特有の無痛ではなく、木に打ち付けられる度にそのぬいぐるみの身体に激痛が走る。
「らめええええええ!!!」
「今更命乞いしても無駄よ。今日と言う今日は完全にキレたわ。この変態。これでおしまいよ!」
シュガーがこれまで以上に一際大きく右手を振り上げる。それにつられピットもまた空高く上空へと飛ぶ。
そして左手を細かく動かしピットの頭が地面に向くように調整し、シュガーはニヤリと笑みをこぼした。
(あ、これ僕死んじゃうううううう!!)
ピットはこれから自分の身に起こることを思い浮かべさらに興奮するが拘束された身でその内心が周りにすけることは無い。
そしてシュガーが右手を振り下ろすとすぐさま降下が始まりピットは地面へと突き刺さるべくスピードを上げ落下していく。
(いやああああああ!!これは!!これは!良いッ!)
ピットがその最中自分の命を諦め、諦めさせたシュガーに対して完全にあっちの世界に行きそうな時、彼が現れた。
「やめんか!」
彼の叫びで大気が震えまるで空気そのものが凍るように体感温度がグッと下がる。
ピットもシュガーもー指先が震え膝が笑いなんとかその場にて気絶することだけは免れてもその場で行動を止めてしまう。
「テゾーロ。」
シュガーが恐る恐るその声がした方向に目を向けるとそこには白い大狼の背に乗った黒色のブリキのおもちゃがいた。
彼の声に応えるようにシュガーはそっとピットに掛けた能力を解除し、彼の拘束を解くとピットは自由になった四肢を使い見事に着地した。
内心(もう少しだったのに、邪魔しやがってこのクソ黄金野郎)と思わないことも無かったが、テゾーロの視線を浴びすぐさま態勢を直立へと変える。
「シュガー。やり過ぎだ。いくら鍛錬にもなるからといって痛覚まで能力解除する必要も無い。あのままならぬいぐるみであるから死ぬことはないかも知らんが、それなりのダメージが残る。」
「はい。」
ショボーンと効果音がするほど彼女は目に見えて意気消沈する。
いくらワガママな彼女とは言えテゾーロに怒られてしまうのは心にいくらかズシンと来てしまう。
「待ってよ!テゾーロさん!僕はそんなの気にしない!!そ、それにこれも鍛錬だよ!せっかくあとちょっとで・・・なんでもありません。ごめんなさい。」
すぐさまドMなピットが反論しようと試みるも彼のひと睨みで口を噤んだ。
「まあ、そんなに修行がしたいならポチとしなさい。この子も久しぶりにこの姿に戻れてまだハシャギ足りないようだからね。」
「「え!?それはちょっと・・・」
テゾーロの提案に2人は異を唱えようとするもテゾーロが再び彼らを睨むと2人は嫌々ながらも応じることにした。
彼らが考えてることは一つである。
(ポチ全く手加減してくれねぇんだもん)であるが、テゾーロはその2人を見てやる気を出したのかと考えポチの頭を撫でた。
「ポチ、2人のためだ。全力を出しなさい。」
ポチが彼に応えるように「ワオーン」と遠吠えをすると空気が震えピットとシュガーに寒気が襲う。
これだ。これが厄介なのだ。覇王色持ちというのは。
覇王色の覇気の素質を持つ者はこの島で1人と1匹。
それはテゾーロとポチであり、他に素質があるような者はいない。当然である。そもそも数百万人に1人の割合なのだ。
テゾーロがその素質があるのは何となくだが彼らは理解している。
村民達への統率力。カリスマ。単純な戦闘能力。どれを取っても正しく王のような人物だとシュガーはもちろんピットも思っている。
しかし、この白い大狼はなんだ。
ただの全長5m高さ2mという巨体を待つだけの狼ではない。
何故か覇王色の素質があるのだ。そしてそれはこの一年テゾーロと行動を共にする事でより磨きがかかっている。
