カレー騒動から数日経ったある日の朝。
「今日はココアさんは千夜さん、シャロさんと勉強会を開くそうです」
朝ごはんを黙々と食べていると、チノがそう報告した。通りでココアがいないのか。
朝っぱらから千夜の家に向かったそうだ。
今日は祝日だ。それなのに千夜たちと勉強会とは——感心だ。
「——リゼさんは、部活の助っ人だそうです」
「そうか。あいつも大変だな」
「————」
「——?」
心なしか、今チノがわずかに頬を膨らませたような気がする。
「なんだよ?」
「はぁ……本当にこのお兄ちゃんは鈍感」
唐突に里恵に説教され、ますます困惑する悠。
「——今日、一日暇なので一緒にお出かけしてあげてもいいですよ」
「なんで上から目線なんだ!?」
チノがやたら上から目線で遊びに誘ってくる。
「いや、店はどうするんだ」
「今日はお休みです」
「里恵も出かけるのか?」
「後でココアちゃんが遊びこいって」
——あの姉バカ……たまにはいいことするじゃないか!
要するに、今日はチノと2人きりということだ。
「——チノ、お前インドア派だろ。いいのか?」
「実は、先日から作っていたボトルシップが完成してしまって。やることがないんです」
「なるほど——」
「ついでにコーヒーカップを買いに行きましょう」
「またココアが割ったのか?」
「いえ、私用です」
「いってらっしゃーい」
半ば強引に、里恵に追い出された。送り出す時の、悪魔のような微笑みが少々怖い。
「と、追い出されたものの——何から片付けようか」
「そうですね——あ、そうだ、実はこの前、青山さんの小説が映画化されたそうです。見に行きませんか?」
「あ、ああ——」
ただの買い出しかと思いきや、普通に遊ぶ流れになってきた。
「あ、あの——これはいったい」
チノが小声で言う。
「俺が聞きたいよ」
青山ブルーマウンテンの新作が映画化と言うことで、早速見る予定だったのだが——
『バイト先の後輩に惚れた話』
なんで、ラブコメなんだ。しかも、明らかにモデルがチノと悠だ。
否、別にこじつけではない。設定から外見まで完全に一致している。
——今度会ったら徹底的に問い詰めてやる……!
映画が終わり、映画館から出てきたチノと悠だが——。
「いったいどんな羞恥プレイだよ!」
「でも、面白かったです」
「ま、まあそうだが——」
「ところで、あれの題材ってやっぱり私たちなんでしょうか」
「真顔で聞いてくるな!——あれのモデルが俺とチノってことは」
「————なっ!別に惚れてなんかないです!」
派手に突き飛ばされた。
次は、公園で一休み。
「うさぎです!」
うさぎを見つけた途端、チノの目が輝く。
「ねえ見てマヤちゃん、チノちゃんと悠さんだよ〜」
「ほんとだ!何してるんだろ」
「————」
「「デート?」」
公園の茂みにマヤとメグが隠れている。
視線の先にはチノと悠がいた。
そんな視線に気付かず、悠はチノにアイスを渡す。
「2人で食べるのかな?」
「ラブラブすぎ〜!」
メグとマヤが勝手に盛り上がっているが、悠はうさぎをもふもふし、チノが隣でアイスを食べている。
「ねえメグ!今日一日あの2人を尾行してみない?」
マヤの提案にメグが同意し、チノと悠を尾行することに。
「そういえば、ココアはこの坂道で自転車の練習するのが夢とか言ってたな」
「そうですね」
「チノは自転車に乗れるのか?」
「——乗れません」
チノがそう言うと、悠が近くにあったレンタル自転車を指差し、こう提案した。
「ちょっと練習してみるか」
「ちょっとだけですよ……」
「よし、まずは両足で地面を蹴って前に進んでみろ」
「は、はい!」
いきなり坂道はさすがに危ないので、人気のない広場で練習してみることに。
「倒れる前にもう片方の足をペダルに!」
「うわっ!」
ガシャンと派手な音を立ててチノが倒れる。
「お、おい、大丈夫か?」
「大丈夫です。今ので少しコツがわかりました。次は最初、少しだけ後ろ押さえてもらっていいですか」
「あ、ああ——」
悠が後ろを押さえた状態でチノが自転車を漕ぐ。
「いい感じです。離してください」
「いいのか?いくぞ!」
「もう乗れます!自転車、マスターしました!」
そう自慢げに言いながら自転車を漕ぐ。が、すぐに倒れる。
「だめじゃねえか!」
チノの自転車特訓は続く。
ここからしばらく「チノとデート」編が続きます。
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