話は現在より少し未来の話です。
「いやここどこやねんッ!?」
ヒナが全く知らない島の港に停泊し思わず普段話さないような訛り言葉で己の現状に一人ツッコミを行う。
この1人ツッコミをこれまでに何度してきたろうか。
現在ヒナは島を弾丸のように飛び出して早、2か月。初めは海軍本部に行くべしと考え目指して(どこにあるのか。どうやったら行けるのか知らなかったわけだが)いたが、さすがにこの二か月、島を転々としその情報を集めると己がどれだけ無謀なのかを思い知らされた。ある島の人曰く「そんな小型の漁船で行けると思ってんのか?アンタ、いくつだ。子供じゃあるめぇししっかりしやがれ。」や「ガハハハハ!夢見ることはいいことだ!!だがあきらめな。おバカちゃん。」や「連れていってもいいが一発俺と良いことしようぜぇ!」など、誰も彼もが海軍本部に行くことは現実的ではないと教えてくれた。もちろん最後の下卑た笑みを浮かべた糞野郎は覇気を纏った拳でボコボコにしてやったが。
ヒナは煙草を口に咥え火を着けそれを吹かす。
「とりあえずご飯でもしようかしら。」
そう言って彼女は船に積んでいた木箱の蓋を開ける。そこには二か月前にテゾーロからもらった悪魔の実が今も健在であり余ったスペースにはヒナを襲おうとしてきた男たちから巻き上げた少しばかりの金と内緒で島から持ってきた黄金を換金したことにより若干、20歳そこらの小娘が持つには不相応な金貨が入っている。
もちろん、これがテゾーロにばれたら叱られるかもしれない。いや間違いなく叱られる。ヒナはそのことを考え少し身震いをする。
過去、訓練中に一度、テゾーロがブチ切れたことがあるが、その際は恐ろしかった。ヒナを初め、シュガーにピット、モネ、プルート、そして私が寄ってたかっても相手にならない程であった。もっとも最終的にはモネが言葉による説得でなんとか落ち着いたが、ヒナはそれも許せない。「何故、私じゃないのか。なぜいつもモネなのか。」と自問自答するがそれに加え腹が立つのはあのポチという狼だ。テゾーロが怒ったときもテゾーロの味方をし、実際はテゾーロVSモネ、シュガー、ピット。ポチVSヒナ、プルートであった。
「いや、なんで!?ヒナも混ぜろよ!!!!」
彼女は過去の思い出にも突っ込んだ。
この二か月一人でさみしい無計画の航海。話し相手がいなかったからか自分でぼけて突っ込むことが増えていた。
そしてヒナは思う。「ヒナこそが先生の最大の犬になれるのに!!!」と。あんな狼とウサギだか変態だかわからない気持ち悪い生物より私こそが彼のペットにふさわしい!!過去に性奴隷として天竜人に無理やり飼われていた頃とは違う。いまは率先して恩ある彼のために自分は彼の従順な犬になる自信がある。勿論その犬とはいろいろな意味が含まれていることは否定しない。故に一足早く海兵としてその犬の役目を果たすべく海へ出た。もっとも今振り返ればそれは間違いであった感じがする。
ヒナは頭が良いのだ。反省すること出来る。
ただ反省は出来るがそれを次に生かすことが、不得手なだけだとヒナは思う。
「これからどうしよう。ヒナ困惑。」
ヒナは考える。今後、テゾーロの従順な犬として、そしてテゾーロの一愛弟子として海軍のスパイになるには確実に将官まで登り詰めないと役に立つことは出来ない。
今後彼がどのようなことをしでかすかはヒナ自身分からないが、最終目標はあの天竜人を全員叩きのめすことというのは想像できる。
故に海兵のそれも将官クラスの座が必要だ。だから海軍本部に行けばとヒナなりに考えたのだが、現実は上手く行かない。
どこか海軍支部にでもと考え港に停泊している他の船を見ていると、ヒナは一隻の軍艦を発見する。
「ん?」
その軍艦は全体に青がモチーフに作られ、船首には骨を加える少し不細工な犬が鎮座している軍艦だ。
ヒナは確信する。「神は!先生は!ヒナは見放していなかった!」と。
何故ならあの船首は見たことないが、その青をモチーフにした軍艦には身に覚えがあった。
マリージョアから脱出する時に奪った海軍の船と船首以外は瓜二つなのである。
帆は現在は畳まれているが、恐らくその帆にはデカデカと海軍という文字が刻まれているのだろうとヒナは思う。
「とりあえず乗り込んで海兵に士官してみよ。」
そう独り言を呟くと彼女はテゾーロから貰った木箱を大事そうに小脇に抱え、その軍艦へと向かう。
「ん?なんじゃお主。」
軍艦の側まで行くと港で海兵に指示を出していた老齢ではあるが筋骨隆々らしき巨体を持つ男がヒナに気がつく。
「わたしはヒナ。海兵になりたいの。」
その男にヒナは一応名乗り海兵になりたい旨を呟く。
「お主のような小娘では立派な海兵になれんよ。ワシはいま忙しいんじゃ。他を当たってくれ。」
男はシッシッとヒナを追い払うべく手を振るがヒナは諦めない。
「海賊に家族も!島のみんなも酷い目に遭わされた!その為には力がいるの!だから海兵になりたい!お願いします!」
