「結局周りきれませんでしたね……」
チノが落ち込んだ様子で千夜と悠に言う。
すでにホテルの近くまで戻ってきている。——時間的にも体力的にも結構厳しかったため、仕方なく帰ることにしたのだ。
「まだ日はあるわ。残りのお店はみんなで行きましょ」
「そうだぞ」
千夜と悠が落ち込むチノを励ます。
ホテルのロビーに入ると、いつもは閉まっていた扉が開いていた。
「あれ、ここは?」
「ずっと使われていない雰囲気ね」
「なんかレストランというか、喫茶店みたいな——」
悠のつぶやきにチノと千夜が驚く。
「確かに、喫茶店っぽいです」
「そうですとも。夜はレストラン、昼はカフェをやっておりました」
「やっぱり……」
受付のおばあちゃんがホウキを手に持ってこちらへやってくる。
掃除のために扉を開けていたのだろう。いつもは閉まっていたので気がつかなかった。
「昔は従業員も多かったのですが、今は古くなってしまって——人も全然です」
おばあちゃんがチノにそう語ると、チノは「あの……」と少し照れ臭そうに言う。
「ここでコーヒーを入れさせもらえないでしょうか!」
「「——!」」
チノの言葉に千夜と悠が顔を見合わせる。——大賛成だ。
チノの言葉を聞いてか、支配人がやってきて
「自由に使っていいと朝伝えましたでしょう?」
「「初耳ですが……!?」」
支配人の言葉にチノと悠がハモる。
そしてお茶会が始まった。
他のみんなはまだ出かけているので、メンバーは千夜、受付のおばあちゃん、支配人、そして悠。
チノがコーヒーを入れている。
「まさかこのメンバーでお茶会をすることになるとは」
「そうね〜」
悠の言葉に千夜がうなずく。
しばらくしてチノがコーヒーをお盆に乗せる。
「お待たせしました」
チノがコーヒーをテーブルに並べると、支配人らは黙々とカップを口に運ぶ。
「————」
支配人は黙ったままコーヒーを口に入れると、チノをギロっと見つめる。
睨まれたと思ったのだろう、チノが若干怯える。
「コーヒーの淹れ方は誰かに習われたのですか?」
「そ、祖父からです!」
チノが若干震えた声で答える。
「素晴らしいお祖父様に教わったのですね……」
支配人が目を瞑る。頭の上に乗っているのが本物のティッピーだったら泣いているか自慢の孫を自慢していただろう。
チノは突然褒められて激しく動揺しているようだった。
「ただいま〜!!」
ロビーの方からココアの声がする。
「一足先に帰ってきたよ〜——ってあれ!?コーヒーの匂い!?」
ココアが驚いた様子でこちらにやってくる。
「なにここ!?ラビットハウスみたい!私もカフェ友に入れて!!」
「許可します」
「「支配人!?」」
ココアの参加を許可する支配人にチノと悠がハモる。
「ところでココア、他のみんなは?」
悠が尋ねると、ココアはコーヒーを口にしながら
「まだ街を周ってるよ〜」
と答えた。
「そうか」
「でも、どうしてここでコーヒーを?」
ココアがここでチノがコーヒーを淹れている理由を尋ねてきた。
「ここ、前は喫茶店兼レストランだったらしい。それを聞いてチノがコーヒー淹れてお茶会することにしたんだ」
「そうだったんだ〜!チノちゃん、旅行中コーヒー淹れられなくて寂しかったのかな?」
「そうかもな——」
「私もパン焼けなくて欲求不満だよ」
ココアがため息と共に言う。
「戻ったぞ〜——って、ここはなんだ!?」
今度はリゼの声がする。
「おかえり」
「おかえりなさーい」
コーヒーカップを持って振り向くココアと悠にリゼが首を傾げる。
「なにをしてるんだ?」
「お茶会だよ。リゼも参加するか?」
「あ、ああ……」
「ところで、何の話ししてたんだっけ?」
リゼがコーヒーを口に入れてから、ココアが話題を戻そうとする。
「ああ……ココアが欲求不満って話だろ」
「そうだったー!」
悠の問題発言とそれに笑顔で同意するココアにリゼが口に入れていたコーヒーを吹き出す。
「なななな、なにー!!!?」
リゼの叫び声が天井の高い室内に響いた。
次回、少し長めです。次の投稿は来週を予定しています。お楽しみに。