「ん?すまん。もう一度言ってくれ」
「だから!!ヒナがもう1人で言っちまったんだよ!テゾーロさん!」
「はぁ、あのバカっ!」
現在テゾーロ達はグラン・テゾーロを出港し10日目、ウォーターセブンを目指し海上を航海している。
「んで、ヒナはどこへ?」
「分からない。テゾーロさんはヒナになんて司令を出したんだ?俺が、あんたからもらった手紙には悪魔の実と手紙を渡してヒナに依頼があるからそのことを伝えてくれとしか書かれてなかったが」
マストの柱の中に置かれた伝々虫が、困惑した表情で話す。
「あぁ、ヒナに海軍で海兵になれと依頼した。まあ、その前に島で悪魔の実の能力を使い訓練を行い、俺が帰ってから彼女に意見を聞くはずだったんだ。それなのに、あのバカは、猪みたいなやつだな」
「海軍??なんで海兵なんだ?それに元奴隷のヒナが海兵なんて危なくねぇか?」
「いや、だからこそ海兵として政府側の動きを把握しておきたかった。それにヒナは腕っ節も立つしな、今んとこ候補が彼女しかいなかったんだ。まあ、勝手に1人で先走ったことについては正直腹も立つがな」
「でもよぉ、テゾーロさん。ヒナもテゾーロさん達の航海に連れて行ってほしかったんじゃねぇかな。だから、テゾーロさんの直々の依頼ならって先走っちまったんじゃねぇかと俺は思う。あんまり叱ってやらねぇでくれ」
「まあ、そうだな。過ぎちまったことは仕方ないか。悪いなプルート。悪いけど俺たちはしばらく帰れそうにねぇかも知れないから、そっちは頼んだわ。またなんかあったら連絡してくれ」
「わかった」
ガチャ。
テゾーロは伝々虫を切りその場で盛大なため息をつきヒナの顔を思い出す。
原作では2年後の世界で少将にまで上り詰めた黒檻のヒナ。
彼女が奴隷であった時は彼自身驚いた。
奴隷の時の扱いについても聞いた。だからなるべく優しく接するようにはしていたが。
「はあーーー。」
そして、彼はもう一度ため息を吐いた。
「ヒナの奴、また1人で先走ったんですって。相変わらずね、あの猪女」
「ふふ。まあテゾーロの言う通り過ぎてしまったことですもの。尤も、彼女がスパイとして海兵を演じきれるかは甚だ疑問ですけどテゾーロが決めたなら大丈夫でしょ」
シュガー、モネの順である。
「まあ、そんな気を落とすなよ大将。それにヒナもテゾーロ、あんたの力になりたかったんだろうよ。」
バルディッシュはテゾーロの肩をバシバシと叩き彼を励ました。
「あぁ、分かってる。今更だしな。でもあいつ分かってんのか?今から海兵なるとしたら恐らく数年は俺たちに会えねぇぞ?」
「・・・。」
一同から返答はない。恐らく考えてることは皆同じであろう。
『あいつは絶対何も考えてない!!』と
故にシュガーからは影で猪と呼ばれているのだ。
そして、テゾーロ自身、今は言いたい。『この猪野郎!!』と。
「テゾーロさん!島です!島ですよ!」
ピットは最初からヒナについて興味はないのか、船の欄干に腰掛け釣りをしていたところ目で確認出来る最小レベルの島を見つけ指をさした。
「モネ。ウォーターセブンの永久指針はどうなってる?」
「間違い無いと思うわ。恐らくあの島を指してる。あれがウォーターセブンよ」
「そうか。やっとだな」
「ええ」
テゾーロはこれまでの10日の航海を思い出す。
航海士が居ないため永久指針が目指す方をただ真っ直ぐ進んで来たが、この数日で何度嵐に直撃したことか。
しかも皆、初めての長期間、長距離の航海。嵐で時化った海の波に船体が当たる度に大きく揺れ、その度に体までも方向感覚も狂わせる。
何度吐いたことか。
テゾーロと、ピットとシュガー三人はほとんどダウンして居たが、不思議とモネは平気だった。
尤も彼女がやっと着いたことに同意したのはこれで当分看病しなくて良いという意味からの安堵である。
「なるべく早く船医と航海士を見つけましょう」
それがモネの口癖である。
「なにはともあれ到着だ!お前ら!頼むから穏便にいけよ!特にシュガー!それとピット!」
「なによ!」
「え!?俺?!」
「あぁ、別に船から降りるなとは言わねえが喧嘩沙汰起こして海軍が来てみろ!その時にはお前らグラン・テゾーロまで泳いでもらうからな!俺たちには島民の生活が掛かってるんだ」
「分かったわ。気をつければいいんでしょ」
「分かりましたー!キャプテン!」