ヒナはその男に頭を下げる。別に彼女自身海賊に対してなんら恨みは無いが、恐らく海兵になる者のほとんどは海賊を少なからず憎んでいるだろうと予測し、彼が欲しい言葉を考えるそのように振る舞う。
「ほぉ。だから海兵になりたいと?海兵はお前の復讐のための組織じゃないんじゃ。」
男はヒナの言葉にピクリと眉をあげ反応するが、返答は変わらない。あくまでも他を当たれということだ。
「海兵になる為に力をつけた!ヒナはそこらへんの弱いから女子供たちと違う。恐らくあなたの船の誰よりも強いわ!」
ヒナは顔をあげその男の顔を改めて見つめる。
その男は髪もヒゲも全部白いがその瞳はケモノのごとく強く光を発していた。
「ほぅ。ワシの船の誰よりも強いとな?ガッハッハ!笑わせる。誰それが本当か試してやる。ボガード!来てみろ!おもしれぇ小娘がおるぞ!」
男は近くにいた帽子を被り腰に剣を挿した男を呼ぶ。
「小娘。それなら本当に強いかワシに見せてみぃ!こやつと戦って勝てばワシの船に乗せてやるぞ!」
男は「まあ、無理だがのぅ。」と最後に呟きボガードと呼ばれた男の後ろに下がる。
「お嬢さん。やめた方が良いと思うぞ。」
ボガードと呼ばれた男は剣を抜くことはせず徒手空拳の構えをしヒナと向かい合う。
「望むところよ。」ヒナもそれに倣い同じく素手での戦闘をすべく構える。
「では!始めッ!!」
男の大きな号令によりヒナがボガードに向かって走り寄る。
ヒナが覇気を纏ってない普通の拳をボガードの腹部に向かい放つがボガードは悠々とそれを躱す。
「確かに、初動の速さは中々筋がいい。だがッ!」
ボガードはヒナの攻撃を躱しそしてすぐさま反撃すべく彼女に向かい蹴りを放つ。
ボガードの蹴りをヒナは躱さず手をクロスし迎えうった。
「初動が早くてもいまだその身のこなしには無駄がある。諦めな。お嬢ちゃん。」
ボガードの言葉にヒナが反応することはなくすぐさま追撃すべく駆け寄り再び拳を繰り出す。
「あと、攻撃も単調だな。」
ボガードはその攻撃を片手でいなす。しかしすぐさまヒナは次の拳を繰り出すがそれさえもいなされる。
「まだよ!」ヒナは攻撃をいなされる前提で高速に体を動かせ、パンチ、キックの連弾を繰り出すがそれはすべてボガードによりいなされ時に躱される。
「攻撃も単調身のこなしには無駄が多い。ただそのガッツは買おう。ただこの船にはまだ早いと思うが。」
「そんなのせめてわたしに一太刀でも与えてから言いなさいよ!」
ボガードの言葉にヒナが吠えると彼の額に青筋が浮かぶ。
「勘違いしてもらっては困るな。別に攻撃できないのではない。しないのだ。」
「寝言は寝て言いなさい。黒腕連弾ッ!」
ヒナが両手に武装色を纏いパンチのラッシュを繰り出す。
「ほぅ。武装色の覇気を扱うか。だが単調だ。」
ボガードは再びそのラッシュも高速でいなすがそれこそヒナも分かり切っていた。故にヒナは拳の中に隠していた砂をボガードの目に向けて振るう。
「それも読めている。」しかしボガードは目つぶしさえも躱し剃で瞬時にヒナの懐へと近づき拳を放った。
ガシッ!
「なっ!?」
驚きの声を上げたのはボガードであった。
「見えたのか?私の剃を!?」
ボガードがヒナに問うが彼女はニヤリと笑った。
「見聞色も使えるの。ヒナの大勝利。」
彼女はボガードの拳を体をそらすことで躱しそれを脇に挟み拘束。
「はい。わたしの勝ち。」
ヒナが拳を覇気で纏いそれを振り上げる。
「そこまでじゃ。嬢ちゃん。」
しかし振り上げられた拳がおろされることはなく先ほどまでこちらを見物していた男が彼女の腕を掴んだ。
「それ以上やると嬢ちゃんボガードに殺されるぞ?」
男は厳しい顔つき彼女を見る。ヒナもなぜ自分がと疑念を感じ再びボガードの顔をみるとその顔は先ほどとは違い人間の顔をしていなかった。
獣だ。それも肉食獣。
「ボガード、もうよせ。能力を使うな。」男の言葉に威嚇するようにヒナに唸っていた獣がみるみる内に元の人間の容姿へと戻っていく。
「嬢ちゃん、合格じゃ。ワシの船に乗せてやる。」
ボガードが能力を解除し、ヒナの体からいささかの緊張が解けたのを男は感じたのか、掴んでいたヒナの手を放し、今度は彼女の目の前に手を差し出した。
「ワシはモンキー・D・ガープ。海軍本部の中将じゃ。お主をワシの船の海兵見習いにしてやる!じゃがワシは厳しいがな!!!」
ガープと名乗った男はその後無理やりヒナの手を掴み激しく上下させた。
ヒナ自称テゾーロの一番の犬。彼女の物語はまだ始まったばかり。
「あ、それとなボガード今後はおぬしはこの娘の面倒をみろ。」
ガープの言葉にボガードはため息をつく。
「嬢ちゃん。名はなんと言ったかの?」
「ヒナよ。さっきも伝えたでしょ?」
ヒナの言葉にガープはガハハハハと笑い彼女の肩をバシバシと叩きそして最後に彼女の頭に拳骨を落とす。
「ヒナよ。ワシはこれからお前の上官じゃ!上官には敬語をつかわんかっ!」
ガープの言葉にヒナは思う。『自分が海兵になったのだ』と。