第二百二十八話 ラビットハウス・パニック
「起きてください!このままだと遅刻です!」
チノに激しく肩を揺さぶられ、重い目蓋をこじ開ける。
「なんだ、どうした——?」
「どうしたじゃありません!旅行ですよ!」
「あぁ……」
かろうじて脳味噌を起動し、部屋に設置された時計を見ると——。
「やばい!遅刻する!!」
慌てて起き上がる悠にチノが怒鳴る。
「だから言ってるんです!早く準備してください!」
荷物を確認していると、ラビットハウスに「ドカン!!」という爆発音のような鈍い音と振動が響く。
「わーん!!」
爆発音の次にやってくるのはココアの泣き叫ぶ声。
「なんだなんだ!?」
「ココアさんが荷物を詰め込みすぎてパンクしました!」
ラビットハウスのホールには、ココアの荷物が溢れ出して散乱している。
「そういうチノも積み込めてないじゃないか!?」
「大丈夫です、これくらいなんとかなります!」
悠のツッコミを否定し、力尽くで荷物を押し込むチノ。
が、当然入らない。
「手品道具なんて何に使うんですか!?」
「やだーっ!これは絶対必要なのー!」
チノがココアの手品道具を没収しようとするが、ココアは泣きながら手品道具を抱える。
「クロスワードなんて見ないでしょー!!」
「見ます!ココアさんの分からず屋!」
今度はココアがチノのクロスワードを没収するが、チノはココアに飛びかかって回収しようと必死になる。
「おいおい、準備整ってるの俺だけか……?」
困惑する悠に、ココアとチノは
「悠くーん!チノちゃんがーっ!!」
「悠さん!ココアさんがーっ!!」
とSOS信号。
「——どっちも置いていけ……」
悠がジト目でそういうと、2人が静かになった。
「ティッピーを連れてきます!」
「俺も行くよ。ココアは早くそれカバンに詰め込め!」
「お姉ちゃんに任せなさーい!」
いまだに荷物を整理しきれていないココアを置いて、チノと悠はティッピーを探しに行く。
ラビットハウスのホールにあるバーカウンターでティッピーは静かに一同の様子を見守っていた。
「おーい、ティッピー!——あっ、いた!」
悠が指差す先にはティッピーの姿が。
「おじいちゃんも一緒に行きましょう!面白い喫茶店とかいっぱいあるんですよ!」
「ああ、そうだぞ!老人だからって流行に乗り遅れると、ラビットハウスが危ない!」
チノと悠がティッピーにそう説得するが、ティッピーはまず
「老人言うな!」
と悠にツッコミを入れてから、静かに口を開く。
「——わしはいかんよ。これは、チノたちの旅じゃ」
「おじいちゃん……」
「——いろんなものを見て、たくさんのことに触れておいで」
ティッピーは優しい口調で静かにそう告げた。
「どうして……」
チノが困惑していると、ティッピーは悠の方を向いて
「チノのこと、頼んだぞ」
「ティッピー……」
「——なんか、俺がすごい旅行を楽しみにしてる人みたいになってるな。まあ、事実なんだけどさ……」
駅のホームで一人、佇む。
あの後、忘れ物を取りに戻ったココアとチノに、先に駅で待っていてくれと言われてきたものの——誰もいない。
「あっ、きた!」
向こうから駆け寄ってくるリゼの姿を見て、悠が思わず言葉を口に出す。
「よーし!私が一番乗りだ!」
「いや、俺いるから!」
「なにーっ!?」
自慢げに一番乗りを宣言するリゼに悠がツッコミを入れる。
「あれ、ココアとチノは?」
「忘れ物を取りに戻ったぞ。ココアはスマホ、チノはしおり」
「どっちも忘れたら致命的じゃないか!」
今度は、シャロと千夜が走ってきた。
「あら、おはよう2人とも!」
「ああ、おはよう!」
「おはよう——ってあれ、なんか目に隈できないか?」
「ワクワクして寝付けなかったのよね——」
千夜が目を擦りながら悠に言う。
「老舗喫茶店から、最近話題の人気店まで、都会はなんでも揃ってるわ」
「ああ、そうだな!いろいろ吸収してこないと!」
シャロの言葉にリゼがうなずく。
「——井戸の中のカエルだったことに落ち込まないといいけど」
シャロの言葉に千夜がガクッと崩れる。
「ありえるー!!」
そう叫びながら頭を抱える千夜に、悠が
「出発前にネガティブにさせてしまった!」
とツッコミを入れる。