シュガーは面白く無さそうに顔をフイッと背け、ピットは敬礼を持って応えるが、本当に大丈夫か?と一抹の不安を感じるテゾーロであった。
「おーーー!これはまたとんでもねえ船がウォーターセブンに来たもんだ」
「どれどれ。これはっ!どんだけ金持ち船だよ!全体に金が施してあるぜ!」
「成金やろうか?、悪趣味な奴だぜ」
現在テゾーロら一行はウォーターセブンの港にて停泊して、好奇の目に晒されている。
別に海賊旗も、掲げてないしむしろ海賊だなんて名乗ってもないのだ。堂々と皆に入港出来た。
「お、どうやら船の人間たちが降りてくるようだぜ。どんな顔か拝ませてくれや!」
港にいた住民の誰かがそう言うと、甲板から港へ向け金の階段が伸びその階段を降りる人物が4人と2匹。
恐らく先頭を歩く男が船長か、その両脇に美人な女が1人とその妹だろうか10歳ほどの同じように未来は美人になるであろう少女が並び後ろには白ウサギの二足歩行の動物と白い狼。そして後ろに体は大きめだが、他に特徴となるものはない男の4人と2匹で構成されたメンバーが降りて来た。
「俺の名はギルド・テゾーロ。市長を呼んでほしい。黄金はいくらでもある。取引がしたい」
彼の言葉にウォーターセブンの住民たちが騒ぎ出す。
たしかに船の黄金を見るからにとんでもない金を持つ者だと予測出来る。しかし、誰だ?テゾーロ?こんな人物など天竜人にも世界貴族でも聞いたことがない。
海賊としても商人としても有名でない人物。
それが黄金の船に乗りこの街にやってきて、市長を呼び出した。
誰かが市長を呼びに走ったのか、その後5分ほどざわめきが起こるまま、誰もテゾーロに話しかけず、彼の正体を探ろうと見ていると1人の男がテゾーロの元へ近づいていく。
灰色の三点揃えのスーツを着こなし、綺麗に整えられたオールバックの中年男性。
身体は大きく、筋肉が全身に付いているのが分かるような体型であり、市長というよりは船大工や、海賊が似合うような男がテゾーロの元に歩み寄る。
「やあ、私を呼んでるのは君だね。私はジェル。この街の市長をやらしてもらってる。ビジネスの話だと聞いているが」
ジェルと名乗った男はテゾーロの目の前まで歩み寄ると右手を差し出して握手を求めた。
「はじめまして。ジェル市長。俺はギルド・テゾーロ。ゴルゴルの実の能力で、一応ここから船で10日程行った島の代表で来た。
能力で金を自在に生み出せる。もちろん無制限ではないが、この通り」
そしてテゾーロは左手を上に向け、そこから金の指輪の能力を使いあたかも金を生み出すかのように変化させた。
それは黄金の延べ棒であり神々しく輝きを放っていた。
そして、ジェルと同様右手で、彼と握手をし、ジェルの左手に黄金を渡す。
「確認してくれても構わない。能力を使ったと言えども完全なる金だ。削ったり、舐めたりして自由に確かめてくれ」
テゾーロはそう言ってジェルに微笑む。
「これはこれは。素晴らしい能力を持っているようで。それではお言葉に甘えて確認しよう。
どうかな?これから私の部屋で商談でも」
ジェルもその黄金を見つめ、その金の出来栄えに心を奪われたのか未だに目を離さずにテゾーロに語りかけた。
「分かった。それなら頼む」
そうして彼らテゾーロ一行はウォーターセブンのジェル市長とともに港を後にした。
「では、話を聞かせてくれないか。そのビジネスの話とは?」
現在市長室にテゾーロとジェルは向かい合いふかふかのソファーに腰をかけている。
「何、簡単なことさ。トムさんに船を作って欲しい。2船程。」
テゾーロの発言にジェルの眉がピクリと動く。
「トム?トムというとトムズワーカーの?それなら私ではなくトムをあの時呼び出せばよかっただろう?なぜ私を呼んだんだ?」
「その作って欲しいっていう船が一つは普通に俺たちが航海する船。もう一つは、全長10キロほどの船を作って欲しい」
「じゅ、10キロッ!?!」
ジェルがそこで初めて驚きの表情をテゾーロに見せた。
「し、しかし10キロなんてどれ程の金が、、!!」
「あぁ、金なら俺がいくらでも作れる。それに、10キロの船を一からというわけでもない。俺たちが今住んでいる島を船に改造して欲しいだけだ。
だが、10キロともなればトムさんだけでは人手が全く足りないだろう?ましてや海列車がまだ全部完成してない今このウォーターセブンも金が必要な筈だ。悪い話ではないと思うが」
