馬鹿と帝国と血の十字架   作:サルスベリ

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 馬鹿は不在のご様子ですが、帝国は何時も通りに回ります。

 静かな帝国はいかがですか?

 え? 不安しかない?

 ああ、馬鹿が他で何をやらかしたか不安ですよね。







遠い旅路の果てに、馬鹿に会う

 『で、あんたが帝国を作ったのって、何で?』

 

 遠い昔、最初に会った時に彼女はそう彼に尋ねていた。

 

 穏やかにとは違う、静かにとも違う。

 

 相手の喉元に短剣を突きつけて、今にも殺してやると睨みつけながらだったから、今の自分を思い出すと苦笑しか出てこない。

 

 あの頃は、本当に殺してやろうかと思った。

 

 平穏な世の中で人々が穏やかに過ごしている中で、戦乱を起こした世紀の大犯罪人。圧倒的な武力で周りを蹂躙した破壊神。

 

 悪名だけならいくらでも聞いたことがある人物。

 

 『神帝』テラ・エーテル。ふざけた名前だと思った、ふざけた字だと感じていた。実際に会った彼は、幽霊のように曖昧で怖くなくて、だから容赦なく首筋に短剣つきつけて、脅してやろうと考えて。

 

 実際、やってみた後の恐怖は今でも震えが来るほど。彼じゃない、彼の周囲にいた誰もが『おまえ、死ぬか』と無言で迫ってきていた。

 

「うぁ、なんであの頃の夢を見るんだろう?」

 

 そう呟いて、ロゼ・シュトラム・エーテルは体を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジョーカー銀河帝国において、国家を仕切っているのは『皇妃』達。十三人の彼女たちによって帝国は運営されてはいるが、すべてを任されているわけではない。

 

 軍人もいれば警察官もいる、政治家もあれば議会もある。

 

 となると、公共の交通機関もあるのが当たり前。

 

「だから、こっちを通したらルートが複雑になるじゃない」

 

 ロゼの一言に周りで聞いていた役人たちは『そうだ』と頷く。

 

「ですが、そちらを通さない限りは新しい交通路は通りません。渋滞が起きますよ」

 

 もう一人、ユインシエルーユイの反論に、役人たちは『確かに』と頷いている。

 

「実際、そっちは空きスペースがあるんじゃないの?」

 

「あれは非常用の退避スペースになります。そちらこそ、通信網ならば別回線を増設すればいい話では?」

 

「回線増設って、新しい機械を入れたら予算がかかるじゃない。なら、そっちの交通網に添える形で通信ケーブルを走らせれば」

 

「交通網の強度が不安定になります。内部に走らせなければハッキングや盗聴の危険性があると指摘したのは、ロゼではなかったですか?」

 

「そりゃ、そうだろうけど。だからって、宇宙空間の交通ルート用のチューブはもう通せないでしょ?」

 

「確かに、これ以上の増設は宇宙船の通行の妨げになります」

 

「ならさ」

 

 ロゼがさらに強気に推そうと言葉を出す前に、横から別の意見が挟まれる。

 

「待って。そっちに通されると孤児院から遠くなるよ」

 

 黙って聞いていたクトリが口を挟み、宇宙図に指を走らせる。

 

「分岐点で区切ってさ」

 

「それだと迅速な軍の展開が難しくなります。警察機構の巡回や消防の迅速な対応のためにも分岐点は賛成できません」

 

 クトリの意見を深雪が真っ向から否定する。一瞬、二人の視線が火花を散らすが、どちらともなく視線を反らした。

 

「あの、そこを使われるとドラゴン達の領域にかかわるのですが」

 

 雪菜の控えめな反論に、全員が地図を改めて見つめ直す。

 

 入口と出口は大丈夫でも、ルート上を確実にドラゴン達の領域を通る。いくら彼らが理解を示してくれるとしても、かなり領域に食い込んだ移動路を造ったとなると、苦言かあるいは実力行使に出るだろう。

 

「吸血鬼の帝国にも影響が出るようだが?」 

 

 そっと、静かに告げるクルルに対して、全員が『そっちは無視しましょう』と言いたくて言えないでいる。

 

 先日の一件以来、吸血鬼達の帝国側からは何も言ってこない。いや、言って来れないが正しいのかもしれない。

 

 『天魔の一族』の最後の純潔の姫、『静華』が盛大に言い放ったらしい、という話だが。

 

「我が夫の母君は、苛烈なのでな」

 

 全員の思考を読んだかのように、クルルはとてもおかしそうに告げた後、ゆっくりと紅茶を飲んだ。

 

「じゃ、どうするの? 通信網と同時に交通網の整理が今回の議題じゃない。そもそも、物流の面から見直そうって言ったの、ユイじゃない」

 

 ロゼが話を元に戻しながら、原因を持ってきた相手に放り投げる。

 

「それはそうですが。帝国もそろそろ十年になりますので、交通網及び通信網の見直しと再建を行うべきではないですか?」 

 

 ユイは少し迷ったように目線を動かしたが、最後には強く問いかける。

 

「現状、出来ることは限られています」

 

 深雪が部分的な肯定と否定を述べて、小さく首を振る。

 

「不可能でしょう」

 

「でも、やらないと皆が困るよね?」

 

 否定的な意見をクトリが再度、議題へと戻す。

 

 誰だって解っている。最初に帝国を作ったとき、『こんな程度で言いや、どうせ惑星国家だし』程度で作った交通網だったが、帝国が広くなり、人が多くなり、様々な物流が増えていった結果、現在のやり方では不備が出来ていた。

 

「やはり、最初の構築思想に不備があったというわけか」

 

