トラム乗り場に到着した。
「はぁ……はぁ……。駅から出るのにもこんなに体力消耗するとは……」
チノが息を切らしながら悠にいう。
「そうだな。思ったより複雑な駅だった。でもここまで来れば大丈夫だ、あとはトラムに乗るだけだぞ!」
「は、はい……」
しばらくしてやってきたトラムに乗り込む。
「トラムから海が見えます!」
先ほどまでバテていたチノだが、トラムから見える景色で元気を取り戻す。
「地域同士が橋で繋がってるのか……」
——『百の橋』とはまさにこのことだ。
なんて思っていると、トラムが混み始める。
「ちょっと混んできましたね」
「そうだな。お互いはぐれないようにしないと——」
「あれっ!?君かわいいね!どこからきたの?」
チノがついにナンパされた——と思いきや、何人かの女性に話しかけられたのは悠。
「え、俺?」
「悠さんがナンパされてます!」
「ねぇねぇどこからきたの?」
「木組みの街からですが……」
「へぇ〜!ずいぶん遠くから——」
チノに裾を引っ張られて振り向くと
「もう……景色じゃなくて悠さんから目が離せません……!」
「え、何それ、照れる」
「そういう意味じゃありません!」
そしてトラムを降りた。
「ここで乗り換えだな。次のは——あれかな?」
トラムを乗り換えると、また景色に海と橋が映る。
「——またナンパされてる」
またもや話しかけられる悠にチノがツッコミを入れる。
「よく知らない人と話せますね。私はまだ人見知りします」
「そうか?チノもココアの影響でだいぶ話せるようになってきたじゃないか」
そんな話をしていると、アナウンスが流れてくる。
——そして、そのアナウンスを聞いてチノが青ざめた。
「——どうした?乗り物酔いか?」
「——いえ。このトラム、反対方向に乗ってしまったかもしれません」
「——あっ」
チノの言葉を聞いて気がついた。——ホームを間違えて逆方向に出発してしまったようだ。
「これでおあいこです」
「まだ駅の出口の件、気にしてたのか……」
心なしか少し嬉しそうなチノに悠がツッコミを入れた。
なんとかホテルの最寄り駅までたどり着いた。
「あー……疲れた……。なんか飲み物ほしいな……」
「そうですね……」
とつぶやいていると、カフェの看板を発見。
「あれは——最初の駅にもあったおしゃれな喫茶店!」
悠が看板を指差すと、チノも顔をあげる。
「あっ、でもまだ心の準備が整ってなかったら、その辺の自販機で——」
悠が言いかけるが、チノがたくましくも無言で店の中に入る。
「チノー!?」
お洒落な店内には、客で溢れていた。
「お、おい、大丈夫か?」
客の多さに顔を青ざめるチノ。——クリスマスの時でもラビットハウスはここまで客は多くなかった。もっとも、木組みの街とここでは人口に大きな差があるが。
「それで、何を買う?」
「コーヒーとは思えない注文の細かさ——。呪文のようなメニュー名——。甘兎庵とは別のカオスな世界です。これだけあると悩みますね——」
「いらっしゃいませ〜!ご注文は何に致しますか?」
店員が笑顔で迎えてくれる。チノはメニューをじっと眺めながら、噛まないようにゆっくりと注文を始める。
店から出てきた。手にはカップひとつ。
——なぜひとつなのかというと、チノがこんなメニュー名のコーヒー信用できないと言い出し、お金がもったいないからまずはひとつだけ買うということになったのだ。
「『クリーミー・ヘブンズ☆ナッツパッション・アイスモカチーノ』なんてふざけた味に決まってます……。悠さん、毒味してください」
「毒味!?——よ、よし、任せろ……」
チノにカップを渡されて恐る恐る口に入れる。
「美味しい……口の中がとろけるような甘さ……」
「そんな!?——私も飲みます!」
「あっ待って、ストロー変えてな……」
悠がストローを変えようとするが、チノがコーヒーに気を取られてそのまま口に入れてしまう。
「美味しい……ありえない……」
「間接キス……」
美味しさのあまり倒れるチノと恥ずかしさのあまり倒れる悠だった。
「さて——ここでこのミッション最大の難所がやってまいりました」
「迂回しましょう。安全第一です」
目の前に広がる光景——『商店街』だ。そのすごい数の人で溢れかえっている。
「この商店街を通れば近道だが、迂回するとかなり遠回りになる。体力が持つなら迂回してもいいが——」
悠はそう言って目線を横にずらす。
「歩くのに疲れた」とでも言いたそうなチノの表情が目に入る。
「し、仕方ないですね。覚悟しましょう……!」
「なんか今日のチノたくましいな!?」
覚悟を決めるチノに悠が叫ぶ。
いざ、商店街へ。