テゾーロはそこでニヤリと笑い、今や癖となっているタバコに火をつける。
「とりあえず、前金として3億ベリー持ってきた。もちろん建設に金が必要になるならその都度出そう。
おおよそ、総額でいくら程になる?」
「おいおいおい。待ってくれ、テゾーロさんと言ったか?急にそんな話を出されても俺も即決とは行くまいよ。とりあえずトムを呼んでくるからもう少し待っててくれないか?」
「あぁ、構わない。ゆっくり呼んできてくれ。俺たちは別に消えたりもしねぇからよ」
テゾーロは両手を広げおちゃらける表情をするとジェルは「今更消えられるのは正直困るな」と愛想笑いを浮かべ部屋を出て行った。
「テゾーロ、どうして金が作れるなんて嘘ついたの?」
今やテゾーロ一行のみとなった室内でシュガーは尋ねる。
他にもピットやバルディッシュも同じ表情をしているが、モネは終始微笑んいるだけでありその表情に動揺は窺えない。
彼らは皆テゾーロの本当の能力を知っている。
金を圧縮、膨張は出来るが、生産することは出来ない。
金を膨張させてもその質量は変わらないのだ。
現在指輪に圧縮しているが、質量は本来の金と変わらない。故に、その指輪は本当はとてつもなく重たいのだ。
もっとも、それを修行だと笑いながらこなすことを可能にしているのがワンピースという世界の特徴とも言えるが。
「あぁ、なに。そうしないと奴らも重い腰を上げないと思ったからだ。もっとも、そんな大金を俺たちだってそうやすやすと用意出来るわけがねぇしな、この話が成ればこれから黄金を取りにいく。」
「でもよ、テゾーロ。黄金を取りに行くってどこにだ?目処はついてんのか?」
バルディッシュも思わずテゾーロの行動に疑問符が浮かぶ。
「あぁ、付いている。ここからそこまで遠くない所にジャヤという島がある。そこから空島に行くんだよ。ん?空島を知らねぇ?そのままだ。空に向かうぞ」
「はあー?!?!テゾーロさん?!」
ピットも思わず驚きの声を上げる。シュガーもバルディッシュまである。モネは変わらず微笑んでいるだけであるが。
「空に島なんてあるわけないじゃない」
シュガーがそう言うがテゾーロはそれに首を振った。
「いや、ある。そしてそこに黄金の都市がある。そこの黄金を全て頂く。おっと、ここまでのようだ。どうやら来たようだぜ」
テゾーロが話を止め、ジェルが出て行った扉に目を向けると扉が開きジェルと、その後ろに大きな体をした魚人が現れた。
「ガッハッハ!聞いておるぞ!なにやら成金のお坊っちゃんがとんでもない話を持ってきたと。それにワシを名指しとはどこかで会ったことあったか?」
大きな体した魚人が、大きな声でテゾーロに語りかけた。
「いや、初めてだよ。トムさん。俺はテゾーロ。よろしく」
「あぁ、ドンとよろしくじゃ!それに、さんとかいらんわ!トムでええわい!
ところで早速で悪いんじゃが、船の話をワシにも聞かせてくれ」
トムはテゾーロと握手をして近くのソファーに座りテゾーロに話しかける。
「ん?あぁ。それならまず聞くが、10キロほどの島を船にするにはいくらぐらいかかる?それと期間も。」
「そうだな。俺の考えでは、それほどの大きさの島を改造するにはこのウォーターセブンの職人を総出とまではいかんがかなりの人数を派遣することになる。期間となるともはやどれだけ金を出せるかにもよるし、費用もその島をどれだけ船の機能をつけるかで変わるからなんとも算出し難い部分はある」
ジェルは机をトントンと人差し指で叩きながら首をひねる。
「あぁ。船自体は何か海獣にでも引かせればと考えてる。ビックタートルとかを見つけようとでもな。
だから最低でも島を海に浮かせれる状態にしてもらいたいのが最低条件だ」
「うーむ。それなら恐らく職人が100人居れば一年で済むじゃろうな」
「あぁ。恐らく一年あれば足りるだろう。費用も恐らく30億ベリーぐらいか。」
トムの意見にジェルも同意とばかりに頷いた。
「まあ、30億ベリーも大金ではあるが、海列車を全線開通するにはもう少し必要だろう?」
そこでテゾーロはジェルとトムにニヤリと笑いかかる。
