学校も春休みに入り、いよいよ旅行間近となった。
チノと悠は、旅行に備えて必要なものを購入しに街へ出かけていた。
「まずは何から買う?」
「そうですね……。やっぱり、服からでしょうか。こんな田舎くさい格好、都会の人たちに笑われてしまいます」
「えぇ……」
チノの言葉に困惑する悠。
「そんなに気を張らなくても……」
「悠さんは、もともと都会に住んでいた人ですから気にならないかもしれませんが、私は気にします。どんな服で行こうか悩みすぎて夜も眠れません」
「そこまで!?」
——「それ、ただ旅行が楽しみで眠れないだけじゃね!?」とツッコミが頭をよぎるが、口には出さないでおく。
その次は雑貨。細々したものを購入していく。
「チノさん?さすがに寝袋はいらないんじゃないかな?」
「遭難したら大変ですから。野宿できるようにしておきます」
「あれ、旅行先ってジャングル地帯だったっけ!?」
チノの言葉に悠がツッコミを入れる。
「没収だ」
チノのカートから寝袋を取り出す。
「そんな……」
「そんなに警戒しなくても大丈夫だぞ」
「——では、何かあったら責任とってくださいね」
「そのセリフはあらゆる誤解を生んでしまうからやめてね!?」
チノの言葉に若干顔が赤くなるのがわかる。
「あとは——って、リゼ?」
雑貨店にリゼがいた。
「悠とチノじゃないか。お前たちも旅行の準備か?」
「リゼさん……」
「リゼ……」
「——な、なんだよ」
チノと悠の視線はリゼの手に釘付けだ。
——否、厳密にはリゼが持っている『手錠』に釘付けだ。
「——なんだ、その手錠は?」
「あぁ、お前たちが迷子にならないように、しっかり繋いでおこうと思ってな」
「——チノも含め、ちょっと話し合いをする必要があるな……」
チノとリゼの過剰な警戒心に頭を抱える悠だった。
「何を買ったんだ?」
リゼがこちらのカートを覗く。
「あぁ、チノの服とか、リュックやらキャリーバッグとか」
「リゼさんは?」
「私か?私はこれだ!」
リゼはそう言って袋いっぱいに詰まった綿を見せる。
「綿?」
「そうだ。何に使うかは、お楽しみってことで」
チノは首を傾げるが、悠はだいたい予想がつく。が、触れないでおこう。
一通り買い物を済ませ、リゼと解散した後にラビットハウスへ向かう。
「しかし、驚きです。リゼさんはもっと都会慣れしてるイメージでした」
「だな。なんだかんだ言って、あいつも都会に出かけるのが初めてなんじゃないか?」
「————」
チノは空っぽの両手を見つめながら、ボーッと歩く。
「どうした?まさかもうホームシックか?」
「違います。だいたい、まだ出発もしてないんですよ」
悠の言葉にチノが少し顔を赤くして言う。
「悠くん〜!大変よ!シャロちゃんが——!」
「どうした!?」
ラビットハウスまであとちょっと——というところで、何やら慌てている千夜と遭遇する。
「千夜さん、シャロさんに何かあったんですか」
「大変なの。シャロちゃんが——シャロちゃんが——!!」
「「——?」」
首を傾げつつ、千夜についていくと、シャロの家の前に到着する。
そして、その勢いのままシャロの家の中へ足を踏み入れると、ベッドにシャロが倒れたまま動かない。
「なんだ、どうした!?」
「ば、バイトを詰め込みすぎて——もうだめっ……」
「シャロさん!旅行先でご両親と再会したくないんですか!しっかりしてください!」
チノが慌ててシャロを介抱する。
真面目なシャロは、生活費に加えて旅行の資金まで調達しなければならかったため、ここ数日はバイト尽くしだったのだ。
その結果がこれだ。バイトが原因で倒れたら、元も子もない。
「シャロ——気持ちはわかるが、ちょっとこれはやりすぎだぞ」
「わかってるわよ……でも——どうしても——」
震えた声でそう告げるシャロに切なさを感じる。
「でも——都会でレアなティーカップを手に入れるには、もっとお金が必要なのよ!」
目を輝かせてそう叫ぶシャロに、悠とチノはジト目になる。
「——なんか、心配して損した気分」
「うるさいわね!だいたい、私がベッドで休んでるだけなのに、騒ぎ立てたのは千夜でしょー!」
「シャロちゃんらしいわね〜」
微笑む千夜にシャロは
「話を聞けー!」
と叫ぶ。