そして、ピットからするとそれ以上にポチに対して苦手意識を感じることが一つ。
彼は狼なのだ。対する自分は獣人とは言えウサギである。
能力差はあれどそこには狩る者と狩られる者という定義がある。故に苦手であった。
「じゃっ、2人とも頑張れよ。死にそうになったら助けてやるわ。」
彼は2人にそう言うとポチの背から飛び降り近くの木の下へと移動するとそこに腰を落とした。
どうやら一応は監督してくれるのであろう。
2人はその場でホッと息をついた。
「シュガー姉さま・・・。」
「やるしかないわ。駄ウサギ。いくらポチだといってもテゾーロの手前、そんな本気を出さないはずよ。もちろん手加減はないでしょうけど流石に私たちを傷つけるようなことは」
シュッ。
彼らの目の前に居たポチが瞬時にその姿を消し突如としてピットの目の前に現れその研磨されたように尖る爪でピットを殴りつける。
バーンと音を立て吹き飛ばされたピットはその力に抗うことが出来ず、瞬時に戦場の里へと飛ばされる。
「ほんとうになんなの?あなた。狼のくせに覇王色持ちで剃もこの一年で会得する。色々信じられないわ。
『黒色巨拳』」
シュガーの右手が瞬時に肥大化しその手には武装色を纏いポチを殴りつけるべくそれは振り下ろされる。
しかしポチはそれを獣特有な強靭な脚力を用いた剃を使い目にも止まらぬ速さで躱すとシュガーの左耳付近に移動し、腹に力を込め大きく吠えた。
「ワオオオオオオオォォォォォン!!!!!」
なんて事は無い。ただ耳元で叫ぶ狼の遠吠えである。
唯一違う点を挙げるとすれば、それはポチの巨体から発せられるエネルギーに覇王色が付けられているだけ。ただそれだけである。
「いや、ほんとに手加減ぐらいしなさいよ。バカ犬。」
そう言い残しシュガーはその場で意識を手放した。
「シュガー姉さま!!」
やっと身を起こし戦場にピットが戻ってきた時丁度ポチがシュガーに対して至近距離で咆哮している最中だった。
そして、目の前でシュガーが倒れ、(あれはキツイな)と内心思いながらピットはシュガーの側に駆け寄る。
白目を剥き口から泡を出し気絶するシュガーを見てピットの背中に冷たい汗が流れる。
耳などの人間特有の能力が現在さほど活動していないピットでも今の咆哮をあの至近距離で喰らえばさすがに意識が飛ぶであろうことは想像に難くなく、それがこれから己の身にも降りかかる事は予言者でなくとも分かる気がすると彼は思った。
しかし、ここで「はい。どうぞお好きにした下さい。」と諦めるようなウサギではないのがピットである。
例え相手が獣人出ないにせよ肉食生物ならここは草食生物としての意気込みを見せようではないか。
「かかって来いよ犬っころ。」
ピットは己の小さいぬいぐるみの右手。中指だけを立て凶暴なら大狼と対峙し挑発する。
それにポチも応えるように咆哮をあげる。
その咆哮には覇王色の覇気が含まれているが、至近距離での覇気でもなく、テゾーロの本気の覇気でもない。ましてや今は痛覚その他聴覚も従来のそれよりも幾分少ないと言った方が正しいのか、ぬいぐるみである。故に彼はその咆哮に、そう萎縮することは無くその場からポチへと駆け出した。
本来覇王色の覇気とは声による制圧ではない。
しかしポチに至っては咆哮でしかその覇気を出すことは出来ない。そこにこそ勝機があると考え彼もシュガーと同様に短期決戦で終わらすべく、現在彼が待ち得る最大限の攻撃をポチに放つ。
「
それはテゾーロの黄金爆と同じような技であった。
否、まさにそのものとも言える。
ピットにとってテゾーロは憧れであった。
シュガーがピットのことを愛していることがわかっててもそれが分かるほどの魅力をピット自身テゾーロに感じる。