 メテオラが苦い顔で告げる。最初の単一惑星国家で十分という結論を出した時、彼女も同意しているので責任を感じているのだろう。

 

 あの頃はまさか、テラがやらかして五つの太陽系を支配する銀河帝国になるとは考えていなかったから。

 

「反省」

 

「一人で完結しないでください、メテオラ」

 

「いや、素直に反省を述べたのだが、面白くなかったかな?」

 

 ニヤリと笑っている彼女に、全員が白い眼を向ける。今、ここでやることじゃないだろう、と。

 

「冗談はさておきとして」

 

「いや、完全に本気だったじゃないですか?」

 

 雪菜の突っ込みを無視して、メテオラは新しいデータを追加で宇宙図に送り込む。

 

「学校への登校ルートのこともあるため、見直しは重要だ」

 

「解ってはいますが」

 

 やらなければいけないことは、深雪も重々に承知しているのだが、こうまで複雑になってしまうと何処から手をつけていいやら。

 

「はい、煮詰まった。休憩にしましょう」

 

 アイリスの提案に誰も否定することなく、議題は一時的に保留となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議室にいたら息がつまりそうだから、ロゼは一人で政庁の屋上に来ていた。満点の星空、そこに流れる流星たちは宇宙空間を行き来するスペーストレインの残滓だろうか。

 

「ああ、まったくもう」

 

 昔は自由気ままな旅暮らし。仲間と組んで、あるいは一人でと気ままに宇宙を旅していたのに。気がつけば帝国で、皇妃で、交通関係を丸投げされるくらいに責任重大な立場になってしまった。

 

「はぁ、どうすればいいんだろう?」

 

 再び宇宙図を見直した彼女は、どうにもできないかなと悔しそうに唇をかみしめる。

 

 旅が好きだから、人が通る道を作りたい。誰も困らず迷わず、真っ直ぐに目的地に行けるようにとこの仕事を引き受けて、やれることをずっと頑張ってきたら現在の立場。

 

 あいつの、テラの妻になったことを後悔してはいないが、だからといって旅をしてきた自由気ままだったあの頃が懐かしくないとは言えない。

 

「浮気者~~」

 

 悶々として色々と投げたくなって、八当たり気味にテラの悪態をついてみた。

 

「え、俺のこと?」

 

「そっか、あんたってそういうやつだったよね」

 

 いきなり隣に八つ当たりの顔が見えて、ロゼは一瞬で笑顔を浮かべて短剣を突き付ける。

 

「昔こうやって問いかけたわね、『あんたはどうして帝国を作ったの』って」

 

 鋭い刃を向けられているのに、彼はきょとんとした顔をした後、笑って見せた。

 

「みんながみんなの意見を言える、穏やかな国家が作りたいから」

 

「建前はいいから」

 

「そっか。なら、『アイリスとセラムが泣いているから、その原因を消した。で、同じ状況があった時に俺の後ろ盾が、目に見えるような形で欲しかったから』かな?」

 

 あの時と変わらない言葉に、ロゼは小さく息を吸い込み、呆れながら短剣を引く。

 

「はいはい、ごちそうさま。で?」

 

 先を促すように、悪戯っぽく告げるロゼに対して、テラは当たり前のように言ったのでした。

 

「俺の奥様達を護るための国家が欲しかった」

 

「はぁ、あんたってそうよね。本当に真っすぐで、我がままで意地っぱりなお上に過保護で・・・・馬鹿よ」

 

「ありがとう、最高の褒め言葉だ」

 

 ブイサインなんて見せる夫に対して、ロゼは呆れながら告げる。

 

 褒めてない、と。

 

 その後、交通網はテラの『じゃ一夜で作りなおす』という発言から始まった、『サイレント騎士団』総力戦により、本当に一夜で終了することとなった、とか。

 

「ク、次こそはあいつを出し抜いてやる」

 

 翌日の会議にて、ロゼの気合の入った拳に対して、皇妃達は全員が『絶対です』と誓いを込めたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロゼ・シュトラム・エーテル。

 

 年齢は二十二歳。

 

 赤銅色の髪に薄い緑色の瞳。

 

 テラ曰く、『鋼のようにしなやかな髪に、旅路を誘う草原の瞳』とのこと。

 

 昔、テラが帝国を打破した時に周り中が混乱に貶められ、多くの不幸が生み出されたのを見て、テラを暗殺しようと近づいた元裏稼業の人。

 

 短剣突きつけての問答をして、『こいつ、馬鹿だわ』と悟ったとか。その後に周り中からの殺気と圧力に気づいて、生きたいと願った結果、『じゃ、責任をとって奥さんしてあげる』といったところ、『あ、じゃ貰う』とテラが速答したため、皇妃の一人となる。

 

 元々暗殺稼業で色々なところを巡っていたので、『交通網や通信網に精通している』と勘違いされ、現在は交通関係はすべて彼女の管轄になっている。

 

 よく、物流を管理・監督しているユイと意見を交わし、交通網などの整備に勤しんでいる。

 

 彼女が持つ『ノーヴァディゾン騎士団』は建築関係の専門機械ばかりを集めた、と表には報告されてはいるが、その裏側では物を作りながら、それを支配して『暗殺』可能な集団となっている。

 

 現在、彼女と騎士団はそれをしてはいないが、もしもの場合は速やかに裏側から『一撃必滅』出来るらしい。

 

 

 

 




 

 馬鹿は不在のはずが、呼べば答える性のよう。

 いないなんて考えたら、そこにいるから始末に悪い。

 さてさて、あいつは何処で、どんな馬鹿騒ぎをしているやら。



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