「おい。小僧。もう行くのか?」
宴も終わりテゾーロ達一行は夜更けから出航の準備をするべくゴールデン・ウルフ号の甲板を走り回っているとき下から不意に白ヒゲの声が聞こえテゾーロは甲板から見下ろした。
「あぁ。もうすぐ突き上げる海流がくるんだとよ!面白かったぜ。じいさん。またどこかで会おうな。」
テゾーロは白ヒゲにニシシと笑いかけると白ヒゲも笑う。
「グララララ!航海士もいねえのに突き上げる海流に乗り込むなんざ本当にテメェはバカ野郎だぜ。おらよ。持っていきな。」
白ヒゲはそう言うとテゾーロに向かって何かを投げ渡す。
「ん?」パシリッ。軽快な音を立てそれをテゾーロが受け取り己の掌の中をみる。
「永久指針か。」
「あぁ、空島のだ。それを頼りに進むとちょうど針が真上を向けた時。そこに突き上げる海流がくるだろうよ。」
白ヒゲの声にテゾーロはポンッと手を叩いた。
「わりいな。じいさん。助かる。」
「グラララ。気にすんじゃねぇよ。小僧とはもうダチでもあるからな。グララララ」
白ヒゲが快活に笑いそれにつられテゾーロも笑った。
「また近いうちに遊びにいくわ。じゃあなじいさん。」
テゾーロはその場から手をあげることにより白ヒゲに別れを告げると顔を甲板の方に戻し、己の仲間に支持を出す。
「ピット、錨をあげろ。モネは操舵。シュガーはいつもの場所でくつろいでくれていいが、これを持ってろ。」
テゾーロはそう言ってシュガーに向かって白ヒゲからもらった空島への永久指針を投げ渡す。
「じいさんからの餞別だってよ。」テゾーロの言葉にシュガーはコクリと頷き、もはや己の特等席となった金色の船首の上へと移動する。そして船首にはこの前の騒動の時に捕まえたサウスバードが南を向き「ジョ~~~。」と情けない鳴き声をあげている。
「てめぇら!出航だ!!!」
テゾーロの声により船は帆をはり風を捉えぐんぐんと沖へと向かう。
「親父。よかったのかよい。空島の永久指針あげちまって。」
それを一人見送っていた白ヒゲの陰から不意に現れたマルコが白ヒゲに声を掛ける。
「あぁ?別にいいじゃねえか。そんな貴重なものでもねぇし、空島の永久指針ならもう一つ宝物室にあるだろうがよ。」
白ヒゲの声にマルコが首を横に振った。
「親父、あいつらどうやったかしらねえがうちに宝物室に入って金目のものかっぱらっていきやがったよい。」
「あ?なんの間違いだ?マルコ。昨日友の盃をかわしておいていきなり不義理か?」
マルコは苦笑いを浮かべ宝物室に置かれていた一枚の紙きれを白ヒゲに手渡す。
「じいさん。友達になったことだし悪ぃけど宝借りていくわ!いつか返すからよ!あ、でも一杯あった永久指針は空島以外はのこしてくわ!ありがとな!!」
と記されていた。
「あっっのくそがきゃぁあああああああ!!!!!」
白ヒゲの手はプルプルと震えその叫び声は大気を震わす。
「野郎ども!!!いますぐ出航だ!!!!あのくそガキをぶっ潰すぞ!!!!!!」
「「「「「応ッ!!!!」」」そしてテゾーロ一行が出航してすぐ、白ヒゲ達も彼らを追うべくすぐさま港を出発する。しかし言動とは裏腹に彼らの顔に怒りの要素はなくどこかニヤニヤとまるでしてやられたが面白いといいた表情であった。
「大量大量。」テゾーロは己の宝物室に移された5つほどの大きな宝箱を眺めニヤリと笑った。
「でもいいの?白ヒゲのおじいさんおこらないかしら?こんなに頂いて。」モネはその様子に首を傾げ若干悩んだような表情を浮かべる。
「まぁ、借りるだけだ。いつか返すさ。いつかな。」テゾーロはそう言って近場に置いてあった宝箱の上部をペシぺシと叩く。
彼らは出航後、全速力で突き上げる海流のスポットを目指しひたすら南進していた。
「ハナッタレええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」
すると船内にいるのに外から響く雄たけびのような声が聞こえテゾーロとモネは顔を見合わす。
「まじかよ!じいさん早すぎな」テゾーロはそう言ってニヤリと笑うと宝物室を出て甲板へと向かった。
「テゾーロさん!!!!なんか白ヒゲのじいさんめちゃくちゃ怒ってるんですけど!!!めちゃくちゃ砲弾飛ばしてくるんですけど!!!!」
甲板に出ると遠方からものすごいスピードでこちらに近づき砲撃を繰り返すモビーディック号の姿が目に入り。ピットが焦った表情を浮かべ時たま船に飛来してくる砲弾を蹴り飛ばし防衛に努めている。
シュガーはその様子を白ヒゲの船から宝と一緒に奪ってきた肉を頬張りながらただその様子を眺める。
「おぉ~、おぉ~むちゃくちゃキレてやんの。やべえな。」テゾーロは遠目に見えるモビーディック号に立つ白ヒゲの様子をみて感心したようにつぶやく。
「テゾーロ。そろそろ。」
しかし時は、いや神とよぶべきだろうか、それらは彼は見放さなかった。シュガーがテゾーロの袖をクイクイッと掴み彼が下を見るとシュガーは手に持っていた永久指針を彼に見せた。指針は空を指しどうやら突き上げる海流のスポット、そして空島のありかを同時に示す。
「ギリギリ間に合ったな。」テゾーロは海底からせりあがる潮の流れを察し内心、安堵のため息を吐いた。
やがて隆起するようにゴールデン・ウルフ号の真下から波が引きあがりそれは一本の波の柱を天へと突きあげる。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!海が上げていい音とはいくらか異なるまるで地震ような音をたて数瞬、海流はゴールデン・ウルフ号を空へ突き上げた。
「まちやがれええええええええええ!このくそがきがああああああああああああ!!!!!!!!」一瞬にして小さくなっていくモビーディック号に乗る白ヒゲが彼らに向かい雄たけびを上げるもテゾーロ達は止まらない。
「じいさん!悪ぃ!いつか返すからよ!!!!じゃあな!友よ!!!」
白ヒゲに伝わるようにいまや空の人、もとい船になっているゴールデン・ウルフ号からテゾーロは思いっきりさけんだ。白ヒゲの返答は聞く前に船はぐんぐんと垂直に突きあがる。
テゾーロは能力を行使しサブマストと留めている金の留め具を外し風を精一杯掴む。
「モネ!操舵しっかり頼むぞ!!」テゾーロは操舵を掴むモネに声を掛けると彼女も「ええ!」と大きな声で返事をした。
「目指すは黄金都市!!!いくぞ!お前ぇら!!!」
現在の異常事態にやけにハイテンションになっているテゾーロが本日何度目かの号令をあげ仲間が返事を返す。そして彼らは深い厚い積帝雲へとその姿を消した。
「あのクソガキか!!!いってこい。」その様子を海上から見上げていた白ヒゲがニヤリと笑った。
「ハハハハ!親父から金をだまし取って逃げる奴なんざぁこいつは大物いなるぜ!」
白ヒゲの横で腹を抱えつつ豪快に笑ったサッチが感想を漏らす。
「あぁ、あの小僧は間違いなく大物になるだろう。それに他の船員たちも。」
それに同意するようにジョズが彼らの行く末を想像する。
「それになにより面白いよぃ!金はまた集めればよいよ。」
マルコもまた彼らのことを思い出し笑う。
「グララララ!!ハナッタレ!待ってるぞ!すぐに来やがれ『新世界』に」
白ヒゲはすでに見えなくなってしまった未来ある若人に言葉を残し、己の拠点たるべく新世界へと帆を向ける。
「やろうども!こっち側の用事はすんだ!さっさと帰るぞ!!!」
白ヒゲの号令に海賊団は雄たけびをあげ新世界へと向かった。
原作開始まで残り残り12年。テゾーロ一行は黄金都市シャンドラを求め空へ飛び立った。