英雄なのだ。彼にとってもテゾーロとは。
故に嫌いになれない。むしろ好きである。
そして、ピットから放たれた右の拳はまるでテゾーロのそれのように拳がスパークする。
「覇気で一番大事なのは自分を信じる力。そしてそれを行使する上で一番大事なのはイメージすること」
過去にテゾーロから覇気を教わった際に真っ先に学んだ言葉である。
故に彼は信じる。そしてイメージする。
テゾーロのように黄金を纏えるわけではない。だからそこは武装色を纏う。
あとはその武装色を纏った右腕が爆発するように最大限の覇気を右腕に込める。
「ドチクショーがああああああああああ!!!!!」
何という技でも、もはや言えないのかも知れない。武装色を力の限り右腕に集中したその拳は全くの小手先の技術などは介在しないただひたすら真っ直ぐな右ストレート。
得意の木刀での乱闘を選ばずこうして右腕のパンチ全てに力を込めるのは愚策でしか無いとピット自身も思う。
しかし、しかし、憧れのテゾーロの手前。今この時ぐらいは素直に彼を認め、彼を模倣した技を持って相対する狼に一撃を入れたい。
その一心でピットは放った。
その拳は大気を震わせ、とてつもない重圧がその場に渦巻く。
「いっけええええええええええ!!!!」
そしてその渾身の一撃が、ポチの頭をかち割るべく振り下ろされる。
「・・・まぢかよ。」
ピットがポチに放ったその攻撃はポチに当たることは無く、余裕を持って剃で躱され拳が地面に突き刺さる。
ポチを探すべく首を左に振るとそこにはポチが得意げに爪を掲げて悠然と立っていた。
「いや、まぢ勘弁。そりゃあ無理やわー。』
ピットはその様子を見て引きつらせた笑みを顔に貼り付けてそう1人愚痴をこぼした時、無情にその爪、否巨大な狼の手は暴風を巻き起こすほどの速さで横に振り抜かれポチの肉球。人間でいう掌底の部分で腹を横殴りにし再び空へと飛んで行った。
「いや、まぢ無理ですからー。本当にどうもお疲れ様でしたーーー。」
そう声を出しながら彼は再び星になるべく旅立った。
「お~。飛んだなぁ~。」
テゾーロは飛んで行ったピットを見上げた。すでに空にピットの姿はなかった。
「ワンっ!」
ポチはテゾーロの近くに寄ると「褒めて」と言わんばかりに彼に頭を押し付けその尻尾は周囲に風を起こしブンブンと音を立てる。
「良くやったぞ。ポチ。これで2人も見聞色の大事さに気がついてくれるといいんだけどな。」
「ワンッ!」
ポチも意味は分かっているのか居ないのか定かではないが彼に応えるように吠え彼の指の先をペロペロと舐める。
「とりあえずシュガー連れて一度家に帰るか。」
テゾーロはそう呟くと未だ気絶しているシュガーを肩に背負いポチとともに帰路に着くべく歩きだした。
村に戻るとおもちゃ化が解除され一時騒動となるも、シュガーを無理やり叩き起こし、再び全員をおもちゃ化するというなんとも閉まらない結果になってしまったのはそれはまたのお話。
尚その後テゾーロとポチはモネにこっ酷く叱られこれから先無闇に覇王色を使うのはなくなったそうである。
なんとも閉まらない主人公であった。
すいません。リアルで色々とありましてずっと潜伏しておりました。
加えて毎日投稿の難しさを身をもって感じ、これからは最低2日おきに更新しようと現在ストック作成中です。
ご心配をお掛けしました。これからもエタらず頑張ります!
PS先週の土曜日ワンピースを1巻から最新刊まで一気に大人買いしましたので余計にエタらせたくありませんので頑張って更新します!
ps.シュガーが気絶したらおもちゃ化が…というご指摘がありました無理やり最後にこじつけました!すいません!笑