駅で軽食をとっていると、リゼが携帯を取り出してココアに連絡する。
「もしもしココア？もうすぐ列車出発しちゃうぞ？」
『大丈夫ー！もうすぐ着くよー！』
「そうか、わかった。駅で会おう」
『はーい！』
「大丈夫か……？」
電話を終えたリゼに悠が尋ねる。
「わからん……。心配でしかない」
リゼの言葉に悠が「うんうん」とうなずく。
「でも、青山さんがついてくれるなら安心だわ」
「そうね。なんだか、引率の先生みたい！」
シャロと千夜が、頼もしい（？）助っ人に微笑みながらそう安堵する。
——今度はリゼの携帯が鳴った。
「凛さんからだ。——もしもし、どうし——えっ！？」
『青山先生が原稿の締め切りを破って、しばらく合流できそうにないですー！』
泣きながらそう詫びる凛の声。
「ダメな先生だ！——大変だ、青山さんが——」
リゼが一同に事情を説明すると、シャロと千夜が青ざめる。
「大丈夫かしら……」
千夜の不安げな声に、駅のアナウンスが聞こえる。
『発車の準備が整いました。まもなく、列車が出発いたします。ご乗車のお客様は——』
「え……。ココアとチノがまだきてないぞ！？」
悠の声にリゼが
「と、とりあえず一旦乗ろう！」
と呼びかける。心なしか緊張と不安で手が震えている。
「おい悠！急げ！」
「やだあああっ！チノが来るまで待つ！」
「子供みたいなことを言うなーっ！」
駄々をこねる悠にリゼが怒鳴る。
その時、向こうからココアの姿が見えた。
「あっ、ココアがきた！」
悠がいうと、リゼは「急げー！」とココアに叫ぶ。
——チノの姿が見えない。
「もう……私を置いて……行って……」
走り疲れたのか、バテてよろよろと歩くチノに悠が駆け寄る。
「置いていけるかー！」
背中にチノを担いで、列車の扉へ走る。
『まもなく発車いたします。ご乗車のお客様は——』
駅に鳴り響くアナウンスも、悠の耳には届かない。
列車の扉から差し出しているリゼの腕を掴み、なんとか乗車した。
「間に合ってよかったー！」
列車に響くココアの安堵の声をきき、一同がほっと胸を撫で下ろす。
「なんでこんなギリギリに——忘れ物を取りに行ったんじゃないのか？」
悠がココアに尋ねると、ココアはチノの頭を撫でながらいう。
「チノちゃんが、街を離れるのが寂しくなっちゃって」
「それは私じゃなくてココアさんでしょ！」
「やれやれ……」
2人の会話に呆れる悠だった。
「しょーがないなぁ、私がメンタルケアしてやる。——このたびに不安を抱えるものは手を挙げろ」
リゼが一同にそう呼びかけると、全員が手を挙げた。
「全員かよ……。もう、順番に来い！」
「よーし！列車の中を探検しに行くよー！お姉ちゃんについておいで！」
「へいへい……」
ココアに腕を引っ張られ、渋々ついていく羽目に。
「チノも行くか？」
悠が窓に張り付いているチノを誘うが、チノからの返事はない。
「素早く変化していく景色に夢中だな。——無理もないか」
「今は、そっとしておこ！」
ココアの言葉に悠はうなずいた。
列車の探検を終えた後、席に戻ってきたココアと悠。
ココアは何か一同に言いたいことがあるらしい。
「さて、みんな！突然ですが聞いてください！重要なお知らせがあります！」
ココアの言葉に首を傾げる。
「この旅の最中はみんなでの共同生活！つまり家族同然ということです！」
「そうだな」
リゼが相槌を打つと、ココアは「ごほん」とひとつ咳払いして——
「ここで、みんなに言っておきたいことがひとつ——」
「なーに？」
千夜が首を傾げると、ココアはドヤ顔でビシッと告げる。
「——私がお姉ちゃんで、あとは全員妹か弟だよ！」
「保護者が必要だな」
リゼのツッコミに一同がうなずいた。