馬鹿と帝国と血の十字架   作:サルスベリ

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馬鹿で、最強絶対で、でも馬鹿な皇帝と、それを支える妻達の話。

いや、馬鹿と、管理する奥様たちのはなしかな?



ある日の帝国政庁の日課

 

「この馬鹿夫ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 その日、帝都にある政庁では、何時も通りの叫び声が駆け巡っていた。

 

 アイリス・クロームクラウン・エーテル。二十四歳。

 

 プラチナクロームという珍しい髪色を持つ女性は、とても思慮深く穏やかで優しい。

 

 誰に対しても丁寧に対応して、決して声を荒げることはない。

 

 唯一の例外は、夫である人物に対してのみ。

 

 彼女の執務室では、メモ用紙やら筆記具やらが空中を踊る。

 

「何をしているのよ! 一言あってしかるべきでしょうが! なっっっども何度も言わせないのよ!!」

 

 綺麗な放物線を描いて飛び交うではなく、水平に真っ直ぐ飛んでくる物体に、彼女も実力がよく解る。

 

 だとしても、こんな状況で確認したくなかった、と彼女―アセイラム・クリシュタリア・エーテルは苦笑した。

 

「なんでちょっと散歩した程度で隣の三国が統合されてくるのよ! 何よこの内容! 完全に『属国になりますから、許して』じゃないの! 何してきたのよ!!」

 

「ん! こっちに妨害工作と輸送路の破壊工作してたから、ちょっと行って首星の首都で全力戦闘!」

 

 真っ直ぐに真面目にブイサインまでしてくるテラに、アイリスは固まってしまう。

 

 確かにあの国々は、この数カ月の間に色々とやっており、軍や情報部門からも『どうにかしないと』といわれていたが。

 

 本当にどうにかしてくるなんて。

 

 しかも、政府や軍が動く前に実行して一日も経っていないのに完全降伏させてくるなんて。

 

 話の口ぶりや上がってきた報告では、彼の戦力は動かしていない。

 

 本当に単独で、国墜としをしてきたらしい。

 

「・・・・・・決算間際の、本当に忙しい時期に、仕事を増やしんてじゃないわよ」

 

 グッと拳を握ったアイリスを見て、アセイラムは素早く耳を抑えた。

 

「この馬鹿夫ぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 本日二度目の怒声は、執務室だけではなく政庁さえも揺さぶったという。

 

 これが日常。

 

 五つの太陽系を支配下におく国家、『ジョーカー帝国』の主星の首都にある帝国の中枢、政庁の中で日常的に行われている、恒例行事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジョーカー帝国。

 

 五つの太陽系を支配下に置く巨大な帝国であり、同時にまだ誕生してから数年しか経過していない、若い国家でもある。

 

 皇帝は、テラ・エーテル。二十四歳の年若い存在であり、帝国軍以外にも絶大的な戦力の『サイレント騎士団』を個人保有している、馬鹿。

 

 そう、馬鹿である。

 

 誰もが知っている、帝国民の誰もが、軍人の誰もが、政治家の誰もが、『馬鹿だ』と認識している彼は、今日も馬鹿らしく生きて、馬鹿のように動き回り、馬鹿げた話のように問題を解決していく。

 

 そして、そんな彼を補佐して帝国を回しているのは十三人の妻達。

 

 皇妃、あるいは帝妃とも呼ばれる彼女達のおかげで、今日も帝国は馬鹿に振り回されることなく、きちんとした道理の上で過ごせている。

 

 これは、そんなバカな皇帝と、彼のバカを支える妻達と、胃にダメージを与えられながらも平和を謳歌していく人達の物語。

 

 の、はずである。

 

「いいからそこに座りなさい馬鹿夫!! 私が今から貴方に常識を叩きこんであげるから!!」

 

「待ってくださいアイリス! いくらなんでもハンマーは駄目です、いくらテラでも死んでしまいます!」

 

「離してセラム! この馬鹿にはこれくらいが丁度いいのよ!!」

 

 そんな物語になればいいなぁ、という話である。

 

「・・・・・・二人とも、その歳でピンクはちょっと」

 

「・・・・・・やっていいですよ、アイリス」

 

「ええ、ありがとうセラム。じゃ、テラ・・・・あんたがプレゼントしてきたのでしょうがぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 きっと、たぶん、そうだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テラ・エーテル。

 

 ジョーカー帝国皇帝にして、誰もが認める馬鹿。

 

 年は二十四歳。

 

 黒髪に紫色の瞳。ジッとしていられないことはないが、イスに座ると一時間が限界。

 

 室内にいるより外に飛び出すのだが、外に行くと問題の解決を常識で考えられない方法で行うため、誰もが外に出たテラに対して警戒する。

 

 最愛の人を失った初代が、世界中を敵に回しても最愛の人を護れるようにと呪いのような願望をかけた一族の最高傑作。

 

 両親の能力すべてをコピーし技術と知識もすけて子供に授ける、という狂気なシステムの末に生み出された。

 

 父親がそういった狂気の末だけでも問題なのに、母親は天魔の一族最後の純血の姫。

 

 もう、人外って言葉に収まらない能力を誇る。

 

 『サイレント騎士団』という兵力を所有。総兵力は、二十億を超えるなんて言われているが、事実は不明。

 

 持ってはいるが、彼個人としては一人で動くのが大好き。

 

 もらえるものは貰うタイプ。

 

 幼馴染二人が泣いているから、当時にあった最大級の帝国を滅ぼして、自分の国―ジョーカー帝国を作るほどに、身内には甘い。

 

 現在、奥様は十三人。まだ増えるのでは、と奥様方の間では言われているほどの馬鹿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイリス・クロームクラウン・エーテル。

 

 年齢は二十四歳。

 

 プラチナクロームの髪に、深い海のような青色の瞳の女性。

 

 宰相として、ジョーカー帝国を回す頭脳の一人。

 

 妃としては二番目。順番の意味はないが、一応の建前としては二番目としている。

 

 テラと同い年で幼馴染。生まれた時から知っているほど、深い付き合い。

 

 実は、彼女一人で帝国が回せるほどの才能を持ちながら、武芸でもそれなりに戦える万能人物。

 

 特に彼女が槍と剣を持ち出したら、テラでも逃げ出すほど。

 

 テラの妻として、個人所有の『テンプル騎士団』を持つ。

 

 万能兵力ばかりで特色がないので、強さとしては奥様達の中では強さは平均クラス。

 

 現在、誰からも頼られる姐御タイプの妻として、他の奥様達を纏めているが、テラに関しては全員に止められることが多い。

 

 

 一番の苦労人であると同時に、一番自分らしく生きている女性。

 





上司が、馬鹿だと苦労する。

夫が馬鹿だと妻の心労が増える。

両方だとしたら、逃げ出すだろうけど、こんな馬鹿なら毎日が楽しいのでは?


そんなわけないか。


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