「そうじゃな。お前さんも見たか?ワシの作った海列車じゃ。今や、ウォーターセブンは寂しい街へと変わってしまったがの、これが全線開通すればこの街は必ず栄えるぞ。しかしその為には金がいるのも事実。それに正直な話期限が迫っとるでな、難しい問題じゃわ!ガハハハ!」
トムは頭を掻きながら大きく笑い声を上げた。
「そこでだ。島を出来るだけ船に近い形に改造してくれ。そして島にはカジノを建てたい。他にもホテルと、プール。ゴルフ場。目指すのは巨大な動くエンターテイメントシティ。予算は1000億ベリー。期間は3年。どうだ?」
「「「「「1000億!?!?!」」」」
商談中ずっと黙っていたシュガーもピットもバルディッシュもジェルやトム同様に驚きの声を上げた。
「いや、ちょっと待って、ちょっと待ってくれ!テゾーロ!君の能力を信じてないわけじゃない。だが本当に用意できるのかね?1000億ベリーなんて大金」
「そうじゃ!若いの!流石に1000億ベリー事業となるとワシも、それにこの街の連中も初めての事じゃ、揶揄うなら他所行ってくれんか?」
「いや、冗談ではない。始めに3億ベリーの前金を払う。そして三ヶ月後に500億ベリー。完成後に残りを払う。それで、出来ればその船以外にも一隻。トム、アンタに作ってもらいたい」
テゾーロの言葉にジェムは額から滝のような汗を流しながらも頭で算盤を弾く。
「もし、その話が本当なら一隻ぐらい構わんわい。ただ、何故ワシじゃ?海列車を、作ったからか?」
トムはテゾーロを見定めるように彼の瞳を見つめる。
そして、テゾーロを見た後はモネを。シュガーを、ピットを、バルディッシュを順に見る。
「理由か、まあ始めは海列車を作った船大工に興味があったのはあるが、今では、あんたなら自分が作った船はドンッと胸張れるほどの出来栄えで作ってくれる。なんかそう思ったからだ」
「ドンっと胸を張れるほどか」
トムはテゾーロの言葉をその場で復唱し、考える。
この男、どこか得体が知れない。しかしどこだろうか、どこかしら以前見たあの男となにか同じモノを。好感的なモノだが、なにか共通点を感じるものがある。
人を惹きつける何か。恐らくテゾーロの後ろにいる者たちは彼を慕っているのだろう。
「一つ聞いていいか?」
トムは真剣な表情をしてテゾーロを見る。
「あぁ、構わねぇよ。」
「お前さん、テゾーロと言うたな。姓は何という?」
「ギルド。ギルド・テゾーロだ」
「ふっ。分かったわ。テゾーロよ。ジェルさんこの話は受けよう。ただし期間は5年。そうじゃないとワシらも海列車の開発に納期がある。それと同時進行しようじゃねぇか!なあに!ワシにドンっと任せしやがれ!ガハハハ!」
トムの言葉にジェムもそろばんを弾き終えたのか「そうだな。テゾーロ。よろしく頼む。納期も5年でな。」と伝え再びテゾーロに握手を求めた。
「分かった。5年で構わない。よろしく頼む」
テゾーロもそれに答えるようにジェル、トムの順に握手を交わした。
(しかし、ギルド・テゾーロのぅ。もしかしたら、奴と同じようにDの意思を継ぐ者かのぅ。)
トムはテゾーロの顔を見ながらふと思考に過ぎったがそれをすぐさま振り払い、これから作ることが出来る10キロという船の構造に思いを寄せる。
「あ、それとなテゾーロ。もう一つの船ってのはお前さん方が乗って航海するような船でええんじゃな?」
「あぁ。頼む。恐らく10人ぐらいで乗れたら良い。それと海楼石を船に積んできた。それを船底にびっしり敷き詰めて凪の海(カームベルト)も航海出来るようにしたい。もちろん船にある積荷も船自体も好きに解体してくれ。それでどのくらいで出来そうだ?」
そこでトムはニヤリと笑った。
「舐めるな、ドンっとワシに任せておけ。7日間で作ってやるわい」
そういうと、再びガハハハ!!と笑いながら「7日後にもう一度この部屋に集まろう」と約束し、トムは部屋を去って行った。
その後テゾーロもジェムに仕切りにこれからよろしく頼むと頭を下げられ、彼らテゾーロ一行はこれから一週間、ウォーターセブンを滞在することが決定した。
「じゃあ、まずは水水肉食いにいくか!」
テゾーロが、まずここにきたら食べたいと思っていた食品の名前を出し、シュガーとピットの目が輝く。
こうして、彼、テゾーロ。現在29歳。原作開始まであと10年。
彼が思い描いていたグラン・テゾーロ計画の第一歩がやっと進み出したのである。
第2章完結です!!!
次回から第3章になります。