「「果南ちゃん果南ちゃん!」」
ドタバタとやってくる幼馴染二人に、果南は振り向きました。
「千歌? 曜? どうしたのそんなに慌てて」
「ね、ね、ね、果南ちゃんってマッサージ得意なの⁉︎」
「……はい?」
突拍子もない問いに、果南は首を傾げます。
「えっと……何で?」
「だってダイビングショップだし!」
「スタイルいいし!」
「「ハグ得意だし!!」」
最後のは関係なくない?
そう思いましたが口にはしませんでした。
「それに、鞠莉ちゃん言ってたよ!」
「鞠莉が?」
あまりいい予感はしませんが、訊かない訳にはいきません。
「えっーとね、『カナンったら、マリーが骨抜きになっちゃうくらいほぐしてくれるのよ〜』って言ってた!」
肩揉みの話です。理事仕事が疲れたからと駄々をこねるので、少し助けてあげただけです。その結果がこれです。
「……とりあえず、いい加減鞠莉は訴えた方がいいか」
小さくため息をついた果南は、
「「…………!」」
目を輝かせて期待の眼差しを送る年下の二人を見やります。
「…………」
適当にあしらう気でいた果南は、
「と、当然じゃん。私を誰だと思ってるの?」
気がつけばそう答えてました。
「やっぱり! 果南ちゃんは凄いな〜!」
「ねえねえ、ちょっとやってよ! お願い!」
「え……。──も、も〜しょうがないなぁ。特別だよ?」
早速見栄っ張り発言を後悔する果南でしたが、この二人の手前今さら撤回できません。一年先輩なのです。少しくらい見栄を張りたくなるものです。
「──じゃあお願いしま〜す」
部室のテーブルをどかし、千歌と曜は寝転びます。体育倉庫からマットを引っ張ってきて敷いています。無断使用です。間違いなく怒られます。
「えーっと……まずはどうすればいいんだろ……」
当然ですが、果南に詳しい知識なんてありません。
「……足の裏からかな?」
前に見たテレビ番組の内容を、ぼんやり思い出しながら千歌の足を優しく触ります。
「うひゃひゃひゃっ! くすぐったいよ果南ちゃん!」
「ふぐっ⁉︎」
ソフトタッチすぎたのか、千歌は身をよじって悶えます。
「わっ、ごめん」
慌てて手を離した果南に、人知れず千歌のパンチを食らっていた曜が怪訝な視線を向けます。
「……果南ちゃん、もしかしてマッサージあんまり知らなかったり?」
「そ、そんな事ないよ? ちょっと力加減が分からなかっただけだってば!」
「…………。まあいいけど。じゃあ、今度は私お願いね〜」
再び寝転がった曜に、果南は向き直ります。
「ちょっと弱かったか……。結構難しいかも……」
足の裏は難易度が高いと判断した果南は、今度は腰に手を伸ばします。
「こう……かな?」
そして親指で、全力で体重をかけて押し込みます。
「うぐぅっ⁉︎」
曜の身体がビクンと跳ねました。
「おー、曜ちゃん流石の運動神経」
絶対違います。
「よ、曜⁉︎」
「わ、渡辺曜、ここまでであります……」
またも慌てて覗き込む果南に、曜は弱々しく敬礼。「ガクッ」と。
「よ、よーちゃぁーん!」
あわあわと曜を揺する千歌。
「え、えーっと……うん、大丈夫! 今ので大体コツは掴んだから! 今度はうまくいくよ!」
謎の湧き上がる自信。もはや誰に言っているのか分からない言葉を呟くと、
「さあ千歌! 横になって!」
「え、いや〜、チカはもういいかな〜っ「いいからいいから!」
こっそり逃走を図りかけていた千歌を無理矢理押し倒します。
「曜も曜も! 今度こそリラックスできるから!」
「え……ええぇ⁉︎」
ようやく蘇生した曜も、逃げる暇もなく捕獲されてしまいました。
「──こう!」
「ふびゃ!」
「──これなら!」
「むぎぇ!」
「──えい!」
「ふあっ!」
「──やっ!」
「ひぐっ!」
「──たっ!」
「うひっ!」
「──せいっ!」
「みっ!」
「──はっ!」
「かんっ!」
「──そりゃ!」
「よぅっ!」
「──はいっ!」
「そろっ!」
「──ていや!」
「「ギブッ!!!」」
「…………で、これはどういう事ですの?」
「いやー、マッサージして欲しいって言うからさ〜」
「何故マッサージをして立ち上がれなくなるんですの⁉︎」
「えー……気持ち良かったから?」
「私には、痙攣しているように見えますわよ⁉︎」
「効果絶大……的な?」
「できないなら、ちゃんとそう言えばいいでしょう⁉︎」
「あ、バレてた?」
「……果南さん、ちゃんと反省するように」
「……ごめんなさい」
「謝るのは、私ではなく千歌さんと曜さんですわよ」
「……はい」
「「果南ちゃんには、もう絶対マッサージ頼まない」」