ご注文は家出人ですか?   作:Alkali

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第二百三十二話 商店街と廃墟

「本当に人が多いな。準備はできたか?」

 

「はい!——あの、はぐれたら困るので手を——」

 

「よし、一気に突入するぞー!」

 

チノが言いかけるが、悠が商店街の人混みに突入すると、チノもそれを追って人混みの中に姿を消す。

 

 

 

「待ってください——待って……!」

 

チノの切実な声は人混みにかき消されて悠には届かない。

 

「おいていかないで……!」

 

チノが必死になって悠にしがみつく。

 

「チノ——?なんか今日は本当に大胆というかなんというか……」

 

腕に抱きつくチノを見て悠が思わず苦笑いしてしまう。

 

「あっ、す、すみません……別にそういうつもりでは——!」

 

顔を赤くして弁解するチノを見て、悠はひとつ思いつく。

 

「——あっ、手を繋いでおけばいいんだ!」

 

「そんな世紀の大発見みたいに言わないでください……」

 

今更な悠に呆れるチノだった。

 

「ごめん、俺が爆睡したせいで初日から不安にさせて——」

 

「いえ、大丈夫ですよ。悠さんを見ていたら、なんだか急に街を楽しむ余裕が出てきました」

 

 

 

「さあ、商店街を抜けたらすぐホテルだ!」

 

「やっとです……!」

 

目的地まで残りわずかであることを知って、チノの目が輝く。

 

「俺が言うのもアレだけどさ——」

 

「なんですか?」

 

「ここまでハプニング満載だったけど、なんだかんだチノと2人で先に街を探検できてよかったよ」

 

「そうですね……。降りそびれずに2人で探検できたらもっとよかったんですが」

 

「辛辣だけどその通りだ!!」

 

 

 

「よし、お姉ちゃんと一緒に行こう!実は私の妹と弟も迷子で——」

 

知らない景色に、聞き覚えのある声がした。

 

「あれ、この声——」

 

チノも聞き覚えのある声に反応する。

 

「——2人は今年から高校生?こんな大都会で迷子とは、『前途多難』ってやつだね!」

 

 

「ココアだ!」

 

悠がココアの方を指差すとチノも目を見開く。

だがその驚きも一瞬にして覚める。

 

「——年下相手だからって調子乗ってます」

 

「——だな」

 

 

チノと悠もココアの元へいく。

ココアの視線の先には、双子だろうか、女性が2人。先ほどのココアの発言からして、チノと同い年なのだろう。

 

「ココアさんは道に迷うので、私たちが案内します」

 

「チノちゃんに悠くん!?——よ゛がっだぁぁぁ!!2度と会えないと思ったよー!!」

 

「あぁ、このいきなり抱きついてくる感じ、間違いなくココア本人だ」

 

「そうですね。この鬱陶しい感じを他の人が再現できるはずがありません」

 

「本人確認しなくても私は私だよ〜。お姉ちゃんのこと忘れたの?」

 

「「姉なんかいなかったはずだが(ですが)」」

 

ココアの言葉にハモる2人を見て、ココアが笑う。

 

 

 

「ホテルはここから歩いてすぐだ!」

 

「ココアさんは、なぜあちらに?」

 

「2人を探してたんだよー!近くまできたら私がアプローチしてあげようと思って!——その、ちょっとホテルが……

 

「それ、逆に迷子が増えるパターンでは——」

 

ココアが後半、何かを言いかけたが、双子の片方がごもっともなツッコミを入れる。

 

 

見事なホテルの前に到着した。ここでこれから生活を送るのか、という気持ちと同時に、こんな立派なホテルを格安で手配してくれた青山ブルーマウンテンが神のような存在に思えてくる。

 

「あ、あのね!2人とも——!」

 

ココアが何か言いたそうだが、人混みに声をかき消される。

 

「ホテル『ロイヤル・キャッツ』に泊まる同士、よろしくお願いします」

 

チノの言葉に、双子は眉をひそめる。——なんとなく嫌な予感がする。

 

 

「え、えっと——。『ロイヤルキャッツ』って、隣のホテルじゃ——?」

 

——この立派なホテルの隣には、廃墟のような建物しかないのだが。

悠が恐る恐る振り向くと、華々しい光景とは真逆の雰囲気を漂わせた建物が目に入る。

 

 

「え……」

 

「嘘だろ……」

 

先ほどまで神のような存在に思えていた青山ブルーマウンテンが悪魔に変貌する。

 

「——神のご加護を……」

 

「——ご武運を……」

 

双子がココアたち3人の無事を祈る。

 

 

 

「まさか、ホテルを間違えるとはな……」

 

「はぁ……絶対恥ずかしい人たちだと思われました」

 

悠とチノが落ち込んだ様子でそうつぶやくと、ココアは申し訳なさそうに

 

「ごめんね、もうちょっと早く言えればよかったんだけど……。その、タイミングが——」

 

と2人にいう。

 

 

——いざ、廃墟へ——ではなく、ホテル『ロイヤル・キャッツ』へ。

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