「ただいま〜」
悠がラビットハウスへ帰ってくると、
「おかえり〜!」
とココアが出迎えてくれる。
——チノの姿はない。
「——チノはどうした?」
「チノちゃんは、さっき用事があるって出かけて行ったよ」
「そうか」
チノは、シャロの元を訪ねていた。
「そ、それでどうしたのチノちゃん?」
「すみません、いきなり押しかけてしまって——」
「ううん、バイト休みだし、問題ないわよ」
シャロが動揺しているのは、チノがいきなりやってきたことではない。
つい先ほどまで、リゼたちとチノについて話していたからだ。
「シャロさんにしか頼る人がいなくて……」
そういうチノにシャロが少し顔を赤くする。
「シャロさんって、酔ってるときの記憶ありますか?」
「微妙ね——。はっきり覚えてることもあるし、逆に何も覚えてないこともある。私の場合はブレンドの仕方なんかで酔い方が変わるらしいから——」
シャロがそういうと、チノは「そうですか……」と俯く。
「——どうかしたの?」
シャロが心配そうに尋ねると、チノはしばらく沈黙を貫いた後、口を開く。
「この前、私酔った勢いでその——悠さんにき、キスしてしまいまして——」
「そういえば——!」
チノの言葉を聞いてシャロは重大なことを思い出す。
チノの酔いが覚めた後、「消えてなくなりたい」とジタバタしていたチノの姿。
シャロは、悠が言っていた『夢』が現実であると確信した。
「どうかしましたか?」
「えっ!?いや、なんでもないわ。続けて?」
どうやらボーッとしていたようだ。チノに話を続けるよう催促する。
「——その後、悠さんと顔を合わせるのが気まずいというか、恥ずかしくて……。どうしたらいいんでしょうか」
「————」
「シャロさんなら、どうするかなって思って——」
チノの言葉を聞いてシャロは考える。
——悠は『夢』だと勘違いしていた。おそらく、記憶が曖昧だったのだろう。だからあれは夢だと錯覚したのだ。
このことをチノに話すべきなのか、それとも別のアドバイスをするべきなのか。
しばらく考えた後、シャロは「チノちゃん」と名前を呼ぶ。
「実はね——。さっき、リゼ先輩からそのことで相談があったのよ」
「リゼさんが?」
チノが驚く。無理もない。悠ならともかく、リゼからシャロに相談していたとは思ってもみなかった。
「そう。チノちゃんが仕事に集中できてなくて、どうサポートしたらいいのか悩んでたのよ」
「すみません——どうしてもあの時の感覚が頭から離れなくて——。後でリゼさんには謝ります」
チノが申し訳なさそうに縮こまる。
「違うの。チノちゃんを責めたいってわけじゃなくてね——」
シャロはそう前置きしてから続ける。
「チノちゃん。どうしてキスしたことを気にしてるの?」
シャロは直球でシンプルな質問を投げかける。
「そ、それは——」
チノが言葉を詰まらせる。
「悠が鈍感だからとは言え、一応付き合ってるんでしょ?なら問題はないはずよ!——それとも、嫌だったの?」
「私は嫌じゃなかったです。でも悠さんはどうなのかなって思って——。引かれてしまったのではないかって不安で——」
チノがまた俯く。——シャロはいよいよ、悠の『夢』の話と先ほどの会話の内容を伝える決心がついた。
「さっき私とリゼ先輩と悠の3人で話したの。こう言っていいのかわからないけど、悠はなんとも思っていないみたいよ。ただ、それが『本当』であるなら——って、むしろ喜んでいたようにも見えるわ」
「そう……ですか……」
一方、ラビットハウスではココアと悠がチノの帰りを待っていた。
「なあココア」
悠がココアの名前を呼ぶと、こちらに振り向く。
「なあに?」
「お前、酔った時のこと何か覚えてるか?」
「なんにも覚えてない!」
「——だよなぁ。ココアだもんな……」
「私、今バカにされてる!?」
悠のつぶやきにココアが叫ぶ。