その後も、様々なチョコが生まれては消え、生まれては消え。
目の色を変え、血相を変え、体力を限界突破して、究極のチョコを生み出すために『お姉ちゃんたち』は奮闘した。
「——キッチンが心配になってきました」
「だな」
先ほどから、悲鳴や叫び声が途絶え、ドタバタという音と振動だけが伝わってくる。
もはや叫ぶ体力すら惜しいのだろう。
「——ところで、チノはチョコ作らないのか?」
「何を企んでるんですか」
「いや……ひょっとしたらワンチャンあるかなと思って」
「何が!?」
悠の意味深な発言にチノがツッコミを入れる。
「はぁ……もうしょうがないですね。ちょっと待っててください。私もちょうど気分転換したかったので——」
「——?」
チノはそれだけいうと部屋を後にした。
数分後、チノはお盆持って帰ってきた。
「え、この短時間でチョコを!?」
「さすがにそれは無理だったので、これで我慢してください」
チノはそう言ってホットチョコレートを差し出す。
「勉強中の糖分摂取は大事っていうので——」
「————」
「それと——し、親愛なる人に感謝の日ですし……」
チノが照れ臭そうにそういうと、突然部屋の扉が開いてココアたちが出てくる。
「お二人さんひゅーひゅー!」
「チノ……いいこと言うじゃないか……!」
ココアとリゼの発言に、チノは
「自分たちで言ったこと忘れてません!?」
と思わず叫ぶ。
「あれ?悠くん?どうしたの?」
先ほどからフリーズする悠にココアが首を傾げる。
「いやぁ——ミルクの模様がハートだったからさ……」
「なっ!た、たまたまです!」
悠がデレデレしながらそう言うと、チノは慌ててカップを掌で隠そうとする。
「たまたまじゃないだろ、だってほら、歪な——じゃなくて!独創的な形してるし!」
「うぅ——も、もうこれは私が飲みます!!」
「チノが飲むのー!?」
「それで——腰を抜かすほどのチョコ作りは順調なんですか?」
チノがココアたちに尋ねると、ギクッと若干険しい表情になる。
「正直そこまでは……」
シャロが自信なさそうにボソッとつぶやくが、リゼがその横から入る。
「いや!問題ない!最強の息抜きになるスペシャルなチョコを楽しみにしていてくれ!」
「はい……!」
「毒物はやめてくれよ……」
「安全だよ!」
悠の不安げな声にココアがツッコミを入れた。
そしてバレンタイン当日——。
「まあ、そのなんだ?悠のチョコはチノの分の残りで作ったおまけというか、別にそう言うのじゃないから受け取れ」
「はいはい、よくあるツンデレシチュエーションね」
「ぐっ……後で覚えてろよ……。食べた後に戦争開始だからなっ!」
悠の一言でリゼの顔が真っ赤になる。
「律儀に食べ終わるのを待つのか……」
リゼから
「はいこれ。ハーブと組み合わせてみたの。後で感想聞かせてちょうだいね。あとこれは義理だからね、チノちゃん!」
「——どうして私に報告したんですか」
シャロの言葉に困惑するチノ。
ふと、リゼの悲鳴が脳裏に浮かぶが、頭をブンブンと振って追い出す。
——きっとこれは完成品だから大丈夫だろう。
シャロから
「じゃーん!お姉ちゃんからは和菓子風チョコで〜す!」
「悠くんは私の弟だよー!」
向こうからココアのツッコミが聞こえるが、ここはスルーしておく。
——個人的に気になっていたやつだ。
千夜から和菓子風のチョコを受け取った。
「最後は私!愛情たっぷりのハートチョコだよ!中にパン入ってる!」
「ネタバラシしちゃった!?」
ココアの発言にリゼがツッコミを入れる。
——いや、君たちが下で騒いでたのを全部聞いてるから。
「見てこれ!しっかりハート型になってるでしょー!これで悠くんもお姉ちゃん大好きっ子になって——」
「ならん」
「そんな!」
ココアからパン入りチョコを受け取った。
「——私も今からチョコ作ります!」
「ココアに対抗しようと!?」
チノの言葉にリゼが驚く。
「あっ、これ美味しい」
「そうですね」
「「「よがっだぁぁぁ!!!」」」
「泣くほどか……?」
悠とチノの言葉に泣き出すココアたちに悠がツッコミを入れる。
「チノ、私たちの努力を無駄にするなよ」
「圧力かけてきた!?」
リゼの言葉にチノが驚く。
「——あれ?そういえば今日ってリゼの誕生日じゃね?」
悠がハッと気がつく。
「バレンタインに気を取られていました!」
「今からなんか買ってくるか」
「そうですね」
店を出ようとする悠とチノの腕をリゼが引っ張る。
「本当にそう言うのいいから……私は大丈夫だ!」
「リゼちゃん!これあげるよ!はい、あーん!」
「私からもお菓子攻撃よ!」
「なっ!2人とも——私だって負けてないわ!」
お菓子を差し出すココアと千夜に対抗してシャロもお菓子をリゼの口元に運ぶ。
「うぅっ……さ、先にバイトあがるぞーっ!!」
そう言って店の奥に向かうリゼ。
「あっ……逃げた」
「逃げました」
「はぁ……話題をそらしてたのに……。こんな忙しい時にこんなことでみんなに気を使わせてられるか」
リゼがそんなことをつぶやきながら、自分用のクローゼットの前に立つ。
「やばっ……なんかいけないことしてる気分だっ……!」
「変なこと言わないでください」
「痛っ!?」
更衣室を覗くことにニヤつく悠にチノが頬を引っ張る。
リゼがクローゼットを開けると、着替えではなく、大きなチョコケーキと『Happy Birthday』の文字。
「——やられた」
リゼがストンと床に座る。
「ぷぷっ。『私たちのチョコに腰を抜かすなよ』って言ってましたけど——」
「実際に腰抜けたのはリゼちゃんだったね〜」
「腰抜けリゼちゃん、盗撮完了ね」
チノとココアがそう言うと、千夜がカメラのシャッターボタンを押した。
「お、お前ら……全員一列に並べーっ!!」
「「「「「いえっさ〜!」」」」」
「にやけるなーっ!!」
顔を真っ赤にしたリゼの叫び声がラビットハウスに響いた。
次回は2月18日に投稿します!